Secrets(Anthony Owen, 2017)
Anthony Owenはこれまでカードやメンタルでノートを出していますが、有名なのはDVDにもなったUltimate Oil and Waterでしょう。ただ私個人としては、英国のメンタル寄りTVマジックのプロデューサーとして気になっていました。Darren Brownのショーの多くに参加していたとのこと。
本書は彼の初めてのまとまった作品集です。裏に数字を書いたトランプを使うなど、どうにも一点物の手順(※)が多く、そこは好みが分かれそうです。一方、そういった手順を演じられる方でしたら、通して楽しめるでしょう。
※一点物の手順:道具や手続きがその手順のためのものである事が、観客からも明白であるもののことを言いたかった。またOwenの場合は、現象がいっかいこっきりである事が多くて、それがこの感じを助長していると思う。
マジック番組の裏方として番組のために手順を考案していたこともあってか、全体的にプロブレム解決型の手順が多いです。Oil and Waterでの「揃えて広げるだけで分離」や、Out of this Worldの「ガイドカードの交換なし」、Premonitionの「観客が自由に思っただけのカードが消え、かつ、消えたことを観客が確かめても不整合が無い」など。ただ確かに公約は見事に解決しているんですが、大きなドローバックがあるものもあります。
手順はカードやカードのメンタルが多いですが、2作品だけですがコインなんかもあって幅広い(マトリックスは面白い趣向で、できれば先に生で見たかった……)。ギミックや準ギミックをつかう手順がほとんどですが、何かしら「この手を使うのか」というポイントがあり、演じる演じないは別として面白かったです。
とりわけ特殊状況下での手品や、TV用の手品などは、プロブレム解決型の手腕がよく合致しています。飲んだコーヒーを素材ごとに分離させて吐き出すという純TV向きの手品や、英国のTV番組を下敷きにしたものなど。後者は文化に依存しているため、残念ながら直接は演じられませんが、クイズ・ミリオネア(の元ネタ)を下敷きにしたものなんかは日本でも楽しく演じられるでしょう。
面白いですが、一点物手品やギミック手品が苦手な人は、そのままレパートリーにできる手品は少ないでしょう。もちろんそれぞれ面白くはあるのですけれど。一点物ができる人なら、非常によい作品集と思います。