2012年8月31日金曜日

"The Lost Cheesy Notebooks 2" Chad Long





The Lost Cheesy Notebooks Volume Two (Chad Long,1995)

Chad Longのレクチャーノートその2。


内容はスピーディで、今回はカード多め。一方でノートの製本もまた相変わらず酷い。


吸盤付きの弾がでるおもちゃのピストルで、選ばれたカードを撃ち留めるDarted Card。

カードを当てた後、破って、それが別の選ばれたカードに変化、さらに復活しつつ3人目のカードに変化するTorn & Kinda Restored。

クロースアップマットがカードを当てるSlap Mat。

などなど、派手で素早い現象、道具はつかうが”ギミック”は使わない、という実に実用向きの手順。特にDarted Cardが良いですね。Slap Matはコミカルで面白いし、マットとカードしか使わないので覚えてて損はないでしょう。

Torn & Kinda Restoredは、David Williamsonの例の手順を、完全即席にしたもの。DaOrtizも同じような手順を発表しますね。ただこの構成は、いささか限定的すぎて、かえってタネがばれやすくなるような気もします。二つの現象が同時に起こって(復活とチェンジ)、どちらも満足する回答が比較的簡単に想像できる(あるいは補強される)と思うのですがどうだろう。


他にまだカードが一つ二つと、Pen through Anythingを使った物がふたつ。
それからPlay Doh(缶入りのカラフルな小麦ねんど)を使ったカップアンドボールの手順。

個人的には、これが非常に面白かった。小さなカップ(缶)を使ったOne Cup手順なのですが、大ボール3に特大ボール1個があれよあれよと出てくるクライマックスは、読んだだけでもそのめまぐるしさと視覚的なおもしろさが感じられました。
やや小さいカップを使うことによって、ロードにひと工夫が加えられ、実にスピーディです。これはやってみたいなあと思いました。Play Dohは色も鮮やかですし、非常によいと思います。


総評:Volume 1と比べると、素材の幅はごく狭まっていますが、実に面白かったです。1がコインや指輪など比較的狭いクロースアップだったのにくらべ、こちらの2ではカードを投げたりカップアンドボールだったり、やや広めの印象です。
まあ、荒っぽかったり、やや無理に現象をくっつけているような物もないではない。ペンに刺しておいた予言の穴がふさがり、かつ予言も当たっているとかね。ただ、限られた時間に可能な限りの楽しみを詰め込むような彼の演技スタイルというかプロ根性を考えると納得ゆきます。

あと、個人的には究極のコインバニッシュと思う、Flash Vanishも収録されていました。

2012年8月24日金曜日

"The Golden Rules of Acting" Andy Nyman




The Golden Rules of Acting (Andy Nyman, 2012)


まあ本筋からは違うのでさらっとだけ紹介。

Andy Nyman、本職は俳優らしいのだが、そちらの演技を見たことはない。ちょっとWikipediaで見てみたが、日本に輸入されたのはハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式 (原題:Death at a Funeral)という作品だけらしい。

マジック業界的には、Derren Brownの協力者(ショーの共同ライター兼クリエイター)としての方が著名だろう。個人でもトリックがいくつか、レクチャーノートがいくつかと、ハードカバーの作品集が一つあるがあまり出回っていない印象。作品はかなりオーソドックスながら非常に単純化されている物が多い。
が、まあ本書には関係ない。


それで。これは「演じるためのルール」というような意味のタイトルなのだが、実際にはActing(演じること)についての言及は一切ない。買う前からその点は知っていたが、それでもやっぱりタイトル詐欺だよなあという気はする。
「俳優のためのルール」であり、「俳優として食っていくためのルール」といった方が正解。だからGolden Rules for Actors となるだろうか。

まあつまりは、
「裏方の名前を覚えろ」
「オーディション結果をこちらから聞くな」
「結婚したり、子供がほしかったりしたら今すぐにしておけ。”成功してから”はいつまでも来ない」
とか、あと有名俳優・演出家の格言(ヒッチコックとか)の引用を集めた、軽いノウハウ本ってやつ。

ちなみにフルカラーで、表記も非常に凝っており、そういう意味ではけっこうおもろい。



が、まあ、そういった「人柄」なり「ビジネス」なりについての本ですので、手品屋があえて読む必要はあんまり無いと思うよ。短くて読みやすいから、まあさらっと楽しめますけれども。

2012年8月20日月曜日

"Dear Mr Fantasy" のおまけ/あるいは”Beyond Fabulous”における位置関係


Dear Mr Fantasyに収録されているChrist Acesのヴァリエーション、Beyond Fabulousを練習している時に思いついたことがあるので記録がてら。

第2段はダイヤのエースが表になる現象だが、事前に一回、7をカウントした際のカードを集めるときにカットしておくと、より”ひっくり返った”感が強くなるように感じた。

これはカードの出現位置が異なるからと思う。
原案通りに行っていると、7のカードとダイヤのAが現れる箇所は同じである。




一方、一度カットしておくと、ダイヤのAが現れるのはスプレットの別の箇所になる。



現時点では、別にどちらがよいという話ではないが、後者の利点として、
A「操作していない箇所に現れる」
B「最初のカードとは別の箇所に現れる」
ことから、
① カードが表になった
② Aはバラバラの位置にちらばっている
という印象は強まると思う。


一方で、現象の起こる箇所が散らばるので、やや散漫になる。個人的には気に入っているアレンジだが、ハイペースで演じる場合には向かないかな。

"Dear Mr Fantasy" John Bannon





Dear Mr Fantasy(John Bannon, 2004)




