2014年11月18日火曜日

"MirACAAN" Dorian Caudal








MirACAAN (Dorian Caudal, 2014)




39 € 70 ppで 1作のACAAN のみを解説した冊子。


筆者はフランス生まれ、スウェーデンはストックホルム在住の若手マジシャン、Dorian Caudal。
なんとまあ神経科学でPh.Dを持っているらしい。うらやましい。
そしてカロリンスカ研究所にお勤めらしい。凄い。

凄いっていうか超絶エリートではなかろうか。


肝心のACAANについてだが、演者が配ったりする必要などなく、Berglas Effectに極めて近い。というかBerglasのオリジナルに対して、愚直に細部を詰めていった印象。手法としてはあんまり美しくはなく、特にBad Caseはいまいち。ただし実際にやられたらかなり気持ち悪そうだ。

またカードや数値が選ばれる確率については、文献引用をしたり、図に頻度をプロットして説明していたりとなかなか理系らしい所を見せている。自称メンタリストどもの『私の経験から~』なんぞよりよほどいい。


覚えたり暗算したりもそこそこあるので、私の手にはおえない感じだけれど、根性ある方は手を出してみてもいいのではと思う。
あとアウトやバーバル・コントロールでちょっと面白い箇所があったのでそれは覚えておこうと思います。

2014年11月8日土曜日

COMING SOON



Thinking the Impossible

日本語版





もし騙されるのがお嫌なら、何があってもRamón Riobóoに会ってはいけません。

Hermetic Press版より


SNEAK PREVIEW




※画面は作成中の物です。

2014年11月5日水曜日

"小さいライジングカード" 辻川勝裕








小さいライジングカード (辻川勝裕, 2014)



 小さいデックで行うライジングカード!



 先頃、マジックマーケットといかいうイベントで販売されたそうなのですが、当方、基本的にとても引きこもりなので当然のように行きませんでした。でも大丈夫、下記のショップで販売されています。人と会わずに買い物できる。便利な時代です。

http://abuku.shopselect.net/


 ハンドリングがとても自然であったり、シンプルだけど今だから実現できる機構、など色々と特色もあるのですが当ブログではあまりそういう点は取り上げません。

 本題は解説の冊子。
 もし普通のマジックショップがこのネタを買って量産したら、A4のコピー紙1枚でそれも片面のみ印刷のショボイ解説書になっていたでしょう。実際、マジックのためにはそれで十分とも言えます。
 しかし付属するのはA5 13ppの冊子。その半分は手順の詳細な解説なのですが、残り内容はと言うと、このトリックを作るために行われた『ライジングカードに関する力学的な考察』なのです。いやーいいですね。同人誌という感じがしますね。まあ手品用品なんざほとんど同人制作物みたいなもんですが。

 さておき。

 カードをライジングさせるために必要な力の測定から、その力を掛けるために機構が実際に持つべき力や角度の設計などが解説されています。精密な計算・測定というよりは割とざっくりしたものですが、実際にかなりばらつきのある既製物を対象としているのでこのアプローチで問題ないと思います。

 そして数式がたくさん載っています。実は数式があまり得意ではなく最初はちょっと引いてしまいましたが、判りやすく解説されておりますし、また比較的初歩的な物と思います(三角関数による力の分解が主)。我々の知っている具体物がぞろぞろ数式になっていく様を見ていると、どうしてか笑いが止まりませんでした。とても楽しい。
 またリフィル的な物の入手経路なども書かれておりそこもよかったです。

 ただ幾つか抜けているように感じるところもあり、たとえばせっかくなら××も種類を書いて欲しかったなーとか、計算が省略されているところでどうも検算が合わず、用いた具体的な初期値も書いて欲しかったなあなど。参考には成るけれど、そのものを追うのは無理かもしれません。


 というわけで総合的に見ると書き漏らしや不親切に感じる箇所があり、詰めが甘いというか、純粋な力学設計とその考察と言うよりも覚え書きのような印象ですが、しかしこういったアプローチは大変素敵です。上述のように不満点もあるのですが、笑わせて頂きましたし、もっとこういう確たる見地からマジックを作り上げていく人が増えたらいいなと良いなと思いました。

