2100年4月25日日曜日

とびら

BASEにて、以下の本を翻訳販売しています。

Thinking the Impossible by Ramón Riobóo

52 Lovers, Adventures in Wonderland by Pepe Carroll

ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険 フロリアン・ズィヴァリン

2025年9月30日火曜日

“The Art of Revealing” Radek Hoffman

 The Art of Revealing (Radek Hoffman, 2025)

 Radek Hoffmanは先日Book of Mを読んだ。刺激に乏しい本だったが、著者には好感を抱いたようでこちらの本も買ってしまった。タイトルのRevealingは情報の開示の仕方、つまりは当て方のこと。副題はHow to create exciting climaxes to your mentalism and magic(あなたのメンタリズムやマジックに心躍るクライマックスを作る方法)となっている。

 メンタリストの演技って似たり寄ったりじゃないか、また多くの手順はオチが読めて退屈じゃないか、というのが著者の問題意識だ。それに対して『著者が』どのように考え、どのように工夫してきたのかが、読みやすいエッセイと具体的な例で解説されている。タイトルから受けるイメージと異なり、あくまで『著者が』したことに留まるのがポイントで、これは本書の短所であり長所でもある。

 たとえば演出の例に出てくるのは基本的に著者自身の手法で、他のアプローチの分析などはあまりなく、多角的とは言えない。示し方が重要なのでそこに至るまでの手法の解説はしない、という基本方針だったはずが手法解説を始めたり、どうも筆力・構成力には疑問がある。一方で小難しい言葉を使ったりせず、頭でっかちになることなく、基本的に自身の実体験として書かれ、それを無理に一般化しようともしていない。 

 Hoffmanは常識人で、メンタリズムのショーを実際に長くやってきたプロで、その手の届く範囲で書かれている。理論や考察に飛び抜けたところはないが、あらためて平易な言葉で語られており飲み込みやすい。オマケで、Hoffman自身が使っているという、ショーを構成するためのプリントまで付いてくる。

 規模によらず、ショーをやる人、やりたい人、またHoffmanが言うように「メンタリストってなんか似たり寄ったりでは」「手順のオチが見えすいてないか」と思う人にはおすすめ。こういったテーマの本の常として、終盤は「いかに自分らしさを出すか」という話になるが、それでも自己啓発っぽくならないのもすごい。氏の人柄であろう。ただ繰り返すが派手なところはないので、趣味人が読んでも肩透かしかもしれない。

2025年8月30日土曜日

"Studies in Deception" Aurelio Paviato

Studies in Deception (Aurelio Paviato, 2025)


Aurelio Paviatoは私の憧れのマジシャンのひとりです。氏がFISMで部門1位を取ったのは1982年ローザンヌ大会のことで、もう40年以上も前になります(クロースアップ部門でMichael Ammarとの同率一位)。さすがに私もリアルタイムではなく、演技はyoutubeで見ました。それも20年くらい前になるでしょうか。氏のFISMアクトは20年前の基準でも新しくはなかったし、パーツだけを見たら40年前のFISM当時でもおそらくは新しくなかった。それでも1位を取ったし、20年前の私は氏の演技に憧れました。いま見るとさすがに古い……いや、古いは古いけどやっぱりうまくないか? よければFISMアクトの動画を探してみてください。

リリースの多い人ではなく、イタリア語では本や動画もあったようなのですが、日本語ではこれまでノートが一冊あった程度。英語でも同じような状況だったようです。それが今回、とうとうしっかり本が出ました。うれしい。Hermetic Pressから、240ページで、前半は単体手順、後半はFISMアクトの解説となっています。


PaviatoのFISMアクトは、当時(40年前はもちろん20年前もまだ)人口に膾炙していなかったAscanioの理論やTamarizの手管をさりげなく取り込んだものになっています。Paviato独自の点で言うと、手順間の接続が特異的に上手い。そのあたりの考えをずっと知りたいと思っていました。そして本書はStudies(研究)と銘打たれており、個々のトリックもStudies of XX(XXの研究)の副題がついています。……しかし、そこまで分析的な内容ではなかったなというのが正直なところ。カードの選ばせ方や台詞の意図など、全体を通してかなり詳しい解説がされていることは間違いないのですが……。

