2012年6月22日金曜日

"The Underground Change" Jamie Badman & Colin Miller









The Underground Change (Jamie Badman, Colin Miller, 2002)



あーっ、疲れたぞ畜生。
数理マジックで解説が間違っていた時の再構成の労といったらもう。まあそれは後で書くとして、



技法Underground Changeと、Misdirection Monte他いくつかの手順を解説したe-book。

Underground ChangeはDVD Welcome to the Farmでも解説されているようだ。日本関西圏の某ショップでは、Misdirection Monte以外に特筆すべき事はない、とまで言いながら販売している。褒めているんだか貶しているのだか。

ともあれ。
もしこの本を知らない人が居たら、まずは紹介動画を見に行って欲しい。話はそれからだ。




昔から気になっていた本。Luceroの動画で衝撃を受け、Turnover Swith全般に惹かれた時期があったのだが、当時は英ポンドも強く見送ったのだった。
今回、またLuceroの動画を見て、やはり衝撃を受け、この本を思い出し、強い円にも後押しされて買ってみた。


最初の権利書きで、技法・手順を映像に撮ること、および技法を解説すること、が明確に禁止されているので、あまり踏み込んだことは書けないのだが、なかなか問題のある冊子。


もし見えないTurnover Switchを求めているのなら、これは違う。


Underground Switch自身は、実は過去の技法とほとんど大差ない。とある既存技法をベースに、その使用できるシチュエーションを増やした拡張版。応用範囲は広がったが、スイッチ自体のディセプティブさは変わらない。
だから他の方法より”スイッチが見えない”とか”スムーズ”とかそういう事はあんまり無いので注意されたい。例のMonteも、実のところその既存技法との併用であって、Underground Switch自体の出番はむしろ少ない。

ま、あんまり書くと、拉致されて言葉に出来ないような責め苦を受けるかも知れないのでこの辺で控えよう。(参考:http://www.youtube.com/watch?v=oQlOWHY57-I)。




その上で、やはりMisdirection Monteは凄い手順。Underground Switchの出番は少ないと言ったが、しかしこのスイッチ無くしては成立しないのも確か。このMonteなくしてUnderground Switchに価値は無く、Underground SwitchなくしてこのMonteは成立しないと言ってもいいぐらい。

一方、Monte以外の手順はどうにも今ひとつ。Badmanは様々な用途を見せてはくれるのだが、Monteのような美しいミスディレクションは無く、技術的に厳しい。読むほどにMisdirection Monteの奇跡的な完成度が浮かび上がってくる。
ま、技術的な点はおいても、カードの裏に書いた棒人間が性交を始め、あげく片方が妊娠するとかいう実にアンダーグラウンドな手順は、そうそうやれる人もいないだろうが。



むしろUnderground Switchを使わないオマケの2手順の方が面白かった。どちらもMisdirection Monteから繋がるように構築されているのだが、一つ目は、


『カードを選んでもらい、デックの中に戻す。4枚のパケットでAが一枚ずつ裏返り、全部裏向きになる。最後にまた一枚表向きになり、それがQに変わる。残りの3枚を見ると、Qに変わっている。デックをスプレットすると表向きのAが現れ、一枚のカードを間に挟んでいて、それが観客のカード』という、僕の描写力不足を加味しても、まあ意味不明な現象である。
Twisting AcesとTranspositionとSandwichをあわせたような感じ。
これが殺し屋にまつわるストーリーが加わることで、劇的にわかりやすく意味のある現象になるのが素敵だった。


もう一つはTomas Blombergの数理トリック。
DVD 21でもラストにとんでもない物を見せてくれたが、この人は数理ネタが実に上手い。数理もので、カードを数えてもらう動作も多いというのに、全体像が実にクリアーで現象が美しい。もう惚れてまいそう。この人が本出したら速攻で買うのになあ。

今回はNumerology(確かカードカレッジにも入ってたよね)みたいなトリックなのだが、別の原理を組み合わせた4 of a Kindの出現現象になっていて、すんごく不思議。セットも簡単で、レパートリーに入れたいと久しぶりに思った。

むしろMisdirection Monteより良いと思った。


ただし、冒頭で言ったようにこのトリックは解説が不足しており、かつ間違っている(たぶん)。
そこまで複雑では無いのだが、数理トリックの知識が少ないと、再構成がむずいかも。



かなり長くなったがまとめ。
Misdirection Monteだけを目当てに買えばいい。見えない汎用Turnover Switchを求めると間違い。
他の手順は今ひとつだが、可能性の羅列としては面白い。
Turnover Switchの系列全体に言えることだが、応用範囲が広そうでいて、実際に構築するとなるとなかなか難しいのだよな。まだまだ可能性が眠っている技法と思うので、クリエイティブな方にはがんばって欲しい。



あとTomas Blomberg目当てに買ってもいい。むしろこっちが本体で、Underground Switchがオマケと言っても過言では、
―――おや? こんな時間に誰だろう?