 たいへん面白かったです。

 ついでのようになりますが手品自体もよいものです。

2014年9月14日日曜日

"Nukes" Doug Edwards






Nukes(Doug Edwards, 2014)



コレクターとしても名をはせているらしいマニア、Doug Edwardsの小ぶりな作品集。


収録されている作品は半分ほどがカード、残りはロープ、ベンソン・スポンジ、メンタルなど。

全体的に入り組んだ手順ものはなく、一発ネタとかQuickieが多め。解説もあっさりしているので今ひとつ真価が分かりにくいが、幸いにも販売元サイトが良い動画を作っているので、見てみるとよいやも。

複雑なことや特殊なことはあまりしていないのだけれど、それでも、うまくいくと非常に説得力の高いトリックが多い。しかも短くてシンプル。単純な技法の精度を上げ、あっさりとしつつもマニアだって引っかける、といったところか。動画でもやってる4A出しは文章だと読み飛ばしそうなのですが、凄く良いと思いました。

ギミックというか加工することを厭わないようで、ショートカードやインスタント・デックも出てくる。しかしピュアリストであっても、Zarrow ShuffleやShove Over Shuffleを目当てに買っても良いと思う。あと前述のA出し。

またコレクターとしての側面を発揮して、本書には過去の著名マジシャンの未発表手順が幾つか収録されている。Herb ZarrowのZarrow Shuffle、DunningerのDictionary Test、Roy Bensonのスポンジ(Benson Bowl)、Cardiniのファン(これは小ネタだけど)。

Roy Bensonといえばちょっと前にRoy Benson by Starlightという決定版とも言うべき大著が出たのだけれど、Nukesの手順にはRoy Benson by Starlightで言及されていない要素がどうもあるみたい。ざっと眺めただけではあるのだけれど。
Benson Bowlも当然ながら幾つか段階があって、だからどちらが最終版だったのかは分からないし、Nukesに固有の箇所はわりと結構再現が面倒で、かつEdwardsの説明が簡素すぎていまひとつぴんとこないのだけれど、それでもRoy Benson by Starlightとの相違は面白い。また単純にソースとして入手が楽でもある。

他の要素は資料不足。Zarrowの例の本は持ってないし、Dunningerも詳しくないです。なので未発表かどうかはまあEdwardsを信じるしかないのだけれど、過去の有名マジシャンの未発表手順というのはいつだってわくわくしますね。

(もちろん別にEdwardsを疑っているわけじゃない。なおRoy Benson by StarlightにはDoug Edwards所有としてRoy Benson手製のBenson Bowl用のボウルの写真が掲載されている。Nukesにも載せればよかったのに)


内容は雑駁だし、ちょっと解説が簡素でもあるのだけれど、小粋な小品集としてとても良かった。あまりごてごてしていないのがいい。こういうのをさくっと演じられる大人になりたいものですね。

A出しと、あとRing on Ropeが特に良かったです。

2014年7月28日月曜日

"Ken Krenzel's Relaxed Impossibilities" Stephen Minch






Relaxed Impossibilities (Steven Minch, 2009)



カードマン、クレンツェルの最新作品集。
実はこの少し後、2012年にクレンツェル氏お亡くなりになったので、現時点では最終作品集です。


クレンツェルの代表作って実はあまりよく知りません。
Card Tunnel、Open and Shut Case(未読), On the Up and Up(未読)あたりなんですかね。ただこれらがKrenzelらしいのかはちょっと不明というか。

Card Classics of Ken Krenzel を読んだ限りでは、変な技法がお好きというのは伝わってきたんですが、手順構成とか作り上げたい不思議の像があるのかとかはピンときてませんでした。正直いまでもよく分かりません。

そんなんであまり好きという訳でもなかったKrenzelですが、この本はRelaxedと銘打たれ、特に観客の手の中でおこる不可能に焦点を当てているという事で、なんだいつの間にか芸風が変わったのか、それに観客の手の中で起こる現象とかいいじゃないレパトアに増やしたい、と例によって紹介文をよく読まずに購入しました。


