2012年9月30日日曜日

"ブランク" タナカヒロキ






ブランク (タナカヒロキ、2011)



ダブルブランクカードを使った4手順。必要なダブルブランク5枚、パケットケース(これも実は必要)、演技動画のURL入り。



収録作品は、ビジター、トランスポジション、カニバルカード、リセットの4つのクラシカルな手順のダブルブランク版。どうでもいいけどDBって書いてあるとダブルバックかダブルブランクかわからんのだな。両方とも使用する手順とかあったら困るな。

ダブルブランクを使い、技法難易度を低めのままに、かつ構成を複雑にしない、というマニアックな企みを、しかしかなりのレベルで達成しているよい冊子でした。各部、各動作の考察、ダブルブランク版の長所と短所なども詳しく解説されていて為になります。
やや解説が細かすぎてリーダビリティが損なわれている気もするが、まあそれは手品的な部分とは関係ありません。

企図はマニアックながら、出来た作品は非常に見栄えもよく、一般向きにも良いと思います。ブランクカードという時点で、とても特別な雰囲気が出ますしね。
ただ、ブランクの中に現れるたぐいの現象は、思ったより視覚効果が良くなかった気もします。Beeをスプレットしたときのような感じ、あまり枚数や、カード間の境界がはっきりしないせいでしょうか。

そういう意味で一番良かったのは”夜霧の中へ”(カニバルカード)。ブランクの中に消える、というのは上手く演じると非常にミステリアスで美しい。
またブランクならではのサトルティが横溢しており、これは生で見たら手ひどく騙されたんちゃうかな。出現部分だけ、前述の理由で余り見栄えが良く感じられなかったので、なにかしら別の方法を個人的に考えてみたいなと思いました。

他三作も、どれも面白いだけでなく、色々と自分でも考えたくなります。
*Lithopone:最初に置くカードを3枚から2枚にすると、一動作減らせる。
*Lithopone:ブランク4枚で構成すると、GHWのOptical Alignment Moveが使える。
とか前出の、カニバルでの出現段などなど。


面白いコンセプトで、出来た作品も面白く、また自分でも手を加えたくなるようないい冊子でした。こういう作品集がもっともっと国内から出てくれると非常に嬉しいです。この冊子の唯一の欠点と言えば、クレジットが不十分ということでしょうか。”夜霧の中へ”の1段目のサトルティは寡聞にして知らなかった(あるいは覚えていなかった)ので、原典があるなら知りたかったのですが。

とまれ、面白かった。おすすめです。

2012年9月25日火曜日

"Moe's Miracles" Dodson(?)




Moe's Miracles (Dodson?, 1950?)


Moeと言えば、スタック系が好きな人だとMove A Card Trickで名前を知っていると思う。逆にそれ以外では名前を全く見たことが無かったので、Lybraryで本書をみつけて興味を引かれついつい購入してしまった。


後で判ったのだが、これがなかなか問題のある冊子であった。Moeのウェブページ(http://www.moesmagic.com/)によれば、この$5 冊子は1932年にFrank Laneと話が持ち上がったものの、結局発表を拒んだものらしい。その後、何人かの手によって勝手に出版され、いくつかのバージョンが海賊版的に出回ったとかで、当人は手に取ったこともないのだそうだ。なお、Lybrary版もどこから引っ張ってきたのか書かれていない。Dodsonなる人物の追加手順が載っているので、1950頃に発行されたらしいDodson版であろうと思われる。


で、内容だがこれがまたいろいろな意味で酷い。
11の手順が解説されているのだが、表紙以外はTextで打ち直したらしくて味も素っ気もなく、1ページあたりA4で8~10行程度、下2/3は完全に余白×11pという構成で、電子書籍じゃなかったらあまりの余白量に訴えても良いレベル。

トリックの方はというとこれはもう完全にマニア殺しであり、手品の歴史の中で完全に『死んでしまった』手法を用いたロケーション・オンリー。というかあまりにも無茶で、解説まちがっとるんちゃうかと疑心が生ずる。
というか、実際、間違ってるかもしれない。
Moe自身が書いた物の他に、同じタイトル同じ収録作ながら方法はFrank Lane が創作した物があるとかなんとか。しかしその証言をするMoeはもう92歳だし信憑性はどこまであるのか。僕の英語力ではちゃんと読み切れないので詳細は前掲URL内の記事を参照してください。誰か簡単にまとめて教えてくれ。


それでまあ一応読みましたが、理屈としてはぎりぎり理解できなくはないのだが、実現できるかというと……。ただ、前述のMoeが手順の発表を拒んだ理由が『自分にしか出来ないような手順を発表して、非難されても嫌』というのだから、この解説も当たらずとも遠からずなのかも。

手法についてキーワードを上げると、シークレットカウント、エスティメーション、複数枚キーカード、直感、借りたデック、演技者はデックに触らない、などなど。これだけでMoeの嗜好が判ろうというもの。またスタック関連の文献で名前を見ることが多かったが、ここでの作品は全て、デックを借りて即席にできるものであり、そういう意味でもマニア殺しを指向しているように思う。

