2014年5月8日木曜日

"Ever So Sleightly" Stephen Minch






Ever So Sleightly 
The Professional Card Technique of Martin A. Nash (Stephen Minch, 1975)



Hermetic Press以前のStephen Minchによる、Martin A. Nashのマジックを解説した3部作、その名高い1冊目。



Martin A. Nashはギャンブル・デモで名高いテクニシャンだが、真性のいかさまテクニックというよりも、「一般の人が想像するようなカードのいかさま師」を体現したようなキャラクタらしい。

なので超絶マニアックなリフル・スタッキングなどは(少なくともこの本では)用いておらず、現象もすっきりしている。
だが技巧派である事は間違いなく、技量の限りを尽くして「Charming Cheat/魅力的ないかさま師」のキャラクタに見合った、端正な技法と手順とを設計しているようだ。


前半は技法、後半は手順といった構成、130頁とページ数は少ないが、判型自体は大きい。

技法は「ダブル・リフト、およびその後の扱い」「パケット・スイッチ」「マルチプル・シフト」など。
このダブル・リフトの章がすばらしい。Knock-Out Doubleはゲットレディ不要のダブル・リフトではひとつ完成系とも言えるであろう美しさ。
ダブル・リフト自体はこれ一種のみしか解説されていないが、そこには「これですべてまかなえる」という力強い自負が感じられる。一方、その後の処理方法(表にしたカードの裏返し方)は複数解説されている。なかには非実在技法としか思えないのもあったりするが、ここも全体的によい。ただしすべての技法がメカニック・グリップを前提としている点だけは、合わない人もいるかもしれない。
(※メカニック・グリップ:ここでは深いディーリング・ポジションのこと)


一方、手順の方はこれがあまり面白くなかった。


……と思ったのだが再度よみ直し、なぞり直すとけっこう面白かった。
少なくとも構成は美しく理想的。ただしテンポを間違うと観客に疑義を挟まれやそうで、またそうなると極めてもろい印象。
Minchのイントロでもそのような描写があるが、Nashはオープニングから完全に相手を圧倒し、穏やかに、だがしっかりと手綱を握って牽引していくタイプなのであろう。不思議・不可能というよりも、凄いタイプのマジシャン。そういう人にとってはよい手順と思う。


手順は人を選ぶが、Double Liftの章は面白かったし、これだけでも読んだ価値はあった。特にKnock-Out Double Liftからの2nd Replacement:Dropのコンビネーションはほんとに良いです、美しい。練習します。
手順についても、目的と演出を見失わなければ、人によっては強力な武器となると思う。


なお筆はStephen Minchなんだけれど、あまり読みやすくはなかったです。名高いTable Riffle Faroも解説されているけれども、およそ見たままであり、あまり特別なコツとかは書かれていなかったかな。個人的には、先に書いたようにDouble Liftがよく、元は取れたと思ったけれども、大枚はたいて探し求めるべきかというとやや微妙なラインかもです。

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