で。
読んでしばらく変な笑いが止まらなかった。

最初から相当にムズい技法が飛び込んでくるし、いつまでたっても技法の章が終わらない。
半分をすぎてもまだ技法。ああ、やっぱりKrenzelだ。俺の知っているKrenzelだ。
その後やっと手順が始まったけど、今ひとつ俺の好みではないのもやっぱりKrenzelだ。


あいかわらず技法の使い道はほとんど与えられていないものの、例のTwo Card Fan Lift Switch Reversal Palmのようなカオスなものはなく、シンプルなコントロールやスイッチが主です。そして「力を抜いている」「何もしていないように見える」という狙いが大変明瞭に反映されているため、難しかろうとも挑戦欲は湧いてきますし、実用性もありそうです。

一方で手順はあまり好みではないのだよなあ。収録作の約半分は、演者が操作する手順、もう半分が相手の手の中で起こる手順で、どちらも『演者が何もしていないように見える』というコンセプトらしいのですが……。

相手の手の中で起こる現象って難しいものです。
現象の最終段階が相手の手の中で示されても、それは『現象が起こった』ではなく『状態が示された』に過ぎない場合が多く、それでは「ああじゃあ渡された時点でこの状態になっていたのだな」と思われておしまいです。
『何もしていないように見える現象』も同様ですが、直前の検めを入れるのが大変難しいのですよね。だからマジックの起こった『時』がぼやけてしまいがちです。手の中で起こる現象や演者が何もしていないという現象を構築する場合は、その危険性にちゃんとフォーカスをあてないといけないと思います。

Krenzelがそこを考えて作ったのか、は正直微妙に思います。

またKrenzelといえばRichardsonとならぶACAAN好きで、今回もACAANと名付けられた手順が3種ありますが、なるべく手を触れずにやろうとして、どれも手続きが微妙。


うーんやっぱりどうも手順があまり魅力的に感じません。
しかし技法の章は大変面白く、そういう目的で買われた方は大満足かと思います。

2014年7月23日水曜日

"Intimate Mysteries" Chris Philpott







Intimate Mysteries (Chris Philpott, 2013)



賞も取った映画脚本家のChris Philpottによるカードメインのメンタリズム本。単なるトリックではなく、それを観客自身の体験にする事をもくろみ、それぞれオリジナルのテクニック・コンセプトで分かれた3つの章からなる。かのJohn Bannonの推薦文と寄稿作品あり。


とくれば非常に期待してしまうところだが、この本は、少なくとも最初の2章、Double KokosとConfessional Confabulationsは糞だった。少なくとも僕にとっては耐え難い内容。
例によってだがもっとちゃんと紹介文を読んでから買うべきだ僕は。


手品を相手の人生にとって意味のある物にする、というアプローチについては、手品ごときがおこがましい、と思わなくもないがメンタリズムの姿勢としては賛同もできる。ただそのためにKokologyを適用する、と言い出すのだよなこの人。Kokology=Kokosって何の事かと思ったのだが、これが心理テストなのだ。それも完全な創作で手順のためにでっち上げた内容を、得々と語る。

曰く、「歩いていると小さな可愛らしい家がありますが、玄関が半開きになっています。なぜですか?(選択肢を提示)」「2の、単に持ち主が閉め忘れたから?」「あなたは危機的な状況を回避できないタイプですね。それどころか、あまりにリラックスしすぎていて、それが起こっていることにすら気付かない。あなたが犯しがちなミスは、悪意よりもむしろ過失の方が多いでしょう。郵便物は山になるし、仕事は決して終わらない。あなたはストレスを感じないかもしれませんが周りにとっては良い迷惑です。周りはそんなあなたに苦しめられており、しかもあなた自身はそれに気付かないのですから、どうにも困ったものです」

こいつ何様なの?

