Stairway(Markobi, 2024)
2022年のFISMカード部門1位、Markobiの本が早くも出ました。しかも彼のFISMアクトを徹底解説するという本が。すごい時代です。Aurelio Paviatoの本なんか受賞から40年以上かかりましたからね。私はMarkobiの演技はあんまり好きじゃないのですが、しかしまあ私は何の実績も無く、一方のMarkobiはFISMの1位なのですから本書を信じる方が良いでしょう。
本書はFISMアクトのみ、というかFISMへの挑戦のみを解説した本です。前半は完全に心構えの章。好きなマジシャンたちの演技の分析、練習の仕方、気持ちの持ちようといったところから、日々のエクササイズや、アクト1週間前に気をつけること、前日に気をつけることまで。ハウツー本のパッチワークみたいなところは多分にありつつも、当人によって確かに実践されており、またFISMを目指すという軸はなかなか他にはないので、割合に面白く読めます。
後半はFISMアクトの解説なのですが、これがかなり読みづらい。演技を見ていることが前提だから、と具体的な記述をかなり飛ばして解説が進んでいく。ここでのジョークの意図は~と長々意図を書き連ねるのですが、肝心のジョークそのものは書かれない。下手をすれば現象さえ飛ばされます。正直なところ相当に苦痛な読み味でした。解説というよりもコメンタリというべきか。しかし読者がどのビデオを見るかなんてコントロールできないのだから、そこの不確定性を丸投げにしたまま進めるのは、やっぱりうまいやり方と思えません。演技がそうだからといって、解説までそんな足場のガタついたスタイルにすることないでしょうよ。
私は氏のアクトがあんまり好きじゃないですが、本書を読んで、氏がとても自覚的に、綿密に計画したうえで意図やプロットを殺し、その場その場のコントラストで手品を作っていたことを理解しました。その徹底っぷりにはリスペクトさえ覚えました。そういう意味では読んでよかったけれど、一方でこのFISMアクトには、そのスタイル以外にはあまり売り出すものがないのも事実でしょう。技法や原理に特別なところはない。
手品がタネ仕掛けの次元を超えてスタイルの領域に来たのかもしれず、それは功罪ありつつもまあ前進と言って良いのでしょうけれども、本書はコンテストを強く志向する人か、Markobiの演技がめちゃくちゃ好きな人向けでしょう。