Blombergの手順、内容ミスについて。また単体で演じる場合について。
自分と、買った人のためにいちおうメモ。↓

2012年6月13日水曜日

"Sleightly Original" Tom Gagnon







Sleightly Original (Tom Gagnon, 1981)





最近 Avant-Cards  Card Magic of Tom Gagnonという本が出て、名前を知るようになった。Vernon Chroniclesのイラストを担当し、FFFFやNew Stars of Magicにも出ていたというのだから、古参であろう。
これはコインマジックの冊子。財布と相談した結果であるが、コインは資料が少ないし、Bertramが推薦文でアセンブリのムーブを褒めていたので、そこも気になったのである。


さて。長い、ながい戦いだった。100頁そこらなのだが、これが実に読みづらい。
耐えられないくらい冗長な文章に加えて、現象がマニアックすぎる。

まず前者。
今までで5本の指には入る読みづらさ。動きだけを解説しているはずなのだが、” 右手でコインを取り上げ、手前に引く。Refer to Figure #8。このとき左手の位置がコインの動きの直線上にある。again refer to Figure #8” とか、別に(fig.8)でええやん。っていうか一回絵を見たら判るし。
他にも色々と、注釈や補足の挟まり具合のせいなのか何なのか、何を読んでいるのかどうなっているのか判らなくなってくる文章。単語は簡単なので読んで読めなくはなく、解説として余剰であっても不足はないのが不幸中の幸いか。



そして後者。

内容がマニアックすぎる。
本書の半分以上を占める作品が、サムチップとフォールディングコインの組み合わせ。まったく興味が湧かない。正直どっちも持ってないし。
状況的にも、ハーフダラーが十分な視認性を持ってて、かつ結構大胆にサムチップも使えて、というのは、制限がきつすぎる。あげくそれをTwilightの1枚目のロードに使ったりとか、リスクに対する効果のほどもあやしい。

あげく、フォールディング カッパー&シルバーとかいうギミックまで飛び出す始末。

マニアックにも程がある。


マトリックスのムーブでも、ピックアップムーブから天海ピンチへ、とか面白いは面白いのだけれど、テーブルで天海ピンチはしんどい。こっちが立ってて、かつ相手も立ってて、それでいてテーブルとかでもない限りは。
ザローシャッフルもそうだが、ちょっとでも離れたら、モロ見えだものな。



まあ色々と鬱憤が溜まっているのだが、改めて見直してみると、ドマニアックかつ文章が判りづらい、という点はやはり揺るぎない事実であるものの、何も知らないで見せられたら仰天するかもなー、という手順もけっこうある。

サムチップの至近距離での有効性有用性を、ぼくはよく知らないのだが、サムチップが十分に使えて、かつ非効率でも徹底的な不思議にこだわったり、あるいは身内を手ひどく引っ掛けたい、という人には良いかも知れない。



今回は道具立てがとことん合わなかったが、このドマニアックさは、はまればハマるかも。
貶しておいてなんだが、他の本への興味もまだある。だって『ケースに仕舞った状態でのカードコントロール』だけを解説したノートもあるんですよ。実にマニア心をくすぐるじゃないか。
結局、力業でしかも非効率なのでは、という不安はありつつも気にはなる。



誰か突っ込んだ人が居たのか、幸いにも他の本はGagnonの筆ではなく、それぞれWesley JamesとJohn Luka。どちらの本も読んだことはないが、Gagnonほどの文章ではないだろう。きっと。

お金と心と時間に余裕があったら、もう一冊くらい読んでみたいかも。



2012年6月9日土曜日

自発性(観客)に関する小さな覚え書き




J.C. Wagnerの7 Secrets に収録されているAce-Two-Three-Fourという作品で気に入った箇所があったのだが、本記事の流れでは何となく書きづらかったので別枠で紹介。


