2013年7月31日水曜日

"Varied Methods" Scott Robinson







Varied Methods (Scott Robinson, 2012)




Scott Robinsonのレクチャーノート。風変わりな3技法と、洗練された8手順。


Vanishing Incからダウンロード・ビデオ Pure Imaginationが出ていて、それがとても面白そうだったのでe-bookを買いました。
いえ、ビデオの目玉であるWilly Wonka Card Trickこそ入っていませんが、他の2手順、Loose Change、Differenceは収録されていますし、Willy Wonka Card Trickにしても、そのヴァリエーションであるWillie in your Pocketは解説されていてそれでお値段$5しか違わないので、それはもうこちらを買いますですよ。実体版もあるようですが、それだと$25+S&Hなのでさすがにまあそこまでは。


技法3種:Lee AsherのPulp Frictionが大変お好きだそうで、それをベースにしたカード技法2種と、コインの技法1種。このうちの1つが特につまらなくて、正直ぜんぜん役に立たなそうだなあと思っていたのですが、後の手順で実に美しい使い方をされており、良質のミステリで伏線が繋がったような快感を覚えました。やられた、と。


手順:ややマイナーなプロットが多いですが、非常に洗練されています。銅貨1枚と銀貨3枚の瞬間的な交換現象Difference、Digital DissolveのGaffless版 Loose Changeについては動画プロモにあるとおりですが、カード作品も実に素敵でした。ギミックやデュプリケートを使用することも多いですが、総じてセットに複雑さはなく、演じやすそうです。特に以下の2つが印象的。

Who's Counting:相手が言った枚数のパケットをカットするCounting on It現象。KennerなどはSybilカットして出してましたが、そういうフラリッシュ的なカットを行なわず、というかカットを行わず、デックの真ん中あたりから指定された枚数をそのままつかみ取った様に見える。
現象はマイナーで、あまり華もないですが、これは見事な構成でした。きっとたぶんとても不思議。

Willie in your Pocket:動画にあるWilly Wonka Card Trickのギミック版。角度はすこしきついですが、Bizarre Vanish的に消えたカードがポケットから現れ、そして……。こちらはギミックの使い方がとても素敵で、やはり良質のミステリを読んだような喜び。裏仕事の巧みさを褒めるのは、ちょっと本末転倒かもしれないですが、でも面白かったんだもの。あ、現象自体も大変美しいですよ。ただし、2段目が1段目の消失を食ってしまう可能性はあります。


Card、Coinの他にもCard Through the Billなどもあり、とても面白いノートでした。全体的に力が抜けていて、怪しい気配がなく、それでいて現象は鮮やか。裏の仕事も実に面白いです。また新作が出たときは入手したい所存。
なおSteve Beam編のSemi-Automatic Card TricksおよびTrapdoorの常連だそうで、本書の作品にもそこからの再録が散見されます。Semi-Automatic Card tricksTrapdoor、興味が出てきましたがさすがにページ数が莫大なのでなかなか……。

2013年7月21日日曜日

"Knuckle Busters Vol.2" Reed McClintock





 

Knuckle Busters Vol.2 (Reed McClintock, 2002)




指を痛めそうな作品の詰まったコイン小冊子。


収録は3作。現象はTrio in Three、Open Coins Across~Production、そしてProductionとばらばらだが、一貫してMcClintockらしい無茶さと、鮮やかさが発揮されている。


・Three with CSB
Gary KurtzのTrio in ThreeをCSBギミックで行えるようにした物。現象もやや簡素化されており淀みないが、一部、とても気を遣うハンドリングを用いている。McClintockは、まるで「自分は出来てるから問題ない」とでも言うかのように、こういう危うい箇所をそのまま放置するのでタチが悪いが、一方でそれがこのシリーズの読み所でもあるだろう。

元となっているKurtzの手順はとかく有名であるにも関わらず、氏のまとまった作品集Unexplainable Actsには収録されていないので、まともに練習したのはこれが始めて。コインが1枚ずつカードの下に移動した後、再び手に握ったコインが全て消え、よけておいたカードの下から現れる。あまり作例を見ないが非常に面白い手順と思う。
日本語ではマジックハウス刊行のレクチャーノート ギャリー・カーツのコインマジック に解説があり、持ってもいるのだが、訳が悪いのか元の文が悪いのか、私には中間部が判読不能だった。たしかビデオには収録されているのだったかな?