手順はすべてスタンドアップのパーラー手順。その多くでテーブルも必要になる。特に前半は、実質パスだけで構成されたEverywhere Nowhere、スリービングを駆使するカードアクロスなどなど、クラシック味のあふれる力強いカード手順オンリーとなっています。スタンダップでないと使えない策略も多く、やや限定的な内容。

後半はFISMアクトのブラッシュアップ版。大きな変更は無く、より実用的になっています。この手順の印象からPaviatoはコインが上手いイメージがあったんですが、本書でコインを使うのはこのFISMアクトだけです。焦点のずらし方からスリービングのカバーまで詳しく解説されている。ただ個人的にはもっと抽象度の高いレベルの話もしてほしかった。


スタンドアップで、カードで、パームやパーム・トランスファーを駆使する手品が好きなら特におすすめです。後半も、FISMアクトの文字解説が読みたいなら買いましょう。ただ、Penguin Liveでだいたい同じ内容をやったようで、そうすると本書の意義は大きく薄れているかもしれません。

2025年7月30日水曜日

"Stairway" Markobi

Stairway(Markobi, 2024)


2022年のFISMカード部門1位、Markobiの本が早くも出ました。しかも彼のFISMアクトを徹底解説するという本が。すごい時代です。Aurelio Paviatoの本なんか受賞から40年以上かかりましたからね。私はMarkobiの演技はあんまり好きじゃないのですが、しかしまあ私は何の実績も無く、一方のMarkobiはFISMの1位なのですから本書を信じる方が良いでしょう。

本書はFISMアクトのみ、というかFISMへの挑戦のみを解説した本です。前半は完全に心構えの章。好きなマジシャンたちの演技の分析、練習の仕方、気持ちの持ちようといったところから、日々のエクササイズや、アクト1週間前に気をつけること、前日に気をつけることまで。ハウツー本のパッチワークみたいなところは多分にありつつも、当人によって確かに実践されており、またFISMを目指すという軸はなかなか他にはないので、割合に面白く読めます。

後半はFISMアクトの解説なのですが、これがかなり読みづらい。演技を見ていることが前提だから、と具体的な記述をかなり飛ばして解説が進んでいく。ここでのジョークの意図は~と長々意図を書き連ねるのですが、肝心のジョークそのものは書かれない。下手をすれば現象さえ飛ばされます。正直なところ相当に苦痛な読み味でした。解説というよりもコメンタリというべきか。しかし読者がどのビデオを見るかなんてコントロールできないのだから、そこの不確定性を丸投げにしたまま進めるのは、やっぱりうまいやり方と思えません。演技がそうだからといって、解説までそんな足場のガタついたスタイルにすることないでしょうよ。

私は氏のアクトがあんまり好きじゃないですが、本書を読んで、氏がとても自覚的に、綿密に計画したうえで意図やプロットを殺し、その場その場のコントラストで手品を作っていたことを理解しました。その徹底っぷりにはリスペクトさえ覚えました。そういう意味では読んでよかったけれど、一方でこのFISMアクトには、そのスタイル以外にはあまり売り出すものがないのも事実でしょう。技法や原理に特別なところはない。


手品がタネ仕掛けの次元を超えてスタイルの領域に来たのかもしれず、それは功罪ありつつもまあ前進と言って良いのでしょうけれども、本書はコンテストを強く志向する人か、Markobiの演技がめちゃくちゃ好きな人向けでしょう。

2025年6月30日月曜日

"Flamenco" Juan Tamariz

Flamenco (Juan Tamariz, 2025)


とうとう出ました。TamarizのBewitched Musicシリーズの第三巻、Flamenco。あまりにも長かった。第二巻Mnemonicaが2004年(スペイン語版2000年)でそこから20年。僕は2014年のTamarizジャパン・レクチャーに参加したんですが、そのとき「やっと書き上がった。もう出るよ」みたいに言われてました。そこから数えても10年。正直もう出ないだろうと半ば諦めていました。出てよかった。めでたい。