この作品は小枚数でやるアンビシャスカード、いわゆるAmbitiou Classicというやつ。


個人的にはあまり好きなプロットではなく、(と言い出したら殆どのプロットは嫌いなのだが)特にアンビシャスクラシックはオチが今ひとつ整合が取れておらず、それをカバーする台詞も思い浮かばなくて、据わりが悪い。
自らを自明の窮地に追い込みつつ、効果的なエンディングがないという印象で、Wagnerの作品についてもその点は同じ。


じゃあ何が気に入ったかというと、3枚目。本記事の方ではそこで使われるMarloの技法について簡単に書いたが、ここではそれが使われる文脈に注目する。


というのは、それが実に効果的な”ひっかけ”だからだ。


2が上がってきた後、それをテーブルに捨てる。
次は3、と言いながらトップカードを”表を見せずに”ボトムに入れる。

『いや、ちゃんと3を底に入れたからね?』とここでMarloの技法を使ってボトムの3を見せるのだが、このタイミングと構成が妙。


というのも、このとき見ている人は”本当に3を底に入れたか?”という疑問をほとんど”自発的に”抱かざるを得ない。
しかもそれは演者がどうこう言ったり示したりするのよりも先行する。


そこに続く演者の動作、特にMarloの技法は、実にタイミング良く観客の疑問を解消する形になっていて、いわゆる”途中の動作”化していると同時に、緊張と緩和のコントロールにもなっている。



んで、これの逆が何かというと、例えばMaxi Twist系。

『こんな事が出来るのは実は5枚のカードを使っているから』

などと、別にこちらが疑問にも思っていない事を、マジシャンは突然言い出す。この台詞自体は観客にとって殆ど意味を持たない。マジシャンの都合だけで言われている台詞だ。

無論、ちゃんと演技に組み込めていればいいのだけれど、ただ台本を読むみたいに上記の台詞を言っちまうと、観客のメンタリティとしては置いてきぼりだなと思う。

こういう意味のない台詞の氾濫が、マジックのパフォーマンスとしての地位を貶めている。



そのへん、Wagnerのこの手順は実にうまいメンタル・フックが仕込んであると思う。
「現象のための動作」を、先にひっかけを掛ける事で、あたかも観客のリクエストで行った動作のように見せかける。

また、観客を食いつかせるという意味でも良い戦略。お客さんが”ただ見てるだけ”の客体としてしまうのはあまり好ましくないだろう



ちなみに、個人的にこの類のフックの最高峰はAscanio演じる、Ross BertramのAssembly。あれには気持ちよくだまされたなー。

"7 Secrets" J.C. Wagner








7 Secrets (J.C. Wagner, 1978)





Commercial Magic of J.C. Wagner がとても面白かったので、その前に出版された小冊子、7 Secretsも読んでみた。

元版で買っても$13程度、今回はllepubを使ったので$6。安い。ディスプレイで読むのは余り好きではないので、製本にもチャレンジしてみる。無線綴じ自体は簡単だけども、カバーを造るのが難易度高くて汚くなってしまう。
あと、適当にスキャンした後、白黒2階調でゴミを飛ばしたらしく、文字がちょっと荒い気がする。仕方ないのかなあ。


ともあれ。J.C. Wagnerの小冊子。
手順6個に技法4個の11作品を収録。

例によって、難易度はそこそこ高いのだが、現象がはっきりしていて、エンターテイメント性が高い。ハンドリングもおおむね綺麗で、テンポがよい構成。


今回は御本人の筆。
カラーチェンジングデックにて、Dingleの原案より不細工なのだがと認めつつ、『しかし余計なカードが残らない。エンドクリーンが全てだ』などと続けるあたり、実戦でやってるマジシャンだなと思わされる。
また後書きでも、さらっとだが演技者としての考えを語っている。クレジットに関しての、学究派でない立場からの意見は、なるほどこういう見方もアリだなと思う。



収録作中、一番気になっていたのは破る系2種、特にMatrix Torn and Restored Card。
これは4枚のカードで覆うタイプのマトリックスを、コインの代わりに破ったカードで行うものだった。全部集まった後、3/4まで復活する。んんん。
この現象で全復活しないのは、何だかちょっと違う気がするぞ

Torn and Restored Cardは良いハンドリングなのだが、Commercial Magic of J.C. Wagnerで類似の作品を読んでいたため感動は薄かった。



面白かったのはSpectral Silk。
いわゆる幽霊ハンカチを使うのだが、これのためだけに幽霊ハンカチ買おうかなと言うくらい良い。見栄えが良いし面白い。詳細は秘密。


