The Ron Bauer 2008 Lecture Revised Edition (Ron Bauer, 2009)
Ron Bauerが2008年に行ったレクチャーのノート(メモ)に、参加者でなくても意味が追えるよう多少の改定を加えたもの。Ron Bauerはちょっと古めの人で、38年の生まれでMarloとかVernonとも親しく、あとKortと仲良かったようです。この冊子の図もKortの奥さんが描いてる。あまり露出がない人なのですが、98年くらいからPrivate Studiesという小冊子のシリーズを出しています。各冊子1トリックを扱い、ちゃんと観客の興味を引くPremiseを提示しろ、技法はうまく演出の中に溶け込ませろ、みたいな内容で全24巻(私は1冊しか読んでないので趣旨については半分憶測)。
レクチャーの前半はその冊子シリーズに近い方向性で、ちゃんとした『アクト』をもっているか、と言った内容。ここでいう『アクト』とは、3つぐらいのトリックをうまくまとめた小さなショーみたいなものです。アクトの必要性、アクトの要素、なにがアクトをアクトたらしめるか、といった内容とともに、極めて汎用性の高い一例が示されています。私自身これに近い「汎用」アクトで場をしのいだことがあり、良い内容だと思いつつも、ちょっと筆が追いついていない感じがある。Private Studiesもそうなんですが、説明の段取りがやや歪で読みにくい。
後半は打って変わって技法2つ。それもド直球でダブルリフトとパーム。私がそもそもBauerを知り、この冊子を買ったのは、youtubeも黎明期に氏のこのパーム動画を見たからでした。これが上手かった。流石にいま見ると……ではあるんですが、当時最高峰のひとりであったのは間違いないと思います。ダブルリフトはCharlie Millerが「疑いを抱きすらしなかった」と言っており、パームはMarlo, Vernon, Miller等に「いまからちょっとした事をやるから」と言ってから見せて(さすがにパームするとまでは言わなかったらしいが)露見しなかったというもの。こういう逸話は盛られがちですが、どちらも実際そうだったのだろうと思わせる確かな内容です。
それはたとえば、裏から表にする方法は1通りなのに対して、表から裏にするには4通りが解説されていたり、パームした感が出てしまう2つの要因について分析したりといった、技法細部の検討や、言語化がとても丁寧であることからもうかがえます。この2つの技法に関しては今でもベスト……とはいかなくても、かなり良い解説であり手法なんじゃないでしょうか。
というわけでやや読みにくいものの、いい冊子だと思いました。惜しむらくはもう少しだけ文章が良ければ。そしてPrivate Studiesと共に清書され合本ハードカバーになってくれれば……。まあ望み薄なので、気になるトリックを扱っている巻をもう1つ2つぐらい買ってみたいと思います。しかしPremiseの重要性を説き、演出重視でありつつ、技法マニアでもあり、なにより不思議を重視していた人のように読めるので、全盛期を生で見てみたかったですね。
氏の座右の銘は、“If you're a magician, you must FOOL‘EM in order to ENTERTAIN ‘EM.(マジシャンであるならば、観客を楽しませるために、まずなによりも彼らを騙さなくてはならない)” とのこと。