さて、そんなわけで非常に時間のかかった本作ですが、掛けた時間の分の価値があったのか……というと、まあ当然ながら、プラスの面とマイナスの面がある。


まず、本書の内容ですが、割と普通です。理論に寄ったものではないし、特定の原理に寄ったものでもない。ページ数も250で特別厚くも薄くもない。内容的にも分量的にもSonataの穏当な続編であり、一般的な個人作品集という感じ。収録作はライジングカード、トラベラー、水と油、OOTWなどクラシックのTamarizアレンジが多く、これは非常に読みごたえがある。さらにライジング・ギミックを使った作品群や、アスカニオ派らしいカラー・チェンジング・ナイフも。技法としては、伝説的なフォールス・シャッフルがようやく文章として発表されました。

ただ、ここが問題なのですが、基本的には企画された当時(つまり1995年~2000年頃)に発表されようとしたものたちが収録されているとのこと。もちろんある程度のブラッシュアップはされているものの、そういう意味では遅きに失しているでしょう。Magic from my HeartLetters from Juanも出てしまってるわけで……。この辺の経緯は前書きに書かれていますが、まあなかなか残念な話です。


一方で非常に良かった面もあって、それが解説のされかたです。Tamarizが前書きに書いていますが、本書は氏の本で唯一、本人が筆を執っていません。Tamarizの文体はかなり独特で、翻訳のせいもあってか、かなりガチャガチャした印象になってしまったところ、Stephen Minchの落ち着いた筆致での手順解説には非常に大きな意味がありました。Tamariz手順の見方がちょっと変わると思います。またMagic Rainbowを受け、心理的な策略にも気を配ったとても現代的な解説がなされている。これは今でないと書けない解説だったでしょう。

そんなわけで複雑な気持ちです。もっと早く出しとけよと思うと共に、この解説は今でないと出来なかったでしょう。――時宜的なところはともかく、本書そのものは間違いなく良い本です。おすすめであり、買わない選択はない。やっぱりTamarizはすごいよ。Minchの筆のおかげで、それがより多角的に描かれたと思います。買おう。まあ俺がわざわざ書かなくてもみんなとっくに買っているでしょうけれども。


理論書シリーズもBewitched Musicも完結したし、これで一区切りでしょうか。……なお前書きによると、本書からはPerpendicular Control関連の解説や手順が取り下げられたとのこと。「それ単体で本にするから」らしく、え、まだまだ本が出るのか……? McDonald AcesのTamariz版もギミックカードの本のために取り下げられた? 出るのか? 楽しみだけれど……ちゃんと出るのか……?

2025年5月20日火曜日

"Clair Obscur" Geoffrey Cheminot

Clair Obscur (Geoffrey Cheminot, 2025)

Geoffrey Cheminotはフランスのマジシャン。とはいえ情報化が進み、ウェブミーティングも一般的になった今、国で括る意味は大分薄れているだろう。かわりに幾人かの著名マジシャンがサブスクリプションやプラットフォームを駆使してコミュニティを形成しており、本書はまさにそのひとつ、Benjamin Earlの系列である。でかくて写真が山ほどあり、雰囲気たっぷりのかっこいい本で、手順もかなりBenjamin Earl的であった。※

カード6作、コイン1作の7手順。This is not a BoxInside Outの間ぐらいの感触と言えばEarlファンにはわかりよいだろうか。自然体なハンドリングと、観客の体験に軸を置いた構築で、観客がその体験自体を疑ってしまうような幻惑感を狙っている。素面でやるにはちょっと劇場的すぎる演出もあるが、著者の言う通り「夜なら成立する」かもしれない。

手法面では、技法ぶち抜きもありつつも、状況を整理する流れの中でデックを処理し、現象の純度を上げる工夫は上手い。Ace Assemblyを観客体験型に変える工夫も、ちょっと怖いけどハマればすごそう。

技術的に簡単ではないし、雰囲気作りがかなり重要なこともあって難度は高めだが、これが出てくるならEarlのコミュニティもひとまず成功と言っていいんじゃないかしら。Earlの新刊と言われても信じちゃうかもしれないし、なんなら近年のEarlスタイル手品の本として、Earl自身の本よりおすすめかも。