あとパケット物としてAmbitious Classicのヴァリエーションが一つあるのだが、技法に淫することなく、クリアーな現象かつエンドクリーンという綺麗な構成。パケット物って、カウントだらけになって、余分を隠し持って、と、どうしてもぎこちない作品が多いので、この姿勢はよいですね。

けっこう難易度高いのだが、ボトムにあるカードを確かに見せた後、怪しい動き無しでそれがトップに上がってくるMarloの技法にはちょっと感動。これはうまくはまると不思議だろうなあ。

でも難しいなあ。


このプロット自体は好きではないのだが、もう一つ気に入ったところがあって、この手順はやってみたい。






総論、コストパフォーマンスの良い小冊子。
どれもWagnerのレパートリーとして十分に試されているから、外れはない。

Vanishing Ink Magicの商品紹介でも『値段で内容の価値を決めるなと言う好例』という紹介がされていたけれど、たしかに千円そこらでこの内容は素晴らしい。日本語でも、新訳して1500円ぐらいで出版すればいいのに。


ただ少ない収録数の中に、Torn and Restored Cardやギミック物などが多く、純粋なカードマニアはちょっとがっかりか。



新奇な技法や原理を使うタイプの人ではないのでCommercial Magic of J.C. Wagner があれば十分という気はするものの、解説の前置きや後書きからWagnerの顔が見えてくる。副読本としても$6の価値は十二分にあるかな。



しっかし。
これが$6、Commercial Magic of J.C. Wagner が$10ってのはバーゲンにも程があるな。

2012年6月5日火曜日

"Complete Torn & Restored Card" Stephen Tucker









Complete Torn & Restored Card  (Stephen Tucker, 2006)




英国のアイディアマンStephen TuckerのTorn & Restored Card作品集。


DaOrtizのCard Cemeteryを読んだので、BritlandのTearing A Lady In Twoの時から気になっていた本書も流れで読んでみた。

いくつかの異なった原理に基づくTorn & Restoredとそのヴァリエーションに加えて、1/4と3/4のカードでのトランスポジションなどが解説されている。大本の判は、半分に破れた冊子という、収集家垂涎の形体で出版されたそうで、なにそれ超欲しい。


これを読んでいて気づいたのは、Torn & Restoredという現象の表現方法の変遷だ。実はこのジャンルにはそう詳しくなく、またさほど興味もなかったので、ちゃんとした知識ではないのだが、簡単にまとめてみよう。

Charles Jordanの昔は、破ったカードをデックの中に入れて見えなくした上で、復活現象が起こっていた。

しかし、やはりデックに入れるのではすり替えのイメージをぬぐえないと思ったのだろう、手にはカード一枚しか持っていない(様に見える)状態での復活へと変わっていく。
おそらくこの時、『破られたカード』と『復活済みのカード』を互いに擬態させる必要が生じて、カードは折り目正しく4分割されるようになったのだろう。
HarrisのUltimate Lip Offや、J.C. Wagnerの手順などがこの時点での代表かな。この手法では『カードが常に視界にある』事で同一性が確保されるため、サインやお客さんに渡しておく一辺という証明方法には、必ずしも頼らなくて良くなった。

さらにここから発展し、Hollingworthに代表される『復活時の接合面を隠さず』『一片づつ復活していく』というパターンが生まれた。これはGarciaのTornによって一定の成熟を見たと思う。


現在は、さらに純化された道具立てであったり、復活後に色が変わったり、ちぐはぐな復活をしたりと、いろいろなヴァリエーションが模索されている。
個人的に、丁寧に1/4に破るのは今ひとつしっくり来ない。近年、DaOrtizによって、乱雑に破りつつ、デックなどのカバーを必要としない物がいくつか発表され、こちらの動向が気になる所。



さて前置きが長くなったが、この流れで言うと、本書の作品はHollingworth前夜に位置する。
つまり、今Torn & Restoredと聞いて期待するような、ヴィジュアルな現象はここには入っておりませんよ、という警告。

基本的には、カードは1/4に破られて、それを手に握り込んだ状態で魔法を掛けると、復活した状態になっているというもの。3/4まで復活し、完全には戻らない物が多いのもこの時代の特徴か。