それから、だ。
A故にBである、という発言はその背後に再現性・因果関係があることをほのめかしており、サイエンスの後ろ盾をはっきりと臭わせる。また星占いや血液型と異なり、内容について発話者が責任をもつ形になっている。
だが実際には、これはこいつの完全な創作でありただの妄言だ。このような言い口は、科学にたいしても相手に対しても冒涜に他ならない。少なくとも私にはこんな事を得意げに口にするのはとても無理だ。

(なおBannonの手順はこの点をちゃんと回避しており、さすがにセンスが違う)


おまけに質問の内容が酷すぎる。上の例はまだ良い方。


フリップなどを用意して、舞台に呼んだ観客以外には質問が何を意味するのか判るようにした上で、
「遊園地でジェットコースターに乗る、と考えてください(ジェットコースターはセックスを意味しています)」
「では世界で一番短いコースターを1、一番長いコースターを10としたら、あなたが乗るジェットコースターの長さはどれくらいですか?(これは行為にかける時間を意味してます)」
相手が少ない数字を言った場合、同情したように肩に手を乗せ、「……ああ、あなたのつらさは判りますよ。私もしばらくジェットコースターには乗ってないから。でもね、シーズンパスを持ってるとしたら、どれくらいの長さのジェットコースターに乗りますか?」
 
いいだろう、場合によっては、そういったシーンは良質のコメディになりうる。映画とかであれば、あるいはね。ただここで笑いのネタにされるのは、スクリーンの向こうの架空の人物ではない。見ている観客のなかから呼ばれた一人だ。観客と、笑われている人物とは地続きなのだけれど、それでも笑いとして機能するのだろうか。
そういう場もあるのかもしれない。そういう事ができるコミュニケーション能力・演出能力をお持ちの方もおられるのかもしれない。でも私には無理だし、たぶんこの本の読者の多くにとっても無理だ。


おまけにこの最初の2章は、手法としても新しいところは全くない。
一切ない。
Double Kokosの12作品はすべてInvisible Deckで、Confessional Confabulationsの4作品はOne A Headの3 Billet Mental Epic。特殊なたくらみがあるわけでもないベーシックなもの。
なので手法面での発見もない。ただただ演出が(創作された心理テストまがいの何かが)異なるだけである。演出を軽んじるわけではないがあまりに芸がない。


唯一、マジシャンズ・チョイスを扱った最後の章、Visualization Tangoには見るものがある。マジシャンズ・チョイスのある問題点を、ほぼ完璧に回避しうる可能性を秘めている。ただこれを複数回の選択に拡張する段では考えが尽くされているとは言えず、結果として元々のコンセプトがぼやけてしまっており残念だ。

というわけで最初の2章は、それぞれ1作だけ読めばいい。後は壮絶なる時間の無駄だ。
第3章は、マジシャンズ・チョイス好きの人には面白いやもしれぬ。Hector ChadwickやJoshua Quinnの扱いに似ているが、より発展の可能性を秘めている。

しかし高価であるし、殆どの内容がおもしろくない繰り返しであるので、読む価値は無しと言いたい。少なくとも、もっともっと面白い本がいくらもある。



しかしこの方、The 100th MonkeyやTossed Out Book TestなどBook Test関係のかなり新規性・不可能性の高い(らしい)のを出してて、そちらはまだ気になっている。

普通なら本を読んだらある程度まで手の内が分かるので、他作品を買うかどうかの判断もしやすくなるのだけれど、なにせこの本、手法的な側面は全くといっていいほど記述がないのでね。

2014年6月27日金曜日

"Crimp issue 1" 編・Jerry Sadowitz




Crimp issue 1 (編・Jerry Sadowitz, 1992)


現在ではもはや一般販売していないながらも、1992年から連綿と続くJerry Sadowitz発行の同人雑誌。その第一号である。

ジョークやナンセンスが盛り込まれたA4の8pp。文字もレイアウトも手書き・フリーハンドで読みにくい事この上ないが、幸い手順に関しては可読。ギャグについて書いても仕方ないしそもそも僕の英語力ではよくわかんないというのが正直な所なので、さらっと手品だけ紹介。


Sadowitz自身の手順はないが、どの寄稿作もよく考えられている。SadowitzのCards on the Tableでは観客をうまく引き込んでいく演出、ひねったプロットが良かったが、この冊子もそういった基調が保たれているようでうれしい。

