2013年6月25日火曜日

"Penumbra issue 8" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean







Penumbra issue 8 (編・Bill Goodwin, Gordon Bean, 2004)





碩学Bill Goodwinの発行するマニアック・マガジン Penumbra。その第8号。


と言うことで、引き続きPenumbraのレビュー。
今回も18頁で4作品を収録。


Constellation Prize:Justin Hanes
相手に夜空の星座をなぞってもらい、行き着いた星を予言している。
非常に古典的な原理を、怖ろしくロマンチックで壮大な現象に仕立てている。条件はそれなりに多いが(北半球、晴れ、光害小、相手方に視力とある程度の星座の知識などなど)、この発想はとても面白いですね。壮大と言えばGarden of the Strange という気宇壮大な本もあったが、あれよりも品があり、まだアマチュアでも出来る感じ。ただ最大の必要条件として、心・技・体の少なくとも一つが並はずれて男前じゃないと無理と思うので僕はちょっと出来ません。
予言マジックの筈がギップル召喚になりかねない。


A.M.:Norman Gilbreath
前号の Harrison KaplanによるMirrorskillのヴァリエーション。構成、現象はほとんど同じだが、第二段での補正手法が異なる。One Way Deck使用。個人的には前号ので十分。
なおMirror Skillでのペア生成原理、およびNG状態の発生条件と処理方法を解説しているのだがこれは読み飛ばしてしまいました。しかしGilbrethって存命だったのですね。氏の名を冠した原理が有名すぎて、なんだか100年くらいは昔の人だと思ってた。


The Card of Fortune:Andrew Galloway
相手にカードを混ぜてもらった後、1枚のカードを抜き出し、後ろ手にそれを差し込む。差し込んだところから、相手のクリスチャンネームを綴り、そこのカードを裏向きのまま出す。もう一度繰り返した後、今度は相手にも同じような事をやってもらい、最終的に出てきた4枚のカードが、同一値になっている。
序盤の原理と、ちょっとしたサトルティは面白いが、「同じ事」ではなく「同じような事」なのがネックで、これはちょっと美しくない。


The Queens:Bill Goodwin
4枚のQが1枚ずつ消え、また1枚ずつ現れる。
Goodwinのペット・トリックなのだろう。全18頁のPenumbra、実にその半分を使ってみっちりと解説されている。技法の度に詳細なクレジットが挿入されるのが、さすが学究派といった所か。難しいが、実に美しい手順。Buckの双子が改案を出していますが、よりゆっくりと行われるGoodwinの方が好みです。ただ出現に関しては、ペースアップして一気に出した方がテンポ良いかもですね。

Penumbraは個人発行の雑誌にしては珍しく、筆者自身はほとんど作品を発表していません。いま手元にある4冊の中で、Goodwinの手順はこのThe Queensのみ(Gordon Beanに至ってはゼロ)。そういう所からも、本手順に込められたGoodwinの自信がうかがわれます。


4作中、2作はちょっと今ひとつでしたが、それら補ってなお、Constellation PrizeとThe Queensは凄い手順でした。

2013年6月21日金曜日

"Penumbra issue 7" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean






Penumbra issue 7 (編・Bill Goodwin, Gordon Bean, 2004)



Magic Castleの司書を務める碩学Bill Goodwinが編集するマニアック・マガジン、Penumbra。



Goodwinについては、少し前にReflectionというDVDを見て以来、ちょっと興味があった。加えて先頃、Penumbra の9号に掲載されたというMuy Bueno Shuffleの動画を見る機会があって、それがまあ考えなくは無かったけど実行できるとは思ってなかった技法で、うわスゴイやと。こういうのが他にも載ってるなら、読んでみたいなあ。

そんなわけで、いまからでは揃わないだろうが買ってみた。
まあマニアックでしたよ。


Acorn's Progress:Roy Walton
Walton先生の小品。技法の用途と効率は素晴らしいのだが、現象にはさっぱり魅力を感じない。
手の中でカードを広げ、1枚表にする(スペードの10)。カードを閉じ、再び広げるとスペードのロイヤル・ストレート・フラッシュが表向きになっている。それらをテーブル上に出すが、よく見ると4枚しかない。デックを弾いて再び広げると、最後のスペードのAが表向きで出てくる。