またクラシック的なハンドリングからの脱却をはかって色々な事をしているため、癖も強い。




さすがは音に聞こえたアイディアマン、実に色々な事を考える。
ただ、これぞという物がないのが、今ひとつ有名になりきれない所以だろうか。

Wagnerの手順は破るプロセスが原理的な矛盾をはらんでいる。それが気に喰わず、1ピースずつ破り取っていく、という点にこだわったのが収録作のR.I.Pなのだろうが、そのこだわりがあまりエフェクトに貢献しているとは思えないのだよな。

パズルの解答としては面白いが、それがエフェクトを美しくしているかは疑問。


とはいえMy Preferred Routineでは余分一切無しでこの現象を達成する。破った分をポケットにしまっていくのは、あんまり好きでないけれど、完全即席で出来るので人によっては非常に良い武器になるかも。



個人的に一番面白かったのはQuarterMaster。これは実に奇妙な現象。
右上1/4を破り取った後、右下1/4を破り、ぐぐっと持ち上げると右上部分にくっつく。それを破り取ってまた下にぐぐぐっとずらすと、右下にくっつく。
白フチだと、破った物とくっついた物が明らかに別物になるので、よくわからない現象になってしまうのだが、Beeとかでやるとすげえ気持ち悪そう。仕掛け無しなのに、確実に破りとった部分が本当に復活する。他では見た事がない。



なお、期待していたCard WarpからのTorn and Restored Cardだが、これはちょっと違うだろう。確かにCard Warpを途中までやったうえで、何も足さず何も引かず、カードを破って復活はするんだけど。
っていうかこれでOKなら、別にBritlandのTearing A Lady In Twoでもええんちゃうのやろか。うーん。



まとめ。
Torn and Restored Cardという、実に目まぐるしく発展した分野であるため、全体的にどうしても古くさい印象。またStephen Tuckerの味なのか、今ひとつ決定打に欠けるのだが、アイディアは面白くヴァラエティに富んでいる。


今のTornなんかの知識と組み合わせれば、面白い物が出来るかも知れませんよ。
まあクリエイター向けでしょうね。


2012年6月1日金曜日

"Card Cemetery" Dani DaOrtiz








Card Cemetery (Dani DaOrtiz, 2008)





DaOritzのTorn And Restored Card集、Cementerio de Cartas がしれっと英訳されていたので買ってみた。
Cemetery(西: Cementerio)は共同墓地という意味、カードの墓場。実際、昨日だけでデック一個半が切れ切れのカード片になってしまった。


2部構成で、第1部はデュプリケートにまつわる策略。
文字通りのデュプリケートから見せかけのデュプリケートまで、簡単に考察、紹介。

第2部はTorn and Restored Cardのトリック10種を解説。


しかしUtopiaがあるからなぁ。ちょっとしたヴァリエーション(FLASHのカードケースを使うヴァージョンとか)を除けば、目新しいのは3品くらいかな。


Restored Card to the Shoe
破ったカードが復活した状態で靴から出てくる。靴の中にある状態で、お客さんのサインがちゃんと確認される。不可能性は極めて高いんだが、なんでこんなコンビネーションなのだろう。
この作品や、Que Raro! DVDでもやっていた、破ったカードが消えて復活した状態で財布から出てくるようなのは、復活現象としていまひとつな気がする。
まあDaOrtizがやれば面白いし、頭が痛くなるくらい不思議なのだろうが、これは出来る人が限られるだろうなあ。


Gag-Strongest Magician
ギャグ。カードを叩いたらバラバラになる。Torn and Restored Cardの逆みたいなものか。
手法は普通だが、気配を感じさせずに行えたら凄く面白いと思う。


Instant Restored
これは非常に珍しいと思った。
DaOrtizの手順はどれも乱雑にカードを破るのだが、これのみ折ってきっちり4片に破るパターンで、かつ準備が必要。
折る、破くのハンドリングが極めて綺麗で、復活後も非常にフェア。
ただ復活部分だけ、大きな動作で誤魔化すような感じがある。僕がもたついているだけかも知れない。それ以外は実に綺麗なので、もう少し練習するなり、GarciaのTornやHollingworthのReformationに応用するなりの可能性を考えてみたい。

ちょっとネタバレになるかもしれないが、新聞紙の復活に似ている手法。
なるほどなぁーと。




ま、策略にしろトリックにしろ、殆どがDVD Utopiaでカバーされているので、改めて買う必要はないと思う。僕はファンだから買ったようなものでして。


しかし英訳が今ひとつ上手くないのだ。本書はカードトリックだし図も豊富だしで問題ないんだが、心待ちにしている心理フォースの本は大丈夫だろうか。ちょっと心配になってきた。
せめて、一回の購入で英語版スペイン語版、両方くれたら助かるのになあ。

