2012年12月26日水曜日
"The Paragon Move" Lewis Jones
The Paragon Move (Lewis Jones, 1992)
Lewis Jonesによる汎用技法Paragon Moveと、
それを用いたトリックを10コ。
名も知らぬ本である。
何で買ったのか、と言われればまあ、二つほど理由はある。
ひとつは今をときめくAragonの本でも買おうかと思って検索したらヒットしたということ。もうひとつは著者であるLewis Jonesの本Seventh Heavenを、あのIan Rowlandが褒めていて、ちょっと気になってたこと。
ああ、あともう一つ。
何となく技法に飢えていたのである。
たまにあるよね?
それで、JonesのParagon Moveだが、うたい文句も華々しく、フォース、スイッチ、キーカードプレイスメントグライド、ラッピング、スチールに使用でき、現象はマッチングからOpen Prediciton、電話越しのトリック、ブックテストまで収録されている。
でもね。
それって言い方次第でさ。たとえばダブルリフトであれば、もっと広範な用途に使えると言っても良いわけで。
うんまあ何が言いたいかというと別にブックテストにトランプ使う必要は無いよ。特にトランプでマジックが一つでも出来る人、あるいはそう思われている人は。まあOpen Predictionとかは割と良かったのですけれども、使用できる現象の幅広さはわりと卑怯であるというか、全体的に、別にParagon必須とか、Paragonによる改善効果たるや、って程でも無いのだ。
そのうえParagon自体が簡易なMoveで有るくせに、手順はパーム使ったりして難しい。ちょっと見ないパーム保持でそこは少し面白かったけれどね。
作品自体は可も無く不可も無く。ちょっと理由の不明な回り道があったりするものの、ハンドリングが見えない綺麗な手順。ただ、綺麗ではあるのだが、予想を上回ったり予想を超えたりする箇所は無かった。
で、Move自体なのだけれど、これはKelly Bottom Placement/Ovette Master Moveから展開する技法。発展ではなく展開なのがポイント。
ぼくはあまり、というか殆ど発想力に恵まれた人間では無いのだけれど、それでも本書で解説されているのに似た動きはした事がある。なので、少し慣れた人なら絶対にやった事はあるはずであり、またその特別な用法が示されるわけでもないので、正直うん、読まなくて良いよ。この技法をこういう名前で発表した人が居たんだなあというくらい。
悪い技法、用法では無いが、あえて洋書にまで手を出して読む必要は無いかと思う。ただし初心者用の本などに収録されてあれば、けっこう便利で、マジック習得の一時期にお世話になったかも知れない。実際、似た技法はたまに使ったりする。
ボトムパームの速さと、あとStrokeっていうGlide的使用法はわりと良い。
技法の簡素さに較べて、手順はわりと度胸を要求されるので、その点でもちょっとバランスが不思議。誰に向けて書いた本なのだろう……。
2012年12月19日水曜日
"Cards on the Table" Jerry Sadowitz
Cards on the Table (Jerry Sadowitz, 1989)
奇人Sadowitzのカードマジック作品集。
Sadowitzはイギリスのマジシャンでありコメディアン。マジック界では、作品盗用についての偏執狂的な言動で知られるようになってしまいました。一部、彼と仲の悪い人々からは狂人扱いされたりもしています。
実際、Sadowitzのサイトなり、彼が発行するCrimp Magazineの表紙なりを見ると、かなり危険な空気が感じられますが、一方で作品自体の評価はとても高い。
日本では、実践カードマジック事典にMr.E.OZO名義の作品Out of Sight が載っていますがこれがまた素晴らしいのです。ただこれ、無断で掲載したみたいで、こういう諸々がSadowitz氏の他の作品に触れることを一層困難にしてしまっているわけなのですが……。
残念ながら、それやこれやがあって、Sadowitz氏は現在、極めて限定的にしか作品を発表していません。前述のCrimpも入手困難です。いまでも一般的に手に入るのは、このCard on the TableとCard Zones(Cards Hit などの冊子を合本、Peter Duffieとの共著)の二冊。
このCard on the Table、裏表紙には”彼の最初のハードカバー本だぜ”とか書いてあったのですが、私が入手したのはソフトカバーでした。2003年の復刊版だからでしょうか。ちょっと損した気分でありつつも、自らがハードカバーだと主張するソフトカバー本という撞着した物体に奇妙な愛着も覚えつつあります。
あとLybraryでe-bookも出ていますが、Sadowitz氏は、Martin Breeseに許可したのは実体版の販売のみで電子版は契約違反だと言ってたハズなので、e-book版の購入は控えました。
さて本書は二十と少しのカードマジック+技法を解説した本。
いやねえこれがめちゃくちゃ面白かったのですよ。比較的クラシカルなプロットに対して、どれも面白いアイディアやひねりが加えてあり、実に不思議に仕上がっています。
アニメイト、カード当て、スペリング(?)+マインドリード、Out of This Worldの変種、トランスポジション、時間逆行(?)、トライアンフ、財布に通うカード、ギャンブル、Out of Sight Out of Mind、ユニバーサル、トーンアンドリストア、マリッジ、ピプスの移動、アンビシャス、カード To ポケット、エスティメーション。
もうほとんどの現象を網羅している気がします。その上で、7~8割方が身につけてみたいと思わせる内容。なかなか無い事ですよこのクオリティ。
二つ三つ紹介を。
Aces in King 赤と黒のAのトランスポジション。でもAだけだと、畢竟、持ち替えるだけで交換できる。それじゃあ簡単だから、と、どんどん条件を足していく。まず赤のAは赤のKの間に、黒のAは黒のKの間に挟む。さらに赤はデックの中に入れて触れなくしてしまう。この条件下でも、黒のパケットがデックに触れた瞬間、黒のKから赤のAが現れ、デックを広げると赤のKの間に黒のAが挟まっている。
自分でハードルを上げていく辺りのセリフとやりとりが面白くて、お気に入りです。
The Backward Card Trick 一般的なカード当てを逆回しで行う。観客のカードを当ててから、観客にカードを引いて貰う。奇妙。
The Healers 破いたカードをQの間に挟むが、次の瞬間には元に戻っている。現象自体と処理が並列して行われ、ほとんどエンドクリーンなのが素敵です。
Name A Card Triumph 選ばれたカード、ではなく、相手が言ったカードで行うトライアンフ。Benjamin EarlがDVDで似たことをやっていますが、Sadowitz氏は自分へのクレジットが不十分だとえらくお怒りでした。
こんな感じでどれも面白いのです。こういう”不思議さ”やプロットとしての”求心力”のようなものは、プロとして実際に使う手順だからこそでしょうし、またセンスに依るところも大きいでしょう。すっかりファンになってしまいました。
ハンドリング、現象、演出に不合理な点が少なく、そこも好みです。
手法としてはターンノーバーパスや、ダブルディール、ボトム+トップのターンノーバーなどが多く、なかなか難しいものもあります。また解説されていない技法もあるので、ある程度の知識がないと大変かも知れません。
全体にWaltonの影響が顕著ですが、個人的な感想としてはWaltonよりもSadowitzの方が格段に面白かったです。
これは私自身の読み取り力と、Waltonの非常に簡素な記述スタイルのせいもあるのでしょうが、ひねりもアイディアも単発ぎみで実験的なWaltonより、それをしっかりとしたプレゼンテーションと構成でマジック仕上げているSadowitzの方が即戦力であるのは間違いないです。
なんで、Complete Walton 復刊の報も聞きましたが、まずはCards on the Table を手に取ることをお勧めします。決して、古本で集めた直後に復刊とかやめてくれよ、とかそういう僻みではありません。
という訳でSadowitzのCard on the Table でした。面白かったー。正道から外れた、ちょっとひねくれた感じがあるのですが、そのひねりが相手の興味を引くような形で上手く演出されているのが良かったです。
カードの本というとPit HartlingのCard Fictions という実にどうしようもなくハイレベルな本があって、それを超えるのは非常に難しく、このSadowitzの本もあれほどの不思議ではありません。手法もプロットも、一般的なカードマジックの流れにあるため、マニアも引っかけられる作品というのはあまり多くはない。
けれど、だからこそ、「いわゆるカードマジック」の本としてはCard Fictionsより優れていると言ってもよいかもしれません。
こういう本こそ和訳してほしい、なんなら和訳したいくらいなのですが、Sadowitz氏にこのあたりの話題を振る勇気は持ち合わせていません。
2012年11月29日木曜日
"Card College volume 5" Roberto Giobbi
Card College volume 5 (Roberto Giobbi, 2003)
碩学 Giobbi の開催するカードカレッジ最終巻。
このシリーズ、邦語版も4巻までは出ているのだが、最後の1冊は現在でも未訳のままである。日本語版の4巻刊行が2007年、これだけ待っても出ないのだから、たぶんもう出ることはないのだろう。リファレンスなどにも良く使用され、読み返す事の多いシリーズなので、できれば日本語がよかったのだが仕方ない。あきらめて英語版を購入した。
少々さかのぼって、カードカレッジそのものの紹介から始める。
著者のRoberto Giobbiはカードを得意とするプロのマジシャンであり、怖ろしいまでの勉強家としても有名である。多言語国家スイスの生まれ、マジシャンになる前は翻訳家をしていたというその技能を現職でも存分に活用し、有名無名の種々書籍はもちろんのこと、マジックの定期刊行誌も5~6ヶ国分は購読しているというからとんでもない。
そのGiobbiがカード大学の名で展開したのがこの一連のシリーズ。本編 全5巻と、セルフワーキングのみで構成されたライト・シリーズ全3巻の計8巻からなっている。
本編は、そもそものカードの持ち方、配り方、めくり方から始まり、シャッフル、ダブルリフト、パーム、カルから、果てはGreenのAngle Separationのようなマニアックな所まで押さえている。マニアックとはいえ、Krenzelの謎技法(Two Card Fan Lift Switch Reversal Palmとか)のようなものはなく、どれも使いどころは広い。ある一定区分の技法毎に章分けされており、章末にはその技法を使ったトリックがそれぞれ2、3品解説されているのが普通だ。
この本の内容をマスターすれば、それだけで世界のカードマジシャン上位20%に入れるというふれこみであり、その謳い文句がおそらく正しいという、とんでもないシリーズである。
かくも凄い本ではあるが、決して無条件に薦められる本ではない。目的が目的だから仕方ないのだが、殆どが技法の解説に費やされていてトリックはごく少なく、特に一巻のみだとその傾向は顕著である。カードカレッジだけからカードマジックが出来るようになるかというと、個人的には少しく疑問だ。比喩としてあまり適切でないかもしれないが、文法書だけでは外国語の小説が読めるようにならないのに似ている。
5巻を買ったのには、その間隙がこの巻をもって埋まるのかな、という興味もあった。
なにせ5巻は趣をがらりと変えて、その殆どがトリックの解説に費やされている。
解説されるのは34品のカードトリック。このために構成された物では無く、Giobbiのレパートリーからというのも期待が持てる。
結論から言うと非常に疲れた。
文字が小さいうえに、詳細なハンドリング解説も全手順でとなると流石に辛くなってくる。それぞれのトリックで焦点となる”コンセプト”だけを詳細に説明してくれれば、あとは勝手に応用するのだけれど。あるいは、単純な解説の後に、詳細な解説、という二段構えでもいい。全体像が見えないまま手順を微に入り細に入りやっていると、なにをやっていたのだか見失ってしまうし、手順を思い出したくても再読がしんどい。
ただしこれらについては、自分の語学力の問題もある。
もう少し本質的なところで問題と思うのは、トリックの全てがとんでもなくGiobbiタッチであり、かつそれぞれの完成度が高い点だ。Giobbiは一見するとクラシック主義、オーソドックスで美しいハンドリングなのだが、優等生のようにみえて実際は非常に個性的であると思った。
別所で読んだが「デックは可能な限り手から放しておく」というのが氏のルールとしてあり、同様に演技中に使う個別のカードもテーブル上に置くのを好む。スイッチはトップチェンジが多く、カウントよりもフォールスディール。
ここまでくれば判ると思うが、いまどき流行のマジックとはハンドリングの基底にある概念がかなり異なるし、難しい。単純に技術的な面もそうだが、これを平然と行うタイミングを作り出すのが大変だろう。
また微に入り細をうがつ説明によって、かえって手順に手の加えようが無く、息苦しい。
むろん、内容自体は一級品だ。
即席からしっかりした4A手順、メンタルにギャンブル、また最終章ではカラーチェンジングデックやルポール封筒も扱う。プロダクションやキッカーエンディングとして4Aの出現頻度がけっこう高いので、できれば4Aメインの手順がもう少し欲しい所ではあるが、総合的には実にヴァラエティに富んでいるし、スライト物から数理ものまでアプローチも幅広い。
ただしどれもGiobbiタッチ。
特に面白かった物を挙げよう。
・Knowledgeble Card, Coalaces Hofzinser Problemに基づいた2手順。どちらもあまり見かけない解法。一つはAがテーブルからほとんど離れない。もう一つはA4枚が1枚の選ばれたカードに変化する。
・Study for Four Aces 松田道弘べた褒めのChrist's Aces。確かに美しい。ただこれやGemini Twinsの改案なんかは、Bannonの方がより面白かった印象。
・The History of Playing Cards これは何というかちょっと凄い秘密だった。Giobbiならではというか、残念ながら日本語では出来ないが、うんちくとしても面白い。
・Fantasist at the Card Table 壮大なギャンブルデモ。さまざまなゲームでデモを行い、かつわかりやすい。手順が統一されていて簡単なのも良い。
・Happy Birthday Card Trick ハッピーバースデーを唄うとカードが出てくる。手法だけ見ると単なるスペリングトリックだが、こういうのを咄嗟に使えたらかっこいいだろうなあ。
・A Cardman's Humor 最終章が咄嗟の台詞やジョーク集になっている。文化に依存しない物を選考したとのこと。さすがに文法から違うとなかなか難しいが、"The cards are normal, but the magician is not"とか格好良すぎる。使う場所が無いが(笑
さてつまるところ、Giobbi個人の作品集なのだ、これは。
カードマジック事典後半のような、これまで学んだ技巧の発揮の場としての傑作集・素材集ではない。講義はまだ続いていて、いやむしろ基礎講座が終わってようやく、今度こそGiobbi先生の独演会が始まった感がある。
Giobbiの手順や構成に興味のある人は、買えばよいけれども、単純にカードマジックを、というのであればもっともっと刺激的な選択肢は他にある。Giobbiは比類無き知識の人であり、熟達した技巧と構築の人ではあるが、奇想の人では無い。
東京堂がこれを訳さなかった気持ちも、わからないではない。
また(一応)5巻で完結のはずなので、最後にひとつ結びの文句でもほしかったが、そういうのもなかったのでなあ。ざんねん。
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書評
2012年11月13日火曜日
"The Amazing Sally Volume 1 佐藤喜義作品集" 佐藤大輔
The Amazing Sally 1(佐藤大輔, 2012)
買いました。アンダーグラウンドの創作家、佐藤喜義の作品集第1巻。選りすぐりの15作品を解説。
カード14、コイン1、まあ作品内訳はべつにいいでしょう、ショップとかで見られるし。
紹介文で、”独自の世界観を形成している”というような記述が有りましたが、そのとば口として非常に考えられて構成された本であるなと思いました。
まず収録作が極めて少ない。創作家の作品集というと普通、JenningsしかりHartmanしかりWaltonしかり、とかく大ボリュームですが、実質、玉石混淆の状態になりがちです。その点、本書は点数こそ少ない物の、それぞれが、あるプロット、あるテーマ、ある仕掛けについて極限までバージョンアップさせた物になっていて、おまえこれ昨日思いついたんじゃねーのかと文句を付けたくなるような品は一品もない。どの作品も非常に深くまで作り込まれていて噛むほどに味がある。
ほとんど同一のハンドリングの作品もあったのですが、それはそれで、バリエーション毎に見え方が全く違っていて、改案手法などを考えさせられる物ばかりでした。
解説の筆を執るのはご当人ではないのですが、それが良い方に作用しており、微妙な箇所には突っ込みなり補足なりが入っていてわかりやすい。またクレジットも文句なしに詳細でした(※)。邦訳がある物は原著・邦訳版が併記されていて実に親切。
ただ、作品は、あくまで「トリック」と割り切られている印象。作品レベルはめちゃくちゃ高く、やっていて面白いし、マジックの友人を引っ掛けるには間違いなく即戦力で申し分ないのですが、一般の人に対して上手く見せるには難しい所も多いと思います。
夕暮れのステラが良い例ですが、「AとQが入れ替わる、重ねると表裏交互に混ざる、交互になったペアはマークが揃っている、さらにQの裏色が変わっている」。正直なところこれをどう演じれば良いのやら僕レベルの演技力では手が出ません。単なるびっくり箱にしかならない。
もちろん、不要であれば、演出力が追いつくところまで現象を削れば良いのですし、逆にこういう可能性を示してもらっているので、例えばトリネタにステラではなく、ステラの後にQの裏に「おしまい」の文字を出すというようなアレンジも可能なのでむしろ有り難くはあります。
ただ技法云々とは別のところで、初心者向きでは無いなーと思いました。
BannonのTwisted Sistersのような難しさと言ったら通じるだろうか?
