2012年6月30日土曜日

"Impossibilia" John Bannon









Impossibilia (John Bannon, 1990)






巧妙なカードトリックで有名なJohn Bannonの作品集。
Bannonといえばカードの印象だが、本書ではコインやロープとリング、カップアンドボールも解説している。またBob Kohlerなど他の人の作品もあり、内容の幅は広い。

恥ずかしながら、これが初Bannon。
いや面白かった。今まで手を着けていなかったのが勿体ない。もっと早くに知っていたら、自分の嗜好も変わっていたかも知れない。


特徴は何よりオフビートなその構成。
オフビートとは”拍子を外した”とか”あえてタイミングをずらした”という意味で用いています。調べたところ色々な意味があるようなので。


実に巧妙に、観客の注意が集まらないタイミングで技法や秘密が織り込まれる。見えないところでもぞもぞやるのとも違って、見えているんだけれど気にならない。


絶対に見破れない不思議、ではないが、初見では絶対にびびるだろう。怪しいことを一切していないのに、予想外に不思議なことが起こるんだから。そのためにセットアップが必要な物もあるのだが、あらかじめカードを抜いておくとかで、スタック系やギミックはほとんど用いない。そういう意味でも実用度は高い。


いや、実は読んだだけでは今ひとつ魅力に欠けるなあと思ったりもするのだが、実際にハンドリングを追ったり、人に見せてみたりすると、びっくりするほど手になじむし、負担が少なくてやっていて楽、そして現象が綺麗なんだな。

個人的にはA Little T,T,&Aが好みだった。Tenkai Reverseを使った実に単純なTopsy-Turvy Ace(トライアンフとAプロダクションの混合)なんだが、どうした事かとても綺麗。
いろんな技法が使えるようになった上で、あえて難易度は低い(が綺麗)な手順を組める、こんなマニアになりたい。


さてBannonと言えば、のPlay It Straightが解説されているのも本書。

Play it Straightは思いついたのも凄いが、「あ、これいけるわ」という判断こそがBannonのセンスなのだろうな。

WaltonのOli & Queenが毀誉褒貶あるように、Play it Straightもその大胆さとシンプルさゆえ、傑作とみるか駄作とみるか意見が分かれそうな作品ではある。つまんねーという人の意見も判らいではない、というか僕もそっち寄りでしたが、実際に解説を読んでみると実に細かい配慮が成されており、正直見直した。



ところで、Bannonはカードの印象しか無かったのだが、本書ではカード作品はむしろ少なく、半分以上がコインやカップアンドボール、シガレット紙の復活などのクロースアップ物になっている。
カード以外の素材でも手順構成は冴え渡っており、中でも、サインされた三枚のコインが消えてポケットの中の封筒から出てくるCoins Across The Waterや、演者が一切手を触れなかった両面白の紙片に選ばれたカードの絵が現れるPhotologicはやってみたい。

Bannonは作品ごとにしっかりと演出があり、そこも好きなのだが、特にCoins Across the Water(大洋を越えるコイン?)の演出は面白い。コインは消えたんじゃ無くって、日本まで飛んでいったんだ、証拠を見せよう、と言った後の”日本にいる友人が、この手品の成否を手紙で教えてくれることになっているんだけれど、日本は日付変更線を跨いで向こうになるから、手紙が投函れる今日は日本の昨日で、手紙を出したのが昨日だから付くのは明日で、明日っていうのはアメリカで言う今日なんだからつまり、……もう今朝には届いてたんだ”というロジックには奇妙な味も極まれりの感がある。


またBob Kohlerのトリックや、Harvey Rosenthalのコイン技法も解説されていて、これまたどれも良い。特にKohlerのBoston Boxは、普通とはちょっと違ったコンテクストで使用されていて、面白い。いや、面白いばっかり言ってるがホントに面白かったんだから仕方ない。





総論、面白い。
オフビートで、難易度が低く、現象が鮮やかで、構成の綺麗な作品ばかり。
Bannonは後書きでトリックを詩に例え、どんな細部に至るまでも考察されてなければいけない、というようなことを言っている。いわゆるクリエイターには、粗雑な品や、実験作も多かったりするが、Bannonはその信条通りに、一貫して洗練されつくした作品を書き上げているように思う。良い本だった。

ただ序盤のカードですっかりうっとりしてしまい、もうこの人のカード作品で溺れたいくらいのテンションになってしまったため、カードが最初の50頁しかないのを非常に物足りなく感じてしまった。