2012年5月31日木曜日

"More Power to You" David Acer





More Power to You (David Acer, 2011)




こういう慣用句のタイトルは、意味を取るのがなかなか難しい。
慣用句としての『健闘を祈る』と、直訳の『より一層の力(マジック)をあなたに』と、ないまぜの印象だろうか。表紙絵はPCのPowerボタンだし、色々意味をかけてあるのだと思うが、英語が得意でない身としては、その辺のギャグなりこだわりなりが上手く汲み取れずに悔しい。

それはさておき。クリエイターとしても有名な、カナダのDavid Acerのベスト盤。といっても、『David Acerベスト選集 *ただし科学的な統計にあらず』とか書いてあるあたりに、この本の基調が見て取れようというもの。
コメディマジシャンでもあるAcerのお遊びが随所に仕込まれていて、そういう意味でも面白い一冊。


作品内容はカード、コイン、指輪などクロースアップが殆どだが、中にはステージ上での入れ替わりとかもあり、非常にヴァラエティに富んでいる。

過去の著作から選び、内容を書き直しているらしいが、以前の物を知らないのでその点の評価はできない。



作品はマジックというよりトリック、あるいはギャグ。軽い雰囲気で行う物が多い。特にカード物では、カードに書いた棒人間が選ばれたカードを探してきたり、デックにどんどん穴が空いていったり、などなど、あまり”真剣”に見せられるタイプの物ではなく、その辺、個人的な好みには合わなかった。

一方で、アイディアには実に独創的な物があり、そちらは非常に楽しめた。
といっても解法やアプローチ、技法はごく一般的で、直線的。ただ現象や、道具立てが他で見ないくらい独特。たとえば自動販売機にカードを差し込むと、違うカードになって出てくるなど。自販機つかったカラーチェンジって、おい。

特に面白かったのは、
メガネのつると指輪のリンク現象、ぺったんこの封筒から着信音がして携帯電話が出てくる、など。今回の書き下ろし新ネタであるMoving HoleのヴァリエーションWorm Holeは、カードに開けた穴をつまみ取ってコーヒーの紙コップに押しつけると、そこからコーヒーがあふれ出すという劇的な現象。セロやBlaineがやってもおかしくない。

ただ、繰り返しになるが、解法は直線的。マジシャン相手には向かない。そういう意味ではプロットを書くこと自体がネタバレかも知れない。このへんで止めておこう。


しかし一番面白かったのは、随所に盛り込まれたお遊び。解説の書き方であったり、差し込まれる図や写真であったり、表紙から裏表紙まで貫いて、なにからなにまで下らない悪戯だらけ。実際、声を出して笑ってしまったマジック解説書なんて、今の所これ位のものである。



アイディアは面白いが、それをマジックにまで練り上げることはせずに、ぽんとそのまま放り出している感じ。また手法にはこれといって特別な物は感じなかった。終始まじめで執拗、独特な解法のTom Stoneとは好対照。

好みではなかったものの、本としては実に面白く、発想力には驚かされた。

今のところ他の本に手を出す気はないが、小物のばかばかしいトリックを集めた本が出たら考えなくはない。

2012年5月30日水曜日

"Triple Intuition plus" Dani DaOrtiz








Triple Intuition plus (Dani DaOrtiz, 2012)





Dani DaOrtizのミニノート。
Triple Intuitionという手順と、そこから発展させた2トリックの計3トリックを解説。

『演技・解説映像』版、『演技映像+解説ノート』版の二種があったのだが、安かったのと、原案のTriple Intuitionは別所で知っていたので、ノート版を購入。

どうやら英語版も出たみたい。まあいいんだけどさ。



どちらにせよ演技動画がみられるのは嬉しい。っていうのも、DaOrtizの手順って、文章では今ひとつ魅力が伝わらないのが多いから。手品全般がそうだろうが、DaOrtizのは特に。
手順構成自体は、けっこう弱点欠点がぼろぼろある感じなのだ。それが演技力で完璧にカバーされているために、これだけ不可能に見えるんではなかろうか。



La Triple Intuicion
 3人の観客にカードを選んでもらい、デックに戻す。
 観客がカードを配りながら、Intuition(霊感)に従って止めると、そこから選んだカードが出てくる。