噂のタウンゼント・カウントはカウントというよりディスプレイに近いモノを感じました。2回カウントせずともラフに両面見せられるのも良く、堅苦しいパケットトリックが急に軽やかになる印象。
現象面での効果も凄かったです。一読では見逃してしまいそうなカウントであり、実際カウント事典で読んだはずが全く覚えていないんですが、たった一面の差がここまで利くかと驚きました。
特にブラック・ポーカーは、自分でも不思議。他と違い変化が連続体であるというか、現実が歪むような感覚。普段なら扱いに困るギャンブル系ですが、裏色変化とは非常に相性が良いので、ElmsleyのA Strange Storyなど参考にしつつレパートリーに入れようかなーと考えています。
このカウントは、今まであまり活躍の場もなかったようですが、ここで可能性が示されたことで一気に流行るかも知れません。その際は皆様、どうかスピリットカウントのことも忘れないであげてください。
同書では触れられていませんが、スピリットカウントもタウンゼントと類似の面構成であり、よりカウント色の高い技法。互換性は高いと思います。ミッドナイト・スローモーションなどは、最初はスピリットでもよいかもなあと思ったり思わなかったり。この2種のカウントは最近読んだブランク (タナカヒロキ)などでも活きそうです。というかブランク はマイナー技法を使わないという縛りがあったようなので、ご本人は使っているのかもしれません。
対談も非常に面白かったです。御本人の口調を忠実に再現しているらしく、実にざっくばらんで、お人柄が伝わるような気がしました。
ともあれ。
確かに異世界の片鱗を見ました。自分のように家から出ないタイプの人間だと、なかなか触れる機会もないもので、書籍化は実にありがたかったです。
なおVolume.1と有りますが、今回の売れ行き次第で続刊も、とのこと。市場規模が小さいのでたくさん出すのは大変と思いますが、ソフトカバーでもいいので続刊希望。特に、インタビューなど読むと「俺は元々コインマンだったんだよ」との事なのでコイン比重が高いのがいいなあ。
いやーしかし面白かった。佐藤総、こざわまさゆき、そして東京堂からは澤浩(予定)と個性的な作品集が上梓されている昨今、この勢いが続くことを願います。Sally 続刊が怖い。ついでに、タナカヒロキ作品集とかアフェクションズ合本とかも怖い。怖い怖い。
※Jack-robats(J.J.J.J.Card Routine, 1985)はJACKROBATS(Deckade,1983)とは別ハンドリングなのでしょうか? 前者持ってないので何とも言えませんが。
2012年11月8日木曜日
”アウレリオ・パビアト レクチュアノート” Aurelio Paviato
アウレリオ・パビアト レクチュアノート(Aurelio Paviato,1989 ,前田知洋・訳)
マジックランド刊のPaviatoのレクチャーノート。大好きなんですよPaviato。氏のFISM Actは、比較的クラシックな手順にもかかわらず、初見ではまったく追えずに手ひどく幻惑されました。一歩先を行く巧妙さ、タイミングのずらし方などは何度見返してもほれぼれするほどで、氏の理論背景について著作を読んでみたいと長らく思っておりました。
で、なかなか扱っているお店がないこともあり遅くなってしまいましたが、先頃ようやく入手しました。邦語ではおそらく唯一の文献。洋書ではCarte E Moneteというまとまった本があるらしいのですがさすがにイタリア語には手が出せない。英語でもレクチャノートぐらいはあると思うのですが今まで見たことはないです。
で、内容に関してですが不満。
このレクチャーノート、技法二つ、手順二つ、エッセイであわせて12pと小ボリューム。
手順はサインされたコインで行うCoin Cutと、Fism Actでも演じていた3枚のコインの消失と出現。残念なことに手順は簡易な解説で、バニッシュ技法の解説などはなし。あの気持ち悪いレベルのヒンバーバニッシュ、なにかPaviato流のTipでもあるのかなあと期待していたのですが。
全体的に記述が散漫というか、文章構成が練られておらず、何を解説したがっているのかわかりにくい。議論としても重要なポイントが抜けていて、筆者の意図をくみ取るのにちょっと手間がかかります。
特にこのノートで最も重要な箇所であろう”手の検めについて”は、Paviatoがレッドへリングを用いて観客の思考を誘導するスタイル(未読ですがTamarizの言うMagic Wayと通底すると思われる)という知識がないと、この人は何を言いたいのだろうなあという感じ。
単純に僕の読解力不足もあるのでしょうが、どちらの手から検めるべきか、両手を検めるべきか、という点について、少なくとも文章だけでは議論がきわまっていないと思いました。
まあFism Actとか見返しながら読み直すと、氏の言いたいことも判ってくるのですが。
もちろんレクチャーノートってのは、その場で実演を交えて解説された物をあとで想起するためのメモ、という程度の役割なので、これはお門違いの難癖といわれても仕方ないですけれどもね。
あくまで副読本だと割り切れば、なかなか良かったです。じっくり読むといろいろと判ってくる。せっかくなのでもう一度くらいは読み返しましょうかね。日本語なので読むの自体は楽ですし。
しかし、もっと練られた文章で、
もっとたくさんの題材でもって、いろいろな話を聞きたかった。
イタリア語も勉強するしかないのかなあ。英語もままならぬというに。
スペイン語である程度置換可能とは聞くので、やはりネックはスペイン語なのだろうか。
2012年10月31日水曜日
"ジェイ・サンキー センセーショナルなクロースアップ・マジック" Richard Kaufman, 訳:角矢幸繁
ジェイ・サンキー センセーショナルなクロースアップ・マジック (Richard Kaufman, 2012, 角矢幸繁・訳)
Sankey Panky (Richard Kaufman, 1986)の邦訳。
やー面白かったです。
色々書こうと思ったのですが、困ったことに、僕が思ったこと、言いたかったことの殆ど全てが、すでに本の中で言及されてしまっていて書くことが無い。
無理に書こうとすれば、本文の引き写しに近くなってしまいそうですし。はてさて。
ともあれ、変人Jay Sankeyの初期作品集が、四半世紀を経て邦訳されたのです。
「何故いまSankeyなの? とよく言われたものです」と訳者後書きにもありましたが、僕もまたそのような最近の人間の一人でした。
Sankeyといえば乱脈なまでの多作とその玉石混淆具合、そして奇矯なキャラクターのせいでどうにも近寄りがたく、Revolutionary Coin Magic DVDは素直にすげえと感心しましたが、他方、カードものなどはもはや見る気さえ起こらなかったのが正直なところです。
何故いまSankeyなのか。
読んだら、解りました。それも最初の数ページで。
話は少し迂回をします。依井貴裕という推理作家に「歳時記」という作品があります。かなりの無理をしていて面白い作品なんですが、内容は今はどうでもよい。冒頭に奇術愛好家達が手品を見せ合うシーンがあり、そこで演じられる作品の一つにこんなのがあります。
カードケースに輪ゴムがかかっていて、その輪ゴムにサインをしてもらう(サインつきのシールを貼ってもらう)。輪ゴムをケースから外して揉むと消えてしまう。ケースからデックを出すと、デックには輪ゴムがかかっていて、その輪ゴムにはサインが……。
当たり前の道具立てで、取れる手法などごくごく限られているはずなのに、考えてもいっかな解法を思いつかない。類似の作品も見あたらず、当時の僕は、きっと手品の世界にはまだまだ不可思議な原理があるのだろう、と自分を納得させて解析を諦めたのですが、この手順のクリアさ、不可能さは実に印象的であり、正直に言うと小説そのものよりずっと心に残っていたのでした。
で、センセーショナルなクロースアップ・マジック ですが、はじめは買う気はなかったのですよ。たまたま友人と遊びに市内に出て、たまたま時間が余って大型書店に寄ったら、たまたま置いてあったので何気なく手に取ったのです。ページをめくって1作目の「溶け込む輪ゴム」。
思わず声を上げそうになりましたね。もう何年も前に読んで以来、ずっと引っかかっていた現象が目の前にあったんですから。
しかも作家の嘘も疑ったくらいの現象を、実に合理的に成立させていたのだから驚きました。
続く「輪ゴムにえさを与えないで」でも、当たり前の道具、輪ゴムとトランプが実にコミカルで不思議な姿を見せる。なんだよトランプの攻撃形態、防御形態って。あとはもうレジに直行です。
まあこれは多分に私的なケースですが、センセーショナルの題に偽り無し。今見ても、いや今だからこそ余計にセンセーショナルかもしれません。
これも訳者の方が指摘しておられますが、Sankeyの手順は、確かに奇矯で無茶もあるものの、同時にとても合理的で無理矢理なところがない。やたらアクロバティックな技法もあるんですが、フラリッシュ的な意味でのアクロバットとは違う。この感じは説明が難しいのですが、どうもSankeyの創作スタイルから来ているらしい。本人はこれを、後書きにてマテリアル・フィクションと名付けていました。
道具に命を吹き込む、という書き方もされていますが、それではただのアニメーションと混同してしまう。そうではなく、道具に命があると仮定して、その動きを想像する創作アプローチと僕は解釈しました。客側から見ると、道具それ自体が、その動きや現象に対して合理性を与えるという感じ。む、やはり難しい。同書を読んでもらえれば早いと思います。
この発想は本書全体を貫いており、他のアプローチでは決して世に生まれなかったであろう不思議な現象が目白押しです。
両手の間に透明のチューブを渡し、コインが手から手へ移っていく所が見える「見えない架け橋」、コインがゆっくりとお札を貫通していく「四次元コイン」、そしてかの名作エアタイトなどなど。実に独創的であり、また解法も美しい。
既存の技法を組み合わせた解決などでは決して無く、まさしくその手順・現象のための動作によって不可能が成立する。まるで初めからその形で存在していたかのような、完成されたものを感じます。
一方で、このアプローチには如何ともしがたい制限があるようにも感じました。
繰り返しますが、マテリアル・フィクションでは「属性を付与する」のではなく「属性が露わになる」。
つまり全般に道具自体が主役であり、主体なのです。マジシャンの意志なり魔力なりが介在する余地が無い。
たとえば、そうだなあ。
マトリックスであれば、カードとコインを使って瞬間移動を演出します。
そこではコイン・カードという静物、ただの物体であることが自明な物によって、不可能現象あるいは魔法の力がクロースアップされる。
しかしSankey流であれば、つついたコインが波打ちうねりだし、虫のようにごそごそと反対のカードまで移動していったような感覚といえば良いでしょうか。
もちろん全てがこうでは無いのですけれど、マテリアル・フィクションにのみ依って立つ作品には必然的にこのような側面が現れるのではないかと思いました。その自己完結性が、完成度の高さにもつながるのかも知れません。
うーん変な話になってきた。まあ演じる人次第ではあるでしょう。Sankeyの演技・プレゼンテーションが、こういった未知の属性の”デモンストレーション”といった感じが強いために、余計にそう思うのかも知れません。
ごちゃごちゃしたうえにあまり内容に触れてませんが、日本語文献ゆえ、まともな紹介は簡単に見付かるはずなんで、もういいやこれはこれで。
ともかく、見立てでも技術でもない、ましてや魔力でも無い、まったく異なったアプローチによる創作群は、わたし達の知っているマジックとはどこかかけ違っていて、非常なインパクトがありました。
革命的、の惹句に嘘はありません。
2012年10月29日月曜日
"Eni-Where"&"Therm-o-Chromic" Redek Makar
Eni-Where & Therm-o-Chromic (Redek Makar, 2011, 2011)
コインの資料は珍しいのですよね。
そんなわけでRedek Makarのe-bookをLybaryより2品。なんでまとめて取り上げるかと言えば、はっきり言って片方は単独記事書くのも面倒な作品だったんです。まあその点は追々。
あと今回、けっこう前に読んだっきりで、あまりちゃんと再読しないで書いています。
ご容赦ください。
Eni-Where(youtube)
っていうわけでこんな技法です。初めて見たときは魂消ました。
流石に何回も見ればわかるのですが、久々に綺麗でビジュアル。今風の、ややフレーム化程度が高い技法ですが、割に応用範囲も広そうだなあと思い作者への敬意も込めて購入。
黒白反転(黒字に白文字)という、e-bookでも印刷してしまう派にはキツい体裁なんですが、後でLybaryの方から「黒白って目がちかちかするよねー、よけりゃあ白黒版も送るけどー」とのことで印刷向きなのも手に入ります。
で、まあ何がこの作者の問題かというと、技法的には非常に良いのですが、解説がいまひとつ良くない。どういう状況なのかがわかりにくくて仕方が無いのです。コインだから仕方ない側面もあるのかも知れないですが……。
手順、オマケ手順は今ひとつ、というか文章ではたぶん良さが伝わらない所でしょう。
コンセプトとか書かれてあれば、文章での解説も意味はありましょうが、ハンドリング、それも大筋のハンドリングだけとあれば動画に勝てる要素はありません。写真も暈けていて、本としてはレベルが低い。
まあ技法は良いと思うのです。
それで
Therm-o-Chromic
こちらはスペルバウンドの手順。
プロモが超絶断片的でさっぱり像が見えなかったのと、Eni-Whereが少なくとも技法としては良かったので、よいスペルバウンドのアイディアがあればなあとこちらも買ってみました。
ダメです。
これはダメです。
序説の、「スペルバウンドはますますジャグリング的になっているが、そういう”見破れるか試してみろよ”的なものは嫌で、この手順は各段階が魔法に見えるようにしている」っていう所は共感できたし、期待も大きかったのですが……。
まずプロットがよくわからない。
2枚の同じコインの内、1枚だけが暖めるとポケットを抜けたり色が変わったりする、最後に財布が出てくる。同じように見えて1枚は特別な性質がある、というプレゼンでなんとか説明は付くのですが、無駄に複雑になっているような気がしてなりません。
だが何より、技法です。スペルバウンド時に、コイン同士をスライドさせながらチェンジする技法を使うのですが、音対策無し。音に対する言及もなし。無音でないスペルバウンドとかどうなんだろう。少なくとも個人的にはナシだなーと。
そんなわけでRedek Makarの2作品でした。他にも出してらっしゃいますが、動画も今ひとつだったし、買うことは無いかな。ちゃんとしたコイン技術と、アドリブ構成力を持った上で5回くらい読み返せば面白いような気もしてきましたが、僕にはその体力はありませんでした。
ただEni-Whereは良い技法です。練習、練習。
良い解説者と組んでくれたら良いのになあ。
2012年10月25日木曜日
"Curtain Call" Barrie Richardson
Curtain Call (Barrie Richardson, 2012)
Theater of the Mind, Act Twoから続く三部作の掉尾。カーテンコールの名に相応しい最後の挨拶。
近年で最も重要なメンタリズム・クリエイターの一人に挙げられるBarrie Richardsonの最新作にして、おそらくは最終作。
クリエイター的なおもしろさ、作品に使われる原理や技法という点では、前二作に劣るかも知れないが、単純に実用度・練度から見ると最も充実していると思う。
以前も書いたが、メンタリズムにおける「過剰な不可能性」を削いだのがRichardsonの大きな特色と考えていて、それはこの巻でも変わらない。シンプルなメソッド、不可能すぎない現象、充実したプレゼンテーションの解説。いわゆるメンタリスト然としたキャラクタを作らなくても、メンタリズムは演じられるのだなあと思えて嬉しい所である。
以前の2巻を踏襲しているが、いくつか異なっている点もある。
特に、今回はキーとなる技法・解法が存在しない。前2巻はいくつかの解法に則って創作が行われている印象だったが、今回は特にそういった感じはうけなかった。Richardson手順の難易度を上げているHellis Swichも無くて個人的にはありがたい。
また他の人の技法解説も多め。あまり手品の本を持っていない、と以前の巻にあったとおり、これまではクラシックを基にしたものが多かったのだが、本作では比較的新しめだったりマニアックだったりな作品の流用も見られる。
Allen ZinggのZingg Switchが解説されているし、Happy Peekはどの程度までかは知らないがAlain BellonのPeekをベースにしているという。このBellonのPeekは革装100部限定というとんでもなくレアなObsidian Obliqueに掲載されているらしいが、さすがにビレットピークにこんな金額、僕は出せないのでここで読めて良かった。またこのObsidian Oblique Peekはこれまたお高いAcidus Novus Peekのバリエーションらしいがメンタル、特にビレット周りは詳しくないので詳細は不明。
フルアクトの解説あり、と書いてあって大いに期待したのだが、実際にはアクトの中で用いられる手順それぞれの解説であり、つなぎ部分などを含めた物ではなかったのが少し残念。しかし収録作にはおおむね満足。
全体的に新規性や独創性はあまり感じないものの、これぞ彼の”決定版”なのだろうなあという、演じやすくクリアな手順が目白押し。CurryのBookTestのちょっとしたバリエーション(演者が紙面を見るタイミングが全くないように見える)や、嫌みの無い生者と死者のテスト、完全に混ぜられたデックを4人それぞれに1/4程度ずつ渡したあと、誰が何のカードを持っているか完全に覚えきるメモライズデモなどなど。
個人的には特に以下の2手順について、レパートリーへの編入を検討している。
Spoo-Key
三段階からなるホーンテッド・キー。握った手の中で回転、握った手から突き出してくる、そして最後に完全に開いた手の上でゆっくりと転がる。また各段で、そのまま相手に鍵を取り上げて貰えたり、相手の手に落とせたりと非常にクリア。
少なくとも文章で読んだ限りでは、一つの瑕疵もみえないホンモノの現象。やや古めかしいギミックを使うので、国内では手に入らないかも知れない。とりあえず海外の老舗に注文してみようと思います。
Impromptu Card at Any Number
単品販売もされていたらしいCAAN。
掲題の通りあくまでCAANで、配るのもマジシャン。決してACAANではない。が、しかしBerglas Effectの模倣という意味では極めて高いレベルにあると思う。
手法は非常に古典的で、このジャンルをちょっとでも調べた人なら誰でも知っているような物。新奇性という意味では全くもって肩すかしなのだが、技法の選択や条件設定によって非常に不思議に仕上がっている。
”自由に決めたカードが、自由に決めた枚数目から出てくる。マジシャンは何もしていないにも関わらず”
という現象を、怪しいところがなく、それでいて異常な技能もややこしい準備も一切必要とせずに達成しており、実用的にはほとんど最高の解と思う。
また、同一手順についてクロースアップ版とステージ版とが解説されている。手法は全く一緒だが、必要とされるミスディレクションの大きさの違いなどがプレゼンで調整されていて、これもいい勉強になった。
もうひとつ、いわゆるビレットや窓つき封筒のような紙物が非常に充実していた。ピークやスイッチの種類も多かったのだが、技法ではなく手順の話。
紙ひとつの簡単なもの、やや発展した紙ふたつでワンアヘッド使用のもの、発展的な手順といった風に、順に作例があげられていて、自分のような初心者には非常に親切。
情報をいったん紙に書く系統はあまり不思議にも思えず、これまで触ってこなかったのだが、ここで解説される手順はどれもRichardsonらしく、現実に有り得ていい不思議としてまとまっており珍しく食指が動いた。
もちろん不可能性が高いのもある。A Dessert and First Loveは、現象の説明を読みながらいったいどこでスイッチやピークが行われたのか全く判らず困惑してしまった。Bruce Bernstein、Bob Cassidyの手順の改案らしいが、あえてビレットに注目を集める構成は非常に面白いと同時に、フェアでもあると思う。
演出次第とは言え、書かせて直ぐに破るような手順は、やっぱりどうにもね……。
いかん、まとまりが無くなってきた。ともかく、不可能性・新奇性には欠けるが、まことに実用的なメンタリズムの本として非常に面白かった。
愛妻に「77歳の男が次の世代に隠し事をしていてどうします」と怒られたとかで、ますます筆致は軽く、惜しみない。本書で明かされたのは、実際、何年とRichardsonのレパートリーであった作品達なのだろう。
さて、勝手に三部作にしてしまったが、ひょっとしたらまだ次も来るかも知れない。Act Twoの時点で「もう出す物は全部出したよ」と仰ったらしいが、その後でこのCurtain Call だものな。個人的にはメンタルの教科書なんかを書いて欲しいのだけれど。
さらなる作品を密かに期待しつつも、ひとまずはRichardsonの三部作完結を祝いたい。
んで、いくつかの作品を身につけ、人に見せることでつないで行けたらなあと、
書斎派らしからぬ事を考えたりもした。
メンタルの醍醐味とも言える悪魔的な巧緻さはないが、それでも間違いなく、メンタリズムの一つの記念碑と思う。
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書評
2012年10月16日火曜日
"Card Fictions" Pit Hartling
Card Fictions (Pit Hartling, 2003)
こんな事ができたら、と思わないか?
