2014年5月16日金曜日
"Mnemosyne" Vincent Hedan
Mnemosyne (Vincent Hedan, ?)
フランス(たぶん)のプロマジシャン、Vincent Hedanの無料配布作品集。
Mnemonicaを用いる、というとメモライズド・デックかと思うがさにあらず。
フルデックの配置を覚えている必要はない。そうではなく、ある決まったスタック(今回はMnemonicaに手を加えた物)を用い、後段のためのセットアップを再構成しつつ進む、一連の手順である。
SetUp!
Mnemonicaスタックだが相当に手を加える。
First Chance!
いわゆるTantalizer。
Illusion or Reality!
観客がカットしたところから、4枚のQが出てくる。
Peter Duffieの素敵な4Aプロダクション。これは最近別所でも見かけたが、観客の手の中で変化が起こったように見える面白いアイディアを用いている。Duffieやるじゃん。
Four Errors!
観客がカットしたところから4枚のAが、……出てこずに、特に意味のなさそうなカードが出てくる。
しかしその数値に合わせて配ると、それぞれの箇所でAがでてくる。
※この時点で、かなりの程度 Mnemonicaに戻る。少なくとも上半分は、1、2枚入れ替わっている程度。
Kingdom Hearts!
スート・プロダクション。
Shuffle Bored!
AronsonのShuffle Bored。つまりスート・プロダクションを行った後でなお、スタックは残っているということ。
手順全体を通して使われてきたデックが、しかしまだ規則性を保っているとは、マジシャンにすら看過できないだろう。もちろんそれには、途中の手つきをごく自然に行う必要があるし、現象が終わったときにカードを戻す順番や、また『手癖』でのカットなどを絶対に許さない、など大きな制約があり難易度は高い。デックの並びを覚える必要がないとはいえ、結局は操作などで覚える事は多いのだ。
とはいえ序盤から面白い現象の連続で、これはしばらく秘密にして、練習しようかなあとも思ったのだ。ただひとつのクライマックスでもあるKingdom Heartsが今ひとつよくなかった。スート・プロダクションなのだが、Mnemonicaベースのスタックに依拠するため、出現させる方法がかなりまちまち。普通にカットして出したかと思えば、スペリング、間違えて出したカードの数値分配る、などが統一感無く混ざっていて、どうにもぱっとしない。
4枚のQ出し手順のあと、4枚のA出し手順というのも、ちょっと問題か。先のスート・プロダクションの問題と同様、うまく台詞を選ぶことで解消できるとはおもうのだが、残念な事に演出面についての記述はほとんど無い。
なので、このセットリストをそのままなぞっても、酷くいびつにしかならないだろう。このあたりを自分で料理できる人でないとしんどい。しかも1手順内の整合性だけでなく、手順同士のつながり含めて演出を練らねばならない。
人によっては、どうしてもキャラクタに合わない事もあるだろう。
というわけでなかなか難易度の高いノートだった。
部分を置き換えるのはなかなか難しいが、個々の手順はスタックと関係なしに演じても割と面白そう。基本、人様の手順なので、それを無料配布はちょっとどうよ、と思わなくもないが。
また手順を通して目的のスタックへと再変換していく、という手法については、Denis BehrのHandcrafted Card MagicにFinding the Way Homeとして原理的な説明がある。本書はその実践例のひとつとしても良いサンプルであった。
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書評
2014年5月8日木曜日
"Ever So Sleightly" Stephen Minch
Ever So Sleightly
The Professional Card Technique of Martin A. Nash (Stephen Minch, 1975)
Hermetic Press以前のStephen Minchによる、Martin A. Nashのマジックを解説した3部作、その名高い1冊目。
Martin A. Nashはギャンブル・デモで名高いテクニシャンだが、真性のいかさまテクニックというよりも、「一般の人が想像するようなカードのいかさま師」を体現したようなキャラクタらしい。
なので超絶マニアックなリフル・スタッキングなどは(少なくともこの本では)用いておらず、現象もすっきりしている。
だが技巧派である事は間違いなく、技量の限りを尽くして「Charming Cheat/魅力的ないかさま師」のキャラクタに見合った、端正な技法と手順とを設計しているようだ。
前半は技法、後半は手順といった構成、130頁とページ数は少ないが、判型自体は大きい。
技法は「ダブル・リフト、およびその後の扱い」「パケット・スイッチ」「マルチプル・シフト」など。
このダブル・リフトの章がすばらしい。Knock-Out Doubleはゲットレディ不要のダブル・リフトではひとつ完成系とも言えるであろう美しさ。
ダブル・リフト自体はこれ一種のみしか解説されていないが、そこには「これですべてまかなえる」という力強い自負が感じられる。一方、その後の処理方法(表にしたカードの裏返し方)は複数解説されている。なかには非実在技法としか思えないのもあったりするが、ここも全体的によい。ただしすべての技法がメカニック・グリップを前提としている点だけは、合わない人もいるかもしれない。
(※メカニック・グリップ:ここでは深いディーリング・ポジションのこと)
一方、手順の方はこれがあまり面白くなかった。
……と思ったのだが再度よみ直し、なぞり直すとけっこう面白かった。
少なくとも構成は美しく理想的。ただしテンポを間違うと観客に疑義を挟まれやそうで、またそうなると極めてもろい印象。
Minchのイントロでもそのような描写があるが、Nashはオープニングから完全に相手を圧倒し、穏やかに、だがしっかりと手綱を握って牽引していくタイプなのであろう。不思議・不可能というよりも、凄いタイプのマジシャン。そういう人にとってはよい手順と思う。
手順は人を選ぶが、Double Liftの章は面白かったし、これだけでも読んだ価値はあった。特にKnock-Out Double Liftからの2nd Replacement:Dropのコンビネーションはほんとに良いです、美しい。練習します。
手順についても、目的と演出を見失わなければ、人によっては強力な武器となると思う。
なお筆はStephen Minchなんだけれど、あまり読みやすくはなかったです。名高いTable Riffle Faroも解説されているけれども、およそ見たままであり、あまり特別なコツとかは書かれていなかったかな。個人的には、先に書いたようにDouble Liftがよく、元は取れたと思ったけれども、大枚はたいて探し求めるべきかというとやや微妙なラインかもです。
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