これは生で見た事があるのだが、本当に背筋が震えるくらいに気持ち悪い。
まあDVD Utopiaでも解説されているので、これのために買おうって人はいないだろう。


La Intuicion Pensada
 デックを全員に混ぜてもらう。観客の一人に、心の中でカードを一枚、決めてもらう。
 その後、観客の選択によってカードをどんどん減らしていく。捨てたカードは表向きにして、そこに心で決めたカードがない事を確かめながら。
 最後に残った一枚が、心で思ったカードと一致する。

このノートの目玉だろう。サイトに演技動画が上がっていたが、あいかわらずハンドリングが途轍もなくフェアに見える。カードを決めてもらうプロセスや、カードを減らしていく手順には、DaOrtiz流のけっこう卑怯な、そして聞いたり読んだりしただけだと、なかなかやろうとは思わない類の策略が使われている。
こういう手順が構成できるのが、DaOrtizの魅力だなと改めて思った。


Intuicion al Numero
 ACAANへの応用。心の中で数字を決めてもらう。次にみんなでカードを混ぜながら、カードを一枚決めてもらう。それが、選ばれた枚数目から出てくる。

これも例によってDaOrtizの策略が横溢しており、あんまり詳しく書けない。Utopiaで解説されたACAANを、Triple Intuitionの核になっているある策略と組み合わせたといった所。なにせ全員でぐっちゃぐっちゃにカード混ぜた後でこの現象なのだから、すごい。
難しい計算とかはないのだが、ある部分でけっこう頭を使う。大したことではないのだが、ラフなキャラクタと動作を保ったままでこなすのは自分には荷が重い。Utopia版とくらべても、一長一短というところ。



Triple IntuicionとIntuicion el NumeroはほとんどUtopiaでカバーされているので、買うならLa Intuicion Pensada(Thought Intuition)目当てだろう。これもTriple Intuicionの変奏ではあるのだが、個人的にはとても満足。

やっぱりDaOrtizはすげえなあ。

2012年5月28日月曜日

"Vortex" Tom Stone





Vortex (Tom Stone, 2010)




スウェーデンの奇才、Tom Stoneの創作集。



元々e-bookで冊子を個人出版していたのだが、そちらの頒布を停止して、本としてHermeticから出版。個人的に、幾つかかぶってしまったのもありちょっと悔しい。
そんな経緯で、紙を横に使う変わった装丁。読みづらさとかはなく、むしろ図の列びとかは見やすくて良いくらいなのだが、本棚にどう仕舞えばいいのかだけが問題。



どうにも、Tom Stoneというのはこだわりが強く、人にも自分にも厳しい人のようだ。だが彼自身、それをちゃんと認識している。自らのエゴが満足するまで追い求め、しかし同時に、客観的な視点からも検討を重ねた手順は、癖が強いものの独特で面白い。

その最たる例は、Ambidextrous Travelerの理想型を追い求めるTracking Mr.Fogg だろう。スタート地点であるJennings手順からの試行錯誤、他の人に求めた意見、その時々の正直な感想(「Travelerにデュプリケートを使う? Stephen Minchはなに馬鹿な事を言ってるんだ!」とか)、途中経過の手順について実戦と失敗などなど、そして終にMr.Foggに辿り着く。

個人的には、Mr.Foggはけっこうしんどい手順だと思う、というか、Travelerがいまいちなのだけれど、そういう事は関係無しに、その創作過程は非常に面白く、勉強にもなる。



扱う範囲は広く、クロースアップ、パーラー、ステージの区別なく、カード、コイン、ロープ、靴、スポンジボール、指輪、ボールとコーンと多岐にわたっている。
手順はどれも創作の狙いが明確にされているし、実演していないアイディアや、ノートからの抜き書き、プロブレムの提示などが随所にちりばめられ、ほんとうにどこを読んでも面白い。解説は視線の向け方や、演者の心理などもきっちり説明。


一番すごかったのはBenson Burner。
Roy Bensonの有名な手順のTom StoneによるStage版なのだが、いやはや、あの写真 http://shop.tomstone.se/、僕はてっきり宣材写真と思っていたのだが、ほんとうにこんな事になってしまうのだからたまらない。


最後にもう一つ、考えさせられたのがクレジット。
各手順のクレジットを明記するだけではなく、可能な限り原案者や権利者に連絡を取り、プロットに対してまで解説の許可を取っている。
こんなの、この本以外では見た事ない。ここまでやる必要はあるのか、と思ってしまうが、すでにそれが毒されているっていう事なのかも。



