2013年3月21日木曜日

"Secrets" Terri Rogers






Secrets (Terri Rogers, 1986)



マジシャンで腹話術師でトランスセクシャルのTerri Rogers初作品集。この後 More SecretsTop Secretsが出ているみたい。

Trap Door Cardの改案、Star gateに惹かれたのがそもそもRogersに興味を持ったきっかけ。
Rogersの名前は知らなくても、ブロックに通した紐にリングが貫通するBlockbusterは、そのものでなくても、親戚筋を見たことある人は多いだろうと思う。テンヨーのリングミステリーなんかも似てるね。

ああこれぞマジックと思わせる、面白い作品が多かった。マジック、っても技巧、原理、など色々あるが、Rogersは、こう、いかにもな”タネ”のあるマジック。


初っぱながカミソリ呑みだったので、パーラーメインかと思ったが、意外にカードマジックが多かった。

技法的にはTip Over Change(Switch)によるフォースだけでつまらないが、選ばれたカード以外の表が真っ白というラストが鮮やかなBlank Amazement。
Bizarre Twistのバリエーションで、2枚と1枚のアンバランス交換現象Chinese Twist。
スプレッドするたびにカードが小さくなっていく、Smaller'n That。

などなど、シンプルでわかりやすい。ギミック多いし検めNGが多いし、解法としても、必ずしも美しくはないから、個人的にはそりの合わない方向性ではある。また、いささか盛りすぎというか、「消えて、別の場所から現れて、オマケに裏の色が変わって」いたら、そりゃもう移動じゃ無くて別のカードやんっていうね。
ただ、アイディアを見るだけでも楽しいし、不要は削げば良い。Chinese Twistは、肝の原理はギミックいらないし、なによりシュリンク、ストレッチ、バニッシュと既にHarris自身によって開拓され尽くしたかと思っていたBizarreに、こんな手口もあったのねーと感心。

あと、流行だったのか、 Pop out Move系の技法が2つ解説されて、技法的な手応えもある。


カード以外では、からくり屏風を利用したウォレットや、一瞬で向きが変わる矢印など、パズルちっくな原理をマジックに仕立て上げる手際が素晴らしかった。

この後者のパターンの創作群を期待していたのだけれど、思ったより数がなくて残念。向きが変わる矢印、Pirish Compassは、他のオブジェクトと組み合わせても面白そうなので、なんとか形にしてみたいねえ。


文章はあんまり読みやすくなかったけれど、いかにもマジックまじっくしていて、好もしい創作群。目当てだったトポロジ系、パズル系が少なくって不完全燃焼だが、次への期待は薄れていない。後の巻では、BlockbusterやStar gateも解説されているらしいしー。

2013年3月19日火曜日

"Card Kinetics" David Britland





Card Kinetics (David Britland, 1988)



Britland の エラスティック関連小冊子。


タイトルは嘘で、マッチ箱やハンカチの手順も含む。
ホーンテッドデック、ライジングカード数種、飛び出るカード、飛び出す煙草、閉じる~開くマッチ箱、シルクの出現、ダンシング・ハンカチーフを収録。
ライジングは氏の別冊子Angel Card Riseからのバージョンアップも含むらしいが、そちらは持っていないのでよくわからない。
Britland氏が左利きなのか、たまに図と内容が合っていないことがあるが、まあ問題ないレベル。

使用するのは 輪ゴム、Loops(Loop elastic、自作する)、通常のエラスティックの三種。

輪ゴムを使う手順がなかなか良い。
観客にはわからない、といくらBritlandさんが仰いましょうが、動力源が丸見えなので、まじめに演じるのは無理だと思う。が、BehrのHarbert君(https://www.facebook.com/herbertrubberband)みたいなプレゼンテーションであれば問題なし。
特にホーンテッドは、手軽で、ハンドリングもシンプルであり、なかなか楽しい。

Loopsについては、Finn Jonとはいちおう別個に考案したらしい。こちらは輪ゴムものと違い、ふつーに不可思議な現象だが、そこまでぶっ飛んだ発想や構成では無く、Loopsという発明からすぐに出てくるものばかりと思う。
ただ、昨今出たLoops系のDVDやNestor HatoのDVD(のデモ)と比べても内容に遜色はない。


シンプルで使いやすい現象が、小さくパッケージングされた良冊子。
このあたりの入門用には最適と思う。

シルクについては全く知らない世界なので、へー、こんなのもあるのかという感じ。


これでエラスティック・スレッド同封だったら、文句なかったのになあ。
あいや、入ってはいたんですが、、、、、







なんか滲んでるしっ?!