十数枚、場合によっては26枚とかからPumpingで絞っていくとかいう物も多く正直まともに出来る気はしないです。

特に酷かったのは ↓
Moe's Fifteen Cards Trick
・15枚のカードを抜き出して表向きに広げ、5人の客に1枚ずつ心の中で決めて貰う。直感的に、選ばれてなさそうだと思った物を裏返していく。システム、バックアップ、無し。以上。

うーん……。



まとめ。
CanastaやBerglasを彷彿とさせつつ、それらよりさらにぶっ飛んでいる。
どれか一つでも、70%ぐらいの精度ででも出来たら凄いとは思うのだが、難しいうえに、どれだけ練習しても100%にはならない類のトリックばかりなのだよなあ。

ただ、例えばDaOrtizが怖ろしく不格好な原理をとびきりの不思議に仕立て上げ、マニアを煙に巻いているように、この本は完全に『時代遅れ』で『死んでしまった枝』だからこそ、再読の意味はあるやもしれぬ。特に、Outを自前で調達できるJazz 系、Trick that cannot be explainedが演じられる人は。
最初に解説されている”Look at a Card trick”は比較的安全そう(VernonのLook upと同系統だがより楽かと思う)なので、少しずつ練習してみようかな。


なお、Moe自身は、ほぼ全てのトリックを、エスティメーションと超人的な記憶力を複合して、様々な方法で演じていたらしい。


Moeは1920年後半~1930年に、IBM、SAMの大会に現れ、不可能きわまりないロケーションで数々のマニアを煙に巻き、姿を消した。
97年に消息が確かめられ、2001年のLinking Ling誌の表紙を飾る。そのころに開設されたとおぼしきWebサイトには、『いわゆるMoeの不可能が、実際はいかにして成されたか、少しずつ本当の秘密を明かしていきたいと思う』とあるが、残念ながらMoeは秘密のほとんどを抱いたままに、2003年、94歳で没した。

2012年9月14日金曜日

"Spineless" Chad Long




Spineless (Chad Long, 2008)




Chad LongのBooktest単品ノート。


Longにブックテストとかどういう事だろう。つまらない、とは言わないけれどシックで地味な現象とおもうのだが、そのLong版? 想像つかんわ。

と思っていたのですが流石にLong、破天荒でした。

Spineというのは背表紙のことで、上掲のノート表紙にもあるように、ばらばらのページを使ったブックテスト。新聞のテストだと破るのは割に一般的だが、本で”破る”のはほとんど見たこと無い。まして全ページ破りとった状態とか。


そーすると、もはや本というよりも、我々になじみ深い某紙製の束に近いわけで、いろいろと技法が流用できるわけです。



で、手法的にはここでおしまい。それだけなら個人的には、うーん、という印象どまりなのですが、手法以外の部分が非常に良かったのです、この作品。

ひとつは、レベレーション。いわゆる読心パートなのですが、私淑するDerren Brownが言っているような、視覚的でかつクライマックスのあるメンタルマジックに仕上がっておりまして、実にいい。


もうひとつ、台詞がまた良かった。
個人的に、この作品のアウトラインを知った時点ではあまり良い印象を持ちませんでした。単純に、本を破るという行為がとても嫌だったから。

が、この”破れた本”という状況を、本好きにさえ好かれるような形にできる演出が用意されていたのです。まあLong自身の演出はギャグと躁状態で押すような感じなんですが、ちょっと手を加えればシリアス寄りなメンタリストでも十分に使用できるでしょう。ユーモアの効いた非常によい演出で、素直に感心。

というか、本を破る時点で無しだな、と思考停止していた自分が恥ずかしい。



と言うわけで非常に良い冊子でした。
単品ですが、DVDや全冊子含めて、個人的には一番よかった作品かも知れません。

単純な技術・手法の解説でなく、唯一(?)プレゼンテーション含めて解説されていたからかも。
手法的な破天荒さと、それを不自然にしない演出技術がとても冴えていました。

シリアスのみから脱却できないメンタル屋や、パーラー手順にブックテストを入れているがぱっとしない、という人は是非とも本書を。

2012年9月3日月曜日

"More Stuff..." Chad Long





More Stuff... (Chad Long,1998)



Chad Longのレクチャーノート3冊目。

表紙紙なし、文字暈け、文字が切れている、などなど本としての作りは今までで一番ひどい(画像でも、裏が透けてるのが見える)。まあ読めなくはないが、とても残念。

内容含め、ちゃんとしたノートと言うよりは、おまけの一冊といった感じ。収録作は総じてスタントっぽい物が多い。

Ninja Coinは投げたコインを指先でつまむ様にキャッチするスタント(のフェイク)。類似の原理で、投げた鍵束から目的の鍵をつかむNinja Keyも収録されている。

あとはホームセンターでスプレーから中の金属球を抜き出して、また貫通させて戻すSplay Paint。いかにもセロとかがやりそうだ。

あと、ディナーテーブルでの予言、指輪(指にはめたまま)のビジュアルな消失、名刺のトリックの6作品。
どれもきちんとしたパフォーマンス・ピースではない感じで、手法もごくシンプルではあるのだが、効果はとても面白く、$5としては十分な冊子だったかな。