Bannon=カードの頭で読みにかかると、面白いけどコレジャナイというもやもやに包まれるやもしれぬ。



また、オフビートであるが故に、前提を暗黙の内にしか示せない物も多く、演じるタイミングによってはちょっと危うい印象もある。手法につられてか現象までオフビートよりになっていて、気がついたら現象は起こった後で、まあそれはそれで良いとしても、もっと魔法の瞬間を示せる物も欲しかった。

まあこれは高望みかも知れないし、まだ本書しか読んでいないので自分の早計かもしれない。積んである山が何とかなったら、他のも読もう。



実はシカゴ三人組、Bannon、Aronson、Solomonって全然手を着けていなかったのだが、他の人のも読むべきなんだろうか。

しかしBannonといいHollingworthといい、AscanioにOuelletに、確かAronsonもだが、法律関係の人が多いなあ。弁護士の適性と、マジッククリエイターの適性って近いのだろうか。

2012年6月29日金曜日

"Performing Magic" Tony Middleton







Performing Magic (Tony Middleton, 2011)





鳴り物入りで登場した演技論の本。Paul Daniels、David Berglasが前書きを書いており、他にもKevin James、David Stoneなどなどそうそうたるメンツが推薦文を書いている。

演技におけるキャラクターの作り方から始まり、手品の採択の問題やステージング、リハーサルの仕方まで網羅している。内容は詳細で、どちらかというとクロースアップを想定している感じ。



うーん、長くなりそうだから結論から先に言おう。
決して悪い本とは思わないが、これ読むならこっちを読め、という上位版が厳然として存在するので、本書はあまり勧められない。

ちなみに、Robert Cohenの Acting One がそれ。
取り敢えず読め。


さて以下に評の詳細を書くが、長い上に独断に満ちているので、お急ぎの方は読まなくてもよろしおす。








さて、マジックには産業的な基準が無い、という著者の主張は確かにそのとおりと思う。実際、趣味や興味から初めてそのまま、って人がほとんどで、マジック養成所のような施設があるわけでもないし、格付けが成立するほどの市場も形成されていないのが現実。舞台での立ち方や喋り方なんて気にしたことも無い、というのがプロでもごろごろ居る(らしい)。


もちろん演技論の本は色々ある。Fitzkee、Brown、Weberくらいはうちにもあるし、演技論の本では無いがWonderなども素晴らしく面白い。しかしそれらは個人的な経験知に基づいたものであって、言うてもせいぜい数十年やそこらの知恵。作者と談話するような面白さはあっても、体系的な知とは違う。

ないものは余所から借りるしか有るまい。本書最大の眼目は、英米の長い演劇史で培われてきた”演技”の技術と理論をマジックに適用する事。理論やノウハウは、歴史と関わった人の数とである程度まで決まる。当たり前の話だが、演じることにかけてはマジックなど演劇の足元にも及ぶまいよ。


おまけに日本ときたら、その演劇さえつい先頃まで様式美の世界だったわけで、それはそれでいいとしても、現実に即した演技という意味ではインフラが全然整っていない。テレビでは素人目にも大根のアイドルが主演をやってたりするわけで、演技に対する意識も低いとくる。
演技の方法論を学ぶことの重要性はいや増すというもの。


少し話が逸れた。
本書だが、演じること、演技人格とは何か、演技人格の作り方、といったあたりは他のマジック理論書ではあまり見られない箇所であり、世評も高い。後述の理由で、個人的にはさほど感銘を受けなかったのだが、確かに有益な本であろう。
ただIan Keableは口を極めて酷評している。
(参考:http://iankeable.blogspot.co.uk/2012_04_01_archive.html

Keableの書評は吐き気がしてくるくらい冗長だし、やり口もけっこう汚らしいのだけれど、決して的外れではない。Keableがねちねちと8000語もかけてあげつらったことを、僕が読んだ範囲で要約すると、
『例示が極端に少なく、理論の間にも齟齬がある』


例を多く上げよというのはKeableの好みの問題としても、その少ない例示がそれまでの理論とあまり合致しておらず、さほど良い手順とも思えなかったのは、確かにちょっと気にかかっていた。



これはたぶん、Middletonが演劇の学校で学んだことを、学んで、まだ体得してはいないことを、本にしたからではないかなと思う。外からの知識であるため、所々で断面が合わず、全体像が少しく歪んでしまっているのだと思う。

なので、芯が通っていない印象はある。”Middletonの演技論”ではなく、”Middletonによる既存の演技論紹介”という内容と思えば良いだろうか。

Keableの言うとおりの齟齬はあるにしろ、Middletonの目的は経験知に左右されない客観的な方法論の輸入なのだから、当人が部分的に消化し切れていなくても、まあそれはいいだろう。高校の数学教師が、科目範囲を完全に理解し相互関係を熟知できていなくても仕方ないのと同じ事だ。
本書の内容、それ自体は決して悪くはないと思う。




