2012年4月23日月曜日

"トランプの不思議 復刻版" 高木重朗






トランプの不思議 復刻版 (高木重朗, 2011. 原版 1956)




日本カードマジック黎明期を支えた、専門的なカード入門書の復刻版。

技法解説と技法を使った例題手順の解説があり、その後、”あらかると”として精選されたカードマジックが10解説されている。


どこかの書評で、”節度”という言葉が使われていたのだが、言い得て妙である。


技法の解説は簡明、説明不足になるぎりぎりまで削がれており、余計な記述もなくさらっと読める。ちょっと説明不足かなあとも思うのだが、直後の例題部で、前後の流れから丁寧に解説されており、問題なく習得できるようになっている。

また例題も、”あらかると”で選ばれた作品もなかなかの傑作揃い。カード技法に加えて、記憶法であったり、跳ねるマッチであったり、灰であったりと、ちょこちょこ違った要素を絡めてくるのがまた粋。

無理に自分のバリエーションを押しつける事もなく、初心者のために書かれた良い本。


むろん、初心者以外が読んでも楽しい。Harry Lorayneの無意識的読心術や、最後の一枚、など掘り出し物がごろごろ出てくる。



だが。

確かに、入門書としてわかりやすく、しかも(当時の)最先端技法も丁寧に組み込んだ、まさに最高の書であったろうが。
現在の視点からこの復刻版を見ると、結局、マニアの為のものになっているのが残念。

本の外形や段組、文字種まで再現したのは、オリジナルの尊重という意味では非常に共感でき、個人的な趣味からも大歓迎なのだが、”入門書”に求められることではない。どうしても読みにくい”感じ”がしてしまう。
また値段もやや高めと思う。

そんなこんなで、どうしても敷居が高くなってしまっているのが勿体なくもあり、しかし仕方ないなあと思う点でもある。
松田道弘の解説も、初心者のためというより、この本の思い出のために書かれている。出典を詳述してくれたのは非常にありがたいが、内容はおおよそ懐古的で、本書の解説ではあっても、初心者への補遺ではないなあ。帯の”歳月の経過を埋めるべく”ってのはそう言う意味だったのか。

シークレットアディションを初めて紹介したのが本書で、それまでは同様の効果のためにパームを使っていた、などの逸話は、カードマジックの目まぐるしい歴史的流動を感じさせて、マニアとしては非常に楽しめたので、文句を言うのも筋違いではあるのだが。



今、このレベルの入門書があればなあ、とつくづく思う。


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