まあ、仕方ないよね。怖くて開けてません。

2013年3月6日水曜日

"Card Zones" Jerry Sadowitz and Peter Duffie





 
Card Zones (Jerry Sadowitz and Peter Duffie, 2001)



イギリスのカーディシャン、Peter DuffieとJerry Sadowitzの若き情熱と妄執が詰まった初期作品集。

Alternative Card Magic (Duffie,Sadowitz,1982)
Contemporary Card Magic (Duffie,Sadowitz,1984)
Cards Hit (Sadowitz,1984)
Close-up to the Point (Duffie1984)
Inspirations (Duffie,Sadowitz,1987)

上記冊子の合本。なぜかSadowitzパートとDuffieパートに分割されている。SadowitzのCards on the Tableがたいそう素晴らしかったので期待していたがこれは駄目本。元々の作品がいまいちな上に、合本の仕方が最悪という駄目コンピレーションの見本。

まず文中で示されている図がない。
おまけに解説も間違ってる。
といった問題が散見され、本としての機能がまず十全でない。
おまけに組版が(個人的に)大不評だったMagic of Fred Robinsonと同じであり、おまけにインク滲みなどもあっていらいら。


それでも内容が面白ければ、解読の労苦も報われるのだが、作品はおよそ雑誌投稿レベル。十分に練られ、構築され、対人で試されたとは思えない。対人性能が全てとは言わないまでも、目的の見えない改案が怒濤のように押し寄せてくるとさすがに辟易する。
手順は既存現象の複合が多く、また現象を先に書かない記述スタイルが主であるため、何が起こっているのかが致命的にわかりにくかった。

特にDuffieが酷い。

Change of Departure
1枚カードをピークして覚えてもらう。$を2枚取り出す。
さらに2枚カードを選んで、抜き出してもらう。選ばれたカードを$の間に入れると消える。これを2回繰り返した後、今度は$の間に最初に覚えてもらったカードが現れる。最後に$2枚が、消えたはずのカード2枚に変化している。

もうね、書いてても意味が判らない。 いったい何がやりたいんだよ。
これの意味を通そうとすれば、演出をかなり頑張らねばいけないだろう。Duffieがそこを書いていれば、それは非常に勉強になるかもしれないのだが、残念ながら演出についての記述は殆どない。(※)


「よくわからないが不思議」なトリックも、演技時間の埋め草としては有用ではあろう。
あるいは、きちんと演じれば素晴らしい手順もあるのかも知れない。けれど比率の判らぬ玉石混淆の全てに、演出付与の労力を傾けるのはさすがに骨が折れる。 


一方のSadowitzは、Alternative Card Magic にてWhisperers、Come Togetherなどオリジナルな現象を提示するものの、全体としてはDuffieと大同小異。ただInspirations では、Double Dealという高難度の技法が頻出するかわりに、後のCards on the Tableを彷彿とさせるような、観客を心理的にも引っかける手順が散見される。

なお、Alternative Card MagicInspirationsではDuffieもなかなか面白いアイディアを出している。

なんで、「原本では図版も解説も正しいのでは」という一縷の望みと共に、Alternative Card Magic Inspirations だけ買えば良いんじゃないかな。それでハマって、さらにと言うのであれば同書を買っても良いけれど、要注意の本ということは書いておく。
演出なんていくらでも湧いてくるけど、現象は全然思いつかないという人だったら、普通に買えばよいですが。


しかしこの二人のWalton信者ぶりにはすさまじいものがある。Waltonに言及できる機会があれば決して逃さないし、Walton手順の改案では「オリジナルより優れていると思っているわけでは決してなく、あくまで個人的なハンドリングである」と断りを入れる始末。

編年体の本なので、Walton信者のカードマニアSadowitzが、Inspirationsを経て、Cards on the Tableでパフォーマーとして開花するまでの足跡とも見れるだろうか。
一方のDuffieはといえば、彼のサイトを見ればわかるが、いまも大して変わっていないようである。ノーガフ Wild Cardの構築力などは素直に脱帽ものだが、私はあまり好きなクリエイターではない。


(※)例えば2枚のカードを消す際に、1枚目のカードを探しに行く、とでも言っておけばひとまず筋は通りそうである。一文でもよい、もう少しでも演じるための記述があれば、本書の評価もがらりと変わるだろうに。