ただ、”方法論の輸入”という意味では、Middletonは決して上手くやれては居ない。
それはもう単純な話で、それこそ彼の経験不足。個人的な見解ではなく客観的な手法論である以上、ある程度の客観的な評価ができてしまう。

どういうことかっていうと。マジックの方法論、あるいは作品集であれば、けっきょくそれぞれが個人的な物なので、じゃあBannon読んだらHartmanは読まなくて良いよ、みたいな事にはならない。

しかし例えば、先の例のように数学で言えば、その本質が外部に体系として存在するが故に、良い教科書と悪い教科書というのが存在する。餅は餅屋。Middletonは確かに演劇で修士号を取ったインテリかも知れないが、しかし演劇学校で何十年も教鞭をとってきた、教えることを熟知している演劇指導の教授では無い。


僕も演劇の本なんて一冊しか読んでいないのだが、それでもRobert CohenのActing Oneは本当に面白く、有益であった。演技の基礎を築き、徐々に技術を組み立てていく。“教え方”それ自体が、当たり前の話だが、体系的であり洗練されている。


これにくらべれば、Middletonは、せいぜい面白そうな所を抜き書きしているだけ。体系も何もあったものではない。




そういう訳で、本書は勧められない。ちょっと悪口が過ぎた気もするが、Middletonが”体系化”された手法の導入を試みたのだから、その体系に則り、どうしても彼の本を高く評価する事はできない。


なおMiddltonが助手(たぶんディレクター兼任)として出ていたPen and Teller Fools usのChris Dugdale回は、ちょっと凄かったのでお勧め。今後のMiddletonには期待。




追:日本人は演技下手だという話だが、それは西洋の感情的な演技を真似しようとして、薄っぺらになっているだけかも、とは思わなくもない。たまにドラマや映画を見ると、そんな場面で、そういう反応するかなあ、みたいな感想を覚える事がしばしばある。
声を上げ身をよじるより、黙して語らない方が日本人らしい、というのは古い考えではあるかも知れないが。

ちょっとアルコールが入った振りをして、DaOrtizじみた演技をしたこともあるが、あれも自分には不自然だったかもなあ。
藤田まことの刑事役の演技とかも嫌いでは無いので、そういった方向性も考えていきたいなとか考えている。


2012年6月24日日曜日

製本しました。/あるいは電子化による時代逆行。


L&Lが電子出版部門サイトL&L e publishingを立ち上げており、$50以上かけて手に入れたJ.C.Wagnerの本が僅か$9.95で発売されてしまった事には、別記事でも触れました。(値段改定がされたのか、現在は$14程度)

実は$300近くかかったCollected Works of Alex Elmsley も併せて$40で販売されており、心の痛手は癒えるどころかますます深みを増しておりますが。


ともかく、送料が掛からず絶版本が手軽に手に入るというのなら、これを利用しない手はない。とはいえ数十頁のノートならともかく、百頁を越える本をディスプレイで読むのは中々たいへん。あと蒐集家としての欲望も満足されません。

ということで、自家製本に挑戦。
今回は簡単な無線綴じで。



まず初トライ、J.C.Wagnerの7 Secrets



外見。
表紙を作らなかったのでとても無愛想。













見開き。
工作用紙で、しかも色々あって裏面剥いだので汚い。

印刷はモノクロレーザー。
紙は普通のコピー紙。

まあ実用には問題有りませんです。

























2冊目。
John BannonのImpossibilia

これも一発作製ですが、前よりは材料にこだわっています。
元々はハードカバーの本ですが、今回は残念ながらソフトカバー。



ちゃんと表紙を作った。
元デザインを真似て、Power Pointで作製。

白黒しか印刷できないので、真ん中部分をシールに印刷、ぺたっと貼り付け。


水色の光沢のある厚紙は、Loftで購入。
全切りサイズで100円くらいした。







中身。

撮影の関係でグレーにしか見えませんが、クリームシフォン紙(72kg)で、いかにも本っぽい質感と色に。




中身拡大。


頁右余白の真ん中当たりに、うっすらゴミ。
これは元データに載ってました。

親指で紙の腹が黄ばんだのを、そのままスキャンしたのでしょうかね。










タイトル拡大。

元のデータで、スキャン後に白黒二値化しているらしい。
上のゴミ問題もそうだが、文字もエッジが荒い。









誰だお前!ってなった若いBannon。

写真に変な濃淡が乗っているのは、L&Lではなく、おそらくうちのプリンタのせい。

イラスト本ならいいですが、今後図版が写真の本で製本するときは問題になりそう。





いずれハードカバーや綴じ本にも挑戦したいが、そうなると、A3ノビのプリンタや寒冷紗などが必要になるわけで、どう考えても元は取れない。シフォン紙もそこそこ高く、材料費だけでも結構かかる。


