2023年2月28日火曜日

"The Wonderous World of Pickpocketing" Héctor Mancha

The Wonderous World of Pickpocketing (Héctor Mancha, 2022)

マジックを趣味とするような人種であれば、概ねピックポケットにも興味を抱いたことはあるだろう。だがピックポケットは、実際に試すまでに大きなハードルがある。その最初の一歩にとても良い本が出た(と思う)。

本書はFISMグランプリウィナーHéctor Manchaによるピックポケット本。Héctor Manchaはピックポケットの専門家ではなく、本書もピックポケットの専門書というには少し趣が異なる。どちらかといえばマジシャンHéctor Manchaによるピックポケットのガイドブックと言った感じだ。解説は全体的に簡素だが、練習方法に始まり、観客の選び方、台本からノウハウまで含めた、『マジシャンがステージで演じるピックポケット』のための全体像が提供されている。解説文はわかりやすく簡潔で、著者らしいおふざけはありつつも、このジャンルに何より不可欠な倫理が底に通じている。

元々100ページ程度の薄い本だが、純粋なピックポケットに関しては50ページほどしか無い。残り約50ページはピックポケットと合わせて演じるマジックの手順が9つ解説されている。どれもスリの演出を用いたもので、手順の中に実際のピックポケットのタイミングが組み込まれたもの。ただこれらは単体で演じても面白そうなものの、やや手品感が勝つように感じた。純粋なピックポケットと組み合わせたときにこそ真価を発揮しそうだ。

巧妙な原理や奇想といったものはないが、わずか50ページ程度でしっかりピックポケットの全体像が解説されており、FISMグランプリウィナーはこういう面も凄いのだなと感じた。このジャンルにおいて、最初に目を通す1冊目としてよく、また時々確認のために読み返すにもいい。別のジャンルでもこういう本が出ないかな。