High Caliber(John Bannon, 2013)
これまで小冊子や単品DVDをいろいろ出していたJohn Bannonが、それらを1冊にまとめてくれました。1つ2000円くらいで売ってるフラクタル・パケット・トリックのシリーズなども惜しげもなく収録。日本語訳が出ているMega' Waveや当ブログでも取り上げたSix. Impossible. Things.も収められています。
私はその2冊ぐらいしか買ってないので、傷は浅いですが、すごい大バーゲン。また、そういった商品の他、Magic MagazineのBannon特集号に収録されたトリックなども再録。300ppある大冊です。
・Fractal Card Magic
・Six. Impossible. Things.
・Open and Notorious
・Mega 'Wave
・Bullet Party
・Triabolical(with Liam Montier)
・One Off
・All In(Magic Magazine, Feb 2012)
・Shufflin'
・Fractal Card Magic
単体DVDで発表されていたフラクタル・シリーズのテキスト版。流石に使うカードは付いていませんが、特別な印刷のカードが必要な手順ではなく、せいぜいがブランクやジョーカー多枚数、エースの裏色違い程度なので、自前での構築も簡単です。
Impossibiliaあたりに端を発するBannonの『ずるをする』センスのひとつの到達点かと思います。普通だったら現象として成立しないようなものを、うまく組み込み、これまでのやり方では不可能だったことを成し遂げています。また演出も上手です。といっても、よく言われる意味での『演出が上手い』ではありません。ストーリーや意味づけは皆無に近く、起こる現象や操作を、順次説明して行っているだけに近い。
しかし、うまく観客とやりとりをし、うまく観客の注意を引き、うまく観客を誤った方向に誘導するように出来ています。DVDで発売されたときに実演動画が公開されましたが、お客さんの反応がとてもいいです(おまけにお客さんが美人です)。
・Six. Impossible. Things.
過去に取り上げましたのでここでは省きますが、非常にできの良いノートです。
・Open and Notorious
オープン・プレディクションとMiraskillを扱った小冊子。
全3作と作品は少なく、またオープン・プレディクションや51 Faces Northというプロブレムに対する回答としては物足りないのですが、そもそもバノンはそこに重点を置いていません。既存のメソッドを上手く組み合わせて、『公開されている予言』という現象をうまく作り上げています。
Miraskillについては、以前HPで公開されていたもの。ちょっとした策略なのですがこれがあまりにずるい。
・Mega 'Wave
これも、日本語版をですが、過去に取り上げたので省きます。
・Bullet Party
同タイトルのDVDとだいたい重複してますが、いくつか違いがあります。DVDの方は見ていないので、解説の濃淡などはわかりません。Dear Mr. Fantasyを思わせる比較的クラシカルな内容で、特にエース・アセンブリが多く収録されています。Dear Mr. Fantasyのとき、Lennart Greenのアセンブリを別の方法で解決したかったと言っていて、そのときの作品は全然ぴんとこなかったのですが、本書のDrop Target Aceは確かにGreenとは異なった手法であの現象に迫っており、流石。
・Triabolical(with Liam Montier)
Liam Montierと共同で出したフラクタル・パケット・トリック集DVDも、なんと解説しています。いいのか。Bullet Party Countを用いた3作品。
個人的な感想ですが、Montierの演出にはどうも引っかかりを覚えます。マジシャン都合というか。どこに引っかかり、どこがBannonのテイストと違うのか、というのを考えても面白いです。
・One Off
寄稿作品ふたつ。Peter DuffieのCard Magic USAに収録されたというAces Over Easyが、非常に簡素な解説ながら、とても面白くて気に入っています。
・All In(Magic Magazine, Feb 2012)
めずらしくカードではない作品が入っています。コインのメンタル。他、カードの入れ替わりやクロックトリックなどですが、小さなずるさが特徴の作品群。
・Shufflin'
再録ふたつに、Fractal Card Magicの章で解説されていなかったSpin Doctorなど。
というわけで非常なボリュームです。
Bannonはいままでも、観客にそれと分からないよう前提条件を崩したり、矛盾をぬけぬけと使ったり、ふつうであれば成立しないようなものを上手く現象にみせたり、といった手法をとても巧みに使ってきましたが、やがて既存のマジックのプロットを離れ、それらの手法自体が手順となっているような作品ができはじめました。それがSix Impossible Thingsのあたり。そしてその結晶がFractalシリーズのパケット・トリックと言えるでしょう。
実はこの後のBannonの著作は、もちろん頭は相変わらず良いものの、ぬけぬけとした大胆な『ずるさ』はなりを潜めています。そういう意味でも、本書はBannonのひとつの到達点と言えるでしょう。
で、その本書ですがどうやら絶版のようです。自費出版なのでリスクを見て少なめに刷ったんでしょうか。でも近く日本語版が出るとか何とか聞きました。