オルファのカッターナイフを買ったら嘘みたいに良く切れて感動。
やはり高い物には高いだけの性能が付随するのだな。


あまり器用ではないので、その上でどう精度を上げるかが今後の課題。
今回は一発作製で、しかも材料の性質をちゃんとしらべないままやったので、Bannon本とかは背表紙が一度ふやけて波打った感じに。美しくない。



活版印刷が出来て本は超高級品では無くなったが、しかし産業革命が軌道に乗るまでは、やはりとても高価だった。
その頃の本屋は本を売るのでは無く本を作るお店だったそうな。

本屋に行くと、本の中身がばらの状態で置いてあって、立ち読みとかして買うか決める。
そしたら革や綴じ方の種類を決めて、製本をお願いする。というような流れだったとか。


いま、正に時を遡っている心地。


2012年6月22日金曜日

"The Underground Change" Jamie Badman & Colin Miller









The Underground Change (Jamie Badman, Colin Miller, 2002)



あーっ、疲れたぞ畜生。
数理マジックで解説が間違っていた時の再構成の労といったらもう。まあそれは後で書くとして、



技法Underground Changeと、Misdirection Monte他いくつかの手順を解説したe-book。

Underground ChangeはDVD Welcome to the Farmでも解説されているようだ。日本関西圏の某ショップでは、Misdirection Monte以外に特筆すべき事はない、とまで言いながら販売している。褒めているんだか貶しているのだか。

ともあれ。
もしこの本を知らない人が居たら、まずは紹介動画を見に行って欲しい。話はそれからだ。




昔から気になっていた本。Luceroの動画で衝撃を受け、Turnover Swith全般に惹かれた時期があったのだが、当時は英ポンドも強く見送ったのだった。
今回、またLuceroの動画を見て、やはり衝撃を受け、この本を思い出し、強い円にも後押しされて買ってみた。


最初の権利書きで、技法・手順を映像に撮ること、および技法を解説すること、が明確に禁止されているので、あまり踏み込んだことは書けないのだが、なかなか問題のある冊子。


もし見えないTurnover Switchを求めているのなら、これは違う。


Underground Switch自身は、実は過去の技法とほとんど大差ない。とある既存技法をベースに、その使用できるシチュエーションを増やした拡張版。応用範囲は広がったが、スイッチ自体のディセプティブさは変わらない。
だから他の方法より”スイッチが見えない”とか”スムーズ”とかそういう事はあんまり無いので注意されたい。例のMonteも、実のところその既存技法との併用であって、Underground Switch自体の出番はむしろ少ない。

ま、あんまり書くと、拉致されて言葉に出来ないような責め苦を受けるかも知れないのでこの辺で控えよう。(参考:http://www.youtube.com/watch?v=oQlOWHY57-I)。




その上で、やはりMisdirection Monteは凄い手順。Underground Switchの出番は少ないと言ったが、しかしこのスイッチ無くしては成立しないのも確か。このMonteなくしてUnderground Switchに価値は無く、Underground SwitchなくしてこのMonteは成立しないと言ってもいいぐらい。

一方、Monte以外の手順はどうにも今ひとつ。Badmanは様々な用途を見せてはくれるのだが、Monteのような美しいミスディレクションは無く、技術的に厳しい。読むほどにMisdirection Monteの奇跡的な完成度が浮かび上がってくる。
ま、技術的な点はおいても、カードの裏に書いた棒人間が性交を始め、あげく片方が妊娠するとかいう実にアンダーグラウンドな手順は、そうそうやれる人もいないだろうが。



むしろUnderground Switchを使わないオマケの2手順の方が面白かった。どちらもMisdirection Monteから繋がるように構築されているのだが、一つ目は、


『カードを選んでもらい、デックの中に戻す。4枚のパケットでAが一枚ずつ裏返り、全部裏向きになる。最後にまた一枚表向きになり、それがQに変わる。残りの3枚を見ると、Qに変わっている。デックをスプレットすると表向きのAが現れ、一枚のカードを間に挟んでいて、それが観客のカード』という、僕の描写力不足を加味しても、まあ意味不明な現象である。
Twisting AcesとTranspositionとSandwichをあわせたような感じ。
これが殺し屋にまつわるストーリーが加わることで、劇的にわかりやすく意味のある現象になるのが素敵だった。


もう一つはTomas Blombergの数理トリック。
DVD 21でもラストにとんでもない物を見せてくれたが、この人は数理ネタが実に上手い。数理もので、カードを数えてもらう動作も多いというのに、全体像が実にクリアーで現象が美しい。もう惚れてまいそう。この人が本出したら速攻で買うのになあ。