例えば、そう。
テーブル板越しにトランプの色を当てたり、
10秒足らずで飛びきりのポーカーの手を仕込む、それも4人分同時に、だとか
テーブルに置いた山をはじいて、きっちり狙った枚数だけはじき飛ばしたり、
ぐちゃぐちゃの状態を一瞬で整列させたり、だとか
選ばれたカード3枚を、それぞれ山の中の好きな場所に自在に移動させたり、あるいは
相手の掌に挟まれたカードを、その腕時計の下に移動させたり、
混ぜられたトランプの列びを一瞬で覚えたり、とか。
残念ながら、この本を読んでも、こんなこと出来るようにはならない。不可能は、結局、できないが故に不可能なのだから。
けれど。
(同書、序文よりえせ抄訳)
Pit Hartlingによる7つのカード奇術。
本当は紹介したくない本なのですが、現在、日本某所で和訳・製本が着々と進行中とのことで、もはや隠しておいても仕方あるめえと取り上げた次第。
私的洋書ランキングにて、不動の地位を確立している一大傑作。これより良い買い物はしたことがないかも知れません。クラシカルな7つのプロットに対し、独自の解決を提示した作品集。それも解法のための解法ではなく、全てが一級品の作品に仕上がっているのだからとんでもない。
Hartlingというと、某所のダウンロードやLittle Green Lecture Noteなどでは、数理トリックやガフカードの手順が多いのですが、本書は基本的にオーディナリであり、技法による解決が殆どです。(デュプリケートや、事前の準備が必要な場合はあります)
私がこの作品集の何が好きといって、その独創性に加えて、現象のシンプルさ、そして一切怪しい動きをしていないように見える構築です。技法といってもATFUSなどは使われず、FaroやCull、Top Changeなど見えない技法ばかり。無意味なデックの持ち替えなどもない。
仮にタネが判らなくとも、動作の気配が伝わってしまうと、”まあどうにかやったのだろう”と思われてしまいがちですが、本書におけるHartlingの作品にはそのような臭跡がなく、なのに現象はストレートで壮大で、ただただ不可能に見えます。
もちろんその分、非常に難しい作品であることも確か。この中の一作品でも、無意識レベルでこなせるようになれればなあ、と思いながらも時間は虚しく過ぎて今日に至ります。特にいくつかの作品では、技法ではなく”頭”を使う場面が結構あるのですが、私はそちら方面がからきし苦手なのです。
作品以外にも、簡単なショートエッセイがありそれも面白い。
エッセイと言ったものの、その内1つは作品中で繰り返し使用される最も重要な”技法”の解説なので決して読み飛ばすなかれ。
また、比較的普通と思っていた作品もあるのですが、今回再読したところ、ある意味で尻すぼみ的な元現象に対し、適合するクライマックスを見い出す手腕の見事さに気付いてただただ感服。
全編がたくらみに満ち、無駄な物が一切と言っていいほど無い、珠玉の一冊。
なお原書は小振りな布装本。表紙にも小さな意匠があり凝っている。
黒と緑の二色刷。写真のHartilngの笑顔が、随所でまぶしい。
さてここで終わっても良いのですが、ここからの展開も紹介しておきます。
Master of the Messはとんでもないトライアンフですが、第1段がけっこう難しく、敷居が高いようにも思います。
Denis BehrがHand Crafted Card Magic vol.2にて、トライアンフ部分だけを取り出した作品Messy-The Director's Shuffleを発表しています。HartlingのChaos Shuffleは使っていないのでやや魅力に欠けますが、そのぶん手軽で実用性も高くなっています。
マニアックだったVol1にくらべると、Vol2は実用度が高く、輪ゴムのHerbert君も解説されています。お客さんがHerbertの名前しか覚えてくれないとBehr氏はお嘆きでしたが、僕も演じてみたところ、あっさりと主役の座を奪われました。
Color Senseは、初期状態の強調が難しい作品で、プレゼン力が低いと割とあっさりタネを見抜かれかねません。
この現象をベースにしたReds and Blacksという実に巧妙な作品が、Mental Mysteries of Hector ChadwickにてHector Chadwickにより発表されています。Hartlingのものが完全即席なのに比べて、こちらはセット(観客の前でもスタックできますが)が必要で、手順も入り組んではいるのですが、非常にドラマチックな現象に仕上がっています。
Mental Mysteries of Hector Chadwickは現在やや手に入りづらい状況のようですが、以前から絶版再版を繰り返していたのでまた出るかも知れません。仏語版は普通に在庫有りのようです。非常に緻密なメンタルの本で、細部の力を思い知らされます。
2012年9月30日日曜日
"ブランク" タナカヒロキ
ブランク (タナカヒロキ、2011)
ダブルブランクカードを使った4手順。必要なダブルブランク5枚、パケットケース(これも実は必要)、演技動画のURL入り。
収録作品は、ビジター、トランスポジション、カニバルカード、リセットの4つのクラシカルな手順のダブルブランク版。どうでもいいけどDBって書いてあるとダブルバックかダブルブランクかわからんのだな。両方とも使用する手順とかあったら困るな。
ダブルブランクを使い、技法難易度を低めのままに、かつ構成を複雑にしない、というマニアックな企みを、しかしかなりのレベルで達成しているよい冊子でした。各部、各動作の考察、ダブルブランク版の長所と短所なども詳しく解説されていて為になります。
やや解説が細かすぎてリーダビリティが損なわれている気もするが、まあそれは手品的な部分とは関係ありません。
企図はマニアックながら、出来た作品は非常に見栄えもよく、一般向きにも良いと思います。ブランクカードという時点で、とても特別な雰囲気が出ますしね。
ただ、ブランクの中に現れるたぐいの現象は、思ったより視覚効果が良くなかった気もします。Beeをスプレットしたときのような感じ、あまり枚数や、カード間の境界がはっきりしないせいでしょうか。
そういう意味で一番良かったのは”夜霧の中へ”(カニバルカード)。ブランクの中に消える、というのは上手く演じると非常にミステリアスで美しい。
またブランクならではのサトルティが横溢しており、これは生で見たら手ひどく騙されたんちゃうかな。出現部分だけ、前述の理由で余り見栄えが良く感じられなかったので、なにかしら別の方法を個人的に考えてみたいなと思いました。
他三作も、どれも面白いだけでなく、色々と自分でも考えたくなります。
*Lithopone:最初に置くカードを3枚から2枚にすると、一動作減らせる。
*Lithopone:ブランク4枚で構成すると、GHWのOptical Alignment Moveが使える。
とか前出の、カニバルでの出現段などなど。
面白いコンセプトで、出来た作品も面白く、また自分でも手を加えたくなるようないい冊子でした。こういう作品集がもっともっと国内から出てくれると非常に嬉しいです。この冊子の唯一の欠点と言えば、クレジットが不十分ということでしょうか。”夜霧の中へ”の1段目のサトルティは寡聞にして知らなかった(あるいは覚えていなかった)ので、原典があるなら知りたかったのですが。
とまれ、面白かった。おすすめです。
2012年9月25日火曜日
"Moe's Miracles" Dodson(?)
Moe's Miracles (Dodson?, 1950?)
Moeと言えば、スタック系が好きな人だとMove A Card Trickで名前を知っていると思う。逆にそれ以外では名前を全く見たことが無かったので、Lybraryで本書をみつけて興味を引かれついつい購入してしまった。
後で判ったのだが、これがなかなか問題のある冊子であった。Moeのウェブページ(http://www.moesmagic.com/)によれば、この$5 冊子は1932年にFrank Laneと話が持ち上がったものの、結局発表を拒んだものらしい。その後、何人かの手によって勝手に出版され、いくつかのバージョンが海賊版的に出回ったとかで、当人は手に取ったこともないのだそうだ。なお、Lybrary版もどこから引っ張ってきたのか書かれていない。Dodsonなる人物の追加手順が載っているので、1950頃に発行されたらしいDodson版であろうと思われる。
で、内容だがこれがまたいろいろな意味で酷い。
11の手順が解説されているのだが、表紙以外はTextで打ち直したらしくて味も素っ気もなく、1ページあたりA4で8~10行程度、下2/3は完全に余白×11pという構成で、電子書籍じゃなかったらあまりの余白量に訴えても良いレベル。
トリックの方はというとこれはもう完全にマニア殺しであり、手品の歴史の中で完全に『死んでしまった』手法を用いたロケーション・オンリー。というかあまりにも無茶で、解説まちがっとるんちゃうかと疑心が生ずる。
というか、実際、間違ってるかもしれない。
Moe自身が書いた物の他に、同じタイトル同じ収録作ながら方法はFrank Lane が創作した物があるとかなんとか。しかしその証言をするMoeはもう92歳だし信憑性はどこまであるのか。僕の英語力ではちゃんと読み切れないので詳細は前掲URL内の記事を参照してください。誰か簡単にまとめて教えてくれ。
それでまあ一応読みましたが、理屈としてはぎりぎり理解できなくはないのだが、実現できるかというと……。ただ、前述のMoeが手順の発表を拒んだ理由が『自分にしか出来ないような手順を発表して、非難されても嫌』というのだから、この解説も当たらずとも遠からずなのかも。
手法についてキーワードを上げると、シークレットカウント、エスティメーション、複数枚キーカード、直感、借りたデック、演技者はデックに触らない、などなど。これだけでMoeの嗜好が判ろうというもの。またスタック関連の文献で名前を見ることが多かったが、ここでの作品は全て、デックを借りて即席にできるものであり、そういう意味でもマニア殺しを指向しているように思う。
十数枚、場合によっては26枚とかからPumpingで絞っていくとかいう物も多く正直まともに出来る気はしないです。
特に酷かったのは ↓
Moe's Fifteen Cards Trick
・15枚のカードを抜き出して表向きに広げ、5人の客に1枚ずつ心の中で決めて貰う。直感的に、選ばれてなさそうだと思った物を裏返していく。システム、バックアップ、無し。以上。
うーん……。
まとめ。
CanastaやBerglasを彷彿とさせつつ、それらよりさらにぶっ飛んでいる。
どれか一つでも、70%ぐらいの精度ででも出来たら凄いとは思うのだが、難しいうえに、どれだけ練習しても100%にはならない類のトリックばかりなのだよなあ。
ただ、例えばDaOrtizが怖ろしく不格好な原理をとびきりの不思議に仕立て上げ、マニアを煙に巻いているように、この本は完全に『時代遅れ』で『死んでしまった枝』だからこそ、再読の意味はあるやもしれぬ。特に、Outを自前で調達できるJazz 系、Trick that cannot be explainedが演じられる人は。
最初に解説されている”Look at a Card trick”は比較的安全そう(VernonのLook upと同系統だがより楽かと思う)なので、少しずつ練習してみようかな。
なお、Moe自身は、ほぼ全てのトリックを、エスティメーションと超人的な記憶力を複合して、様々な方法で演じていたらしい。
Moeは1920年後半~1930年に、IBM、SAMの大会に現れ、不可能きわまりないロケーションで数々のマニアを煙に巻き、姿を消した。
97年に消息が確かめられ、2001年のLinking Ling誌の表紙を飾る。そのころに開設されたとおぼしきWebサイトには、『いわゆるMoeの不可能が、実際はいかにして成されたか、少しずつ本当の秘密を明かしていきたいと思う』とあるが、残念ながらMoeは秘密のほとんどを抱いたままに、2003年、94歳で没した。
2012年9月14日金曜日
"Spineless" Chad Long
Spineless (Chad Long, 2008)
Chad LongのBooktest単品ノート。
Longにブックテストとかどういう事だろう。つまらない、とは言わないけれどシックで地味な現象とおもうのだが、そのLong版? 想像つかんわ。
と思っていたのですが流石にLong、破天荒でした。
Spineというのは背表紙のことで、上掲のノート表紙にもあるように、ばらばらのページを使ったブックテスト。新聞のテストだと破るのは割に一般的だが、本で”破る”のはほとんど見たこと無い。まして全ページ破りとった状態とか。
そーすると、もはや本というよりも、我々になじみ深い某紙製の束に近いわけで、いろいろと技法が流用できるわけです。
で、手法的にはここでおしまい。それだけなら個人的には、うーん、という印象どまりなのですが、手法以外の部分が非常に良かったのです、この作品。
ひとつは、レベレーション。いわゆる読心パートなのですが、私淑するDerren Brownが言っているような、視覚的でかつクライマックスのあるメンタルマジックに仕上がっておりまして、実にいい。
もうひとつ、台詞がまた良かった。
個人的に、この作品のアウトラインを知った時点ではあまり良い印象を持ちませんでした。単純に、本を破るという行為がとても嫌だったから。
が、この”破れた本”という状況を、本好きにさえ好かれるような形にできる演出が用意されていたのです。まあLong自身の演出はギャグと躁状態で押すような感じなんですが、ちょっと手を加えればシリアス寄りなメンタリストでも十分に使用できるでしょう。ユーモアの効いた非常によい演出で、素直に感心。
というか、本を破る時点で無しだな、と思考停止していた自分が恥ずかしい。
と言うわけで非常に良い冊子でした。
単品ですが、DVDや全冊子含めて、個人的には一番よかった作品かも知れません。
単純な技術・手法の解説でなく、唯一(?)プレゼンテーション含めて解説されていたからかも。
手法的な破天荒さと、それを不自然にしない演出技術がとても冴えていました。
シリアスのみから脱却できないメンタル屋や、パーラー手順にブックテストを入れているがぱっとしない、という人は是非とも本書を。
2012年9月3日月曜日
"More Stuff..." Chad Long
More Stuff... (Chad Long,1998)
Chad Longのレクチャーノート3冊目。
表紙紙なし、文字暈け、文字が切れている、などなど本としての作りは今までで一番ひどい(画像でも、裏が透けてるのが見える)。まあ読めなくはないが、とても残念。
内容含め、ちゃんとしたノートと言うよりは、おまけの一冊といった感じ。収録作は総じてスタントっぽい物が多い。
Ninja Coinは投げたコインを指先でつまむ様にキャッチするスタント(のフェイク)。類似の原理で、投げた鍵束から目的の鍵をつかむNinja Keyも収録されている。
あとはホームセンターでスプレーから中の金属球を抜き出して、また貫通させて戻すSplay Paint。いかにもセロとかがやりそうだ。
あと、ディナーテーブルでの予言、指輪(指にはめたまま)のビジュアルな消失、名刺のトリックの6作品。
どれもきちんとしたパフォーマンス・ピースではない感じで、手法もごくシンプルではあるのだが、効果はとても面白く、$5としては十分な冊子だったかな。
2012年8月31日金曜日
"The Lost Cheesy Notebooks 2" Chad Long
The Lost Cheesy Notebooks Volume Two (Chad Long,1995)
Chad Longのレクチャーノートその2。
