2100年4月25日日曜日

とびら

BASEにて、以下の本を翻訳販売しています。

Thinking the Impossible by Ramón Riobóo

52 Lovers, Adventures in Wonderland by Pepe Carroll

ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険 フロリアン・ズィヴァリン

2026年1月17日土曜日

"Discernment" Brandon Bell

Discernment (Brandon Bell, 2024)

元々はFun Ways to Pry Open Your Soul: And other assorted ways to pass the time(2006)という本に収録されていたそうです。収録作をアップデートして単売していくシリーズの一作とのことで、Secrets of Dr. Deeというところで売っていました。

販売サイトには現象の具体的記述もないんですが、「Open Prediction(公開予言)で、あまり使われてないカード技法を使っている」というのに惹かれ、安かったので買いました。あんまり良くはなかったです。「あまり使われてないカード技法(technique)」とあり、前書きにも「半ば忘れられたカード技法をユニークな方法で使ってるぜ」と書いてあってちょっと期待したのですが、これがまあ割と嘘。この手順はTed LesleyのKismit Connectionをトランプじゃない素材でやってて、そこらの転換はともかく、使い方はLesleyそのままなんで別にユニークではない。それにLesleyの作品を知ってる人には分かると思いますが、あの手法をtechniqueと言うかというと……。しっかりクレジットを書いてるのは偉いのですけれど。


現象も、どうにも説明のしにくいもの。過去の名作にオリジナル要素を入れ込もうとして、筋立てやテンポが変になっているように思います。単売にあたって追加アイディアとかも色々書いてくれてるんだが、それらも面白いはおもしろいんだが、やりたいことを詰め込もうとしてるだけで、かならずしも噛み合ってない。

ただオリジナル部分は悪くないです。観客に紙片を配って簡単な絵を書いてもらい、集めて、その中から1つを覚えてもらうのですが、これを当てることができる。Lesleyの原案から素材を変え、それ故に可能になるいくつかの策略によって、見た目のフェアさや現象の自然さがかなり変わっています。

「カード技法」に期待しちゃいけないし、現象全体もおすすめはしないけれども、それなりの人数の観客がいる場で、なるべくオーガニックな道具立てで、相手の思い浮かべた物を当てたい、ドローイング・デュプリケーションしたい、というような目的であれば悪くない選択肢だと思います。

2025年12月30日火曜日

“Extra Plots and Methods” Michał Kociołek

Extra Plots and Methods (Michał Kociołek, 2025)


原理を偏愛しつつも現象・演出にも気を配ったMichał KociołekのPlots and Methodsシリーズ、その第三巻です。これまでは4+1作品の小ぶりな冊子でしたが今回はボリュームアップして9作品にオマケ2作の小ぶりなハードカバー。

現象はポーカーとカード当てが多め。前著もそうでしたが、カード当て系では準備や演者側の負担に対して現象が見合っているか疑問な物もけっこうありました。他ではあまり見ない趣向や制限もあって、それがどこまで不思議さに寄与するのか、現象を実際に見たときどう感じるのかを、私がうまく想像できていない所も正直あります。いちど生でくらってみたいですね。一方では表裏混ぜた状態でのCAANや、ブランクカードで行うJazz Acesなど、企みが新しい絵面につながった面白い手順も収録されています。1作目と2作目の間ぐらいの作風でしょうか。

1作目Plots and Methodsがたいへん好きで、そこが基準になるのでちょっと厳しく見てしまいますが、まずどの手順もしっかり手が込んでいて、常に何らかの企みが進行している。そのうえで実演したくなる面白手順もあり、単なる技法・原理の組み換えでない新しい手順もある。原理や企みが好きならまちがいなくお勧めです。あいかわらずちょっと演者への要求が高いところはありますが……。

検索してもいまいち販売ページがヒットしないので、URLも乗っけておきます。

https://plotsandmethods.com/


あと私が買ったときは、単売もされてる作品Misdealのpdfがオマケで付いてきました。10枚カードのポーカーで、これもブランクカードが絡んでおり、企みと原理と見た目が噛み合ったすごい面白現象。なんならこれが一番やってみたくなりました。この人の手順は、やっぱりガフ使ったやつがハネると思います。おすすめ。

2025年11月29日土曜日

"Closers"

Closers (Magicseen Magazine, 2025)


イギリスのマジック雑誌MagicSeenのプロデュースで、Phil Shawが編んだ、42人のマジシャンのオープナー手順を集めた本Openersの続刊で、同じくPhil Shawが編んだ、40人のマジシャンのクローザー手順を集めた本です。