今回はNumerology(確かカードカレッジにも入ってたよね)みたいなトリックなのだが、別の原理を組み合わせた4 of a Kindの出現現象になっていて、すんごく不思議。セットも簡単で、レパートリーに入れたいと久しぶりに思った。

むしろMisdirection Monteより良いと思った。


ただし、冒頭で言ったようにこのトリックは解説が不足しており、かつ間違っている(たぶん)。
そこまで複雑では無いのだが、数理トリックの知識が少ないと、再構成がむずいかも。



かなり長くなったがまとめ。
Misdirection Monteだけを目当てに買えばいい。見えない汎用Turnover Switchを求めると間違い。
他の手順は今ひとつだが、可能性の羅列としては面白い。
Turnover Switchの系列全体に言えることだが、応用範囲が広そうでいて、実際に構築するとなるとなかなか難しいのだよな。まだまだ可能性が眠っている技法と思うので、クリエイティブな方にはがんばって欲しい。



あとTomas Blomberg目当てに買ってもいい。むしろこっちが本体で、Underground Switchがオマケと言っても過言では、
―――おや? こんな時間に誰だろう?





Blombergの手順、内容ミスについて。また単体で演じる場合について。
自分と、買った人のためにいちおうメモ。↓

2012年6月13日水曜日

"Sleightly Original" Tom Gagnon







Sleightly Original (Tom Gagnon, 1981)





最近 Avant-Cards  Card Magic of Tom Gagnonという本が出て、名前を知るようになった。Vernon Chroniclesのイラストを担当し、FFFFやNew Stars of Magicにも出ていたというのだから、古参であろう。
これはコインマジックの冊子。財布と相談した結果であるが、コインは資料が少ないし、Bertramが推薦文でアセンブリのムーブを褒めていたので、そこも気になったのである。


さて。長い、ながい戦いだった。100頁そこらなのだが、これが実に読みづらい。
耐えられないくらい冗長な文章に加えて、現象がマニアックすぎる。

まず前者。
今までで5本の指には入る読みづらさ。動きだけを解説しているはずなのだが、” 右手でコインを取り上げ、手前に引く。Refer to Figure #8。このとき左手の位置がコインの動きの直線上にある。again refer to Figure #8” とか、別に(fig.8)でええやん。っていうか一回絵を見たら判るし。
他にも色々と、注釈や補足の挟まり具合のせいなのか何なのか、何を読んでいるのかどうなっているのか判らなくなってくる文章。単語は簡単なので読んで読めなくはなく、解説として余剰であっても不足はないのが不幸中の幸いか。



そして後者。

内容がマニアックすぎる。
本書の半分以上を占める作品が、サムチップとフォールディングコインの組み合わせ。まったく興味が湧かない。正直どっちも持ってないし。
状況的にも、ハーフダラーが十分な視認性を持ってて、かつ結構大胆にサムチップも使えて、というのは、制限がきつすぎる。あげくそれをTwilightの1枚目のロードに使ったりとか、リスクに対する効果のほどもあやしい。

あげく、フォールディング カッパー&シルバーとかいうギミックまで飛び出す始末。

マニアックにも程がある。


マトリックスのムーブでも、ピックアップムーブから天海ピンチへ、とか面白いは面白いのだけれど、テーブルで天海ピンチはしんどい。こっちが立ってて、かつ相手も立ってて、それでいてテーブルとかでもない限りは。
ザローシャッフルもそうだが、ちょっとでも離れたら、モロ見えだものな。



まあ色々と鬱憤が溜まっているのだが、改めて見直してみると、ドマニアックかつ文章が判りづらい、という点はやはり揺るぎない事実であるものの、何も知らないで見せられたら仰天するかもなー、という手順もけっこうある。

サムチップの至近距離での有効性有用性を、ぼくはよく知らないのだが、サムチップが十分に使えて、かつ非効率でも徹底的な不思議にこだわったり、あるいは身内を手ひどく引っ掛けたい、という人には良いかも知れない。



今回は道具立てがとことん合わなかったが、このドマニアックさは、はまればハマるかも。
貶しておいてなんだが、他の本への興味もまだある。だって『ケースに仕舞った状態でのカードコントロール』だけを解説したノートもあるんですよ。実にマニア心をくすぐるじゃないか。
結局、力業でしかも非効率なのでは、という不安はありつつも気にはなる。



誰か突っ込んだ人が居たのか、幸いにも他の本はGagnonの筆ではなく、それぞれWesley JamesとJohn Luka。どちらの本も読んだことはないが、Gagnonほどの文章ではないだろう。きっと。

