2012年5月31日木曜日

"More Power to You" David Acer





More Power to You (David Acer, 2011)




こういう慣用句のタイトルは、意味を取るのがなかなか難しい。
慣用句としての『健闘を祈る』と、直訳の『より一層の力(マジック)をあなたに』と、ないまぜの印象だろうか。表紙絵はPCのPowerボタンだし、色々意味をかけてあるのだと思うが、英語が得意でない身としては、その辺のギャグなりこだわりなりが上手く汲み取れずに悔しい。

それはさておき。クリエイターとしても有名な、カナダのDavid Acerのベスト盤。といっても、『David Acerベスト選集 *ただし科学的な統計にあらず』とか書いてあるあたりに、この本の基調が見て取れようというもの。
コメディマジシャンでもあるAcerのお遊びが随所に仕込まれていて、そういう意味でも面白い一冊。


作品内容はカード、コイン、指輪などクロースアップが殆どだが、中にはステージ上での入れ替わりとかもあり、非常にヴァラエティに富んでいる。

過去の著作から選び、内容を書き直しているらしいが、以前の物を知らないのでその点の評価はできない。



作品はマジックというよりトリック、あるいはギャグ。軽い雰囲気で行う物が多い。特にカード物では、カードに書いた棒人間が選ばれたカードを探してきたり、デックにどんどん穴が空いていったり、などなど、あまり”真剣”に見せられるタイプの物ではなく、その辺、個人的な好みには合わなかった。

一方で、アイディアには実に独創的な物があり、そちらは非常に楽しめた。
といっても解法やアプローチ、技法はごく一般的で、直線的。ただ現象や、道具立てが他で見ないくらい独特。たとえば自動販売機にカードを差し込むと、違うカードになって出てくるなど。自販機つかったカラーチェンジって、おい。

特に面白かったのは、
メガネのつると指輪のリンク現象、ぺったんこの封筒から着信音がして携帯電話が出てくる、など。今回の書き下ろし新ネタであるMoving HoleのヴァリエーションWorm Holeは、カードに開けた穴をつまみ取ってコーヒーの紙コップに押しつけると、そこからコーヒーがあふれ出すという劇的な現象。セロやBlaineがやってもおかしくない。

ただ、繰り返しになるが、解法は直線的。マジシャン相手には向かない。そういう意味ではプロットを書くこと自体がネタバレかも知れない。このへんで止めておこう。


しかし一番面白かったのは、随所に盛り込まれたお遊び。解説の書き方であったり、差し込まれる図や写真であったり、表紙から裏表紙まで貫いて、なにからなにまで下らない悪戯だらけ。実際、声を出して笑ってしまったマジック解説書なんて、今の所これ位のものである。



アイディアは面白いが、それをマジックにまで練り上げることはせずに、ぽんとそのまま放り出している感じ。また手法にはこれといって特別な物は感じなかった。終始まじめで執拗、独特な解法のTom Stoneとは好対照。

好みではなかったものの、本としては実に面白く、発想力には驚かされた。

今のところ他の本に手を出す気はないが、小物のばかばかしいトリックを集めた本が出たら考えなくはない。

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