2016年8月31日水曜日

"Blomberg Laboratories" Andi Gladwin




Blomberg Laboratories (Andi Gladwin, 2015)




スウェーデンの頭脳派、Tomas Blombergの初作品集。
これまでThe Underground Changeなどに載ったLucky 14や、21 DVDでのTime After Timeなど、数理がらみで抜群に綺麗で不思議なトリックを発表していて、とても気になっていたマジシャンです。

その作品集という事で、すっごくすっごく楽しみにしていたのだけれど、でも、ちょっと思っていたのとは違いました。いやこれはこれで面白い作品集ではあるのですけれど……。


私がこれまでに触れ、感嘆したのはすべて数理的な原理をとても賢く使用した手順だったので、てっきりそちら方面に特化された方だろうと思っていたのですが、本書はもっと広い範囲を扱ったものでした。

・Non-Card Tricks
・TB Spread Double
・Moves
・Interlock
・Paradoxes
・Packet Tricks
・General Card Tricks
・At the Card Table 
・Twists on Christ 
・Con/Science 


一般的なカード作品群について。
Tomas氏はどうやらTSDの人らしく、同じTSDのJack Parkerの作品によく似ています。Jack Parkerはあまり意味のないプロブレムでカードマジックを作る事が多く、本書もその流れを汲んでいます。たとえばLast Trickのバリエーションとして、カードを赤と赤、黒と黒でそれぞれ向かいあわせにし、そこから入れ替わるという作品が入っているんですが、……これ、やる意味あるんでしょうかね。

創作の一過程において、結果(利益)を度外視して様々な組み合わせを試すのはよく分かりますし、Jack Parkerの場合は彼はちょっとおバカな人なので、よく分からないプロットに素っ頓狂な解決策を出したりして、結果面白い作品がうまれたりしていました。しかし、Blombergは頭が良いのですよね。変なプロットに対して、あくまでまっとうな解答を出せてしまっていて、これでは単なる変なプロットしか残らない。ひょっとしたら何かしらの狙いが設定されているのかもしれないんですが、解説からは読み取れませんでした。


(TSD; The Second Dealという会員制のマジック・スレッド)


面白かったのは、やはり奇妙な原理や数学を用いた手順です。
たとえば紐で縛った状態のデックが、持ち上げ方によって別々の箇所で自動的にカットされるという原理。できあがった現象はいまいちなんですが、原理自体が極めて面白い。

そのほか、直感に反した賭けのゲームなどもありますが、白眉はInterlocked Gilbreathでしょう。もうこれ以上はないと思われていたGilbreathのさらなる発展形。少し不正のある書き方になりますが、これまでのGilbreathと異なり、全てのカードを連続で当てていくような事が可能になります。とはいえ非常に限定された形式であり、また頭を使うので、実際に手順を作ったり演じたりするのは難しいと思います。

Blombergの作例はふたつで、ひとつは観客が『ポートレイト』をシャッフルし、演者が上から順に写っている人の特徴を当てていくもの。もうひとつはいわゆるスパイク・テストで、2箇所に画鋲が貼ってある板(ランダムで、針が折れていたりそのままだったりする)を観客が自由に並べ、上から不透明のフタをする。演者はそのフタを順番に親指で潰していくが、画鋲の針が立っているところだけは避ける事ができるというもの。

どっちもやられたら相当に気持ち悪いと思います。



期待と違ったという点でちょっと煮え切らない感じになってしまいましたが、非常に面白い本である事は間違いありません。事前知識なしに買っていたら感動していたでしょう。

というか、この期に及んでまったく目新しい原理、しかも手品として面白い作品ができうるものが、ひとつならず載っているというのは凄まじい事だと思います。ものによっては頭が良すぎてついていけない事もありますが。

実用的な手順という点ではいまひとつですが、パズルちっくな原理や作品が好きな方には大いにお勧めです。

ただ僕としては、Lucky 14やTime After Timeに近い手順があまりなくてちょっと残念でした。一般的なカード作品がどうにもいまひとつなんですよね。Andi Gladwinの解説が僕はあまり好きではないので、そのせいも大きいのかもしれませんが。



あと解説の図がイラストっぽいのですが、これが実は写真から自動変換したもので、さらにその変換ソフトはBlomberg氏の自作という事で、すごい話だなと思いました。本職はプログラマで、画像処理ソフトの開発をされているのだそうです。いや、頭のいい人はいるものです。