2018年8月28日火曜日

"Blue Moon" Nicolaj Christensen




Blue Moon(Nicolaj Christensen, 2016)


 タイトルと表紙がかっちょいいので買いました。著者の方、デンマークのセミプロ(?)の方だそうです。94年生まれで本が2016年刊行なので、22歳の時の本。内容も、いかにも若い人が書いた本だなあと言う感じがしますし、それは著者も自覚的にそうしているようです。巻頭にて、自らの若さについて言及した後、本書は教本ではなくて、議題を提供するものなんだと書いています。

 カードのみで7手順、約160頁、それぞれテーマの異なった4つの章からなっています*。扱うのは『リアリズム』『アトモスフィア』『コミュニケーション』『マジック愛』。たとえば『リアリズム』では、マジックを本物らしく演じることについてのエッセイがあり、それから偽の記憶術やギャンブル・デモの手順が解説されます。

 理論書と言う人もいるかもしれませんが、なんでもかんでも理論書と言うのはどうかと思いますし、これはまあマジック観の本でありましょう。著者自身もそのつもりのようです。漫然と『理論』を書くのでなく、ちゃんと実作を持って示すところは非常に誠実だと思います。

 これで手順が面白かったよいのですが、特殊な技法や原理もなく、総じてあまりぱっとしないのは残念でした。細部まで気を遣っていることはわかりますし、実際に見たら不思議だろうとは思うのですが、それでもぱっとはしません。しかしこの解説そのものがまた、若さを感じる内容で、とても細かく注釈が入り、さらに別立てで『詳解(closer look)』が設けられています。章ごとに深遠な引用があったり、手当たり次第なクレジット註があったりします。なんだか心がむずがゆくなってきます。

 著者の言うとおり、狙うとおりに、氏とセッションをしたような――あるいは過去の自分の一片を見たような――満足感があります。ただそこまで目新しいもの、こころ揺さぶるようなものはなかった。せっかくならエキゾチックなものが見たいじゃあないですか。


*1つだけ、トランプではなく名刺の束で演じているという手順がありますが、まあ同じようなものです。