2017年11月29日水曜日

"Artful Deceptions" Allan Zola Kronzek





Artful Deceptions (Allan Zola Kronzek, 2017)



Allan Zola Kronzekの、演出に重きを置いた即席カード手品8作と、おまけでビル・チェンジの演出を納めた計9作の小ぶりな作品集。

納められている作品は主に有名作の流用で、その選球眼は確かであり、とても強力なよい手順ばかりであるのだが、一方で作者が本書の主眼に据えているであろうところの、いわゆる『演出』については不十分な内容になっていると言わざるを得ない。

手順については、殆どが有名作の変奏で、たとえばGemini Twins、Do as I Do、Visitorといったところ。新しめで言うと、カード・カレッジに入っているThe Lucky Coin。そのままでも非常に強力なこれらの手順に、Kronzek流の演出が加わる。

Kronzekの演出は観客にフォーカスし、また不思議さを重視したもので、これもかなり効果的であることはわかる。恋人同士にカードを当てさせたり、観客から観客へとメッセージを移動させたり、方位磁針の示すとおりに移動してカードを当てたり。これらの手順で、筆者が大きな成功を得ていることは間違いない。

しかし実際の所、こういった演出重視の手順が軽視されているのは、それが機能しないからである。多くの解説書(特に初心者向けのもの)が演出を重視せよと言っているが、その通りにやって気持ちよくウケることは稀だろう。

鏡写しの操作が同じ結果を生むとか、ジョーカーが仕事をしてくれるとか、方位磁針と宝の地図でカードを当てるとか、そういった一笑に付されかねない馬鹿馬鹿しい話を、ファンタジーとして観客と共有し、また共感するのは簡単な事ではない。

2017年のいま、演出の重要性を説くのであれば、その点の橋渡しを含まなければならないだろう。Kronzekも前書きの中で、観客との間でplay(劇)を共有するのだ、といった事は言っているが、踏み込みは足らないように思う。

たとえば、台詞をどれだけの真実らしさで語るのか、リアリティのラインは、間の取り方は、といった細かい話が読者に了解されないでは、本書の手順はうまく機能しないだろうし、改宗者はあまり望めないだろう。たとえばおとぎ話めいた演出でも、ユージン・バーガーが語るのと、そこいらの若人がやるのとでは全然ちがうだろう※。そこで何が違うのか、若人はどうすればいいのかについて、本書は語れていない。

Kronzekは前書きで、Ambitious CardとかTwisting Acesは強力だけれども、本当に心からの反応・感動といったものは、そういったただ見せるだけの手順よりも、本書で紹介するような手順からこそ得られる、と言っていて、その主張には私も賛同する側なのだが、本書がその手引きを十分にできているとは思えない。強力な手順・演出は納められているが、すでに演出型の手順について勘所のある人にしか有効活用できないのではないか。


アラカザールの方だそうで、未読なのですがそっちでは詳しく話していたりするのかしら?


※写真を見る限りでは、Kronzekもまた髭を蓄えた魅力的な老人で、その容貌が彼の『演出型』の手順に大きく利していることは想像に難くない。