Openersの紹介でも書きましたが、オムニバスはテーマ設定がとても重要です。クローザーはオープナーよりもやることが明確であり、そのため手順の幅広さや、各作者の思想の反映のされ具合では劣るところがある。半面、みんな気合が入っているため手順のインパクトは高めで、使える手順自体は多いのかなとは思います。

参加者は、

Wayne Dobson, Francis Menotti, Dani DaOrtiz, Ben Williams, Dave Loosely, Roger Curzon, Wes Iseli, Paul Hallas, Jon Allen, John Morton, Kyle Purnell, Ben Cardall, James Went, Eric Stevens, Matt Baker, Chris Congreave, Luca Volpe, Kev G, Phill Smith, Gary Jones, Paul Gordon, Jasper Blakeley, Sean Carpenter, Alan Rorrison, Steve Cook, Mark Elsdon, Christian Grace, Boris Wild, Shaun McCree, Michael O'Brien, Woody Aragón, Daniel Chard, Henry Evans, Fraser Parker, Harry Robson, Peter Turner, Iain Moran, Peter Nardi

の40人。おおむねOpenersと一緒ですが、ところどころ違っています。やはりカード勢が多いですが、クローザーということもありフルブランクやソリッドデックなど大掛かりなものも多い。

目を引くのはやはりDani DaOrtizで、彼はFools Usで演じたACAANの親戚The Ritualを解説しています。でもこれは単販もしてるみたいだし、文章で読んでもいまいちなので、これを目当てに買う必要はないでしょう。個人的に良かったのは、Kyle Purnellの指輪からビリヤードボールが出てくる手品、Sean Carpenterのフルデックからのエキボックあたり。あとPhil Smithもやっぱりよかったですね。核は古典的なブックテストながら、謎の力業と演出力ですごくすっきりとしています。彼のMythology Codexは買って積んであったので、この機に発掘しました。

みんなけっこう気合が入っているので、どれも悪い手品ではない。けれどそれ以上を伝えられる本にはなっていないかな。読み物としちゃあ悪くないですが、そこまでおすすめでもありません。

さて、オープナー、クローザーときて、次は何かネタあるんでしょうかね。Fillers(埋め草)とか出たら面白いですけれど。

2025年10月29日水曜日

"Openers"

Openers (Magicseen Magazine, 2024)


イギリスのマジック雑誌MagicSeenのプロデュースで、Phil Shawが編んだ、42人のマジシャンのオープナー手順を集めた本。

こういったオムニバス作品集はテーマ設定が非常に大事です。ただカードマジックを集めただけの縛りの弱い本は確実に失敗作。Open PredictionとかOut of This Worldといった難しいプロットも十中八九、失敗します。縛りはゆるすぎても、きつすぎてもいけない。成功が見込めるのはCard Warpや10 Card Pokerといった多彩なアプローチが許容されるテーマでしょうか。それでいうと今回の縛り「オープナー」は絶妙です。一見すると広すぎる縛りですが、一口に「オープナー」と言っても、環境、舞台の広さ、観客の数、演者のスタイルなど様々な要素が含まれています。参加者がそれをどこまで読み取り、作品を提供しているかが、本書の読みどころと言えるでしょう。

参加者は、

Matt Baker, Chris Congreave, Michael Murray, Luca Volpe, Ryan Schlutz, Steve Gore, Kev Gregson, Phill Smith, Steve Dela, Gary Jones, Iain Moran, Paul Gordon, Paul Brook, Jasper Blakeley, Carl Royle, Sean Carpenter, John Guastaferro, Alan Rorrison, David Regal, R Paul Wilson, Steve Cook, Liam Montier, Lawrence Hass, Mark Elsdon, Christian Grace, Boris Wild, Etienne Pradier, Rafael Benatar, Chad Long, Shaun McCree, Michael O’Brien, Mark James, Woody Aragon, Daniel Chard, Henry Evans, Fraser Parker, Harry Robson, Peter Pellikaan, Wayne Fox, Peter Nardi, Danny Goldsmith

の42人。カードがメインですがコインとメンタルもそこそこ居ます。どうでしょう、好きなマジシャンや気になっていたマジシャンが何人かは居るのではないでしょうか。自分の演技環境や狙い、制限をちゃんと示す人も居れば、「オープナー」だって言ってるのにぜんぜん関係ない手順を出してくるアレな人も居ます。説明が丁寧な人もいれば下手な人もいる。「オープナー」という繊細な縛りであるからこそ、参加者の程度が浮き彫りになります。