内容はスピーディで、今回はカード多め。一方でノートの製本もまた相変わらず酷い。
吸盤付きの弾がでるおもちゃのピストルで、選ばれたカードを撃ち留めるDarted Card。
カードを当てた後、破って、それが別の選ばれたカードに変化、さらに復活しつつ3人目のカードに変化するTorn & Kinda Restored。
クロースアップマットがカードを当てるSlap Mat。
などなど、派手で素早い現象、道具はつかうが”ギミック”は使わない、という実に実用向きの手順。特にDarted Cardが良いですね。Slap Matはコミカルで面白いし、マットとカードしか使わないので覚えてて損はないでしょう。
Torn & Kinda Restoredは、David Williamsonの例の手順を、完全即席にしたもの。DaOrtizも同じような手順を発表しますね。ただこの構成は、いささか限定的すぎて、かえってタネがばれやすくなるような気もします。二つの現象が同時に起こって(復活とチェンジ)、どちらも満足する回答が比較的簡単に想像できる(あるいは補強される)と思うのですがどうだろう。
他にまだカードが一つ二つと、Pen through Anythingを使った物がふたつ。
それからPlay Doh(缶入りのカラフルな小麦ねんど)を使ったカップアンドボールの手順。
個人的には、これが非常に面白かった。小さなカップ(缶)を使ったOne Cup手順なのですが、大ボール3に特大ボール1個があれよあれよと出てくるクライマックスは、読んだだけでもそのめまぐるしさと視覚的なおもしろさが感じられました。
やや小さいカップを使うことによって、ロードにひと工夫が加えられ、実にスピーディです。これはやってみたいなあと思いました。Play Dohは色も鮮やかですし、非常によいと思います。
総評:Volume 1と比べると、素材の幅はごく狭まっていますが、実に面白かったです。1がコインや指輪など比較的狭いクロースアップだったのにくらべ、こちらの2ではカードを投げたりカップアンドボールだったり、やや広めの印象です。
まあ、荒っぽかったり、やや無理に現象をくっつけているような物もないではない。ペンに刺しておいた予言の穴がふさがり、かつ予言も当たっているとかね。ただ、限られた時間に可能な限りの楽しみを詰め込むような彼の演技スタイルというかプロ根性を考えると納得ゆきます。
あと、個人的には究極のコインバニッシュと思う、Flash Vanishも収録されていました。
2012年8月24日金曜日
"The Golden Rules of Acting" Andy Nyman
The Golden Rules of Acting (Andy Nyman, 2012)
まあ本筋からは違うのでさらっとだけ紹介。
Andy Nyman、本職は俳優らしいのだが、そちらの演技を見たことはない。ちょっとWikipediaで見てみたが、日本に輸入されたのはハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式 (原題:Death at a Funeral)という作品だけらしい。
マジック業界的には、Derren Brownの協力者(ショーの共同ライター兼クリエイター)としての方が著名だろう。個人でもトリックがいくつか、レクチャーノートがいくつかと、ハードカバーの作品集が一つあるがあまり出回っていない印象。作品はかなりオーソドックスながら非常に単純化されている物が多い。
が、まあ本書には関係ない。
それで。これは「演じるためのルール」というような意味のタイトルなのだが、実際にはActing(演じること)についての言及は一切ない。買う前からその点は知っていたが、それでもやっぱりタイトル詐欺だよなあという気はする。
「俳優のためのルール」であり、「俳優として食っていくためのルール」といった方が正解。だからGolden Rules for Actors となるだろうか。
まあつまりは、
「裏方の名前を覚えろ」
「オーディション結果をこちらから聞くな」
「結婚したり、子供がほしかったりしたら今すぐにしておけ。”成功してから”はいつまでも来ない」
とか、あと有名俳優・演出家の格言(ヒッチコックとか)の引用を集めた、軽いノウハウ本ってやつ。
ちなみにフルカラーで、表記も非常に凝っており、そういう意味ではけっこうおもろい。
が、まあ、そういった「人柄」なり「ビジネス」なりについての本ですので、手品屋があえて読む必要はあんまり無いと思うよ。短くて読みやすいから、まあさらっと楽しめますけれども。
2012年8月20日月曜日
"Dear Mr Fantasy" のおまけ/あるいは”Beyond Fabulous”における位置関係
Dear Mr Fantasyに収録されているChrist Acesのヴァリエーション、Beyond Fabulousを練習している時に思いついたことがあるので記録がてら。
第2段はダイヤのエースが表になる現象だが、事前に一回、7をカウントした際のカードを集めるときにカットしておくと、より”ひっくり返った”感が強くなるように感じた。
これはカードの出現位置が異なるからと思う。
原案通りに行っていると、7のカードとダイヤのAが現れる箇所は同じである。
一方、一度カットしておくと、ダイヤのAが現れるのはスプレットの別の箇所になる。
現時点では、別にどちらがよいという話ではないが、後者の利点として、
A「操作していない箇所に現れる」
B「最初のカードとは別の箇所に現れる」
ことから、
① カードが表になった
② Aはバラバラの位置にちらばっている
という印象は強まると思う。
一方で、現象の起こる箇所が散らばるので、やや散漫になる。個人的には気に入っているアレンジだが、ハイペースで演じる場合には向かないかな。
"Dear Mr Fantasy" John Bannon
Dear Mr Fantasy(John Bannon, 2004)
John Bannonのカードマジックオンリーの作品集。
実は日本某所で邦訳が進んでいると聞いてはいて、そちらを待機するつもりだったのだが、安かったのでついつい買ってしまった。
さて本書、一部では評判が極めてよく一部では評判が芳しくない。
まあなんにしたって賛否両論はあるだろうが、ベスト本の一つに上げる人がいる一方で、後者では読んだ後つまらないので捨てた(後に買い直した)などと自慢話のように書いておられる方もいるくらいには振れ幅がある。
内容は例によってオフビート、サトルティに重きを置いた整った構成の作品が多いが、今回は貴基本的にクラシカル。和訳される事もあり、せっかくだから各章解説してみよう。
・Bullet Train
タイミングをずらした4Aアセンブリ×3。
レイアウトが終わった瞬間に手札を返すと集まっている。
Greenの4Aプロダクションを模倣したとのことだが、その点ではあまり成功しているようには思わない。
どちらかというと、アンビシャスカードからマジカルジェスチャーを抜いただけという印象。
まあレイアウトした時点でアセンブリが終了している、というマジシャン側の思い込みに起因しているのかも知れないが、今ひとつ気に入らなかった。
手順構成自体はさすがにうまい。
・The Secret and Mysteries of the Four Aces
シャッフルされた状態から始められる一連の手順。
カード当て、観客がカットする4A、Twisting AcesとLast Trick(Tipsのみ、解説は無し)、Crist Acesにロイヤルストレートフラッシュが出てくるエンディング。
クラシカルなトリックを淀みなくつなげた、カード屋のお手本のようなルーティン。実際の運用ってあまり書かれないのでこれは良い資料と思う。
・Dead Reckoning
巧妙に構成されたトリック3つ。
特に1つめのDead Reckoningは、これは当たるわけがないだろうって状況でのカード当て。スペリングでさえ無ければ……。だが構成を知るだけでも十二分に価値のある傑作。
またDawn PatrolはBullet After Dark DVDのデモで見られるが、何となくの構成は判っても詰め切れなかった作品。この2作で使われているコントロールは実に巧妙で、かつ外見上の不自然も殆ど無く優秀。
解説が小説っぽいのもこの章の特徴。全編このスタイルだとさすがにうんざりだろうが、1章分としてはよいアクセントであり、現象だけを記述するとつまらなく見えるメンタル寄り手順の解説スタイルとして、面白いアプローチ。
・Degrees of Freedom
ある原理に基づいたセルフワークトリックの章。複数解説されているが大同小異。
表裏ぐちゃぐちゃに混ぜたカードを並べ、それを観客の支持に従って畳んでいく。広げるとロイヤルストレートフラッシュだけが表向きになっている。
要するにはHammerのCATTOの最後を行列に展開するって事なのだけれど、これに関する評価いかんで、本書の価値が決まるのではないかな。これが初見であったり、この類の手順が演じられる人であれば、確かにこの本は傑作と思う。
が、Card Magic Libraryで既読だった事に加え、個人的にはこれ、あまり好きではないのだよな。線形代数とか行列式とかを思い出させるのは別としても、煩雑さと効果でいうと、Foldingプロセスってどうなのかなぁ。
いつか見た、観客と縁者がそれぞれのパケットを混ぜた上で4Aが出てくるバージョンぐらいが一番バランスが良いと思う。あくまで個人的にだが。
解説はしっかりしており、事前セットアップをなくす方法や、原理自体の解説なども行き届いて勉強にはなる。
・Impossibilia Bag
その他のカードマジック。古典トリックに対して、すっきりとしたハンドリングや、角の立たないプレゼンテーション、無理のない現象の拡張などを図る。
Goodwin/Jennings Displayを使ったトライアンフ Last man Standingや、Gemini Twinsのラストに4Aが出てくるTrait Secretsが良かった。
・Lagniappe
おまけ。David Solomonの10カード ポーカー。タイトルの「Power of Poker」から、てっきりElmsleyのPower Pokerが下敷きかと思っていたが、難しい技法は排されており、Equivoqueなどもなく、なるほどなあと感心。
ただいつぞや松田道弘が書いていた「繰り返せる事が10 カードポーカーの肝」という観点からすると……。どうだろう繰り返せるだろうかこれは。
さて個人的には、あまり、面白くはなかったかな、という感じ。悪い本という意味ではないのだが、好みに合わなかった。Impossibiliaでの、サトルティとオフビートな手法の限界を探るかのようなトリックを期待していたのだが、今作ではどちらかというと、既存手順をいかに簡易化・見た目に単純化できるかという方向性だったように思う。
また、自費出版だからか、レイアウト・フォントなど本の作りが今ひとつ垢抜けず、内容とは関係ないが、その点での心証マイナスが大きいのやも知れない。
というわけでマニアに対しては、自己責任で、といった本。
ただし初級から中級手前の人には強くおすすめできる。
現象は、4Aアセンブリやトライアンフ、ギャンブルデモと王道を揃え、それを実現する原理もテクニック、サトルティ、数理と広くカバーしている。しかもどれも使い方が嫌みなく上手い。創作として見ると、既存トリックの実際のつなげ方、手順の改良、現象の拡張とこれまた広い範囲をカバーする。
ともかく珍奇な技法が練習したい、というのっけからマニアな頭の人は別として、読んで損する本ではあるまいよ。
2012年7月30日月曜日
"Thinking the Impossible" Ramón Riobóo
Thinking the Impossible (Ramón Riobóo, 2012)
先頃発売されたスペインのマニア Ramón Riobóoの初英語作品集。
いや、これは酷い本だ。
よくもまあHermeticはこれを出したものと思う。
皆さん、本書は読まなくていい。
だって本当に酷いんだ。
酷いんだよ。
こんな手品されたら、追えるわけがなかろうよ。
『ひっかけられるのが怖いなら、Ramónには会わない方がいい』とHermeticの惹句にもあるが、ここまでとは思わなかった。生で見たら、不思議も度を過ぎて怖いレベル。
残念なことに本書への興味を失わなかった人のために、改めて。
Ramón Riobóoはスペインのマニア。
単発ではSteve BeamのSemi Automatic Card Tricksにちらほら出ていたらしいが、あの分厚くていつまでも新刊が出続けるシリーズを追ってる人は、あまりいないだろうから、無名の新人といってもいいだろう。
(一応、TamarizのMnemonicaにも作品があるが、あの分量の中からピンポイントでこの人の名前が引っかかっている人もそうそういるまい。)
さて新人というのは、決して比喩表現ではない。写真で見るとなかなかご高齢だが、前書きなどから察するに、この本の刊行時(西語版2002年)のマジック歴は10年かそこらのはず。本を出すレベルのマジシャンとしては本当に若手の部類である。
元のお仕事を50歳で退職した後にマジックを始めたらしく、その経歴が、本書を形成する一種独特なトリックの構成にも深く関わってくる。
本書の収録作品は、いわゆるセミ・オートマティックなカードマジック。
セルフワーキングとは違って、いくつかの技法や操作を必要とするものの、トリックの骨子は”原理”によって成り立っている作品群である。
Riobóoの作品は、セルフワークと聞いて思い浮かべるような煩雑さは皆無で、トリックの外観は非常に簡潔にまとめられている。まあスペリングこそ多用されるものの、そこには意味がちゃんと感じられる。ひたすらダウンアンダーをしたり、配りなおしたりという、現象の要請のために延々と操作させられるあの嫌な感じは全くない。
あまり意味のないような動作や、最初に言った約束・制限を破るような干渉もあるが、それは全体像をシンプルにする方向に働いており、客側から見ても違和感はないだろう。
基調として、観客がシャッフルした状態から行うものが多く、場合によっては殆どを観客が操作する。現象はカードあてが殆どになってしまうが、いわゆるロケーションからマインドリードまで、いろいろ。スペリング、および複数の観客(2~5)が必要なトリックが多く、その点では自分の環境には合わなかった。
プレゼンや動作の意味について詳述しているのも特徴で、デュプリケートを使ったCard to the Boxという、マニア的には”逃げ”にしか思えない解法も、ここまで構成や狙いが書いてあると、やってみたい気になる。
作品は、要求事項によって大きく5つに別れており、以下の通り。
『完全な即席:21』
『ちょっとしたセットアップ:2』
『メモライズドおよびフルスタック:5』
『デュプリケートやギミック:7』
『Treated Card:4』
Treatedっていうのは、粘着性のしかけを施したカードを指している。
ともかく、演者が”必要なこと”以外何もしていないように見えるのが、実に好み。
Finnelly Found
カードを広げていって、観客Aに1枚を覚えてもらう。
覚えたカードが含まれているだろうブロックをAに渡し、
覚えたカードを抜き出して他の人にも見せてもらう。
演者は手元に残ったカードを、別の観客Bに渡し、混ぜてもらう。
Bが適当な枚数をカットして出した上に、Aは覚えたカードを戻す。
Aは手元の残りのカードを混ぜ、適当な枚数をカットして覚えたカードの上に載せる。
A,Bの手元に残っているカードを集め、それも重ねてしまう。
これで、Aの覚えたカードが任意の枚数目にコントロールできると言ったら、君は信じるかね?