ただし今回はきわどい演出もあって、少しばかり大人向きです。


マジックは(読み逃してなければたぶん)3作。

BROTHEL!:Fred Fotzstone
 売春宿。というタイトルの、大人向きな演出の手品。
 ところがこれ演出が本当に面白くって、大変気に入りました。
 20年前だとこのオチはブラックだったのでしょうが、今だとちょっと違った感じに受け取ってもらえるかもしれません(一部の人には、ですが)。

Challenge Conditions:Raj Patel Jr.
 コインを片手で握り込んで”消した”ように見せるための策略。

Sherlock Never Married:Peter Duffie
 マリッジプロット。挿絵がひどすぎるw
 最近、それまでずっと嫌いで仕方なかったプロットに、急に面白い作品を発見する事が続いているのですが、これもそう。数理トリックと手指のマジックとを上手く組み合わせており、見た目シンプルで、わかりやすく、不思議で、さらにパンチが効いてて面白いです。


こういうことするとSadowitz先生に怒られたりするのかしら。
ともあれ、プレミア価格を出す価値があったか、つまり世に知られていない原理や技法やプロットやなにかほんとうに"不思議"なものはあったか、と言われれば否なのですが、内容はとても面白かったです。これが普通に読める世界であって欲しかった。

特にBrothel!は大変気に入りまして、珍しくレパートリー直行です。
もし何かの間違いでお会いすることがありましたら、例の売春宿の手品ってできます?と言ってもらえればできるかもしれなくないかもしれないです。


2014年6月26日木曜日

"数学で織りなすカードマジックのからくり" パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム








数学で織りなすカードマジックのからくり
(パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム, 2013)



Magical Mathematics (Persi Diaconis&Ron Graham, 2011)の和訳。手品関連本にしては素晴らしく早い翻訳です。

実は元本も買ってます。だってあのDiaconisですよ。伝説的なまでに高名ながら、手品作品などでの露出がほとんど無かった彼ですよ。そんなの名前買いするに決まってるじゃないですか。

で、いつもだと原書持ってるならあえて邦訳版買わなくてもいいやん……、というスタンスなのですが、これは扱う数学の話がちょっと難しくて、英語では追い切れないまま積んでいたのでした。というわけで邦訳に飛びついた次第。


邦語版については、いろいろと残念に思う点もあります。

①装幀がチープ。ソフトカバー本文白黒。原書は布装ハードカバー、フルカラーでたいへん素敵。
②ピーター・フランクルが邪魔。帯の推薦文への登場はいいんですが、なぜ本体ソデにもあなたの写真がありますか。DiaconisとGrahamの近影は無いのに!
③手品部分の翻訳に少し違和感。「5枚のカードの心理的圧力」とか、エド・マーロとか。

原著書影。かっこいい!

とはいえ、訳が出たのは大変めでたい事でして、これらのちょっとしたマイナスなんて吹き飛んでしまいます。後述しますが、マジシャン向きの本という事でもないようですし。


マジック的な内容としてCATOやギルブレスの解説と発展系、各種の規則的なシャッフル(Faro、Klondike、Down-Under他)、それから『数理奇術師列伝』と題された、有名な数理作品をものしたマジシャン達の小史。またジャグリング枠として、基本的な3ボール・カスケードの解説と、サイトスワップ(と呼ばれる分野があるんです)の数理的な解析。

Diaconisがその遍歴の中で蒐集し、厳選した作品の中には著名マジシャンの未発表作なども多く含まれています。『未発表作』という単語だけでご飯が食べられるマニアにはたまらない内容です。またそれにもまして『数理奇術師列伝』で活き活きと描写されるマジシャン達の様子や彼らのペット・トリックは、Diaconisでしか知り得ないエピソードや、詳細な研究に基づいており、マジックの歴史を知る上でも大変面白い内容です。

ただ作品全体という意味で見ると、特に数理解説の章での手順は、良くも悪くも数理マジックの範疇に留まっていると思います。現象に対してあまりに手続きが長く、純粋な驚きはどうしても減じてしまうというか、数理の気配が見えてしまうと思います。ただまあ、それはマジシャンのみからの観点であって、Diaconisたちの目標は『数学としてもマジックとしても面白い作品』なので仕方ないでしょうか。いくつかの原理についてはその発展系やより統一的な形なども明かされるのですが(ギルブレスの究極原理など)、それが分かったら面白いマジックが出来るか、というと別でしてまあ難しい所です。