John Bannonのカードマジックオンリーの作品集。

実は日本某所で邦訳が進んでいると聞いてはいて、そちらを待機するつもりだったのだが、安かったのでついつい買ってしまった。


さて本書、一部では評判が極めてよく一部では評判が芳しくない。
まあなんにしたって賛否両論はあるだろうが、ベスト本の一つに上げる人がいる一方で、後者では読んだ後つまらないので捨てた(後に買い直した)などと自慢話のように書いておられる方もいるくらいには振れ幅がある。


内容は例によってオフビート、サトルティに重きを置いた整った構成の作品が多いが、今回は貴基本的にクラシカル。和訳される事もあり、せっかくだから各章解説してみよう。

・Bullet Train
タイミングをずらした4Aアセンブリ×3。
レイアウトが終わった瞬間に手札を返すと集まっている。
Greenの4Aプロダクションを模倣したとのことだが、その点ではあまり成功しているようには思わない。
どちらかというと、アンビシャスカードからマジカルジェスチャーを抜いただけという印象。
まあレイアウトした時点でアセンブリが終了している、というマジシャン側の思い込みに起因しているのかも知れないが、今ひとつ気に入らなかった。
手順構成自体はさすがにうまい。

・The Secret and Mysteries of the Four Aces
シャッフルされた状態から始められる一連の手順。
カード当て、観客がカットする4A、Twisting AcesとLast Trick(Tipsのみ、解説は無し)、Crist Acesにロイヤルストレートフラッシュが出てくるエンディング。
クラシカルなトリックを淀みなくつなげた、カード屋のお手本のようなルーティン。実際の運用ってあまり書かれないのでこれは良い資料と思う。

・Dead Reckoning
巧妙に構成されたトリック3つ。
特に1つめのDead Reckoningは、これは当たるわけがないだろうって状況でのカード当て。スペリングでさえ無ければ……。だが構成を知るだけでも十二分に価値のある傑作。
またDawn PatrolはBullet After Dark DVDのデモで見られるが、何となくの構成は判っても詰め切れなかった作品。この2作で使われているコントロールは実に巧妙で、かつ外見上の不自然も殆ど無く優秀。
解説が小説っぽいのもこの章の特徴。全編このスタイルだとさすがにうんざりだろうが、1章分としてはよいアクセントであり、現象だけを記述するとつまらなく見えるメンタル寄り手順の解説スタイルとして、面白いアプローチ。

・Degrees of Freedom
ある原理に基づいたセルフワークトリックの章。複数解説されているが大同小異。
表裏ぐちゃぐちゃに混ぜたカードを並べ、それを観客の支持に従って畳んでいく。広げるとロイヤルストレートフラッシュだけが表向きになっている。
要するにはHammerのCATTOの最後を行列に展開するって事なのだけれど、これに関する評価いかんで、本書の価値が決まるのではないかな。これが初見であったり、この類の手順が演じられる人であれば、確かにこの本は傑作と思う。
が、Card Magic Libraryで既読だった事に加え、個人的にはこれ、あまり好きではないのだよな。線形代数とか行列式とかを思い出させるのは別としても、煩雑さと効果でいうと、Foldingプロセスってどうなのかなぁ。
いつか見た、観客と縁者がそれぞれのパケットを混ぜた上で4Aが出てくるバージョンぐらいが一番バランスが良いと思う。あくまで個人的にだが。
解説はしっかりしており、事前セットアップをなくす方法や、原理自体の解説なども行き届いて勉強にはなる。

・Impossibilia Bag
その他のカードマジック。古典トリックに対して、すっきりとしたハンドリングや、角の立たないプレゼンテーション、無理のない現象の拡張などを図る。
Goodwin/Jennings Displayを使ったトライアンフ Last man Standingや、Gemini Twinsのラストに4Aが出てくるTrait Secretsが良かった。

・Lagniappe
おまけ。David Solomonの10カード ポーカー。タイトルの「Power of Poker」から、てっきりElmsleyのPower Pokerが下敷きかと思っていたが、難しい技法は排されており、Equivoqueなどもなく、なるほどなあと感心。
ただいつぞや松田道弘が書いていた「繰り返せる事が10 カードポーカーの肝」という観点からすると……。どうだろう繰り返せるだろうかこれは。


さて個人的には、あまり、面白くはなかったかな、という感じ。悪い本という意味ではないのだが、好みに合わなかった。Impossibiliaでの、サトルティとオフビートな手法の限界を探るかのようなトリックを期待していたのだが、今作ではどちらかというと、既存手順をいかに簡易化・見た目に単純化できるかという方向性だったように思う。
また、自費出版だからか、レイアウト・フォントなど本の作りが今ひとつ垢抜けず、内容とは関係ないが、その点での心証マイナスが大きいのやも知れない。

というわけでマニアに対しては、自己責任で、といった本。
ただし初級から中級手前の人には強くおすすめできる。

現象は、4Aアセンブリやトライアンフ、ギャンブルデモと王道を揃え、それを実現する原理もテクニック、サトルティ、数理と広くカバーしている。しかもどれも使い方が嫌みなく上手い。創作として見ると、既存トリックの実際のつなげ方、手順の改良、現象の拡張とこれまた広い範囲をカバーする。
ともかく珍奇な技法が練習したい、というのっけからマニアな頭の人は別として、読んで損する本ではあるまいよ。