・Ninth Dynasty
Open Coins Across。見えている状態で、では無いが、手を開いた状態でコインが移動していく。特に手の甲から移動する所は、本当によくやるなあMcClintock。
上手く出来たら気持ち悪そうだがこれも難しい。
そしてCoins Acrossの最後、何故かコインが9枚に増える。

なぜだ……?


・Seven the Hard Way
7枚コインのプロダクション。McClintockの代表的な作品で、Geniiにも発表されていたように思う。7枚パームから始めてしばらくOne Coinの手順をやるなど、非常にパーム筋を要する流石の構成だが、なににも増してディスプレイがキモい。
手遊びのカエルみたいな形状で、むにゅむにゅと指の間からコインが出てくるのだけれど、こんなの他に誰が考えつくかと。


というわけで、以降の巻にあるようなテーマ統一は無いが、技法的にも現象的にも、そして独特の美意識においても実にMcClintockといった作品集。このまま演じるのは、どうしてもためらわれるけれども、練習はしておきます。

2013年7月18日木曜日

"Close-up Framework" Lawrence Frame






Close-up Framework (Lawrence Frame, 1986)



クライマックスに重点を置いた、イギリスのマジシャン、Lawrence Frameの小冊子。


この人については経歴も消息もよく分からない。8手順中、演出のみが1つ、Sadowitzの寄稿作品が1つ。


うん、まあSadowitz作品を探していて見付けた本だ。ただそれだけなら買わなかったろうが、惹句に興味をそそられた。

”例を一つあげよう。Spellbound Climaxでは、2ペンス硬貨が10ペンス硬貨に変化し、また戻りを繰り返した後、いつのまにかコインがボタンになっている!.見下ろすと、ジャケットのボタンがあるべき場所に、コインがくっついている。”

これいいなあ、と思ったのだ。買って読んでみると、他のもなかなか好み。
”クライマックス”と言うと、どうにも手順が終わった後にもうひと山を加える(ツイスト)ものが多いけれども、これは手順の最終段をより派手に、あるいは豪華にしたといった所か。

クライマックスを付けるために無理をしたり、あまりそぐわないクライマックスだったり、ということは多いが、Frameのはあまり大変な仕込みも無く、現象としても違和感なく繋がっていて好きだ。
スペルバウンド、Twisting the Aces、Coin Cut、Card Acrossといったクラシックが、ちょっと予定調和的だったり、ラストがはっきりしないなあと思う人なんかにはおすすめ。ただしクライマックス部分のみの解説で、手順が載っていない物もあるので、ある程度知識は必要。またCoin ThroughTableは演出のみで、おまけにアイルランド人がうんぬんという話で正直これは流し読み。


全体として、特殊な技法をつかうわけでもないし、素材というか現象のつなぎが上手い感じで、もう少し別の作品も見てみたいのだが、他には露出がなさそうで残念である。




なおSadowitzの手順は、4つに分けたパケットに、1枚ずつAを配ってから重ねるが、Aは4枚とも一番上に上がってくる。それを相手にもやってもらうが、おなじように上がってくる。というもの。
うむ、これもなかなか。

2013年7月10日水曜日

"Penumbra issue 9" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean





Penumbra issue 9  (編・Bill Goodwin & Gordon Bean)




Bill goodwin編集のマニアック・マガジン第9号。
技法多めのためか、作品点数はいつもより一個多いです。



Muy Bueno Shuffle:BJ Bueno
最近流行りの某フォールス・シャッフルをテーブル上で行う。非常によいと思いますので、あえてあまり踏み込まない。内緒です。上手く行うのは難しいですが練習。

Simulated Slip Cut:Allan Ackerman
スリップカットって正直あからさますぎるよね、って事で、ランニングカットに紛れ込ませた物。確固たる技法というよりも、Ackerman流のハンドリングといった程度の印象。上のMuy Bueno Shuffleとも相性がよいです。

Covered, Up!:J.K. Hartman
これはトリックですが、ほとんど単一技法に依っているので技法扱いでもいいくらい。コントロールなどの説明は大幅に省かれているからなおさら。
ハンカチでデックをくるみ、もう一度開けると、相手のカードかトップに表向きで現れている。
見覚え有るなあと思ったらCard Dupery にも収録されてました p.144。

