2014年2月27日木曜日

"Sympathy (for the devil) cards" Paul Vigil



Sympathy (for the devil) cards (Paul Vigil, 2007)


Paul Vigilによる単品e-book。
簡単にできるSympathetic Cardsと、プロットに沿った強烈なオチ。


メンタル寄りの手順でちょっと有名なPaul VigilのSympathetic Cards現象。同じ値のカードで構成された2つのパケットのうち、片方を観客が混ぜるが、ふれていないもう一方のパケットとなぜか同じ並びになる、という現象。

1-10などそろったカードでやるのが普通だが、Vigilの場合は相手が適当に取り上げた枚数のカードを使って行う。さらにそれを2つに分け、片方を観客にある特殊なやり方で混ぜてもらう。この部分が売りの一つなのだが、これ、どれだけ混ざったように見えるかなあ……。ただ表裏がある程度バラバラになるので、後で見たときに"混ざった"感は強いか。元ネタはHoward Adamsだそうです。

第二弾はさらにカードを混ぜてもらった後、その数字の並びを携帯電話に入力してもらうと……、というものでなかなか素敵に気持ち悪い。前後の整合性を合わせるのであれば、シンパセティックな変化現象というより一致現象なのだね。

技法要らずで簡単。混ぜる部分には流石にそこまでの説得力はないかもだが十分に面白い原理。
あまり扱われないプロットでもあり、覚えておいても損はない感じです。


ただ2つほど気にくわない所がある。
まず1段目だが、メイトの一致現象として演じるのはいささか不整合。観客が適当にとって分けた時点で、すでに両方の山の組成が同じだったという不可能が起こっていた事になるが、演者はその点を消化できない。第2段もある事だし、ここは色の一致程度に留めた方が良いのではないかな。最後の組だけメイトにするとフィニッシュ感もでるし。

また第二弾の手法として、Luke Jermayのアイディアが紹介されるのだけれど、これはちょっと通用しないので実用しないように。読んだ時点でこりゃ駄目だと気づきそうなものだけれど、「いやでも意外と通じるのかな……」とか思ってやったりしたら駄目。個人的な経験から断言できますがやっぱりこれは通用しないです。痛い目を見た。



追記
① Sympathy for the Devil(It's me!) って手順を読んだ記憶がなきにしもあらず。
思い出したらまたどこかで載せます。

②Vigil氏、これらのe-bookの販売やめたのですね。物質本と違って、こうなると(正規では)手に入らないのが痛い。

2014年2月26日水曜日

"Penumbra issue 10" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean









Penumbra issue 10 (編・Bill Goodwin & Gordon Bean,2006)



碩学Goodwinの発行するPenumbra誌、その第10号。例によってよく練り込まれた手順や、ひと味違ったアイディアが光りますが、この刊は作品数すくないこともあってか、他の刊よりは軽いです。


The Sound Of One Coin Clinking:David Gripenwaldt

有名な禅の公案「隻手音声」めいたタイトルで、実際にそういう不条理は起こるのですが、それは現象として前に押し出している物ではないです。あくまで裏で起こっている事が不条理というか。そのためちょっと残念。

状況設定を書くとネタバレになりそうなので控えますが、応用範囲はごくごく狭そうなものの、マジシャン心をくすぐるおもしろいコイン・マジックのアイディアです。


Perfect Order:Shoot Ogawa
緒川集人のマニアックなトライアンフ。きわめてクリアーに表裏を混ぜた後、選んだカード以外の向きがそろうトライアンフ現象。その後、カードの順番もそろってしまう。

ここまでやるかというディスプレイ。ある意味ではJennings&Goodwin Displayを上回る物があります。また初期状態はPerfect Orderでないため、ちらっとですが表面を見せても大丈夫です。ただ全体的にハンドリングが難しいのでなかなか安定しなさそう。

Fat Brothers DVDのおまけで演じているのが、およそこれですが、しかしShootさん演技はいまひとつですね。平板で。


Triple Alliance:Roy Walton
Waltonの良さが僕にはどうもわからない。シンプルで力強い構成はよいのですが、1枚と4枚がトランスポ、その後おまけにデックの表裏が変わる!
という、おまけの意味がわかりません。

Color Shuffles (Part One):Ronald Wohl
前後編に分かれたColor Shuffleの前編。手法と、その基本的なアプリケーションを解説。
観客が(見た目上)よく混ぜた後、カットして上1/3程度を取り上げるのですが、そのパケットに含まれる赤いカードの枚数などを制御するというもの。
何の役に立つのだろうなあと思ったのですが、用法が色々あげられており、なるほどこういう使い方も考えられるのね、という事で創作の案出し過程として読んでておもしろいです。ただ現象が面白いかというとちょっと微妙かもな。
しかしまだ前半だそうで、これどう発展させるのか後半を楽しみにします。

なお次のissue 11が出たのは3年後だったようでこれは酷い。