また氏はTorn and Restored Cardが好きだそうで、最後に収録されているReformation型Torn and Restored Cardだけが妙にオタク手品なのも人間味を感じられてよかったです。Earlスタイルを踏襲しつつも、今後は独特の発展をして行ってくれそうだ。


※Ben Earl的って何さという話だけれども、マジックにおける不自然さ(演者からすれば不自由さ)は技法という「定まった動き」を挿入せざるを得ないことに原因があり、その解消を目論む流れの中で、たとえばDaniが乱雑なスタイルを用い、Helderが技法の丁寧な分解をしている中で、Ben Earlは技法をなるべく一点に集中させることで自由な領域を確保しようとしているように思う。結果的には先祖返りの感もあるのだが、その是非はおいておくとして。

2025年4月1日火曜日

"Forged by Fire" Christoph Borer

Forged by Fire (Christoph Borer, 2024)


Christoph Borerはスイスのマジシャン。10年ちょっと前のGet Sharkyという単売トリックで覚えている人もいるかもしれません。ドイツ語ではたくさん本も出していたそうで、今回の本はこれまでの40年のベスト・セレクションとのこと。なおGet Sharkyは収録されていません。

カード4作、クロースアップ8作、パーラー&ステージ14作、メンタリズム13作、ストーリー3作で合わせて42作。かなりのボリュームですが、解説が割とシンプルなこともあってサクサク読めます。いちおうクロースアップの枠もあるけど、実質的には概ねパーラー以上かなという感じで、どちらかというとプロの手品です。

仕事に合わせた現象の改変や、道具の準備がしっかりしていて、そういう点でもプロ感が強い。ブックフェアのために本を素材にした手順が多く入っていたり、手順の為にハサミの取っ手だけを50挺分買ったりしている。逆に手法自体にはあまりこだわりがないようで、同じ手法がちょこちょこ出てくる。特に後半のメンタリズム付近ではマジシャンズ・チョイスが頻出したりして、ちょっと本書の印象を退屈にしています。

印象に残ったのは、某有名手順を本でやってしまうColorful Backstories、観客の選んだ単語からその場にふさわしいメッセージを作り上げてみせるAnagram、合計が観客の誕生日になる魔方陣を作るA Mathematical Birthdayあたりでしょうか。ルーンを使った手品がちょくちょくあったのもお国柄で良かった。カードの手品も、デックスイッチやデュプリケートといったラフな解決方法さえ許せるなら、角を破ったカードのカード当てや、変化の中間状態を見せられるカラーチェンジングデックなど、見栄えがよくクライマックス向きのものが多い。

あとドイツ語圏のマジシャンということで個人的に期待していたストーリー関連の手品、これは少ないながらも良かった。ロミオとジュリエットのお芝居を観客としながら行うカードの交換現象とか、おもむろに観客に毒を盛ろうとする手品が印象的。この辺のやつをもっと多めに取ってほしかったですね。

クレジットで引用することはあまりないかもしれないけれど、パーラー以上の規模でショーをやるなら是非とも読んでおきたい本。非英語圏のマジシャンの情報を出していきたい、というのはVanishing Incの企業姿勢のひとつらしく、非常によいと思います。今後もよろしくお願いします。

2025年3月31日月曜日

"Book of M" Radek Hoffman

Book of M (Radek Hoffman, 2018)


ポーランドのメンタリスト、Radek Hoffmanの小ぶりなハードカバー、150頁。手順が9つ、エッセイが8つ収録されています。

作品数は少なめですが、それはどれもご本人がちゃんと演じているからでしょう。全体的にトーンも質も近く、パーラー・ステージ寄りで、手法も固め。演者の負担も少なめ。ただ現象はESPカード、マーダーミステリー、ACAAN、Q&Aなどなど被りなく、チョップカップをメンタル現象に使ったりと見た目のバラエティにも気を遣っています。このへんも、ご本人がショーでちゃんと演じているからでしょう。この本から数トリックを選ぶだけで、そこそこのメンタル・ショーになりそう。