原理の解説はかつてない程に詳細で、私にはちょっと高度すぎる箇所もありました。元々プリンストン大の出版部から出ている本で、どちらかというと数学徒を対象にしているのではないかという感じがします。用いられる数学は主に離散数学なのですが、『離散数学は簡単!この前やったスイスの学会・合宿でも、博士取れたての人が素晴らしい発表をした。だから君も飛び込んでおいでよ!』みたいな文言があり、想定している読者レベルがとても高いのではないかと。また、数が違う場合の証明は自分で考えてみて、とか、実はこれは未解決なので取り組んでみてほしい、という箇所も多いです。

というわけで、数理原理の解説にあてられた章は、どちらかといえば数学科の生徒や、数理原理を用いて創作するクリエイター向きと思います。個人的には数学読み物を読んだような気分でした。数学界というのは凄く高尚な事をやっているのだろうなあという思いがあったのですが、ただ一組のトランプから未解決問題がぽんぽん出てきて驚いたり。数学には『分かっていない事』がまだまだたくさんあって、それが日常にも多く潜んでいる事、そして数学屋が世界を見る視点のようなものがかいま見えて面白かったです。語りも平易なので、数式などは読み飛ばしても面白く読めます。


レパートリーを増やしたい、たくさん数理マジックを仕入れたい、という人には向いてないと思いますが、一流の数学者がマジックをどう見ているのか、我々が親しんでいる原理が実はどれだけ奥深い物なのかなどが分かりますし、また有名な過去のマジシャン達のエピソードも読み応えがあり良い本でした。

なお、最も優れた一般向き数学書に送られるというオイラー賞を2013年に受賞しているそうです。




>追記

伝説的と言ったDiaconisですが、本当にぶっ飛んだ経歴の人です。そのあたりは石田隆信の『パーシ・ダイアコニスの奇跡的人生とマジック』に詳しいです。一読の価値有り。

2014年5月16日金曜日

"Mnemosyne" Vincent Hedan



Mnemosyne (Vincent Hedan, ?)


フランス(たぶん)のプロマジシャン、Vincent Hedanの無料配布作品集。

Mnemonicaを用いる、というとメモライズド・デックかと思うがさにあらず。
フルデックの配置を覚えている必要はない。そうではなく、ある決まったスタック(今回はMnemonicaに手を加えた物)を用い、後段のためのセットアップを再構成しつつ進む、一連の手順である。


SetUp!
 Mnemonicaスタックだが相当に手を加える。

First Chance!
 いわゆるTantalizer。

Illusion or Reality!
 観客がカットしたところから、4枚のQが出てくる。
 Peter Duffieの素敵な4Aプロダクション。これは最近別所でも見かけたが、観客の手の中で変化が起こったように見える面白いアイディアを用いている。Duffieやるじゃん。

Four Errors!
 観客がカットしたところから4枚のAが、……出てこずに、特に意味のなさそうなカードが出てくる。
 しかしその数値に合わせて配ると、それぞれの箇所でAがでてくる。

※この時点で、かなりの程度 Mnemonicaに戻る。少なくとも上半分は、1、2枚入れ替わっている程度。

Kingdom Hearts!
 スート・プロダクション。

Shuffle Bored!
 AronsonのShuffle Bored。つまりスート・プロダクションを行った後でなお、スタックは残っているということ。


 手順全体を通して使われてきたデックが、しかしまだ規則性を保っているとは、マジシャンにすら看過できないだろう。もちろんそれには、途中の手つきをごく自然に行う必要があるし、現象が終わったときにカードを戻す順番や、また『手癖』でのカットなどを絶対に許さない、など大きな制約があり難易度は高い。デックの並びを覚える必要がないとはいえ、結局は操作などで覚える事は多いのだ。

 とはいえ序盤から面白い現象の連続で、これはしばらく秘密にして、練習しようかなあとも思ったのだ。ただひとつのクライマックスでもあるKingdom Heartsが今ひとつよくなかった。スート・プロダクションなのだが、Mnemonicaベースのスタックに依拠するため、出現させる方法がかなりまちまち。普通にカットして出したかと思えば、スペリング、間違えて出したカードの数値分配る、などが統一感無く混ざっていて、どうにもぱっとしない。