お金と心と時間に余裕があったら、もう一冊くらい読んでみたいかも。



2012年6月9日土曜日

自発性(観客)に関する小さな覚え書き




J.C. Wagnerの7 Secrets に収録されているAce-Two-Three-Fourという作品で気に入った箇所があったのだが、本記事の流れでは何となく書きづらかったので別枠で紹介。


この作品は小枚数でやるアンビシャスカード、いわゆるAmbitiou Classicというやつ。


個人的にはあまり好きなプロットではなく、(と言い出したら殆どのプロットは嫌いなのだが)特にアンビシャスクラシックはオチが今ひとつ整合が取れておらず、それをカバーする台詞も思い浮かばなくて、据わりが悪い。
自らを自明の窮地に追い込みつつ、効果的なエンディングがないという印象で、Wagnerの作品についてもその点は同じ。


じゃあ何が気に入ったかというと、3枚目。本記事の方ではそこで使われるMarloの技法について簡単に書いたが、ここではそれが使われる文脈に注目する。


というのは、それが実に効果的な”ひっかけ”だからだ。


2が上がってきた後、それをテーブルに捨てる。
次は3、と言いながらトップカードを”表を見せずに”ボトムに入れる。

『いや、ちゃんと3を底に入れたからね?』とここでMarloの技法を使ってボトムの3を見せるのだが、このタイミングと構成が妙。


というのも、このとき見ている人は”本当に3を底に入れたか?”という疑問をほとんど”自発的に”抱かざるを得ない。
しかもそれは演者がどうこう言ったり示したりするのよりも先行する。


そこに続く演者の動作、特にMarloの技法は、実にタイミング良く観客の疑問を解消する形になっていて、いわゆる”途中の動作”化していると同時に、緊張と緩和のコントロールにもなっている。



んで、これの逆が何かというと、例えばMaxi Twist系。

『こんな事が出来るのは実は5枚のカードを使っているから』

などと、別にこちらが疑問にも思っていない事を、マジシャンは突然言い出す。この台詞自体は観客にとって殆ど意味を持たない。マジシャンの都合だけで言われている台詞だ。

無論、ちゃんと演技に組み込めていればいいのだけれど、ただ台本を読むみたいに上記の台詞を言っちまうと、観客のメンタリティとしては置いてきぼりだなと思う。

こういう意味のない台詞の氾濫が、マジックのパフォーマンスとしての地位を貶めている。



そのへん、Wagnerのこの手順は実にうまいメンタル・フックが仕込んであると思う。
「現象のための動作」を、先にひっかけを掛ける事で、あたかも観客のリクエストで行った動作のように見せかける。

また、観客を食いつかせるという意味でも良い戦略。お客さんが”ただ見てるだけ”の客体としてしまうのはあまり好ましくないだろう



ちなみに、個人的にこの類のフックの最高峰はAscanio演じる、Ross BertramのAssembly。あれには気持ちよくだまされたなー。

"7 Secrets" J.C. Wagner








7 Secrets (J.C. Wagner, 1978)





Commercial Magic of J.C. Wagner がとても面白かったので、その前に出版された小冊子、7 Secretsも読んでみた。

元版で買っても$13程度、今回はllepubを使ったので$6。安い。ディスプレイで読むのは余り好きではないので、製本にもチャレンジしてみる。無線綴じ自体は簡単だけども、カバーを造るのが難易度高くて汚くなってしまう。
あと、適当にスキャンした後、白黒2階調でゴミを飛ばしたらしく、文字がちょっと荒い気がする。仕方ないのかなあ。


ともあれ。J.C. Wagnerの小冊子。
手順6個に技法4個の11作品を収録。

例によって、難易度はそこそこ高いのだが、現象がはっきりしていて、エンターテイメント性が高い。ハンドリングもおおむね綺麗で、テンポがよい構成。


今回は御本人の筆。
カラーチェンジングデックにて、Dingleの原案より不細工なのだがと認めつつ、『しかし余計なカードが残らない。エンドクリーンが全てだ』などと続けるあたり、実戦でやってるマジシャンだなと思わされる。
また後書きでも、さらっとだが演技者としての考えを語っている。クレジットに関しての、学究派でない立場からの意見は、なるほどこういう見方もアリだなと思う。



収録作中、一番気になっていたのは破る系2種、特にMatrix Torn and Restored Card。
これは4枚のカードで覆うタイプのマトリックスを、コインの代わりに破ったカードで行うものだった。全部集まった後、3/4まで復活する。んんん。
この現象で全復活しないのは、何だかちょっと違う気がするぞ

