2013年3月6日水曜日

"Card Zones" Jerry Sadowitz and Peter Duffie





 
Card Zones (Jerry Sadowitz and Peter Duffie, 2001)



イギリスのカーディシャン、Peter DuffieとJerry Sadowitzの若き情熱と妄執が詰まった初期作品集。

Alternative Card Magic (Duffie,Sadowitz,1982)
Contemporary Card Magic (Duffie,Sadowitz,1984)
Cards Hit (Sadowitz,1984)
Close-up to the Point (Duffie1984)
Inspirations (Duffie,Sadowitz,1987)

上記冊子の合本。なぜかSadowitzパートとDuffieパートに分割されている。SadowitzのCards on the Tableがたいそう素晴らしかったので期待していたがこれは駄目本。元々の作品がいまいちな上に、合本の仕方が最悪という駄目コンピレーションの見本。

まず文中で示されている図がない。
おまけに解説も間違ってる。
といった問題が散見され、本としての機能がまず十全でない。
おまけに組版が(個人的に)大不評だったMagic of Fred Robinsonと同じであり、おまけにインク滲みなどもあっていらいら。


それでも内容が面白ければ、解読の労苦も報われるのだが、作品はおよそ雑誌投稿レベル。十分に練られ、構築され、対人で試されたとは思えない。対人性能が全てとは言わないまでも、目的の見えない改案が怒濤のように押し寄せてくるとさすがに辟易する。
手順は既存現象の複合が多く、また現象を先に書かない記述スタイルが主であるため、何が起こっているのかが致命的にわかりにくかった。

特にDuffieが酷い。

Change of Departure
1枚カードをピークして覚えてもらう。$を2枚取り出す。
さらに2枚カードを選んで、抜き出してもらう。選ばれたカードを$の間に入れると消える。これを2回繰り返した後、今度は$の間に最初に覚えてもらったカードが現れる。最後に$2枚が、消えたはずのカード2枚に変化している。

もうね、書いてても意味が判らない。 いったい何がやりたいんだよ。
これの意味を通そうとすれば、演出をかなり頑張らねばいけないだろう。Duffieがそこを書いていれば、それは非常に勉強になるかもしれないのだが、残念ながら演出についての記述は殆どない。(※)


「よくわからないが不思議」なトリックも、演技時間の埋め草としては有用ではあろう。
あるいは、きちんと演じれば素晴らしい手順もあるのかも知れない。けれど比率の判らぬ玉石混淆の全てに、演出付与の労力を傾けるのはさすがに骨が折れる。 


一方のSadowitzは、Alternative Card Magic にてWhisperers、Come Togetherなどオリジナルな現象を提示するものの、全体としてはDuffieと大同小異。ただInspirations では、Double Dealという高難度の技法が頻出するかわりに、後のCards on the Tableを彷彿とさせるような、観客を心理的にも引っかける手順が散見される。

なお、Alternative Card MagicInspirationsではDuffieもなかなか面白いアイディアを出している。

なんで、「原本では図版も解説も正しいのでは」という一縷の望みと共に、Alternative Card Magic Inspirations だけ買えば良いんじゃないかな。それでハマって、さらにと言うのであれば同書を買っても良いけれど、要注意の本ということは書いておく。
演出なんていくらでも湧いてくるけど、現象は全然思いつかないという人だったら、普通に買えばよいですが。


しかしこの二人のWalton信者ぶりにはすさまじいものがある。Waltonに言及できる機会があれば決して逃さないし、Walton手順の改案では「オリジナルより優れていると思っているわけでは決してなく、あくまで個人的なハンドリングである」と断りを入れる始末。

編年体の本なので、Walton信者のカードマニアSadowitzが、Inspirationsを経て、Cards on the Tableでパフォーマーとして開花するまでの足跡とも見れるだろうか。
一方のDuffieはといえば、彼のサイトを見ればわかるが、いまも大して変わっていないようである。ノーガフ Wild Cardの構築力などは素直に脱帽ものだが、私はあまり好きなクリエイターではない。


(※)例えば2枚のカードを消す際に、1枚目のカードを探しに行く、とでも言っておけばひとまず筋は通りそうである。一文でもよい、もう少しでも演じるための記述があれば、本書の評価もがらりと変わるだろうに。

2 件のコメント:

  1. 歯に衣着せない辛口な論評ですね!
    Duffieは、Effortless Card Magicで注目するようになり、この本も買いましたが、確かに、現象が書かれていないため、読みにくくて積読状態で放置していました。
     友人のH師は、Duffie研究家と言ってもよく、本、PDFから、数百以上あると思われる膨大な作品を翻訳さらに改案まで作っており、私家版のノートを多数頂戴しています。
    改案のやりがいのある作品が多く、刺激されるようで、H師からDuffie改案を多数見せていただいています。DuffieのことならH師にお任せです。

    返信削除
  2. Duffie研究家……、おられるのですね。私などは”Best of Duffie”が5巻を数えているあたりで、もうちょっと敬遠してしまいます。確かにDuffieはカードマジックの構成力は図抜けているので、改案をする楽しみはわかります。私家版ノートとかうらやましい。です。

    返信削除