Complete Torn & Restored Card (Stephen Tucker, 2006)
英国のアイディアマンStephen TuckerのTorn & Restored Card作品集。
DaOrtizのCard Cemeteryを読んだので、BritlandのTearing A Lady In Twoの時から気になっていた本書も流れで読んでみた。
いくつかの異なった原理に基づくTorn & Restoredとそのヴァリエーションに加えて、1/4と3/4のカードでのトランスポジションなどが解説されている。大本の判は、半分に破れた冊子という、収集家垂涎の形体で出版されたそうで、なにそれ超欲しい。
これを読んでいて気づいたのは、Torn & Restoredという現象の表現方法の変遷だ。実はこのジャンルにはそう詳しくなく、またさほど興味もなかったので、ちゃんとした知識ではないのだが、簡単にまとめてみよう。
Charles Jordanの昔は、破ったカードをデックの中に入れて見えなくした上で、復活現象が起こっていた。
しかし、やはりデックに入れるのではすり替えのイメージをぬぐえないと思ったのだろう、手にはカード一枚しか持っていない(様に見える)状態での復活へと変わっていく。
おそらくこの時、『破られたカード』と『復活済みのカード』を互いに擬態させる必要が生じて、カードは折り目正しく4分割されるようになったのだろう。
HarrisのUltimate Lip Offや、J.C. Wagnerの手順などがこの時点での代表かな。この手法では『カードが常に視界にある』事で同一性が確保されるため、サインやお客さんに渡しておく一辺という証明方法には、必ずしも頼らなくて良くなった。
さらにここから発展し、Hollingworthに代表される『復活時の接合面を隠さず』『一片づつ復活していく』というパターンが生まれた。これはGarciaのTornによって一定の成熟を見たと思う。
現在は、さらに純化された道具立てであったり、復活後に色が変わったり、ちぐはぐな復活をしたりと、いろいろなヴァリエーションが模索されている。
個人的に、丁寧に1/4に破るのは今ひとつしっくり来ない。近年、DaOrtizによって、乱雑に破りつつ、デックなどのカバーを必要としない物がいくつか発表され、こちらの動向が気になる所。
さて前置きが長くなったが、この流れで言うと、本書の作品はHollingworth前夜に位置する。
つまり、今Torn & Restoredと聞いて期待するような、ヴィジュアルな現象はここには入っておりませんよ、という警告。
基本的には、カードは1/4に破られて、それを手に握り込んだ状態で魔法を掛けると、復活した状態になっているというもの。3/4まで復活し、完全には戻らない物が多いのもこの時代の特徴か。
またクラシック的なハンドリングからの脱却をはかって色々な事をしているため、癖も強い。
さすがは音に聞こえたアイディアマン、実に色々な事を考える。
ただ、これぞという物がないのが、今ひとつ有名になりきれない所以だろうか。
Wagnerの手順は破るプロセスが原理的な矛盾をはらんでいる。それが気に喰わず、1ピースずつ破り取っていく、という点にこだわったのが収録作のR.I.Pなのだろうが、そのこだわりがあまりエフェクトに貢献しているとは思えないのだよな。
パズルの解答としては面白いが、それがエフェクトを美しくしているかは疑問。
とはいえMy Preferred Routineでは余分一切無しでこの現象を達成する。破った分をポケットにしまっていくのは、あんまり好きでないけれど、完全即席で出来るので人によっては非常に良い武器になるかも。
個人的に一番面白かったのはQuarterMaster。これは実に奇妙な現象。
右上1/4を破り取った後、右下1/4を破り、ぐぐっと持ち上げると右上部分にくっつく。それを破り取ってまた下にぐぐぐっとずらすと、右下にくっつく。
白フチだと、破った物とくっついた物が明らかに別物になるので、よくわからない現象になってしまうのだが、Beeとかでやるとすげえ気持ち悪そう。仕掛け無しなのに、確実に破りとった部分が本当に復活する。他では見た事がない。
なお、期待していたCard WarpからのTorn and Restored Cardだが、これはちょっと違うだろう。確かにCard Warpを途中までやったうえで、何も足さず何も引かず、カードを破って復活はするんだけど。
っていうかこれでOKなら、別にBritlandのTearing A Lady In Twoでもええんちゃうのやろか。うーん。
まとめ。
Torn and Restored Cardという、実に目まぐるしく発展した分野であるため、全体的にどうしても古くさい印象。またStephen Tuckerの味なのか、今ひとつ決定打に欠けるのだが、アイディアは面白くヴァラエティに富んでいる。
今のTornなんかの知識と組み合わせれば、面白い物が出来るかも知れませんよ。
まあクリエイター向けでしょうね。
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