そんなわけで「オープナー」を求めると収穫はないかもしれませんが、上記42人の中に気になるマジシャンが何人か居るのであれば、その品定めや、新しい出会いを探るにはとても良い本になっています。

有名どころ以外で言うと、私はDavid Forrest(Cameron Francisの構成協力で登場)、Phil Smith、Michael Murrayはやっぱり良いなあと思いましたし、Alan RorrisonやKev Gregsonは気になりました。あなたにもよい出会いがあらんことを。

2025年9月30日火曜日

“The Art of Revealing” Radek Hoffman

 The Art of Revealing (Radek Hoffman, 2025)

 Radek Hoffmanは先日Book of Mを読んだ。刺激に乏しい本だったが、著者には好感を抱いたようでこちらの本も買ってしまった。タイトルのRevealingは情報の開示の仕方、つまりは当て方のこと。副題はHow to create exciting climaxes to your mentalism and magic(あなたのメンタリズムやマジックに心躍るクライマックスを作る方法)となっている。

 メンタリストの演技って似たり寄ったりじゃないか、また多くの手順はオチが読めて退屈じゃないか、というのが著者の問題意識だ。それに対して『著者が』どのように考え、どのように工夫してきたのかが、読みやすいエッセイと具体的な例で解説されている。タイトルから受けるイメージと異なり、あくまで『著者が』したことに留まるのがポイントで、これは本書の短所であり長所でもある。

 たとえば演出の例に出てくるのは基本的に著者自身の手法で、他のアプローチの分析などはあまりなく、多角的とは言えない。示し方が重要なのでそこに至るまでの手法の解説はしない、という基本方針だったはずが手法解説を始めたり、どうも筆力・構成力には疑問がある。一方で小難しい言葉を使ったりせず、頭でっかちになることなく、基本的に自身の実体験として書かれ、それを無理に一般化しようともしていない。 

 Hoffmanは常識人で、メンタリズムのショーを実際に長くやってきたプロで、その手の届く範囲で書かれている。理論や考察に飛び抜けたところはないが、あらためて平易な言葉で語られており飲み込みやすい。オマケで、Hoffman自身が使っているという、ショーを構成するためのプリントまで付いてくる。

 規模によらず、ショーをやる人、やりたい人、またHoffmanが言うように「メンタリストってなんか似たり寄ったりでは」「手順のオチが見えすいてないか」と思う人にはおすすめ。こういったテーマの本の常として、終盤は「いかに自分らしさを出すか」という話になるが、それでも自己啓発っぽくならないのもすごい。氏の人柄であろう。ただ繰り返すが派手なところはないので、趣味人が読んでも肩透かしかもしれない。

2025年8月30日土曜日

"Studies in Deception" Aurelio Paviato

Studies in Deception (Aurelio Paviato, 2025)


Aurelio Paviatoは私の憧れのマジシャンのひとりです。氏がFISMで部門1位を取ったのは1982年ローザンヌ大会のことで、もう40年以上も前になります(クロースアップ部門でMichael Ammarとの同率一位)。さすがに私もリアルタイムではなく、演技はyoutubeで見ました。それも20年くらい前になるでしょうか。氏のFISMアクトは20年前の基準でも新しくはなかったし、パーツだけを見たら40年前のFISM当時でもおそらくは新しくなかった。それでも1位を取ったし、20年前の私は氏の演技に憧れました。いま見るとさすがに古い……いや、古いは古いけどやっぱりうまくないか? よければFISMアクトの動画を探してみてください。

リリースの多い人ではなく、イタリア語では本や動画もあったようなのですが、日本語ではこれまでノートが一冊あった程度。英語でも同じような状況だったようです。それが今回、とうとうしっかり本が出ました。うれしい。Hermetic Pressから、240ページで、前半は単体手順、後半はFISMアクトの解説となっています。


PaviatoのFISMアクトは、当時(40年前はもちろん20年前もまだ)人口に膾炙していなかったAscanioの理論やTamarizの手管をさりげなく取り込んだものになっています。Paviato独自の点で言うと、手順間の接続が特異的に上手い。そのあたりの考えをずっと知りたいと思っていました。そして本書はStudies(研究)と銘打たれており、個々のトリックもStudies of XX(XXの研究)の副題がついています。……しかし、そこまで分析的な内容ではなかったなというのが正直なところ。カードの選ばせ方や台詞の意図など、全体を通してかなり詳しい解説がされていることは間違いないのですが……。