Mirrorskill:Harrison Kaplan
通常のミラスキル(枚数の差を予言)→アキュレイト・ミラスキル(それぞれの枚数を予言)→さらに半分のカードだけで繰り返すが……
フルデック配らせるトリックを3回連続でやります。
ただし現象は面白いので、これが許される雰囲気でさえ有れば使えそう。それにペアで全部配り通して、色を判別するだけなので、そこまで負担でもないかな。セットもほとんど要らず、そういう意味では以外と手軽。Stewart Jamesの未解決プロブレムに対する解だそうです。


The Gypsy Foretells Further Than Father:Cushing Strout
Lie Detectorから、プロダクションへ続く長手順。
タロット的な占いが一緒に書かれたカードを使い、相手にカードを1枚選んでもらう。演者には見えないが、幸運の星が書かれたスペードの2。これを戻して混ぜる。相手の返答に合わせて、色、マーク、絵札か数か、の3つの山を作る。相手は嘘を言っても良いが、それぞれ選ばれたカードと同じパラメータのカードが現れる。
さらにTwo、Spade、と配ると、それぞれ3枚の2、5枚のスペードである。
ところで星に先端は幾つあった?と聞き、その数に合わせて配ると、そこからスペードの2が出てくる。 これは最高に運が良いぜ、こういうときはポーカーをやんな、と言ってpokerと配ると、その5枚がロイヤルストレートフラッシュ。

長いぜ。しかしよく考えましたねこんなの。これもベースはStewart Jamesとか。


Ear Candy:Nathan Kranzo
口にグミを含み、耳から指を突っ込んで取り出す。
指が口を内側からまさぐっている感じを再現しており、ハマると相当気持ち悪そうです。


Déjà Vu Cut:Chris Randall
三角を2つ作るフラリッシュ・カット。実はフォールス。
文章+写真の解説ですが、十分わかりやすいです。


Slap!:Shahin Zarkesh, Bill Goodwin
Aの間に挟んだ相手のカードが消え、ポケットから出てくる――、と思いきや。
正式名称をよく知らないですが、Off Balance Transpoとか、Imbalance Transpoとか言うのでしょうか。Bebelがよくやっている、4枚と1枚のトランスポジション。
トランスポが派手なのでそこに観客も読者も創作者も目が行きがちですが、この作品はその前の段階がとても丁寧に作られています。最初のディスプレイだけ、やや弱いと思うのですが、そこさえ上手くこなせたら、相手の手の中で選ばれたカードが消える箇所はとても効果的。
私などだったらElmsleyを使うような所で、ことごとく違うカウントを持ってくるあたり、マニアだなあと。こういうのをさらっとやられると、追えなさそうです。最後のトランスポジションも何通りか解説されていて面白い。


うむ、文句なくマニアック。ページ数はたった18頁ですが重い内容です。特にセルフワーク系のは、マジシャンでも追えない感じで、たいそう嫌らしい。とっておきのFoolerを探している方とか、こっそり手に取ってみてはいかがでしょうか。あと何冊か買いましたので、またおいおい紹介していきたいと思います。

2013年6月20日木曜日

Six. Impossible. Things.のおまけ


よくトップから2枚目とかにリバースカードがあって、それをデックの真ん中から出現させたいシチュエーションがありますが、そこでCharlier Cutするの嫌なんですね。S.I.T.だとCounterpunchの状況がまさにそれ。

特にHead Over Heelsとか、かなり効率的な技法なので、ここから余分な動作をしたくないなと。で、ここは以下のように変えています。

技法としては基本的な物で、この用法もどこで読んだか思い出せないです。


2013年6月18日火曜日

"Six. Impossible. Things." John Bannon





Six. Impossible. Things. (John Bannon, 2009)




John Bannonによる、極めて良く出来たカードマジック・レクチャーノート。


はい、すっかり啓蒙されたので買いました読みました素晴らしかった。いくつか既読のがあり、個人的にややインパクトが薄れてしまいましたが、それでもコスパ含めて過去読んだBannon本で最高の一冊。



『数個のカードマジックからなるルーティン』『セルフワーク作品集』『おまけ』と大まかに3部構成になっている。とすれば同じBannonのDear Mr. Fantasyに似ているが、DMFでは主にクラシック・トリックをつないだルーティンだったのに対し、こちらはフルBannonというのが大きな違い。