 4枚のQ出し手順のあと、4枚のA出し手順というのも、ちょっと問題か。先のスート・プロダクションの問題と同様、うまく台詞を選ぶことで解消できるとはおもうのだが、残念な事に演出面についての記述はほとんど無い。
 なので、このセットリストをそのままなぞっても、酷くいびつにしかならないだろう。このあたりを自分で料理できる人でないとしんどい。しかも1手順内の整合性だけでなく、手順同士のつながり含めて演出を練らねばならない。
 人によっては、どうしてもキャラクタに合わない事もあるだろう。


というわけでなかなか難易度の高いノートだった。
部分を置き換えるのはなかなか難しいが、個々の手順はスタックと関係なしに演じても割と面白そう。基本、人様の手順なので、それを無料配布はちょっとどうよ、と思わなくもないが。

また手順を通して目的のスタックへと再変換していく、という手法については、Denis BehrのHandcrafted Card MagicにFinding the Way Homeとして原理的な説明がある。本書はその実践例のひとつとしても良いサンプルであった。


2014年5月8日木曜日

"Ever So Sleightly" Stephen Minch






Ever So Sleightly 
The Professional Card Technique of Martin A. Nash (Stephen Minch, 1975)



Hermetic Press以前のStephen Minchによる、Martin A. Nashのマジックを解説した3部作、その名高い1冊目。



Martin A. Nashはギャンブル・デモで名高いテクニシャンだが、真性のいかさまテクニックというよりも、「一般の人が想像するようなカードのいかさま師」を体現したようなキャラクタらしい。

なので超絶マニアックなリフル・スタッキングなどは(少なくともこの本では)用いておらず、現象もすっきりしている。
だが技巧派である事は間違いなく、技量の限りを尽くして「Charming Cheat/魅力的ないかさま師」のキャラクタに見合った、端正な技法と手順とを設計しているようだ。


前半は技法、後半は手順といった構成、130頁とページ数は少ないが、判型自体は大きい。

技法は「ダブル・リフト、およびその後の扱い」「パケット・スイッチ」「マルチプル・シフト」など。
このダブル・リフトの章がすばらしい。Knock-Out Doubleはゲットレディ不要のダブル・リフトではひとつ完成系とも言えるであろう美しさ。
ダブル・リフト自体はこれ一種のみしか解説されていないが、そこには「これですべてまかなえる」という力強い自負が感じられる。一方、その後の処理方法(表にしたカードの裏返し方)は複数解説されている。なかには非実在技法としか思えないのもあったりするが、ここも全体的によい。ただしすべての技法がメカニック・グリップを前提としている点だけは、合わない人もいるかもしれない。
(※メカニック・グリップ:ここでは深いディーリング・ポジションのこと)


一方、手順の方はこれがあまり面白くなかった。


……と思ったのだが再度よみ直し、なぞり直すとけっこう面白かった。
少なくとも構成は美しく理想的。ただしテンポを間違うと観客に疑義を挟まれやそうで、またそうなると極めてもろい印象。
Minchのイントロでもそのような描写があるが、Nashはオープニングから完全に相手を圧倒し、穏やかに、だがしっかりと手綱を握って牽引していくタイプなのであろう。不思議・不可能というよりも、凄いタイプのマジシャン。そういう人にとってはよい手順と思う。


手順は人を選ぶが、Double Liftの章は面白かったし、これだけでも読んだ価値はあった。特にKnock-Out Double Liftからの2nd Replacement:Dropのコンビネーションはほんとに良いです、美しい。練習します。
手順についても、目的と演出を見失わなければ、人によっては強力な武器となると思う。


なお筆はStephen Minchなんだけれど、あまり読みやすくはなかったです。名高いTable Riffle Faroも解説されているけれども、およそ見たままであり、あまり特別なコツとかは書かれていなかったかな。個人的には、先に書いたようにDouble Liftがよく、元は取れたと思ったけれども、大枚はたいて探し求めるべきかというとやや微妙なラインかもです。