気むずかしそうな人ではあるが、こと創作においてはこだわりとエゴは大切だ。解法に癖があるので、実用する手順はそうないかも知れないが、考え方はとても勉強になった。読み物としても面白い。
オリジナルマジックを創作する人は絶対に読むべき。
ただ、直ぐにレパートリーを、って人には向かない。


Maelstromも近々手に入れようっと。


余談: Vortexも続刊のMaelstromもだが、ジャケットがどうにもイングウェイを彷彿とさせる。そういやイングウェイもスウェーデンだっけか。(参考: http://blog.livedoor.jp/ringotomomin/archives/51146198.html

2012年5月27日日曜日

"The Commercial Magic of J.C. Wagner" Mike Maxwell








The Commercial Magic of J.C. Wagner (Mike Maxwell, 1987)



バーマジシャン、J.C Wagnerの実戦的なマジックを集めた作品集。



傑作の誉れ高く、松田道弘のリストにも載っているんだが、入手困難本。
正確に言うと、入手困難だった本。


某日、某マジック古書サイトで発見し、舞い上がる。
メールしたところハードカバーの他に、お安くソフトカバー版も在庫あるよ。送料は船便でこれこれ、空輸でこれこれ、と言われて、財布と相談の結果ソフトカバー版を空輸で購入。およそ$50。いい買い物だと満悦至極。

本が到着した翌日、L&L 公式サイトにて電子書籍版が発売される。
お値段$9.99。

e-book化するのはまだいい。L&L-e の存在を知ったときから覚悟はしていた。
でも安すぎる! SkinnerやBannonはもうちょっと高いじゃない。
なにそれ千円って。あああああああああああ。

まあいいんです、$50の価値はあったと思うし。それにやっぱり紙媒体が好きだ。
でも自宅製本の可能性をちょっと真剣に検討していこうかと思った今日この頃。



さて中身の話。

バーマジシャン、J.C Wagnerの実用的なマジックを集めた作品集。
不思議でインパクトが強く、ハンドリングがクリーン、そして殆どがセットアップやギミック無し、というなかなかに非の打ち所のない内容。

似た傾向としてPaul CumminsのFASDIUというノートを思い出したが、あちらがかなりハードな技法と、マニアックな現象、そして読みにくいレイアウトであったのに比べると、こちらは技術的にも現象的にも文章的にもだいぶ楽。


現象はクラシックな物を一通り取りそろえている。有名な天井に着くカード、ジャンボカードでのトーンアンドリストアード、A アセンブリ、コリンズAs、Twisting コレクター、Underground Transposition、トライアンフ等々。Coin MatrixやCoin Through Tableもある。
輪ゴムを掛けたデックからカードが飛び出してくる現象と、Estimationの章が個人的には気に入っている。特に後者は、単純にEstimationだけを用いるダイレクトなトリックから始まり、失敗したときに移行できる別トリックまで解説されていて、Jazzマジック素材集としても優良。
あとGambler's Copのハンドウォッシングも、パーム好きには嬉しかった。


Twistした後にコレクターみたいな複合技や、ギミックなしワイルドカードなんかは、ちょっとどうかとも思うのだが、まあこの辺は好みの問題だろう。

あと4Aアセンブリの章では、AXXX→XXXXではなく、AXXX→XXXになるなど、他ではあまり見ない表現方法が多く、好みではなかったものの、なかなか新鮮で練習のしがいがあった。


マジック、特にカードマジックの本には、技法や現象の組み合わせから可能性を探っているような研究書というのが結構ある。JenningsやWalton、Hartmanあたりが特にそうだろうか。作品点数が多く、読んでいて面白くはあるのだが、多くの場合、個々のトリックはマジックとして見せるには足りず、レパートリーに組み入れるには相当の苦労を要する。

一方、本書の作品はどれも、確かな実戦経験を通じて磨かれてきた作品であり、現象のテンポ、ハンドリングなどの洗練度がとても高い。勿論それはWagnerのテンポなので、修正は必要であるものの、レパートリーに組み込むのは比較的容易だろう。

本人解説ではなく、作品構成の詳細な意図などは語られないのだが、それぞれ実戦を通じて取捨選択とブラッシュアップを繰り返してきた作品、背後にあるWagnerの意図や思想、経験を十分に内包している。それを考えてみるのも面白い。



おもしろかった。おすすめの一冊。
特に、レパートリーを増やしたいって人。