Torn and Restored Cardは良いハンドリングなのだが、Commercial Magic of J.C. Wagnerで類似の作品を読んでいたため感動は薄かった。



面白かったのはSpectral Silk。
いわゆる幽霊ハンカチを使うのだが、これのためだけに幽霊ハンカチ買おうかなと言うくらい良い。見栄えが良いし面白い。詳細は秘密。


あとパケット物としてAmbitious Classicのヴァリエーションが一つあるのだが、技法に淫することなく、クリアーな現象かつエンドクリーンという綺麗な構成。パケット物って、カウントだらけになって、余分を隠し持って、と、どうしてもぎこちない作品が多いので、この姿勢はよいですね。

けっこう難易度高いのだが、ボトムにあるカードを確かに見せた後、怪しい動き無しでそれがトップに上がってくるMarloの技法にはちょっと感動。これはうまくはまると不思議だろうなあ。

でも難しいなあ。


このプロット自体は好きではないのだが、もう一つ気に入ったところがあって、この手順はやってみたい。






総論、コストパフォーマンスの良い小冊子。
どれもWagnerのレパートリーとして十分に試されているから、外れはない。

Vanishing Ink Magicの商品紹介でも『値段で内容の価値を決めるなと言う好例』という紹介がされていたけれど、たしかに千円そこらでこの内容は素晴らしい。日本語でも、新訳して1500円ぐらいで出版すればいいのに。


ただ少ない収録数の中に、Torn and Restored Cardやギミック物などが多く、純粋なカードマニアはちょっとがっかりか。



新奇な技法や原理を使うタイプの人ではないのでCommercial Magic of J.C. Wagner があれば十分という気はするものの、解説の前置きや後書きからWagnerの顔が見えてくる。副読本としても$6の価値は十二分にあるかな。



しっかし。
これが$6、Commercial Magic of J.C. Wagner が$10ってのはバーゲンにも程があるな。

2012年6月5日火曜日

"Complete Torn & Restored Card" Stephen Tucker









Complete Torn & Restored Card  (Stephen Tucker, 2006)




英国のアイディアマンStephen TuckerのTorn & Restored Card作品集。


DaOrtizのCard Cemeteryを読んだので、BritlandのTearing A Lady In Twoの時から気になっていた本書も流れで読んでみた。

いくつかの異なった原理に基づくTorn & Restoredとそのヴァリエーションに加えて、1/4と3/4のカードでのトランスポジションなどが解説されている。大本の判は、半分に破れた冊子という、収集家垂涎の形体で出版されたそうで、なにそれ超欲しい。


これを読んでいて気づいたのは、Torn & Restoredという現象の表現方法の変遷だ。実はこのジャンルにはそう詳しくなく、またさほど興味もなかったので、ちゃんとした知識ではないのだが、簡単にまとめてみよう。

Charles Jordanの昔は、破ったカードをデックの中に入れて見えなくした上で、復活現象が起こっていた。

しかし、やはりデックに入れるのではすり替えのイメージをぬぐえないと思ったのだろう、手にはカード一枚しか持っていない(様に見える)状態での復活へと変わっていく。
おそらくこの時、『破られたカード』と『復活済みのカード』を互いに擬態させる必要が生じて、カードは折り目正しく4分割されるようになったのだろう。
HarrisのUltimate Lip Offや、J.C. Wagnerの手順などがこの時点での代表かな。この手法では『カードが常に視界にある』事で同一性が確保されるため、サインやお客さんに渡しておく一辺という証明方法には、必ずしも頼らなくて良くなった。

さらにここから発展し、Hollingworthに代表される『復活時の接合面を隠さず』『一片づつ復活していく』というパターンが生まれた。これはGarciaのTornによって一定の成熟を見たと思う。


現在は、さらに純化された道具立てであったり、復活後に色が変わったり、ちぐはぐな復活をしたりと、いろいろなヴァリエーションが模索されている。
個人的に、丁寧に1/4に破るのは今ひとつしっくり来ない。近年、DaOrtizによって、乱雑に破りつつ、デックなどのカバーを必要としない物がいくつか発表され、こちらの動向が気になる所。



さて前置きが長くなったが、この流れで言うと、本書の作品はHollingworth前夜に位置する。
つまり、今Torn & Restoredと聞いて期待するような、ヴィジュアルな現象はここには入っておりませんよ、という警告。

基本的には、カードは1/4に破られて、それを手に握り込んだ状態で魔法を掛けると、復活した状態になっているというもの。3/4まで復活し、完全には戻らない物が多いのもこの時代の特徴か。

