2017年7月27日木曜日

"The Bammo Tarodiction Toolbox" Bob Farmer


The Bammo Tarodiction Toolbox(Bob Farmer, 2017)

プリンタかコピー機で刷ったA4コピー紙をリングバウンドで綴じた今やちょっと珍しいホームメイド感あふれるつごう100頁の冊子。2部構成になっていて、前半は表題作である原理というか仕掛け「Tシステム※」とそれを使った手品、およびシステムの解析。後半は1988年にリリースされたTsunamiの再録と追加のアイディア。
また現在も補遺が更新中で、追加のトリックやさらなる拡張が解説されています。

※タイトルがネタバレになりうるのでここではイニシャルだけ書きました。

で、このTシステムが何かということなんですが、これは『カードを特定の順番に並べる手法+仕掛け』です。Farmerは本の中でHammanのChinese Shuffleの他、Green、Lorayne、Heinsteinの名を挙げ、それらのメソッドと比して『この類のもので最速』と言ってますが、その言葉に偽りはないと思います。
早くて、簡単で、半ば自動的に行うことができ、さらに、観客の目の前でやっても、カードを探したり並び替えたりしているようにはまず見えない(もちろんある程度の理由付けや練習は要りますが)。さすがにフルデックでは長くなるので、手順として使う場合は1スートの13枚程度にしています。

もちろん良いところばかりではなく、たとえば半自動化の代償として、自由度はほとんどなくなりました。ただ巧妙な工夫によって任意の並びAだけでなく、任意ではないが特定の並びBに並べる事が可能。これを利用して、1回目はカードがオーダーに戻り、2回目はばらばらだが予言と一致、という多段現象が達成出来ます。

とまあこれだけなら夢のようなのですが、即席ではできないこと、この種のものでは最速といってもやはり少々時間がかかること、手続き的な雰囲気がどうしても出てしまうこと、は否めません。しかし他の方法ではちょっと不可能な効果なので、上記の問題を上手く処理できれば、無二の武器になるでしょう。

さて、後半のTsunamiですが、非常に評判が高いようなのですが私は面白さがあまりわかりませんでした。ほぼ自由に選ばれたカードが、ほぼ質問無しで当てられる、というものなんですが前者の「ほぼ」はともかく後者の「ほぼ」が説得力皆無に見えます。賭の演出で進んでいくんですが、最後に「いまミスして金をすったが、最後にカードを当てたら全部チャラにできる」と言って5枚取り出し、思っているカードを観客に聞いて、5枚のうち1枚が当たっている……いや、これはどう見ても保険(アウト)でしょう。他4枚がブランクとかならともかくも。褒めるところが有れば宣伝文でこれは非常に馬鹿でよいです。

ただ、その発展型を扱ったオマケは面白くて、特に『カードは嘘をつかない、観客の選んだカードだけが嘘をつく』という演出を利用したカード当てが気に入りました。Tsunamiを即席でできるようにした改案があり、そのために使われている約90%で成立する奇妙なフォースや、さらにそれを100%にするための改案フォースも、「あるカード」のフォースには必ずしも成功しないが目的は達成出来るという面白いもの。こういった搦め手を組み合わされるとまず追えませんね。

あと某雑誌に載せていたコラムからの再録で「俺の原理を無断で使われクレジットも雑。おまけに手順がクソ。許せない。意趣返しにもっと良い手順を無料で公開してやる」という凄まじい経緯の手順がのっています。



そんなわけで非常にマニアックですが、上手く使えば凄いことになるのではないか。手段を選ばないマニア、原理や数理好きのマニア向けです。