手順はすべてスタンドアップのパーラー手順。その多くでテーブルも必要になる。特に前半は、実質パスだけで構成されたEverywhere Nowhere、スリービングを駆使するカードアクロスなどなど、クラシック味のあふれる力強いカード手順オンリーとなっています。スタンダップでないと使えない策略も多く、やや限定的な内容。

後半はFISMアクトのブラッシュアップ版。大きな変更は無く、より実用的になっています。この手順の印象からPaviatoはコインが上手いイメージがあったんですが、本書でコインを使うのはこのFISMアクトだけです。焦点のずらし方からスリービングのカバーまで詳しく解説されている。ただ個人的にはもっと抽象度の高いレベルの話もしてほしかった。


スタンドアップで、カードで、パームやパーム・トランスファーを駆使する手品が好きなら特におすすめです。後半も、FISMアクトの文字解説が読みたいなら買いましょう。ただ、Penguin Liveでだいたい同じ内容をやったようで、そうすると本書の意義は大きく薄れているかもしれません。

2025年7月30日水曜日

"Stairway" Markobi

Stairway(Markobi, 2024)


2022年のFISMカード部門1位、Markobiの本が早くも出ました。しかも彼のFISMアクトを徹底解説するという本が。すごい時代です。Aurelio Paviatoの本なんか受賞から40年以上かかりましたからね。私はMarkobiの演技はあんまり好きじゃないのですが、しかしまあ私は何の実績も無く、一方のMarkobiはFISMの1位なのですから本書を信じる方が良いでしょう。

本書はFISMアクトのみ、というかFISMへの挑戦のみを解説した本です。前半は完全に心構えの章。好きなマジシャンたちの演技の分析、練習の仕方、気持ちの持ちようといったところから、日々のエクササイズや、アクト1週間前に気をつけること、前日に気をつけることまで。ハウツー本のパッチワークみたいなところは多分にありつつも、当人によって確かに実践されており、またFISMを目指すという軸はなかなか他にはないので、割合に面白く読めます。

後半はFISMアクトの解説なのですが、これがかなり読みづらい。演技を見ていることが前提だから、と具体的な記述をかなり飛ばして解説が進んでいく。ここでのジョークの意図は~と長々意図を書き連ねるのですが、肝心のジョークそのものは書かれない。下手をすれば現象さえ飛ばされます。正直なところ相当に苦痛な読み味でした。解説というよりもコメンタリというべきか。しかし読者がどのビデオを見るかなんてコントロールできないのだから、そこの不確定性を丸投げにしたまま進めるのは、やっぱりうまいやり方と思えません。演技がそうだからといって、解説までそんな足場のガタついたスタイルにすることないでしょうよ。

私は氏のアクトがあんまり好きじゃないですが、本書を読んで、氏がとても自覚的に、綿密に計画したうえで意図やプロットを殺し、その場その場のコントラストで手品を作っていたことを理解しました。その徹底っぷりにはリスペクトさえ覚えました。そういう意味では読んでよかったけれど、一方でこのFISMアクトには、そのスタイル以外にはあまり売り出すものがないのも事実でしょう。技法や原理に特別なところはない。


手品がタネ仕掛けの次元を超えてスタイルの領域に来たのかもしれず、それは功罪ありつつもまあ前進と言って良いのでしょうけれども、本書はコンテストを強く志向する人か、Markobiの演技がめちゃくちゃ好きな人向けでしょう。

2025年6月30日月曜日

"Flamenco" Juan Tamariz

Flamenco (Juan Tamariz, 2025)


とうとう出ました。TamarizのBewitched Musicシリーズの第三巻、Flamenco。あまりにも長かった。第二巻Mnemonicaが2004年(スペイン語版2000年)でそこから20年。僕は2014年のTamarizジャパン・レクチャーに参加したんですが、そのとき「やっと書き上がった。もう出るよ」みたいに言われてました。そこから数えても10年。正直もう出ないだろうと半ば諦めていました。出てよかった。めでたい。

さて、そんなわけで非常に時間のかかった本作ですが、掛けた時間の分の価値があったのか……というと、まあ当然ながら、プラスの面とマイナスの面がある。


まず、本書の内容ですが、割と普通です。理論に寄ったものではないし、特定の原理に寄ったものでもない。ページ数も250で特別厚くも薄くもない。内容的にも分量的にもSonataの穏当な続編であり、一般的な個人作品集という感じ。収録作はライジングカード、トラベラー、水と油、OOTWなどクラシックのTamarizアレンジが多く、これは非常に読みごたえがある。さらにライジング・ギミックを使った作品群や、アスカニオ派らしいカラー・チェンジング・ナイフも。技法としては、伝説的なフォールス・シャッフルがようやく文章として発表されました。

