2017年9月29日金曜日

"Hold my brain while I'm shuffling" Dimitri Arleri


Hold my brain while I'm shuffling (Dimitri Arleri, 2016)

なぜ買ったのか自分でもよく分からないのですが、カード・フラリッシュの創作に関する理論書(エッセイ)です。私はフラリッシュは殆どできないので、本当に何で買ったのでしょうか。
(答:好きなマジシャンがおすすめしてたから)

私自身はフラリッシュ(カーディストリー)の世界はよく知らず、というか、どちらかといえばフラリッシュに対しては懐疑的・敵対的な感情も心の裡にはあるのですが、そのために本書は非常に新鮮な気持ちで読むことができました。改めて考えてみれば、それこそ当たり前ではあるのですが、フラリッシャーもまた『創作/オリジナリティ』の壁と闘っているという点で、いわゆる旧来の手品屋とさして変わりはないのですね。

理論書なので、内容に触れるとそれだけでネタバレになってしまうため、詳細は避けますが、章題は次の通りです。

・始めに
・良い"ムーブ"とは何か?
・異なった考え方のアプローチ
・幸運/機会を作る
・技術
・タイミング
・好奇心をもつこと
・スタイル
・結びに

造本は滅茶苦茶にオシャレで、ちょっとこう『意識高い』感じですが、内容は非常に地に足が付いています。逆に言うとそこまで特殊な(フラリッシュ創作に特異的な、ないし著者に固有な)事は言っていないのですが、しかし2016年現在の言葉でもって、創作に関する基本的な事項を文章化したことには大きな価値があります。

映像媒体を主軸として発展してきたフラリッシュが、ここで創作理論を文章化したというのは非常におもしろい兆候ですし、また高い美意識をもった彼らの作った本書は、フォトブックと言って良いほどの美しさです。ある意味では、内容的にも、造本的にも、この一冊で旧来の手品屋はことごとく凌駕されてしまっているとも言えるでしょう。

先述の通り内容があまり特異的でないため、少しの読み替えでフラリッシャーだけでなく手品屋にも有用な内容になっていると思います。『書籍』という文化・歴史が無かったから、というのもあるのでしょうが、これだけしっかりと言語化されたものが発表されたのは恐るべきことです。

A5でおよそ50頁、とはいえ写真がめちゃくちゃでかく、殆どの場合で文章はページの半分もないので、実際の文量はそんなでもありません。エッセイなので文章や語彙がやや観念的になってはしまいますが、遊びのないしっかりした内容で、英語あまり得意では無い方にもおすすめです。著者がフランス人だからか、英語もかなり読みやすい方だと思います。