DaOrtizの数字のフォースを使ったCAANに繋げてもいいな。
Cardini Plus
5枚ずつの手を3つ配り、1つ選んで、好きなカードを覚えてもらう。
そのカードを、観客自身がデックに戻して混ぜる。
その後、演者も簡単に混ぜ、観客に渡す。
観客が自分の"心の中だけで決めたカード"のスペル分、配ると、
その枚数目から覚えたカードが出てくる。
これ、観客は、ほんとうに心の中で決めただけなんだ……。
スペリングが難しい言語なのが悔しい。
ともかくすごい本だった。
わざわざ洋書など読むくらいになると、好みも狭くなり、一冊に1~2個も当たりがあればいい方だが、本書ではすぐにレパートリーに入れたいものだけで3~4個、機会があったら演じてみたいと思う物を含めれば8~10個もあった。
できれば、みんな買わないで欲しいんだけどなあ。
なお、どれも演技はとても難しいと思う。こんな不可能状況でもってカードを当てたら、絶対どや顔してしまいそう。演じ方によってはめちゃくちゃ鼻持ちならないマジシャンになって、またぞろ『マジックを見ると腹が立つ』人口を増加させてしまいかねないので取り扱いには細心の注意を要するだろう。
しかし。Ascanio、Carroll、Tamariz、DaOrtiz、Piedrahita、そしてRamón Riobóo。スペインってのは、いったいどんな人外魔境なのか。あな怖ろしや。
Labels:
Hermetic Press,
書評
2012年7月19日木曜日
"The Lost Cheesy Notebooks 1" Chad Long
The Lost Cheesy Notebooks Volume One (Chad Long, 1994)
Chad Longのレクチャーノートその1。
4 Coins 1 Hand というトンデモなMatrixをやりたいがためにDVD3を購入し、ついでにノートもまとめ買いした。
内容は、トランプ、ペン、コイン、コインボックス、マッチ、指輪と実にヴァラエティに富んでいる。
Back & Forthは、売りネタのNow Look Hereとたぶん同一。カードを選んで戻した後、トップをめくると「ポケットの中を見ろ」と書かれたカード。ポケットの中を見るとカードが一枚あり、そこには「テーブルの上のカードを見ろ」。そしてテーブルの上のカードをめくると……。
Card Under Drink。一人目のカードがコップの下に現れ、二人目のカードはさらに一人目のカードの下から現れるという物。ただし正確を期すと、一人目二人目と連続して出来るわけじゃなく、1回目の後、別のトリックをいくつかはさみ、それから2回目を行う構成。
トランプ二種はどちらも前準備が必要だが、視覚的にわかりやすく面白い。
X-tracting 4はコインボックス手順。この人は本当にコインボックスが好きらしく、DVDでもコインボックスを絡めたMatrixなど色々奇体な事をやっている。
X-tracting 4では、コイン4枚をボックスに入れた後で1枚ずつ抜き出していくのだが、たとえばRothがやりそうな、1枚抜いた後ボックスを開けて中が3枚になっているのを見せる、というような事はしない。ボックスは一度フタが閉じられたら、あとは最後に空になっているのを見せるまでそのままである。
マッチが箱側面に触れた瞬間に発火するInsta-Matchは、ある有名な技法の応用で実に感心したのだが、元の技法がどうしてかできなかった。おかしい、昔は出来たはずなのに。マッチなど使う機会はないと判っていても、面白いので練習中。
雑多な現象が詰め込まれている。どれも視覚効果が高く、現象が早くて、実用向きと思う。ゲットレディが組み込まれておらず、ある意味で構成は雑。それを十二分に隠せる技量やスピードを持ったエキスパート向きという印象。具体的に言うと、トリプルリフトのゲットレディや、4枚のコインのうち2枚をクラシックパームし、残りを反対の手に渡す、といった事がさらっと出来る人向き。
Cheesyっていうのは、趣味が悪い、よれよれの、つまらない、という意味だが内容は全然そんなことはない。うん、内容『は』ね。
外見、つまりノートとしては粗悪の部類。レイアウトは良いのだけれど、印刷が悪く、紙が柔らかいせいでとても読みづらい。せめて表紙だけでも厚紙にしてくれたらと思うのだが……。
2012年7月17日火曜日
"Equinox" David Britland
Equinox (David Britland, 1984)
David Britlandの個人作品集第三弾(たぶん)。
カードマジックメインの作品集ではこれが最後の一冊(たぶん)。
アイディア勝負で、未完成作品さえ載っけていた前二冊Dackade とCardopolis から較べると、良くも悪くもずいぶんと落ち着いた印象。
前半はいまひとつ面白くなかったのだが、Mexican Turnoverからおもしろくなってきた。実際にはMexican Turnoverというか、BoTop Changeに近い技法。以前、別の名前で見た気もするんだが思い出せないなあ。
作例の手順が3つあり、3つとも使用技法は同じながら、表現される現象・効果が異なっていて、改めてBritlandの頭の良さを感じた。
特に、Hofzinser AcesのヴァリエーションAustrian Acesは、実用手順としても十二分に通じる完成度。ちょっと解説が粗く、アディションの手法やカードの順番を整える手法は読者にお任せ、だったりするが、Aの並びは気にしなくてよいし、デックとの接触もなく綺麗。Twist現象は省かれているが、個人的にはすっきりしていてよいと思う。
あとこの巻はギャンブルものが多め。日本では文化的コンテクストがないこともあり、あまり好みのジャンルでもないのだが、この巻で一番面白かったのはこの章のTwo Stepというギャンブルもの。K4枚A1枚が、一瞬でA4枚K1枚に変わるクライマックスも派手でよいが、それよりなにより自分の手にだけ1枚多く配る策略がとびぬけて卑怯。
盲点とか凄い発想というわけでは全然ないのだが、自分でやってても騙されて気持ち悪い。
珍しくコインも2種類入ってる。カードはギミック使わないのに、こちらは基本ギミック。コインズアクロスと、銅銀トランスポ。後者は最後に2枚ともチャイニーズになるクライマックス付き。
ギミックを有効に使い、手順を簡易化するのはすごく良いと思うのだが、簡易化の果てに残った”唯一使う技法”っていうのがPalm Changeで、個人的にこれ凄く苦手なのだよ。構造的欠陥のある技法というか、少なくとも自分はいくら練習しても上達する気がしない。そんなわけで、この章の作品は読むだけで、実物では追っておりません。
総論。
やっぱり面白かったなBritlandは。技法の効果を引き出すのがうまい。いつかまとめ本が出たら嬉しいのだが、これ以降はPsycho-mancy があるくらいで殆ど作品は世に出ていないみたい。
マジック界隈にはずっと居て、Chan CanastaやDavid Berglasの本を書いたり、EMCに参加したり、たまにブログで作品発表したりはしているみたいだが、なんとなく作品集は出なさそうだなあ。残念。
ともあれBritlandはこれにて終了。
ライジングカードとホーンテッドデックの単品解説冊子があるが、今のところ手に取る予定は無い。
本書は実体本を買ったのだが、60頁ながらハードカバー。裸に剥く、もといダストジャケットを取ると、布装箔押しでとてもかっちょいい。
2012年7月12日木曜日
"Close-up Illusions" Gary Ouellet
Close-up Illusions (Gary Ouellet,1990)
Silver Passageなどの冊子で有名なGary Ouelletの、唯一まとまった本。本書の最後では、次の本にも触れているのだが、それが形になることはなかった。
Silver Passageの別エンディング、Finger on the Cardのバージョンアップ版、詩的なワンコイン手順Silver Dustなどを収録。また数々のカード・コイン・スポンジ・シンブルの技法や、マジック理論、ちょっとしたヒント集などが納められている。
さて、世評も高く、また演技動画が実にすばらしかったので、とても期待していたのだが、うーんいまひとつ。
おもしろい本だが良い本ではないなぁ。
いろいろと悪い所はあるのだが、順番にいこう。
1・手順がほとんど無い。
2・あまり情報価値のない記述が多い。
3・過去作への言及が多い。
4・記述が前後する。
5・マイクって誰だよ。
1・手順がほとんど無い。
のは実に残念。解説内容のほとんどは技法で、しかも改案形が多い。
Krenzelのような、これ何処に使うねんってオリジナル技法も、それはそれで困るのだけれど、フレンチドロップのヴァリエーション、各種カウントのビドルグリップ版、など地味すぎるのばかりでもなあ。しかも改良か個人的な好み(Personal Touch)か微妙なラインの物も多い。
手順もいくつかあるにはあるが、かなり肉を削ぎ落としたタイプがほとんど。
シンプルなのは悪くないが、事前に知っていた手順がSilver Dust、Silver Passageと、魔法的な意味づけに凝った作品ばかりで、そういうのを非常に期待して手に取ったので余計に残念だった。
2・あまり情報価値のない記述が多い。
この技法はいい技法だとか、単売するべきとも言われたがここで発表するとか、誰々とどこどこに居るときに思いついて云々、というのは背景としては面白いのだけれどあんまり多いとちょっと退屈。同じ成立背景なら、技法の狙いや目的にも、もう少し紙を割いて欲しかったなあ。
3・過去作への言及が多い。
単品冊子として発売されているSilver Passage、Finger on the Cardの追加や別手法が書かれてるのだが、変更部分だけで肝心の手順は一切解説されてない。つまり単売冊子を持っていることが前提、という本。なのでこれ一冊だけではいかんともしがたい。うーん。気持ちはわかるのだが不親切。
4・記述が前後する。
解説などにおいて『ここでxxx Change(この章の最初で解説した)を使い、次にyyy Switch(この章の最後で解説する)を使う』みたいな事をよくする。
前者はともかく後者はちょっといただけない。
5・マイクって誰だよ。
『この技法はマイケル・ギャロが父ルー・ギャロと共に開発した物でアポカリプスの××号に掲載された(マイケル・アマーその他が実にうまく演じる)。初めてマイケルがこの技法を見せてくれたのはFFFFの会場で』
うん、見せてくれたのはどっちのマイケル?
まあこれはあえて章立てするほどでもないのだが、ちょっと面白かったので。
なお、既存技法の自己流版、過去の発表作への追加、だけでなく、ヒント集、マジック理論、演技論なども書かれている。いままで見た中でよくなかったレクチャーの例や、レクチャーをする際の方法論、オリジナルやクレジット問題(でのいざこざ)などの章では、その筆致ににじみ出る怒りを感じた。
またClassic Palmは一部の選ばれた人だけのもので、たいてい不格好。本書では使わない。代わりにFinger Palmだけ使う。French Dropは全然不思議に見えない。アードネスは面白いが古文だから初級者に勧めるとかやめろ、とかいろいろ過激っぽい発言もある。
また、ないがしろにされやすいが超難しいんだぞ、とフェイクパスの解説を詳細にしたりするあたり、ちゃんとしたコンセプトの入門書とか書いて欲しかったなあ。
上記1~5 の通りマジック本としては今ひとつだったのだが、等身大のOuelletが現れているという意味で、非常に魅力のある、読み物として面白い本だった。
Ouellet唯一のハードカバー本なので、これがあればOuelletはカバーできる、Ouelletの集大成、と思ったのだが、違うみたい。
完成した手順なんかは冊子で発表されており、そのバックグラウンドに存在するOuelletのパーソナリティであり、技術的なタッチなりを補うのが本書なんだろうなあ。つまりハードカバーの外見だが、実は出版済みの各作品を繋ぐ、壮大な補遺に近い。そういう意味で、これ単体じゃあマジック本としての成立度は低いと思う。Ouelletと夜中に技法や議論を戦わせたり愚痴を聞かされたりするようなおもしろさはあったが。
あーしゃあないし、他冊子も買おうかなあ。
どうでもいいが途中の版で形状と表紙が変わったらしい。
昔のやつの方が好みだなあ。
今のやつは謎の人物と目があって怖い。あれ誰なんだろう。
おもしろい本だが良い本ではないなぁ。
いろいろと悪い所はあるのだが、順番にいこう。
1・手順がほとんど無い。
2・あまり情報価値のない記述が多い。
3・過去作への言及が多い。
4・記述が前後する。
5・マイクって誰だよ。
1・手順がほとんど無い。
のは実に残念。解説内容のほとんどは技法で、しかも改案形が多い。
Krenzelのような、これ何処に使うねんってオリジナル技法も、それはそれで困るのだけれど、フレンチドロップのヴァリエーション、各種カウントのビドルグリップ版、など地味すぎるのばかりでもなあ。しかも改良か個人的な好み(Personal Touch)か微妙なラインの物も多い。
手順もいくつかあるにはあるが、かなり肉を削ぎ落としたタイプがほとんど。
シンプルなのは悪くないが、事前に知っていた手順がSilver Dust、Silver Passageと、魔法的な意味づけに凝った作品ばかりで、そういうのを非常に期待して手に取ったので余計に残念だった。
2・あまり情報価値のない記述が多い。
この技法はいい技法だとか、単売するべきとも言われたがここで発表するとか、誰々とどこどこに居るときに思いついて云々、というのは背景としては面白いのだけれどあんまり多いとちょっと退屈。同じ成立背景なら、技法の狙いや目的にも、もう少し紙を割いて欲しかったなあ。
3・過去作への言及が多い。
単品冊子として発売されているSilver Passage、Finger on the Cardの追加や別手法が書かれてるのだが、変更部分だけで肝心の手順は一切解説されてない。つまり単売冊子を持っていることが前提、という本。なのでこれ一冊だけではいかんともしがたい。うーん。気持ちはわかるのだが不親切。
4・記述が前後する。
解説などにおいて『ここでxxx Change(この章の最初で解説した)を使い、次にyyy Switch(この章の最後で解説する)を使う』みたいな事をよくする。
前者はともかく後者はちょっといただけない。
5・マイクって誰だよ。
『この技法はマイケル・ギャロが父ルー・ギャロと共に開発した物でアポカリプスの××号に掲載された(マイケル・アマーその他が実にうまく演じる)。初めてマイケルがこの技法を見せてくれたのはFFFFの会場で』
うん、見せてくれたのはどっちのマイケル?