またクラシック的なハンドリングからの脱却をはかって色々な事をしているため、癖も強い。




さすがは音に聞こえたアイディアマン、実に色々な事を考える。
ただ、これぞという物がないのが、今ひとつ有名になりきれない所以だろうか。

Wagnerの手順は破るプロセスが原理的な矛盾をはらんでいる。それが気に喰わず、1ピースずつ破り取っていく、という点にこだわったのが収録作のR.I.Pなのだろうが、そのこだわりがあまりエフェクトに貢献しているとは思えないのだよな。

パズルの解答としては面白いが、それがエフェクトを美しくしているかは疑問。


とはいえMy Preferred Routineでは余分一切無しでこの現象を達成する。破った分をポケットにしまっていくのは、あんまり好きでないけれど、完全即席で出来るので人によっては非常に良い武器になるかも。



個人的に一番面白かったのはQuarterMaster。これは実に奇妙な現象。
右上1/4を破り取った後、右下1/4を破り、ぐぐっと持ち上げると右上部分にくっつく。それを破り取ってまた下にぐぐぐっとずらすと、右下にくっつく。
白フチだと、破った物とくっついた物が明らかに別物になるので、よくわからない現象になってしまうのだが、Beeとかでやるとすげえ気持ち悪そう。仕掛け無しなのに、確実に破りとった部分が本当に復活する。他では見た事がない。



なお、期待していたCard WarpからのTorn and Restored Cardだが、これはちょっと違うだろう。確かにCard Warpを途中までやったうえで、何も足さず何も引かず、カードを破って復活はするんだけど。
っていうかこれでOKなら、別にBritlandのTearing A Lady In Twoでもええんちゃうのやろか。うーん。



まとめ。
Torn and Restored Cardという、実に目まぐるしく発展した分野であるため、全体的にどうしても古くさい印象。またStephen Tuckerの味なのか、今ひとつ決定打に欠けるのだが、アイディアは面白くヴァラエティに富んでいる。


今のTornなんかの知識と組み合わせれば、面白い物が出来るかも知れませんよ。
まあクリエイター向けでしょうね。


2012年6月1日金曜日

"Card Cemetery" Dani DaOrtiz








Card Cemetery (Dani DaOrtiz, 2008)





DaOritzのTorn And Restored Card集、Cementerio de Cartas がしれっと英訳されていたので買ってみた。
Cemetery(西: Cementerio)は共同墓地という意味、カードの墓場。実際、昨日だけでデック一個半が切れ切れのカード片になってしまった。


2部構成で、第1部はデュプリケートにまつわる策略。
文字通りのデュプリケートから見せかけのデュプリケートまで、簡単に考察、紹介。

第2部はTorn and Restored Cardのトリック10種を解説。


しかしUtopiaがあるからなぁ。ちょっとしたヴァリエーション(FLASHのカードケースを使うヴァージョンとか)を除けば、目新しいのは3品くらいかな。


Restored Card to the Shoe
破ったカードが復活した状態で靴から出てくる。靴の中にある状態で、お客さんのサインがちゃんと確認される。不可能性は極めて高いんだが、なんでこんなコンビネーションなのだろう。
この作品や、Que Raro! DVDでもやっていた、破ったカードが消えて復活した状態で財布から出てくるようなのは、復活現象としていまひとつな気がする。
まあDaOrtizがやれば面白いし、頭が痛くなるくらい不思議なのだろうが、これは出来る人が限られるだろうなあ。


Gag-Strongest Magician
ギャグ。カードを叩いたらバラバラになる。Torn and Restored Cardの逆みたいなものか。
手法は普通だが、気配を感じさせずに行えたら凄く面白いと思う。


Instant Restored
これは非常に珍しいと思った。
DaOrtizの手順はどれも乱雑にカードを破るのだが、これのみ折ってきっちり4片に破るパターンで、かつ準備が必要。
折る、破くのハンドリングが極めて綺麗で、復活後も非常にフェア。
ただ復活部分だけ、大きな動作で誤魔化すような感じがある。僕がもたついているだけかも知れない。それ以外は実に綺麗なので、もう少し練習するなり、GarciaのTornやHollingworthのReformationに応用するなりの可能性を考えてみたい。

ちょっとネタバレになるかもしれないが、新聞紙の復活に似ている手法。
なるほどなぁーと。




ま、策略にしろトリックにしろ、殆どがDVD Utopiaでカバーされているので、改めて買う必要はないと思う。僕はファンだから買ったようなものでして。


しかし英訳が今ひとつ上手くないのだ。本書はカードトリックだし図も豊富だしで問題ないんだが、心待ちにしている心理フォースの本は大丈夫だろうか。ちょっと心配になってきた。
せめて、一回の購入で英語版スペイン語版、両方くれたら助かるのになあ。