2022年3月25日金曜日

"Top Secrets" Terri Rogers

Top Secrets (Terri Rogers, 1998) 

Terri RogersのSecretsトリロジー最終巻。

最終巻にふさわしく、かなり限定的な内容。というのも収録されている11作品のうち、かなりの部分を、単品販売されていた売りネタが占めるからだ。Paul HarrisのCardboard Connectionにトポロジカルなパズルを組み合わせて観客を煙に巻くBoromian Link、巧緻なブックテスト(実際には本ではなく半ぺらの紙を使う)Word of Mind、張り合わされた2枚の穴あきカードを折りたたむと表裏が入れ替わるStarGate、それから木製のブロックに通された紐をリングが貫通するBlockBuster*まで解説されている。もちろんその分、加工などの手間は増えるのだが、実に最終巻にふさわしい内容だ。

*ざっくり言うと、Tenyoのリングミステリーみたいな現象。

これら売りネタ以外にも、本当に長さの変わってしまう『錯覚定規』があったり、氏の創作をステップごとに追っていく内容があったりして、非常によかった。個人的なヒットは、切れ目のないベルトに通されたバックルが、表裏ひっくり返ってしまう現象。いかにもパズル的な解法と、それでは説明のつかない(しかしタネを知ってしまえば思わず脱力しちゃうほどシンプルな)解法の組み合わせは、これこそマジックの醍醐味ではないだろうか。

……ここまで書いて思ったが、SecretsMore Secretsが気に入った人であれば、俺が何を書こうが本書を買うだろうし、逆にそれらが肌に合わなかった人は俺がここで何を書いても買わないだろうし、……このエントリの意味とは?

……まあともかく、個人的にはたいへん満足。欲を言うなら、これに限らずもっともっと、さらに多くのRogersの作品が読みたかった。それほど面白かったです。

2022年3月23日水曜日

"More Secrets" Terri Rogers

More Secrets (Terri Rogers, 1988)


腹話術師でトランスセクシャルTerri Rogersの第二作品集。Lybrary.comのA4組み直し版で57ページ、15作品程度の小ぶりな本。第一集Secretsをかなり以前に読み、ずっと記憶に残っていたのだが、このたびふと続刊を手に取った。感想は第一集と大きく変わらないのだが、これがいま、とてつもなく面白かった。

いやだってそうだろう。観客が桁を自由に入れ替えた複数の数の合計が、あらかじめ堂々と書かれていた数と一致したり、消えた観客の指輪が砂時計の中から見つかったり、カット&リストアード・ロープをやろうとしたらハサミが見つからず、なんやかんやあってロープの真ん中にハサミが出現しロープは元より長くなったり、同じ物体を見ているはずなのに観客Aと観客Bの証言が食い違い、それが客席のその他の観客とも食い違ったり、そんなのみんなやりたいに決まってるのだ。

雑だったり大胆すぎたりする手順もあるし、コメディアンゆえか台詞のクセが強かったり、そもそもどう演じれば良いんだコレというものもある。けれどこんな愉快な手順がならび、それでいて時には、恐ろしく不思議な現象もぬけぬけと演じてみせる。ああ、僕の好きな手品ってこういう事なんだなあと心洗われる思いでした。

最近は出版が盛んで、出る本の質も本当に高く、それ自体は間違いなく良いことなのだが、どこか閉塞感のようなものも感じていた。それを、この底が抜けたような本は吹き飛ばしてくれた。

Terriの第三集Top Secretsも買って、もったいないけどもう読んでしまいました。かわり屏風や錯覚定規のようなカラクリ玩具が好きな人には特におすすめのシリーズ。