まあこれはあえて章立てするほどでもないのだが、ちょっと面白かったので。
なお、既存技法の自己流版、過去の発表作への追加、だけでなく、ヒント集、マジック理論、演技論なども書かれている。いままで見た中でよくなかったレクチャーの例や、レクチャーをする際の方法論、オリジナルやクレジット問題(でのいざこざ)などの章では、その筆致ににじみ出る怒りを感じた。
またClassic Palmは一部の選ばれた人だけのもので、たいてい不格好。本書では使わない。代わりにFinger Palmだけ使う。French Dropは全然不思議に見えない。アードネスは面白いが古文だから初級者に勧めるとかやめろ、とかいろいろ過激っぽい発言もある。
また、ないがしろにされやすいが超難しいんだぞ、とフェイクパスの解説を詳細にしたりするあたり、ちゃんとしたコンセプトの入門書とか書いて欲しかったなあ。
上記1~5 の通りマジック本としては今ひとつだったのだが、等身大のOuelletが現れているという意味で、非常に魅力のある、読み物として面白い本だった。
Ouellet唯一のハードカバー本なので、これがあればOuelletはカバーできる、Ouelletの集大成、と思ったのだが、違うみたい。
完成した手順なんかは冊子で発表されており、そのバックグラウンドに存在するOuelletのパーソナリティであり、技術的なタッチなりを補うのが本書なんだろうなあ。つまりハードカバーの外見だが、実は出版済みの各作品を繋ぐ、壮大な補遺に近い。そういう意味で、これ単体じゃあマジック本としての成立度は低いと思う。Ouelletと夜中に技法や議論を戦わせたり愚痴を聞かされたりするようなおもしろさはあったが。
あーしゃあないし、他冊子も買おうかなあ。
どうでもいいが途中の版で形状と表紙が変わったらしい。
昔のやつの方が好みだなあ。
今のやつは謎の人物と目があって怖い。あれ誰なんだろう。
2012年6月30日土曜日
"Impossibilia" John Bannon
Impossibilia (John Bannon, 1990)
巧妙なカードトリックで有名なJohn Bannonの作品集。
Bannonといえばカードの印象だが、本書ではコインやロープとリング、カップアンドボールも解説している。またBob Kohlerなど他の人の作品もあり、内容の幅は広い。
恥ずかしながら、これが初Bannon。
いや面白かった。今まで手を着けていなかったのが勿体ない。もっと早くに知っていたら、自分の嗜好も変わっていたかも知れない。
特徴は何よりオフビートなその構成。
オフビートとは”拍子を外した”とか”あえてタイミングをずらした”という意味で用いています。調べたところ色々な意味があるようなので。
実に巧妙に、観客の注意が集まらないタイミングで技法や秘密が織り込まれる。見えないところでもぞもぞやるのとも違って、見えているんだけれど気にならない。
絶対に見破れない不思議、ではないが、初見では絶対にびびるだろう。怪しいことを一切していないのに、予想外に不思議なことが起こるんだから。そのためにセットアップが必要な物もあるのだが、あらかじめカードを抜いておくとかで、スタック系やギミックはほとんど用いない。そういう意味でも実用度は高い。
いや、実は読んだだけでは今ひとつ魅力に欠けるなあと思ったりもするのだが、実際にハンドリングを追ったり、人に見せてみたりすると、びっくりするほど手になじむし、負担が少なくてやっていて楽、そして現象が綺麗なんだな。
個人的にはA Little T,T,&Aが好みだった。Tenkai Reverseを使った実に単純なTopsy-Turvy Ace(トライアンフとAプロダクションの混合)なんだが、どうした事かとても綺麗。
いろんな技法が使えるようになった上で、あえて難易度は低い(が綺麗)な手順を組める、こんなマニアになりたい。
さてBannonと言えば、のPlay It Straightが解説されているのも本書。
Play it Straightは思いついたのも凄いが、「あ、これいけるわ」という判断こそがBannonのセンスなのだろうな。
WaltonのOli & Queenが毀誉褒貶あるように、Play it Straightもその大胆さとシンプルさゆえ、傑作とみるか駄作とみるか意見が分かれそうな作品ではある。つまんねーという人の意見も判らいではない、というか僕もそっち寄りでしたが、実際に解説を読んでみると実に細かい配慮が成されており、正直見直した。
ところで、Bannonはカードの印象しか無かったのだが、本書ではカード作品はむしろ少なく、半分以上がコインやカップアンドボール、シガレット紙の復活などのクロースアップ物になっている。
カード以外の素材でも手順構成は冴え渡っており、中でも、サインされた三枚のコインが消えてポケットの中の封筒から出てくるCoins Across The Waterや、演者が一切手を触れなかった両面白の紙片に選ばれたカードの絵が現れるPhotologicはやってみたい。
Bannonは作品ごとにしっかりと演出があり、そこも好きなのだが、特にCoins Across the Water(大洋を越えるコイン?)の演出は面白い。コインは消えたんじゃ無くって、日本まで飛んでいったんだ、証拠を見せよう、と言った後の”日本にいる友人が、この手品の成否を手紙で教えてくれることになっているんだけれど、日本は日付変更線を跨いで向こうになるから、手紙が投函れる今日は日本の昨日で、手紙を出したのが昨日だから付くのは明日で、明日っていうのはアメリカで言う今日なんだからつまり、……もう今朝には届いてたんだ”というロジックには奇妙な味も極まれりの感がある。
またBob Kohlerのトリックや、Harvey Rosenthalのコイン技法も解説されていて、これまたどれも良い。特にKohlerのBoston Boxは、普通とはちょっと違ったコンテクストで使用されていて、面白い。いや、面白いばっかり言ってるがホントに面白かったんだから仕方ない。
総論、面白い。
オフビートで、難易度が低く、現象が鮮やかで、構成の綺麗な作品ばかり。
Bannonは後書きでトリックを詩に例え、どんな細部に至るまでも考察されてなければいけない、というようなことを言っている。いわゆるクリエイターには、粗雑な品や、実験作も多かったりするが、Bannonはその信条通りに、一貫して洗練されつくした作品を書き上げているように思う。良い本だった。
ただ序盤のカードですっかりうっとりしてしまい、もうこの人のカード作品で溺れたいくらいのテンションになってしまったため、カードが最初の50頁しかないのを非常に物足りなく感じてしまった。
Bannon=カードの頭で読みにかかると、面白いけどコレジャナイというもやもやに包まれるやもしれぬ。
また、オフビートであるが故に、前提を暗黙の内にしか示せない物も多く、演じるタイミングによってはちょっと危うい印象もある。手法につられてか現象までオフビートよりになっていて、気がついたら現象は起こった後で、まあそれはそれで良いとしても、もっと魔法の瞬間を示せる物も欲しかった。
まあこれは高望みかも知れないし、まだ本書しか読んでいないので自分の早計かもしれない。積んである山が何とかなったら、他のも読もう。
実はシカゴ三人組、Bannon、Aronson、Solomonって全然手を着けていなかったのだが、他の人のも読むべきなんだろうか。
しかしBannonといいHollingworthといい、AscanioにOuelletに、確かAronsonもだが、法律関係の人が多いなあ。弁護士の適性と、マジッククリエイターの適性って近いのだろうか。
2012年6月29日金曜日
"Performing Magic" Tony Middleton
Performing Magic (Tony Middleton, 2011)
鳴り物入りで登場した演技論の本。Paul Daniels、David Berglasが前書きを書いており、他にもKevin James、David Stoneなどなどそうそうたるメンツが推薦文を書いている。
演技におけるキャラクターの作り方から始まり、手品の採択の問題やステージング、リハーサルの仕方まで網羅している。内容は詳細で、どちらかというとクロースアップを想定している感じ。
うーん、長くなりそうだから結論から先に言おう。
決して悪い本とは思わないが、これ読むならこっちを読め、という上位版が厳然として存在するので、本書はあまり勧められない。
ちなみに、Robert Cohenの Acting One がそれ。
取り敢えず読め。
さて以下に評の詳細を書くが、長い上に独断に満ちているので、お急ぎの方は読まなくてもよろしおす。
さて、マジックには産業的な基準が無い、という著者の主張は確かにそのとおりと思う。実際、趣味や興味から初めてそのまま、って人がほとんどで、マジック養成所のような施設があるわけでもないし、格付けが成立するほどの市場も形成されていないのが現実。舞台での立ち方や喋り方なんて気にしたことも無い、というのがプロでもごろごろ居る(らしい)。
もちろん演技論の本は色々ある。Fitzkee、Brown、Weberくらいはうちにもあるし、演技論の本では無いがWonderなども素晴らしく面白い。しかしそれらは個人的な経験知に基づいたものであって、言うてもせいぜい数十年やそこらの知恵。作者と談話するような面白さはあっても、体系的な知とは違う。
ないものは余所から借りるしか有るまい。本書最大の眼目は、英米の長い演劇史で培われてきた”演技”の技術と理論をマジックに適用する事。理論やノウハウは、歴史と関わった人の数とである程度まで決まる。当たり前の話だが、演じることにかけてはマジックなど演劇の足元にも及ぶまいよ。
おまけに日本ときたら、その演劇さえつい先頃まで様式美の世界だったわけで、それはそれでいいとしても、現実に即した演技という意味ではインフラが全然整っていない。テレビでは素人目にも大根のアイドルが主演をやってたりするわけで、演技に対する意識も低いとくる。
演技の方法論を学ぶことの重要性はいや増すというもの。
少し話が逸れた。
本書だが、演じること、演技人格とは何か、演技人格の作り方、といったあたりは他のマジック理論書ではあまり見られない箇所であり、世評も高い。後述の理由で、個人的にはさほど感銘を受けなかったのだが、確かに有益な本であろう。
ただIan Keableは口を極めて酷評している。
(参考:http://iankeable.blogspot.co.uk/2012_04_01_archive.html)
Keableの書評は吐き気がしてくるくらい冗長だし、やり口もけっこう汚らしいのだけれど、決して的外れではない。Keableがねちねちと8000語もかけてあげつらったことを、僕が読んだ範囲で要約すると、
『例示が極端に少なく、理論の間にも齟齬がある』
例を多く上げよというのはKeableの好みの問題としても、その少ない例示がそれまでの理論とあまり合致しておらず、さほど良い手順とも思えなかったのは、確かにちょっと気にかかっていた。
これはたぶん、Middletonが演劇の学校で学んだことを、学んで、まだ体得してはいないことを、本にしたからではないかなと思う。外からの知識であるため、所々で断面が合わず、全体像が少しく歪んでしまっているのだと思う。
なので、芯が通っていない印象はある。”Middletonの演技論”ではなく、”Middletonによる既存の演技論紹介”という内容と思えば良いだろうか。
Keableの言うとおりの齟齬はあるにしろ、Middletonの目的は経験知に左右されない客観的な方法論の輸入なのだから、当人が部分的に消化し切れていなくても、まあそれはいいだろう。高校の数学教師が、科目範囲を完全に理解し相互関係を熟知できていなくても仕方ないのと同じ事だ。
本書の内容、それ自体は決して悪くはないと思う。
ただ、”方法論の輸入”という意味では、Middletonは決して上手くやれては居ない。
それはもう単純な話で、それこそ彼の経験不足。個人的な見解ではなく客観的な手法論である以上、ある程度の客観的な評価ができてしまう。
どういうことかっていうと。マジックの方法論、あるいは作品集であれば、けっきょくそれぞれが個人的な物なので、じゃあBannon読んだらHartmanは読まなくて良いよ、みたいな事にはならない。
しかし例えば、先の例のように数学で言えば、その本質が外部に体系として存在するが故に、良い教科書と悪い教科書というのが存在する。餅は餅屋。Middletonは確かに演劇で修士号を取ったインテリかも知れないが、しかし演劇学校で何十年も教鞭をとってきた、教えることを熟知している演劇指導の教授では無い。
僕も演劇の本なんて一冊しか読んでいないのだが、それでもRobert CohenのActing Oneは本当に面白く、有益であった。演技の基礎を築き、徐々に技術を組み立てていく。“教え方”それ自体が、当たり前の話だが、体系的であり洗練されている。
これにくらべれば、Middletonは、せいぜい面白そうな所を抜き書きしているだけ。体系も何もあったものではない。
そういう訳で、本書は勧められない。ちょっと悪口が過ぎた気もするが、Middletonが”体系化”された手法の導入を試みたのだから、その体系に則り、どうしても彼の本を高く評価する事はできない。
なおMiddltonが助手(たぶんディレクター兼任)として出ていたPen and Teller Fools usのChris Dugdale回は、ちょっと凄かったのでお勧め。今後のMiddletonには期待。
追:日本人は演技下手だという話だが、それは西洋の感情的な演技を真似しようとして、薄っぺらになっているだけかも、とは思わなくもない。たまにドラマや映画を見ると、そんな場面で、そういう反応するかなあ、みたいな感想を覚える事がしばしばある。
声を上げ身をよじるより、黙して語らない方が日本人らしい、というのは古い考えではあるかも知れないが。
ちょっとアルコールが入った振りをして、DaOrtizじみた演技をしたこともあるが、あれも自分には不自然だったかもなあ。
藤田まことの刑事役の演技とかも嫌いでは無いので、そういった方向性も考えていきたいなとか考えている。
2012年6月24日日曜日
製本しました。/あるいは電子化による時代逆行。
L&Lが電子出版部門サイトL&L e publishingを立ち上げており、$50以上かけて手に入れたJ.C.Wagnerの本が僅か$9.95で発売されてしまった事には、別記事でも触れました。(値段改定がされたのか、現在は$14程度)
実は$300近くかかったCollected Works of Alex Elmsley も併せて$40で販売されており、心の痛手は癒えるどころかますます深みを増しておりますが。
ともかく、送料が掛からず絶版本が手軽に手に入るというのなら、これを利用しない手はない。とはいえ数十頁のノートならともかく、百頁を越える本をディスプレイで読むのは中々たいへん。あと蒐集家としての欲望も満足されません。
ということで、自家製本に挑戦。
今回は簡単な無線綴じで。
まず初トライ、J.C.Wagnerの7 Secrets。
外見。
表紙を作らなかったのでとても無愛想。
見開き。
工作用紙で、しかも色々あって裏面剥いだので汚い。
印刷はモノクロレーザー。
紙は普通のコピー紙。
まあ実用には問題有りませんです。
2冊目。
John BannonのImpossibilia。
これも一発作製ですが、前よりは材料にこだわっています。
元々はハードカバーの本ですが、今回は残念ながらソフトカバー。
ちゃんと表紙を作った。
元デザインを真似て、Power Pointで作製。
白黒しか印刷できないので、真ん中部分をシールに印刷、ぺたっと貼り付け。
水色の光沢のある厚紙は、Loftで購入。
全切りサイズで100円くらいした。
中身。
撮影の関係でグレーにしか見えませんが、クリームシフォン紙(72kg)で、いかにも本っぽい質感と色に。
中身拡大。
頁右余白の真ん中当たりに、うっすらゴミ。
これは元データに載ってました。
親指で紙の腹が黄ばんだのを、そのままスキャンしたのでしょうかね。
タイトル拡大。
元のデータで、スキャン後に白黒二値化しているらしい。
上のゴミ問題もそうだが、文字もエッジが荒い。
誰だお前!ってなった若いBannon。
写真に変な濃淡が乗っているのは、L&Lではなく、おそらくうちのプリンタのせい。
イラスト本ならいいですが、今後図版が写真の本で製本するときは問題になりそう。
いずれハードカバーや綴じ本にも挑戦したいが、そうなると、A3ノビのプリンタや寒冷紗などが必要になるわけで、どう考えても元は取れない。シフォン紙もそこそこ高く、材料費だけでも結構かかる。
オルファのカッターナイフを買ったら嘘みたいに良く切れて感動。
やはり高い物には高いだけの性能が付随するのだな。
あまり器用ではないので、その上でどう精度を上げるかが今後の課題。
今回は一発作製で、しかも材料の性質をちゃんとしらべないままやったので、Bannon本とかは背表紙が一度ふやけて波打った感じに。美しくない。
活版印刷が出来て本は超高級品では無くなったが、しかし産業革命が軌道に乗るまでは、やはりとても高価だった。
その頃の本屋は本を売るのでは無く本を作るお店だったそうな。
本屋に行くと、本の中身がばらの状態で置いてあって、立ち読みとかして買うか決める。
そしたら革や綴じ方の種類を決めて、製本をお願いする。というような流れだったとか。
いま、正に時を遡っている心地。
2012年6月22日金曜日
"The Underground Change" Jamie Badman & Colin Miller
The Underground Change (Jamie Badman, Colin Miller, 2002)
あーっ、疲れたぞ畜生。
数理マジックで解説が間違っていた時の再構成の労といったらもう。まあそれは後で書くとして、
技法Underground Changeと、Misdirection Monte他いくつかの手順を解説したe-book。
Underground ChangeはDVD Welcome to the Farmでも解説されているようだ。日本関西圏の某ショップでは、Misdirection Monte以外に特筆すべき事はない、とまで言いながら販売している。褒めているんだか貶しているのだか。
ともあれ。
もしこの本を知らない人が居たら、まずは紹介動画を見に行って欲しい。話はそれからだ。
昔から気になっていた本。Luceroの動画で衝撃を受け、Turnover Swith全般に惹かれた時期があったのだが、当時は英ポンドも強く見送ったのだった。
今回、またLuceroの動画を見て、やはり衝撃を受け、この本を思い出し、強い円にも後押しされて買ってみた。
最初の権利書きで、技法・手順を映像に撮ること、および技法を解説すること、が明確に禁止されているので、あまり踏み込んだことは書けないのだが、なかなか問題のある冊子。
もし見えないTurnover Switchを求めているのなら、これは違う。
Underground Switch自身は、実は過去の技法とほとんど大差ない。とある既存技法をベースに、その使用できるシチュエーションを増やした拡張版。応用範囲は広がったが、スイッチ自体のディセプティブさは変わらない。
だから他の方法より”スイッチが見えない”とか”スムーズ”とかそういう事はあんまり無いので注意されたい。例のMonteも、実のところその既存技法との併用であって、Underground Switch自体の出番はむしろ少ない。
ま、あんまり書くと、拉致されて言葉に出来ないような責め苦を受けるかも知れないのでこの辺で控えよう。(参考:http://www.youtube.com/watch?v=oQlOWHY57-I)。
その上で、やはりMisdirection Monteは凄い手順。Underground Switchの出番は少ないと言ったが、しかしこのスイッチ無くしては成立しないのも確か。このMonteなくしてUnderground Switchに価値は無く、Underground SwitchなくしてこのMonteは成立しないと言ってもいいぐらい。
一方、Monte以外の手順はどうにも今ひとつ。Badmanは様々な用途を見せてはくれるのだが、Monteのような美しいミスディレクションは無く、技術的に厳しい。読むほどにMisdirection Monteの奇跡的な完成度が浮かび上がってくる。
ま、技術的な点はおいても、カードの裏に書いた棒人間が性交を始め、あげく片方が妊娠するとかいう実にアンダーグラウンドな手順は、そうそうやれる人もいないだろうが。
むしろUnderground Switchを使わないオマケの2手順の方が面白かった。どちらもMisdirection Monteから繋がるように構築されているのだが、一つ目は、
『カードを選んでもらい、デックの中に戻す。4枚のパケットでAが一枚ずつ裏返り、全部裏向きになる。最後にまた一枚表向きになり、それがQに変わる。残りの3枚を見ると、Qに変わっている。デックをスプレットすると表向きのAが現れ、一枚のカードを間に挟んでいて、それが観客のカード』という、僕の描写力不足を加味しても、まあ意味不明な現象である。
Twisting AcesとTranspositionとSandwichをあわせたような感じ。
これが殺し屋にまつわるストーリーが加わることで、劇的にわかりやすく意味のある現象になるのが素敵だった。
もう一つはTomas Blombergの数理トリック。
DVD 21でもラストにとんでもない物を見せてくれたが、この人は数理ネタが実に上手い。数理もので、カードを数えてもらう動作も多いというのに、全体像が実にクリアーで現象が美しい。もう惚れてまいそう。この人が本出したら速攻で買うのになあ。
今回はNumerology(確かカードカレッジにも入ってたよね)みたいなトリックなのだが、別の原理を組み合わせた4 of a Kindの出現現象になっていて、すんごく不思議。セットも簡単で、レパートリーに入れたいと久しぶりに思った。
むしろMisdirection Monteより良いと思った。
ただし、冒頭で言ったようにこのトリックは解説が不足しており、かつ間違っている(たぶん)。
そこまで複雑では無いのだが、数理トリックの知識が少ないと、再構成がむずいかも。
かなり長くなったがまとめ。
Misdirection Monteだけを目当てに買えばいい。見えない汎用Turnover Switchを求めると間違い。
他の手順は今ひとつだが、可能性の羅列としては面白い。
Turnover Switchの系列全体に言えることだが、応用範囲が広そうでいて、実際に構築するとなるとなかなか難しいのだよな。まだまだ可能性が眠っている技法と思うので、クリエイティブな方にはがんばって欲しい。
あとTomas Blomberg目当てに買ってもいい。むしろこっちが本体で、Underground Switchがオマケと言っても過言では、
―――おや? こんな時間に誰だろう?
