Reality Is Magic (Anson Chen, 2023)
Neat Reviewから出版されたAnson Chenのマジック~メンタルの作品集。香港の方で、日本のマジックバーに居たこともあるらしい。本はご覧の通りでデザインが完全に極まっており(https://www.ultraneat.org/reality-is-magic)、タイトルと相まって高踏で難解に見えるのだが、はたして内容はというと意外に平易でシンプルであった。
最初の手順Wishstoneこそ、『願をかけた紙片に火をつけ、残った灰を宝石にする』というビザー的手順であるのだが、次は(知覚をだます系ではあるものの)コイン手品、Out of Sight, Out of Mindの改案、カードアクロスなどなど、一般的なプロットが並ぶ。演出もあっさりで、装丁から感じるような黒魔術っぽさは無い。いちおう後半では奇妙な道具や日常生活をゆがませる系の手順もありはするが……。
そして肝心のreal magicというアプローチについても、著者は「This approach may be largely unexplored(いままでほとんど開拓されてこなかった)」と言うが、Benjamin EarlやAndyが大きな影響を及ぼしていて、FeldmanのPages Are Blankみたいな本も出てきている。そしてまた、本書がそのアプローチを探求できているか、新たな視点を持ち込めているか、というとこれもあやしい。
では本書は駄作か、というとそんなことはない。リアリティに到達するために、手順からは手品的な動きがよく削ぎ落とされている。エッセイもシンプルだが当を得ているし、文章もとても読みやすい。見た目に反して、リアルマジックへの入り口としては、上記の悩める面々よりもはるかに取っつきやすい本だ。
良い本ではあるが装丁から期待する内容とはかなり乖離があった。頭のおかしいビザーマジックを求めているとだいぶ肩透かしだと思う。そういう人はGarden Of The Strangeを読もう。