ただ、ここが問題なのですが、基本的には企画された当時(つまり1995年~2000年頃)に発表されようとしたものたちが収録されているとのこと。もちろんある程度のブラッシュアップはされているものの、そういう意味では遅きに失しているでしょう。Magic from my HeartLetters from Juanも出てしまってるわけで……。この辺の経緯は前書きに書かれていますが、まあなかなか残念な話です。


一方で非常に良かった面もあって、それが解説のされかたです。Tamarizが前書きに書いていますが、本書は氏の本で唯一、本人が筆を執っていません。Tamarizの文体はかなり独特で、翻訳のせいもあってか、かなりガチャガチャした印象になってしまったところ、Stephen Minchの落ち着いた筆致での手順解説には非常に大きな意味がありました。Tamariz手順の見方がちょっと変わると思います。またMagic Rainbowを受け、心理的な策略にも気を配ったとても現代的な解説がなされている。これは今でないと書けない解説だったでしょう。

そんなわけで複雑な気持ちです。もっと早く出しとけよと思うと共に、この解説は今でないと出来なかったでしょう。――時宜的なところはともかく、本書そのものは間違いなく良い本です。おすすめであり、買わない選択はない。やっぱりTamarizはすごいよ。Minchの筆のおかげで、それがより多角的に描かれたと思います。買おう。まあ俺がわざわざ書かなくてもみんなとっくに買っているでしょうけれども。


理論書シリーズもBewitched Musicも完結したし、これで一区切りでしょうか。……なお前書きによると、本書からはPerpendicular Control関連の解説や手順が取り下げられたとのこと。「それ単体で本にするから」らしく、え、まだまだ本が出るのか……? McDonald AcesのTamariz版もギミックカードの本のために取り下げられた? 出るのか? 楽しみだけれど……ちゃんと出るのか……?

2025年5月20日火曜日

"Clair Obscur" Geoffrey Cheminot

Clair Obscur (Geoffrey Cheminot, 2025)

Geoffrey Cheminotはフランスのマジシャン。とはいえ情報化が進み、ウェブミーティングも一般的になった今、国で括る意味は大分薄れているだろう。かわりに幾人かの著名マジシャンがサブスクリプションやプラットフォームを駆使してコミュニティを形成しており、本書はまさにそのひとつ、Benjamin Earlの系列である。でかくて写真が山ほどあり、雰囲気たっぷりのかっこいい本で、手順もかなりBenjamin Earl的であった。※

カード6作、コイン1作の7手順。This is not a BoxInside Outの間ぐらいの感触と言えばEarlファンにはわかりよいだろうか。自然体なハンドリングと、観客の体験に軸を置いた構築で、観客がその体験自体を疑ってしまうような幻惑感を狙っている。素面でやるにはちょっと劇場的すぎる演出もあるが、著者の言う通り「夜なら成立する」かもしれない。

手法面では、技法ぶち抜きもありつつも、状況を整理する流れの中でデックを処理し、現象の純度を上げる工夫は上手い。Ace Assemblyを観客体験型に変える工夫も、ちょっと怖いけどハマればすごそう。

技術的に簡単ではないし、雰囲気作りがかなり重要なこともあって難度は高めだが、これが出てくるならEarlのコミュニティもひとまず成功と言っていいんじゃないかしら。Earlの新刊と言われても信じちゃうかもしれないし、なんなら近年のEarlスタイル手品の本として、Earl自身の本よりおすすめかも。

また氏はTorn and Restored Cardが好きだそうで、最後に収録されているReformation型Torn and Restored Cardだけが妙にオタク手品なのも人間味を感じられてよかったです。Earlスタイルを踏襲しつつも、今後は独特の発展をして行ってくれそうだ。


※Ben Earl的って何さという話だけれども、マジックにおける不自然さ(演者からすれば不自由さ)は技法という「定まった動き」を挿入せざるを得ないことに原因があり、その解消を目論む流れの中で、たとえばDaniが乱雑なスタイルを用い、Helderが技法の丁寧な分解をしている中で、Ben Earlは技法をなるべく一点に集中させることで自由な領域を確保しようとしているように思う。結果的には先祖返りの感もあるのだが、その是非はおいておくとして。