エッセイも、オリジナリティや演出といったものから、メンタルの演出論まで、基本的なことがすっきりまとめられています。

ただ中庸というか、常識的で、しっかりしているけれど、飛び抜けたものは感じられなかった。良識的で安定した内容が薄い本にまとまっているので、部室とかにあると嬉しく、ショーを組みたい時にもいいでしょう。一方で尖ったものを求める層には刺さらなさそう。

ポーランドの人ということで、エキゾチックなものも期待していたんですが、そこも特には。メンタリズムはDerren Brownが強すぎてだいたい彼の話になってしまう。あと翻訳における単語の選択がちょっとだけ変なので、読むときは気をつけましょう。

2025年2月26日水曜日

"The Hummingbirds" Luke Jermay

The Hummingbirds (Luke Jermay, 2024)


Luke Jermayのおそらく久しぶりなハードカバー作品。わずか56ページ、収録作品はライジングカード1つきりで、ギミック等も付属せず、それでお値段99ドルである。なお判型は小さくページ当たり文字数も少ない。それで、先に結論を言うが、個人的には大いにありだと思った。Jermayは本職メンタリストながら、手品らしい手品もけっこうやっていて、その中でも今回は特に出来がよい。

収録されているライジングカードは、最近では逆に珍しいくらいクラシカルな仕立てだ。デックをグラスに入れ、薄布をかける。演者が手を触れることは不可能だが、選ばれたカードがせり上がってくる。覆い無しでも上がってくるし、ガラスの大瓶で蓋をしても上がってくる。現象がクラシカルなら、ライジング手法も別に目新しくはない。そして手法以外の部分、カードの選択とかハンドリングに革新的な原理が使われているわけでもない。

では何か、というと、総合的な完成度だ。雑味のない美しいライジング現象、きわめて自然で自由なハンドリング、興味を引くが出しゃばり過ぎない演出、そして時にはあえて不思議さを抑えるような構成。Jermayがショーの最後にこれを演じているところが目に浮かぶようだ。それに加えてセリフや各動作の際の意図までが、詳細に――とまでは言えないが、少なくとも過不足なく――解説されている。

目を見張るような詭計はないが、数多くの細やかな心配りによって、ひとつのパフォーマンス・ピースとして洗練されている。生で見るのが一番だけれど、次善として本で読むのがいいタイプの作品だろう。こういったライジングカードが演じられる人なら是非買うべきだし、そうでなくとも、ショーのトリとしてクラシカルな手品をしっとり不思議に演じたいなら大変参考になろう。なにより造本もかっこいいので持ってて損はないですよ。

2025年1月20日月曜日

"Pocket booK" Peter Turner

Pocket booK (Peter Turner, 2024)

Peter Turnerと愉快な仲間たちによるPKメンタリズムの本。PKといっても念動力(サイコキネシス)ではなくBanachekのPsychokinetic Touchesのことだ。タイトル通りにポケットサイズの本になっていて、250ページあるけれども小ぶりで読みやすい。

BanachekのPsychokinetic Touchesはまごうことなき傑作だが、いくつか居心地の悪いところもある。ひとつは『時間』の要素で、もうひとつはDual Realityだ。本書の巻頭を飾るTurnerのMidas Touchは、見た目こそ大幅にリッチになっているが、手順の持つ居心地の悪さはそのまま――というより悪化しているように感じた。

しかし幸い、本書には愉快な仲間たちによる多くの寄稿がある。面白い演出や応用、本流のPK Touchの手法からは外れる変なものもあって、総体としては面白い本になっている。ただしどちらかといえば演出案や実演例の範疇に収まるものが多く、Luke JermayのTouching on Hoyのようなパラダイムがひっくり返るような作品はなかったように思う。そんな中で、Colin McleodのForce Be With Youは前記の居心地の悪さに対して、真正面から回答しようとしているのが良かった。

Banacheckの元手順の解説はないし、新機軸のアイディアもない。おまけにこの本はけっこうお高いので、誰彼となくお勧めはできない。ただし様々な見せ方は学べるので、実際にPsychokinetic Touchesを演じており、見せ方や使い方を勉強したい人だったら、十二分に元は取れるだろう。

ただ、本書によればBanachek本人がPK Touchの本を作ってるとのことなので、そちらを待っても良いかなあ……とは思う。