Blombergの手順、内容ミスについて。また単体で演じる場合について。
自分と、買った人のためにいちおうメモ。↓
2012年6月13日水曜日
"Sleightly Original" Tom Gagnon
Sleightly Original (Tom Gagnon, 1981)
最近 Avant-Cards Card Magic of Tom Gagnonという本が出て、名前を知るようになった。Vernon Chroniclesのイラストを担当し、FFFFやNew Stars of Magicにも出ていたというのだから、古参であろう。
これはコインマジックの冊子。財布と相談した結果であるが、コインは資料が少ないし、Bertramが推薦文でアセンブリのムーブを褒めていたので、そこも気になったのである。
さて。長い、ながい戦いだった。100頁そこらなのだが、これが実に読みづらい。
耐えられないくらい冗長な文章に加えて、現象がマニアックすぎる。
まず前者。
今までで5本の指には入る読みづらさ。動きだけを解説しているはずなのだが、” 右手でコインを取り上げ、手前に引く。Refer to Figure #8。このとき左手の位置がコインの動きの直線上にある。again refer to Figure #8” とか、別に(fig.8)でええやん。っていうか一回絵を見たら判るし。
他にも色々と、注釈や補足の挟まり具合のせいなのか何なのか、何を読んでいるのかどうなっているのか判らなくなってくる文章。単語は簡単なので読んで読めなくはなく、解説として余剰であっても不足はないのが不幸中の幸いか。
そして後者。
内容がマニアックすぎる。
本書の半分以上を占める作品が、サムチップとフォールディングコインの組み合わせ。まったく興味が湧かない。正直どっちも持ってないし。
状況的にも、ハーフダラーが十分な視認性を持ってて、かつ結構大胆にサムチップも使えて、というのは、制限がきつすぎる。あげくそれをTwilightの1枚目のロードに使ったりとか、リスクに対する効果のほどもあやしい。
あげく、フォールディング カッパー&シルバーとかいうギミックまで飛び出す始末。
マニアックにも程がある。
マトリックスのムーブでも、ピックアップムーブから天海ピンチへ、とか面白いは面白いのだけれど、テーブルで天海ピンチはしんどい。こっちが立ってて、かつ相手も立ってて、それでいてテーブルとかでもない限りは。
ザローシャッフルもそうだが、ちょっとでも離れたら、モロ見えだものな。
まあ色々と鬱憤が溜まっているのだが、改めて見直してみると、ドマニアックかつ文章が判りづらい、という点はやはり揺るぎない事実であるものの、何も知らないで見せられたら仰天するかもなー、という手順もけっこうある。
サムチップの至近距離での有効性有用性を、ぼくはよく知らないのだが、サムチップが十分に使えて、かつ非効率でも徹底的な不思議にこだわったり、あるいは身内を手ひどく引っ掛けたい、という人には良いかも知れない。
今回は道具立てがとことん合わなかったが、このドマニアックさは、はまればハマるかも。
貶しておいてなんだが、他の本への興味もまだある。だって『ケースに仕舞った状態でのカードコントロール』だけを解説したノートもあるんですよ。実にマニア心をくすぐるじゃないか。
結局、力業でしかも非効率なのでは、という不安はありつつも気にはなる。
誰か突っ込んだ人が居たのか、幸いにも他の本はGagnonの筆ではなく、それぞれWesley JamesとJohn Luka。どちらの本も読んだことはないが、Gagnonほどの文章ではないだろう。きっと。
お金と心と時間に余裕があったら、もう一冊くらい読んでみたいかも。
2012年6月9日土曜日
自発性(観客)に関する小さな覚え書き
J.C. Wagnerの7 Secrets に収録されているAce-Two-Three-Fourという作品で気に入った箇所があったのだが、本記事の流れでは何となく書きづらかったので別枠で紹介。
この作品は小枚数でやるアンビシャスカード、いわゆるAmbitiou Classicというやつ。
個人的にはあまり好きなプロットではなく、(と言い出したら殆どのプロットは嫌いなのだが)特にアンビシャスクラシックはオチが今ひとつ整合が取れておらず、それをカバーする台詞も思い浮かばなくて、据わりが悪い。
自らを自明の窮地に追い込みつつ、効果的なエンディングがないという印象で、Wagnerの作品についてもその点は同じ。
じゃあ何が気に入ったかというと、3枚目。本記事の方ではそこで使われるMarloの技法について簡単に書いたが、ここではそれが使われる文脈に注目する。
というのは、それが実に効果的な”ひっかけ”だからだ。
2が上がってきた後、それをテーブルに捨てる。
次は3、と言いながらトップカードを”表を見せずに”ボトムに入れる。
『いや、ちゃんと3を底に入れたからね?』とここでMarloの技法を使ってボトムの3を見せるのだが、このタイミングと構成が妙。
というのも、このとき見ている人は”本当に3を底に入れたか?”という疑問をほとんど”自発的に”抱かざるを得ない。
しかもそれは演者がどうこう言ったり示したりするのよりも先行する。
そこに続く演者の動作、特にMarloの技法は、実にタイミング良く観客の疑問を解消する形になっていて、いわゆる”途中の動作”化していると同時に、緊張と緩和のコントロールにもなっている。
んで、これの逆が何かというと、例えばMaxi Twist系。
『こんな事が出来るのは実は5枚のカードを使っているから』
などと、別にこちらが疑問にも思っていない事を、マジシャンは突然言い出す。この台詞自体は観客にとって殆ど意味を持たない。マジシャンの都合だけで言われている台詞だ。
無論、ちゃんと演技に組み込めていればいいのだけれど、ただ台本を読むみたいに上記の台詞を言っちまうと、観客のメンタリティとしては置いてきぼりだなと思う。
こういう意味のない台詞の氾濫が、マジックのパフォーマンスとしての地位を貶めている。
そのへん、Wagnerのこの手順は実にうまいメンタル・フックが仕込んであると思う。
「現象のための動作」を、先にひっかけを掛ける事で、あたかも観客のリクエストで行った動作のように見せかける。
また、観客を食いつかせるという意味でも良い戦略。お客さんが”ただ見てるだけ”の客体としてしまうのはあまり好ましくないだろう
ちなみに、個人的にこの類のフックの最高峰はAscanio演じる、Ross BertramのAssembly。あれには気持ちよくだまされたなー。
"7 Secrets" J.C. Wagner
7 Secrets (J.C. Wagner, 1978)
Commercial Magic of J.C. Wagner がとても面白かったので、その前に出版された小冊子、7 Secretsも読んでみた。
元版で買っても$13程度、今回はllepubを使ったので$6。安い。ディスプレイで読むのは余り好きではないので、製本にもチャレンジしてみる。無線綴じ自体は簡単だけども、カバーを造るのが難易度高くて汚くなってしまう。
あと、適当にスキャンした後、白黒2階調でゴミを飛ばしたらしく、文字がちょっと荒い気がする。仕方ないのかなあ。
ともあれ。J.C. Wagnerの小冊子。
手順6個に技法4個の11作品を収録。
例によって、難易度はそこそこ高いのだが、現象がはっきりしていて、エンターテイメント性が高い。ハンドリングもおおむね綺麗で、テンポがよい構成。
今回は御本人の筆。
カラーチェンジングデックにて、Dingleの原案より不細工なのだがと認めつつ、『しかし余計なカードが残らない。エンドクリーンが全てだ』などと続けるあたり、実戦でやってるマジシャンだなと思わされる。
また後書きでも、さらっとだが演技者としての考えを語っている。クレジットに関しての、学究派でない立場からの意見は、なるほどこういう見方もアリだなと思う。
収録作中、一番気になっていたのは破る系2種、特にMatrix Torn and Restored Card。
これは4枚のカードで覆うタイプのマトリックスを、コインの代わりに破ったカードで行うものだった。全部集まった後、3/4まで復活する。んんん。
この現象で全復活しないのは、何だかちょっと違う気がするぞ
Torn and Restored Cardは良いハンドリングなのだが、Commercial Magic of J.C. Wagnerで類似の作品を読んでいたため感動は薄かった。
面白かったのはSpectral Silk。
いわゆる幽霊ハンカチを使うのだが、これのためだけに幽霊ハンカチ買おうかなと言うくらい良い。見栄えが良いし面白い。詳細は秘密。
あとパケット物としてAmbitious Classicのヴァリエーションが一つあるのだが、技法に淫することなく、クリアーな現象かつエンドクリーンという綺麗な構成。パケット物って、カウントだらけになって、余分を隠し持って、と、どうしてもぎこちない作品が多いので、この姿勢はよいですね。
けっこう難易度高いのだが、ボトムにあるカードを確かに見せた後、怪しい動き無しでそれがトップに上がってくるMarloの技法にはちょっと感動。これはうまくはまると不思議だろうなあ。
でも難しいなあ。
このプロット自体は好きではないのだが、もう一つ気に入ったところがあって、この手順はやってみたい。
総論、コストパフォーマンスの良い小冊子。
どれもWagnerのレパートリーとして十分に試されているから、外れはない。
Vanishing Ink Magicの商品紹介でも『値段で内容の価値を決めるなと言う好例』という紹介がされていたけれど、たしかに千円そこらでこの内容は素晴らしい。日本語でも、新訳して1500円ぐらいで出版すればいいのに。
ただ少ない収録数の中に、Torn and Restored Cardやギミック物などが多く、純粋なカードマニアはちょっとがっかりか。
新奇な技法や原理を使うタイプの人ではないのでCommercial Magic of J.C. Wagner があれば十分という気はするものの、解説の前置きや後書きからWagnerの顔が見えてくる。副読本としても$6の価値は十二分にあるかな。
しっかし。
これが$6、Commercial Magic of J.C. Wagner が$10ってのはバーゲンにも程があるな。
2012年6月5日火曜日
"Complete Torn & Restored Card" Stephen Tucker
Complete Torn & Restored Card (Stephen Tucker, 2006)
英国のアイディアマンStephen TuckerのTorn & Restored Card作品集。
DaOrtizのCard Cemeteryを読んだので、BritlandのTearing A Lady In Twoの時から気になっていた本書も流れで読んでみた。
いくつかの異なった原理に基づくTorn & Restoredとそのヴァリエーションに加えて、1/4と3/4のカードでのトランスポジションなどが解説されている。大本の判は、半分に破れた冊子という、収集家垂涎の形体で出版されたそうで、なにそれ超欲しい。
これを読んでいて気づいたのは、Torn & Restoredという現象の表現方法の変遷だ。実はこのジャンルにはそう詳しくなく、またさほど興味もなかったので、ちゃんとした知識ではないのだが、簡単にまとめてみよう。
Charles Jordanの昔は、破ったカードをデックの中に入れて見えなくした上で、復活現象が起こっていた。
しかし、やはりデックに入れるのではすり替えのイメージをぬぐえないと思ったのだろう、手にはカード一枚しか持っていない(様に見える)状態での復活へと変わっていく。
おそらくこの時、『破られたカード』と『復活済みのカード』を互いに擬態させる必要が生じて、カードは折り目正しく4分割されるようになったのだろう。
HarrisのUltimate Lip Offや、J.C. Wagnerの手順などがこの時点での代表かな。この手法では『カードが常に視界にある』事で同一性が確保されるため、サインやお客さんに渡しておく一辺という証明方法には、必ずしも頼らなくて良くなった。
さらにここから発展し、Hollingworthに代表される『復活時の接合面を隠さず』『一片づつ復活していく』というパターンが生まれた。これはGarciaのTornによって一定の成熟を見たと思う。
現在は、さらに純化された道具立てであったり、復活後に色が変わったり、ちぐはぐな復活をしたりと、いろいろなヴァリエーションが模索されている。
個人的に、丁寧に1/4に破るのは今ひとつしっくり来ない。近年、DaOrtizによって、乱雑に破りつつ、デックなどのカバーを必要としない物がいくつか発表され、こちらの動向が気になる所。
さて前置きが長くなったが、この流れで言うと、本書の作品はHollingworth前夜に位置する。
つまり、今Torn & Restoredと聞いて期待するような、ヴィジュアルな現象はここには入っておりませんよ、という警告。
基本的には、カードは1/4に破られて、それを手に握り込んだ状態で魔法を掛けると、復活した状態になっているというもの。3/4まで復活し、完全には戻らない物が多いのもこの時代の特徴か。
またクラシック的なハンドリングからの脱却をはかって色々な事をしているため、癖も強い。
さすがは音に聞こえたアイディアマン、実に色々な事を考える。
ただ、これぞという物がないのが、今ひとつ有名になりきれない所以だろうか。
Wagnerの手順は破るプロセスが原理的な矛盾をはらんでいる。それが気に喰わず、1ピースずつ破り取っていく、という点にこだわったのが収録作のR.I.Pなのだろうが、そのこだわりがあまりエフェクトに貢献しているとは思えないのだよな。
パズルの解答としては面白いが、それがエフェクトを美しくしているかは疑問。
とはいえMy Preferred Routineでは余分一切無しでこの現象を達成する。破った分をポケットにしまっていくのは、あんまり好きでないけれど、完全即席で出来るので人によっては非常に良い武器になるかも。
個人的に一番面白かったのはQuarterMaster。これは実に奇妙な現象。
右上1/4を破り取った後、右下1/4を破り、ぐぐっと持ち上げると右上部分にくっつく。それを破り取ってまた下にぐぐぐっとずらすと、右下にくっつく。
白フチだと、破った物とくっついた物が明らかに別物になるので、よくわからない現象になってしまうのだが、Beeとかでやるとすげえ気持ち悪そう。仕掛け無しなのに、確実に破りとった部分が本当に復活する。他では見た事がない。
なお、期待していたCard WarpからのTorn and Restored Cardだが、これはちょっと違うだろう。確かにCard Warpを途中までやったうえで、何も足さず何も引かず、カードを破って復活はするんだけど。
っていうかこれでOKなら、別にBritlandのTearing A Lady In Twoでもええんちゃうのやろか。うーん。
まとめ。
Torn and Restored Cardという、実に目まぐるしく発展した分野であるため、全体的にどうしても古くさい印象。またStephen Tuckerの味なのか、今ひとつ決定打に欠けるのだが、アイディアは面白くヴァラエティに富んでいる。
今のTornなんかの知識と組み合わせれば、面白い物が出来るかも知れませんよ。
まあクリエイター向けでしょうね。
2012年6月1日金曜日
"Card Cemetery" Dani DaOrtiz
Card Cemetery (Dani DaOrtiz, 2008)
DaOritzのTorn And Restored Card集、Cementerio de Cartas がしれっと英訳されていたので買ってみた。
Cemetery(西: Cementerio)は共同墓地という意味、カードの墓場。実際、昨日だけでデック一個半が切れ切れのカード片になってしまった。
2部構成で、第1部はデュプリケートにまつわる策略。
文字通りのデュプリケートから見せかけのデュプリケートまで、簡単に考察、紹介。
第2部はTorn and Restored Cardのトリック10種を解説。
しかしUtopiaがあるからなぁ。ちょっとしたヴァリエーション(FLASHのカードケースを使うヴァージョンとか)を除けば、目新しいのは3品くらいかな。
Restored Card to the Shoe
破ったカードが復活した状態で靴から出てくる。靴の中にある状態で、お客さんのサインがちゃんと確認される。不可能性は極めて高いんだが、なんでこんなコンビネーションなのだろう。
この作品や、Que Raro! DVDでもやっていた、破ったカードが消えて復活した状態で財布から出てくるようなのは、復活現象としていまひとつな気がする。
まあDaOrtizがやれば面白いし、頭が痛くなるくらい不思議なのだろうが、これは出来る人が限られるだろうなあ。
Gag-Strongest Magician
ギャグ。カードを叩いたらバラバラになる。Torn and Restored Cardの逆みたいなものか。
手法は普通だが、気配を感じさせずに行えたら凄く面白いと思う。
Instant Restored
これは非常に珍しいと思った。
DaOrtizの手順はどれも乱雑にカードを破るのだが、これのみ折ってきっちり4片に破るパターンで、かつ準備が必要。