Bertram, Braue and Ben:David Ben
我が身の浅学、技量のつたなさ、計算力のなさに打ちのめされるギャンブル・デモ。スタッドポーカー(4ハンド)、スタッドポーカー(6ハンド)、テキサス・ホールデムの3段からなる。Second Deal、Table Hop、Table Faroを駆使した4 of a Kind コントロール。構造はシンプルで無駄が無く、まさに”見えない超絶技術”のデモといった感じ。
特にBertramによるマルチプル・シフトから始まる最初のスタッキングは、相当にディセプティブ。

ただ少々問題があり「私はBertramの未発表のFaroを使っている(解説無し)」とか、「ここではFinlayのTable Shiftを使う。C.ジョーダンの本の5頁に解説がある」など、使用技法が解説されない事が多い。「良い技法だよ!」とだけ言われて歯がみすることしきり。あんまり古典もってない私の勉強不足が露呈する。
技術的にかなり難しいし、覚えなくてはならない事もちょっと有る、そのうえで現象と呼べるような物は特にない純たるギャンブル・デモなので、ある種のつまらなさはあるかもしれない。

でもこれ、一段目だけでも出来たらかっこいいなあ。


The Maddox Stack:Michael Maddox
David Benのとは対照的に、全く技法の要らないAny Hand Called for。
相手が役を選んだあと、一切のハンドリングが必要ない。それを達成するためのちょっとした工夫は、ささやかな発想の転換が良くできたミステリのようで非常に面白かった。ショーアップ次第でシグネチャー・ピースになりうる手順と思う。


技法多めだった第9号。Bueno ShuffleもBertramのShiftも、さすがはPenumbraといったクオリティ。いやでも個人的にPenumbraに求めているのは、洗練された”手順”なのですよ。そういう意味ではちょっと物足りなくもあった。


2013年7月8日月曜日

"奇術探究 創刊号" 編・ゆうきとも





奇術探究 創刊号(編・ゆうきとも、2008)



現代的で刺激的な表題作とあと何か。


福田庸太による変わり種のO&W「水漏れと油漏れ」にフューチャーしたノート。

このプロットがとても面白い。
赤4、黒4で水と油を始め、徐々に枚数を減らして3・3、2・2としていく。
ところが最後になって、赤黒赤黒とかみ合わせたはずのカードが4枚とも黒になり、捨てたカードが赤4になっているというオチ。意外ではあるが合理的というか、うまく意識からハズされている感じがたまらなく素敵だ。


というわけでこれは凄く良いのですがその後がちょっとついて行けない。
殆どずっと、ゆうきとものゆうきともによる(ゆうきとものための?)バリエーション。

原案がカウントを排することで”ごまかし”の気配を消し、ラストを引き立てていたのに対し、ゆうきとも案は基本的にクラシックな技法の組み合わせで、プロブレムの解としては成立していますが、どうなんだろうねえ。特に遺漏での「各段階の説得力はやや弱くなったけれど、手順の目的は最後のオチなので、これくらいのほうがバランス良いのでは」という点については、個人的には全く逆の理解。

まあ他のO&Wと組み合わせたいという人も居るでしょうし、そのためにハンドリングの毛色が違うのも1手順くらいは有ってもいいとは思う、と擁護できなくはないか。けれどもね、漏水は記憶を頼りに3時間で再構成した手順と言うし、このノートの原稿自体、原案を見てから2週間しか経っていないそうな。
それは作品では無くただの習作ではないですか?


いやしかし、水漏れと油漏れはすごく面白いです。これのためだけに買っても損はない。

ただ、今やトリックサウルス(未見だけど)出てしまったし、あれ安いしなあ。「水漏れと油漏れ」に対してどう試行錯誤するかを愉しみたいという奇特な人にも、いろんな寄稿者を迎えた奇術探究5号が出ているようだし。とりあえず奇術探究 そろえたいって人か、あくまで文章で水漏れ油漏れ読みたいという人以外には、あまりメリットのない冊子になってしまった。

とはいえ文章で情報をストックできるのは個人的に非常にありがたく、映像よりも見直しが楽ですし、実際、表題作はよく読み直している。レイアウトもとてもよく、読みやすいです。


追記・スイッチ無しで変則オチのO&Wというと、同書では名前上がってなかったけど、SkinnerのOil and Water Rides Againとかも良いですね。