Counterpunch-Four Faces North
Watching the Detectives-New Jax-Full Circle

前半は既読でした。思い出せないけど昔とってたMAGIC誌かと。
サカートリック風味に観客の予想を裏切る手順から始まり、そこで残ったダーティな部分を解消するトリックへと続く。
後半はサンドイッチ・カードがテーマ。こちらも予想を裏切るスタート。2枚のJ、及び4枚のAから選ばれた1枚をばらばらにデックに差し込み、今からJがAを捕まえるぜ、と言うのだが、関係ない残りのAと思っていた3枚が、いつのまにかJ A Jになっている。
Wesley Jamesの原案は知らないのですが、最近Tom StoneのVortexで改案を読んでおり対比としても面白かった。Stoneが相手の見ているかもしれない状況で大胆すぎる事をして、大幅なスリムアップを図ったのに対し、Bannonは同じ”相手の見ている前で堂々と”ではあるものの、決して大胆ではなく、じっと見られていても大丈夫。
いや大胆ではある。ですが、まず気付かれない。どうやったらこんな事を思いつき、実行してしまえるのか。いやはや凄い。
この、相手の目の前でぬけぬけと、明らかにおかしい事をしかし露見せずやってしまう、というのはBannonの特色であり、また演じる者にとっては非常な快感でしょう。

なんかBannonの玄人受けの一因を再確認したように思います。
っていうか、こういうちょっと奇矯なプロットって、作例の絶対数が少なくて叩き台が無いためでしょうけど、どうにもぎこちない、不自然な構成になりがちなところ、まあBannon先生のうまいことうまいこと。

全体を通すと、4枚のAから始まり、4枚のAで終わる、美しい構成。
この一連の流れは、少しマジック囓ってるぜって人とかを相手に見せたい。
ただプレゼンはあまり解説していないので、ちょっと考えないといけません。ヘンな現象ばかりなのでけっこう大変かもしれない。


Four-Fold Foresight
Origami Poker Revisited

Bannonのお気に入り、Origami Foldの原理を使った2手順。この前者がとても良かった。観客が表裏ぐちゃぐちゃに混ぜたパケットの状態が予言してあるというもの。
原理がOrigami Fold、現象がShuffleBored。どちらも好きな手順では無かったのですが、この組み合わせがそれぞれの(個人的に感じていた)欠点を補い合っている感じで、これは凄くよいです。

Riverboat Poker
ポーカーデモンストレーション。やりやすいし、見やすい、良い手品です。格式張らない自然さで、あくまで「話の種に」という感じがとても受け入れやすい。ロイヤル・フラッシュのオチまで付いている癖にセットアップが殆どいらないという親切設計。
ここだけ、解説が小説風です。

Play It Straight (The Bannon Triumph)
あえて説明も要らないだろう傑作。これを駄作とみる向きもおられますし、前は僕もそっち寄りでしたがやはり凄い手順です。ただ解説は簡潔で、Impossibiliaで感心した細かいタッチが抜けてしまっておりちょっと残念。

Einstein Overkill
Trick That fooled Einsteinの改案。そもそも原案があまり好きでは無いのですが、このアイディアはすごく面白い。Bannonは4 of a Kindの出現に仕上げていますが、純粋な形態であればメンタル度が格段に上がって、好みかも。

というわけで長々と書きました。本当はもっと簡潔に書ければ良かったのですけれどもまあとにかく面白かったよーと。これが15ドルやもんね、すごいね。
個々の収録作品も良いのですが、それ以上に『オフビートなトリック』『ルーティンとしての構成』『セルフワーク』『小説風の解説』『Play It Straight』と、Bannonのエッセンスを抜き出して煮詰めたような、小ボリュームながら極めて充実した内容が素晴らしかったです。

サイトではLecture noteと書かれており、いやなんかそれだと適当なトリックを適当な体裁の紙束に適当にぶちこんだみたく聞こえてしまいますけど、実際には造本も内容も構成も、とてつもなくもハイレベルなカードマジック教本でございました。



余談ですが、↓にShuffle Boredの嫌いな点の話をちょこっと。