折る、破くのハンドリングが極めて綺麗で、復活後も非常にフェア。
ただ復活部分だけ、大きな動作で誤魔化すような感じがある。僕がもたついているだけかも知れない。それ以外は実に綺麗なので、もう少し練習するなり、GarciaのTornやHollingworthのReformationに応用するなりの可能性を考えてみたい。
ちょっとネタバレになるかもしれないが、新聞紙の復活に似ている手法。
なるほどなぁーと。
ま、策略にしろトリックにしろ、殆どがDVD Utopiaでカバーされているので、改めて買う必要はないと思う。僕はファンだから買ったようなものでして。
しかし英訳が今ひとつ上手くないのだ。本書はカードトリックだし図も豊富だしで問題ないんだが、心待ちにしている心理フォースの本は大丈夫だろうか。ちょっと心配になってきた。
せめて、一回の購入で英語版スペイン語版、両方くれたら助かるのになあ。
2012年5月31日木曜日
"More Power to You" David Acer
More Power to You (David Acer, 2011)
こういう慣用句のタイトルは、意味を取るのがなかなか難しい。
慣用句としての『健闘を祈る』と、直訳の『より一層の力(マジック)をあなたに』と、ないまぜの印象だろうか。表紙絵はPCのPowerボタンだし、色々意味をかけてあるのだと思うが、英語が得意でない身としては、その辺のギャグなりこだわりなりが上手く汲み取れずに悔しい。
それはさておき。クリエイターとしても有名な、カナダのDavid Acerのベスト盤。といっても、『David Acerベスト選集 *ただし科学的な統計にあらず』とか書いてあるあたりに、この本の基調が見て取れようというもの。
コメディマジシャンでもあるAcerのお遊びが随所に仕込まれていて、そういう意味でも面白い一冊。
作品内容はカード、コイン、指輪などクロースアップが殆どだが、中にはステージ上での入れ替わりとかもあり、非常にヴァラエティに富んでいる。
過去の著作から選び、内容を書き直しているらしいが、以前の物を知らないのでその点の評価はできない。
作品はマジックというよりトリック、あるいはギャグ。軽い雰囲気で行う物が多い。特にカード物では、カードに書いた棒人間が選ばれたカードを探してきたり、デックにどんどん穴が空いていったり、などなど、あまり”真剣”に見せられるタイプの物ではなく、その辺、個人的な好みには合わなかった。
一方で、アイディアには実に独創的な物があり、そちらは非常に楽しめた。
といっても解法やアプローチ、技法はごく一般的で、直線的。ただ現象や、道具立てが他で見ないくらい独特。たとえば自動販売機にカードを差し込むと、違うカードになって出てくるなど。自販機つかったカラーチェンジって、おい。
特に面白かったのは、
メガネのつると指輪のリンク現象、ぺったんこの封筒から着信音がして携帯電話が出てくる、など。今回の書き下ろし新ネタであるMoving HoleのヴァリエーションWorm Holeは、カードに開けた穴をつまみ取ってコーヒーの紙コップに押しつけると、そこからコーヒーがあふれ出すという劇的な現象。セロやBlaineがやってもおかしくない。
ただ、繰り返しになるが、解法は直線的。マジシャン相手には向かない。そういう意味ではプロットを書くこと自体がネタバレかも知れない。このへんで止めておこう。
しかし一番面白かったのは、随所に盛り込まれたお遊び。解説の書き方であったり、差し込まれる図や写真であったり、表紙から裏表紙まで貫いて、なにからなにまで下らない悪戯だらけ。実際、声を出して笑ってしまったマジック解説書なんて、今の所これ位のものである。
アイディアは面白いが、それをマジックにまで練り上げることはせずに、ぽんとそのまま放り出している感じ。また手法にはこれといって特別な物は感じなかった。終始まじめで執拗、独特な解法のTom Stoneとは好対照。
好みではなかったものの、本としては実に面白く、発想力には驚かされた。
今のところ他の本に手を出す気はないが、小物のばかばかしいトリックを集めた本が出たら考えなくはない。
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書評
2012年5月30日水曜日
"Triple Intuition plus" Dani DaOrtiz
Triple Intuition plus (Dani DaOrtiz, 2012)
Dani DaOrtizのミニノート。
Triple Intuitionという手順と、そこから発展させた2トリックの計3トリックを解説。
『演技・解説映像』版、『演技映像+解説ノート』版の二種があったのだが、安かったのと、原案のTriple Intuitionは別所で知っていたので、ノート版を購入。
どうやら英語版も出たみたい。まあいいんだけどさ。
どちらにせよ演技動画がみられるのは嬉しい。っていうのも、DaOrtizの手順って、文章では今ひとつ魅力が伝わらないのが多いから。手品全般がそうだろうが、DaOrtizのは特に。
手順構成自体は、けっこう弱点欠点がぼろぼろある感じなのだ。それが演技力で完璧にカバーされているために、これだけ不可能に見えるんではなかろうか。
La Triple Intuicion
3人の観客にカードを選んでもらい、デックに戻す。
観客がカードを配りながら、Intuition(霊感)に従って止めると、そこから選んだカードが出てくる。
これは生で見た事があるのだが、本当に背筋が震えるくらいに気持ち悪い。
まあDVD Utopiaでも解説されているので、これのために買おうって人はいないだろう。
La Intuicion Pensada
デックを全員に混ぜてもらう。観客の一人に、心の中でカードを一枚、決めてもらう。
その後、観客の選択によってカードをどんどん減らしていく。捨てたカードは表向きにして、そこに心で決めたカードがない事を確かめながら。
最後に残った一枚が、心で思ったカードと一致する。
このノートの目玉だろう。サイトに演技動画が上がっていたが、あいかわらずハンドリングが途轍もなくフェアに見える。カードを決めてもらうプロセスや、カードを減らしていく手順には、DaOrtiz流のけっこう卑怯な、そして聞いたり読んだりしただけだと、なかなかやろうとは思わない類の策略が使われている。
こういう手順が構成できるのが、DaOrtizの魅力だなと改めて思った。
Intuicion al Numero
ACAANへの応用。心の中で数字を決めてもらう。次にみんなでカードを混ぜながら、カードを一枚決めてもらう。それが、選ばれた枚数目から出てくる。
これも例によってDaOrtizの策略が横溢しており、あんまり詳しく書けない。Utopiaで解説されたACAANを、Triple Intuitionの核になっているある策略と組み合わせたといった所。なにせ全員でぐっちゃぐっちゃにカード混ぜた後でこの現象なのだから、すごい。
難しい計算とかはないのだが、ある部分でけっこう頭を使う。大したことではないのだが、ラフなキャラクタと動作を保ったままでこなすのは自分には荷が重い。Utopia版とくらべても、一長一短というところ。
Triple IntuicionとIntuicion el NumeroはほとんどUtopiaでカバーされているので、買うならLa Intuicion Pensada(Thought Intuition)目当てだろう。これもTriple Intuicionの変奏ではあるのだが、個人的にはとても満足。
やっぱりDaOrtizはすげえなあ。
2012年5月28日月曜日
"Vortex" Tom Stone
Vortex (Tom Stone, 2010)
スウェーデンの奇才、Tom Stoneの創作集。
元々e-bookで冊子を個人出版していたのだが、そちらの頒布を停止して、本としてHermeticから出版。個人的に、幾つかかぶってしまったのもありちょっと悔しい。
そんな経緯で、紙を横に使う変わった装丁。読みづらさとかはなく、むしろ図の列びとかは見やすくて良いくらいなのだが、本棚にどう仕舞えばいいのかだけが問題。
どうにも、Tom Stoneというのはこだわりが強く、人にも自分にも厳しい人のようだ。だが彼自身、それをちゃんと認識している。自らのエゴが満足するまで追い求め、しかし同時に、客観的な視点からも検討を重ねた手順は、癖が強いものの独特で面白い。
その最たる例は、Ambidextrous Travelerの理想型を追い求めるTracking Mr.Fogg だろう。スタート地点であるJennings手順からの試行錯誤、他の人に求めた意見、その時々の正直な感想(「Travelerにデュプリケートを使う? Stephen Minchはなに馬鹿な事を言ってるんだ!」とか)、途中経過の手順について実戦と失敗などなど、そして終にMr.Foggに辿り着く。
個人的には、Mr.Foggはけっこうしんどい手順だと思う、というか、Travelerがいまいちなのだけれど、そういう事は関係無しに、その創作過程は非常に面白く、勉強にもなる。
扱う範囲は広く、クロースアップ、パーラー、ステージの区別なく、カード、コイン、ロープ、靴、スポンジボール、指輪、ボールとコーンと多岐にわたっている。
手順はどれも創作の狙いが明確にされているし、実演していないアイディアや、ノートからの抜き書き、プロブレムの提示などが随所にちりばめられ、ほんとうにどこを読んでも面白い。解説は視線の向け方や、演者の心理などもきっちり説明。
一番すごかったのはBenson Burner。
Roy Bensonの有名な手順のTom StoneによるStage版なのだが、いやはや、あの写真 http://shop.tomstone.se/、僕はてっきり宣材写真と思っていたのだが、ほんとうにこんな事になってしまうのだからたまらない。
最後にもう一つ、考えさせられたのがクレジット。
各手順のクレジットを明記するだけではなく、可能な限り原案者や権利者に連絡を取り、プロットに対してまで解説の許可を取っている。
こんなの、この本以外では見た事ない。ここまでやる必要はあるのか、と思ってしまうが、すでにそれが毒されているっていう事なのかも。
気むずかしそうな人ではあるが、こと創作においてはこだわりとエゴは大切だ。解法に癖があるので、実用する手順はそうないかも知れないが、考え方はとても勉強になった。読み物としても面白い。
オリジナルマジックを創作する人は絶対に読むべき。
ただ、直ぐにレパートリーを、って人には向かない。
Maelstromも近々手に入れようっと。
余談: Vortexも続刊のMaelstromもだが、ジャケットがどうにもイングウェイを彷彿とさせる。そういやイングウェイもスウェーデンだっけか。(参考: http://blog.livedoor.jp/ringotomomin/archives/51146198.html)
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書評
2012年5月27日日曜日
"The Commercial Magic of J.C. Wagner" Mike Maxwell
バーマジシャン、J.C Wagnerの実戦的なマジックを集めた作品集。
傑作の誉れ高く、松田道弘のリストにも載っているんだが、入手困難本。
正確に言うと、入手困難だった本。
某日、某マジック古書サイトで発見し、舞い上がる。
本が到着した翌日、L&L 公式サイトにて電子書籍版が発売される。
お値段$9.99。
e-book化するのはまだいい。L&L-e の存在を知ったときから覚悟はしていた。
でも安すぎる! SkinnerやBannonはもうちょっと高いじゃない。
なにそれ千円って。あああああああああああ。
まあいいんです、$50の価値はあったと思うし。それにやっぱり紙媒体が好きだ。
でも自宅製本の可能性をちょっと真剣に検討していこうかと思った今日この頃。
さて中身の話。
バーマジシャン、J.C Wagnerの実用的なマジックを集めた作品集。
不思議でインパクトが強く、ハンドリングがクリーン、そして殆どがセットアップやギミック無し、というなかなかに非の打ち所のない内容。
似た傾向としてPaul CumminsのFASDIUというノートを思い出したが、あちらがかなりハードな技法と、マニアックな現象、そして読みにくいレイアウトであったのに比べると、こちらは技術的にも現象的にも文章的にもだいぶ楽。
現象はクラシックな物を一通り取りそろえている。有名な天井に着くカード、ジャンボカードでのトーンアンドリストアード、A アセンブリ、コリンズAs、Twisting コレクター、Underground Transposition、トライアンフ等々。Coin MatrixやCoin Through Tableもある。
輪ゴムを掛けたデックからカードが飛び出してくる現象と、Estimationの章が個人的には気に入っている。特に後者は、単純にEstimationだけを用いるダイレクトなトリックから始まり、失敗したときに移行できる別トリックまで解説されていて、Jazzマジック素材集としても優良。
あとGambler's Copのハンドウォッシングも、パーム好きには嬉しかった。
Twistした後にコレクターみたいな複合技や、ギミックなしワイルドカードなんかは、ちょっとどうかとも思うのだが、まあこの辺は好みの問題だろう。
あと4Aアセンブリの章では、AXXX→XXXXではなく、AXXX→XXXになるなど、他ではあまり見ない表現方法が多く、好みではなかったものの、なかなか新鮮で練習のしがいがあった。
マジック、特にカードマジックの本には、技法や現象の組み合わせから可能性を探っているような研究書というのが結構ある。JenningsやWalton、Hartmanあたりが特にそうだろうか。作品点数が多く、読んでいて面白くはあるのだが、多くの場合、個々のトリックはマジックとして見せるには足りず、レパートリーに組み入れるには相当の苦労を要する。
一方、本書の作品はどれも、確かな実戦経験を通じて磨かれてきた作品であり、現象のテンポ、ハンドリングなどの洗練度がとても高い。勿論それはWagnerのテンポなので、修正は必要であるものの、レパートリーに組み込むのは比較的容易だろう。
本人解説ではなく、作品構成の詳細な意図などは語られないのだが、それぞれ実戦を通じて取捨選択とブラッシュアップを繰り返してきた作品、背後にあるWagnerの意図や思想、経験を十分に内包している。それを考えてみるのも面白い。
おもしろかった。おすすめの一冊。
特に、レパートリーを増やしたいって人。
さて中身の話。
バーマジシャン、J.C Wagnerの実用的なマジックを集めた作品集。
不思議でインパクトが強く、ハンドリングがクリーン、そして殆どがセットアップやギミック無し、というなかなかに非の打ち所のない内容。
似た傾向としてPaul CumminsのFASDIUというノートを思い出したが、あちらがかなりハードな技法と、マニアックな現象、そして読みにくいレイアウトであったのに比べると、こちらは技術的にも現象的にも文章的にもだいぶ楽。
現象はクラシックな物を一通り取りそろえている。有名な天井に着くカード、ジャンボカードでのトーンアンドリストアード、A アセンブリ、コリンズAs、Twisting コレクター、Underground Transposition、トライアンフ等々。Coin MatrixやCoin Through Tableもある。
輪ゴムを掛けたデックからカードが飛び出してくる現象と、Estimationの章が個人的には気に入っている。特に後者は、単純にEstimationだけを用いるダイレクトなトリックから始まり、失敗したときに移行できる別トリックまで解説されていて、Jazzマジック素材集としても優良。
あとGambler's Copのハンドウォッシングも、パーム好きには嬉しかった。
Twistした後にコレクターみたいな複合技や、ギミックなしワイルドカードなんかは、ちょっとどうかとも思うのだが、まあこの辺は好みの問題だろう。
あと4Aアセンブリの章では、AXXX→XXXXではなく、AXXX→XXXになるなど、他ではあまり見ない表現方法が多く、好みではなかったものの、なかなか新鮮で練習のしがいがあった。
マジック、特にカードマジックの本には、技法や現象の組み合わせから可能性を探っているような研究書というのが結構ある。JenningsやWalton、Hartmanあたりが特にそうだろうか。作品点数が多く、読んでいて面白くはあるのだが、多くの場合、個々のトリックはマジックとして見せるには足りず、レパートリーに組み入れるには相当の苦労を要する。
一方、本書の作品はどれも、確かな実戦経験を通じて磨かれてきた作品であり、現象のテンポ、ハンドリングなどの洗練度がとても高い。勿論それはWagnerのテンポなので、修正は必要であるものの、レパートリーに組み込むのは比較的容易だろう。
本人解説ではなく、作品構成の詳細な意図などは語られないのだが、それぞれ実戦を通じて取捨選択とブラッシュアップを繰り返してきた作品、背後にあるWagnerの意図や思想、経験を十分に内包している。それを考えてみるのも面白い。
おもしろかった。おすすめの一冊。
特に、レパートリーを増やしたいって人。
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