2012年7月12日木曜日

"Close-up Illusions" Gary Ouellet






Close-up Illusions (Gary Ouellet,1990)


Silver Passageなどの冊子で有名なGary Ouelletの、唯一まとまった本。本書の最後では、次の本にも触れているのだが、それが形になることはなかった。
Silver Passageの別エンディング、Finger on the Cardのバージョンアップ版、詩的なワンコイン手順Silver Dustなどを収録。また数々のカード・コイン・スポンジ・シンブルの技法や、マジック理論、ちょっとしたヒント集などが納められている。

さて、世評も高く、また演技動画が実にすばらしかったので、とても期待していたのだが、うーんいまひとつ。


おもしろい本だが良い本ではないなぁ。


いろいろと悪い所はあるのだが、順番にいこう。

1・手順がほとんど無い。
2・あまり情報価値のない記述が多い。
3・過去作への言及が多い。
4・記述が前後する。
5・マイクって誰だよ。


1・手順がほとんど無い。
のは実に残念。解説内容のほとんどは技法で、しかも改案形が多い。
Krenzelのような、これ何処に使うねんってオリジナル技法も、それはそれで困るのだけれど、フレンチドロップのヴァリエーション、各種カウントのビドルグリップ版、など地味すぎるのばかりでもなあ。しかも改良か個人的な好み(Personal Touch)か微妙なラインの物も多い。
手順もいくつかあるにはあるが、かなり肉を削ぎ落としたタイプがほとんど。
シンプルなのは悪くないが、事前に知っていた手順がSilver Dust、Silver Passageと、魔法的な意味づけに凝った作品ばかりで、そういうのを非常に期待して手に取ったので余計に残念だった。


2・あまり情報価値のない記述が多い。
この技法はいい技法だとか、単売するべきとも言われたがここで発表するとか、誰々とどこどこに居るときに思いついて云々、というのは背景としては面白いのだけれどあんまり多いとちょっと退屈。同じ成立背景なら、技法の狙いや目的にも、もう少し紙を割いて欲しかったなあ。


3・過去作への言及が多い。
単品冊子として発売されているSilver Passage、Finger on the Cardの追加や別手法が書かれてるのだが、変更部分だけで肝心の手順は一切解説されてない。つまり単売冊子を持っていることが前提、という本。なのでこれ一冊だけではいかんともしがたい。うーん。気持ちはわかるのだが不親切。


4・記述が前後する。
解説などにおいて『ここでxxx Change(この章の最初で解説した)を使い、次にyyy Switch(この章の最後で解説する)を使う』みたいな事をよくする。
前者はともかく後者はちょっといただけない。


5・マイクって誰だよ。
『この技法はマイケル・ギャロが父ルー・ギャロと共に開発した物でアポカリプスの××号に掲載された(マイケル・アマーその他が実にうまく演じる)。初めてマイケルがこの技法を見せてくれたのはFFFFの会場で』
 うん、見せてくれたのはどっちのマイケル?
まあこれはあえて章立てするほどでもないのだが、ちょっと面白かったので。


なお、既存技法の自己流版、過去の発表作への追加、だけでなく、ヒント集、マジック理論、演技論なども書かれている。いままで見た中でよくなかったレクチャーの例や、レクチャーをする際の方法論、オリジナルやクレジット問題(でのいざこざ)などの章では、その筆致ににじみ出る怒りを感じた。


 またClassic Palmは一部の選ばれた人だけのもので、たいてい不格好。本書では使わない。代わりにFinger Palmだけ使う。French Dropは全然不思議に見えない。アードネスは面白いが古文だから初級者に勧めるとかやめろ、とかいろいろ過激っぽい発言もある。

また、ないがしろにされやすいが超難しいんだぞ、とフェイクパスの解説を詳細にしたりするあたり、ちゃんとしたコンセプトの入門書とか書いて欲しかったなあ。


 上記1~5 の通りマジック本としては今ひとつだったのだが、等身大のOuelletが現れているという意味で、非常に魅力のある、読み物として面白い本だった。




 Ouellet唯一のハードカバー本なので、これがあればOuelletはカバーできる、Ouelletの集大成、と思ったのだが、違うみたい。
 完成した手順なんかは冊子で発表されており、そのバックグラウンドに存在するOuelletのパーソナリティであり、技術的なタッチなりを補うのが本書なんだろうなあ。つまりハードカバーの外見だが、実は出版済みの各作品を繋ぐ、壮大な補遺に近い。そういう意味で、これ単体じゃあマジック本としての成立度は低いと思う。Ouelletと夜中に技法や議論を戦わせたり愚痴を聞かされたりするようなおもしろさはあったが。



あーしゃあないし、他冊子も買おうかなあ。


どうでもいいが途中の版で形状と表紙が変わったらしい。
昔のやつの方が好みだなあ。

今のやつは謎の人物と目があって怖い。あれ誰なんだろう。

2 件のコメント:

  1. こんばんは。

    これってビデオとセットのやつでしたっけ・・・?
    でも何故かビデオだけを持っていたような記憶が。

    確かにフレンチドロップのバリエーションは無駄と思えるぐらい多かったですね。
    パラダイス・カウントは割りと実用的で、今でもよく使っていますが。
    ヒラタ・マスタームーブも載っていましたかね。

    愚痴やエピソードの多い本、それはそれで面白そうな気もします^^

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  2. >Shanlaさん

    実演ビデオ別売です。よって僕は未見。
    笑顔の素敵な、理知的で物静かな人、という印象だったのですが、けっこう荒っぽい物言いもあったりして意外でした。

    フレンチドロップは、Ouellet版が出来るまでに影響を受けたヴァリエーションが連綿とつづられていて、そういう意味ではとても面白かったです。

    ヒラタムーブ難しいです(笑
    全体的に、解説はちゃんとしてるものの、表現したいことがあまり書かれていないので、なかなか難しい本というか、Silver Dustも実演見れてなかったら印象に残らなかったかも。

    Crook Doubleはやってみるとなかなかでした。軸の(一見すると)定まらない回転は、ラフに見えますね。あとSound Effectっていうコイン技法は、いつかマスターしたい。クリックパスの亜種なのですが、たくらみがマニアックすぎて素敵です。

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