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2017年10月29日日曜日

52 Lovers 日本語版:発売




José Carroll(ホセ・キャロル)の著作52 Amantes(52 Lovers)の和訳本となります。

2巻ある原著を1冊にまとめ、収録順を変更しました。翻訳はできる限り誠実に行い、省略や改変は最小限に留めたつもりです。翻訳は英語版からの重訳で、不明箇所については西語版にあたりました。他、一部の誤っている図を修正し、またクレジットなどの情報を脚註のかたちで加えました。

リンク先のBASEサイトにてご購入下さい。
当サイト以外で発売する予定はありません。

B5ハードカバー:232頁 6,000円
版権交渉済み



スペインの偉大なマジシャン、Pepe Carrollのカードマジック作品集です。

Dai VernonはコラムVernon Touchの中で、スペインの偉大なカードマジシャンとしてAscanio、Tamarizと並べてCarrollの名前を挙げています。しかし若くで亡くなってしまったこと、書籍52 Loversの英語版があまり出回らなかったらしいこと(そして手順がやたら難しかったこと)から、本邦におけるCarrollの知名度は他二人にくらべて不当と言っていいほど低いものでした。

個人的な見解になりますが、Vernonが挙げた3人のうち、Ascanioが理論、Tamarizが演技とすると、Carrollはその現象が秀でています。本書に収められた手順は技術的にも道具の準備的にもハードルが高く、属人性の強いものですが、そのプロットは鮮やかで魔法的なセンスに優れ、現在のスペイン・マジシャンに受け継がれているものも少なくありません。

また本書の冒頭で解説されるサスペンスの理論は、いかに観客を巻き込み、スリリングな体験を提供するかといった観点で非常に優れた内容です(Tamarizも、ここを読まなければ本書の価値は半分になってしまう、と序文の中で激賞しています)。

この理論は実際に、本書で解説されている手順のなかに見ることができます。またサスペンス理論のみならず、TamarizやAscanioの理論(途中の動作、視線の交差、減コントラスト区、プレゼンテーションとカバー)などの、いわゆる『スペインのツール』が随所で用いられており、精読に値するものと思います。

お楽しみ下さい。

*宣伝のためにしばらく未来の日付にします。
元の公開日時は2017/10/29 。

2017年1月24日火曜日

Thinking the Impossible 日本語版:発売

 

Thinking the Impossible:日本語版

Ramón Riobóo

 



もし騙されるのがお嫌なら、何があってもRamón Riobóoに会ってはいけません。


Riobóoが1組のトランプを手に取したら――、疑い深い観客から世界的な碩学のマジシャンまで、最早だれ一人として安全ではありません。彼がポケットからくたびれたトランプを取り出し、ぎこちない手つきで混ぜ始めたら、――その間ずっと彼が少し上の空に見えたとしても、心しておくように、あなたが知っているこの世界の物理法則はねじ曲がり、あり得ない結末へと雪崩込むでしょう。

Ramón Riobóoは引退したTVディレクターで、スペインが誇る最上級のマジシャンJuan Tamarizの近しい友人です。彼はその本業から、ドラマ、簡潔さ、娯楽性、そして観客の注意を操る技を学びました。そしてTamarizとの親交を通じて、彼は愛想良く、しかし容赦なく相手を騙す術を学んだのです。彼の手の内を見抜いたと思ったそのとき、あなたは正に彼のマジックの陥穽にはまり込んでいるのです。人を袋小路に導くことにかけてRamón Riobóo程の手練れは居ないでしょう。

 Riobóoの専門は数理的な原理と心理的なサトルティの芸術的なまでに巧みな使用です。それらは巧妙に隠されており、理解を超えた現象を生み出すように計算されています。そして彼は、あなたが予想すらしていないタイミングで、技法やギミック・カードをそっと忍ばせて来ます。これらの組み合わせは、あっけにとられるような不思議さと心地のよい楽しさを生むでしょう。

Steve BeamのSemi-automatic Card Tricks シリーズに露出し始めた事で、 英語圏のマジシャン達の間でRiobóo作品に対する関心が高まってきました。このThinking the Impossibleで、彼はその名声に期待されるものすべてを解放しています。39のトリックと手順には彼の賢さと狡猾さがたっぷりと染み込み、そこに心理的な側面についての3つの信条がステアされて、―― くらくらするほどに不思議なカード・マジックがここにあります。

 Hermetic Press版より





 長らくお待たせしました。Thinking the Impossible 日本語版、発売と相成りました。リンク先のBASEサイトをご使用頂くか、私個人にメールで連絡のうえ銀行口座振り込みなどでお買い求めください。本業がありますので、場合によっては発送が週末までずれ込む場合もあるかと思いますが、ご理解頂きますようお願い致します。


 さて本の内容を紹介したいのですが、ここでいくら褒めちぎっても宣伝にしか聞こえないでしょう。しかし幸いにして、本書を訳す事になるなど夢にも思っていなかった頃のレビューがあるので、そちらを参照ください。


 緑の蔵書票:"Thinking the Impossible"Ramón Riobóo



 翻訳に際しては、基本的には元々の文章に手を加える事はしていません。中にはやや理屈に合わない操作であるとか、わかりにくいような説明もあるのですが、大きな改変や、注や図を補うような事はしませんでした。ただし現象説明と手法解説とで若干内容に食い違いがある場合があり、それは統一のうえ、その旨を注にしてあります。


 またページ数や構成の関係で、数点の図が削られたり、加工されたりしています。削られたのはとある文房具の写真や、ごくごく基礎的な技法の図であり、他の問題と天秤に掛けたうえで、無くても問題ないと判断しました。


 技法名、手順名、人名、書籍名については、ダブル・リフトやシャッフルなどの基本的な用語を除いて、英語表記のままにしてあります。これは私が音を上手くカナに起こせなかったからですが、いちおう検索が容易にできるようにという意図もあります。基本的には固有名詞なので、通読には問題ないかと思います。

 なおRamón Riobóo氏について言うと、ラモン・リオボーという音が近いようです。


 カバー、表紙、および章題のイラストは日本語版オリジナルのもので、原著とも英訳書とも違った雰囲気になっています。




 本書がそれなりに売れて、というか割とかなり売れて、運良く黒字になりましたら、次に用意している本が出しやすくなります。皆様何とぞよろしくお願いいたします。


*宣伝のためにしばらく未来の日付にします。
元の公開日時は2015/01/24 19:31。

2015年9月16日水曜日

"Joseph Barry 2015 Japan" Joseph Barry




Joseph Barry 2015 Japan (Joseph Barry, 2015)



2015年4月おこなわれたJoseph Barry日本レクチャーでの限定ノート。

酷い本です。

A5、実質13pp、3トリックで5000円というのも近頃あまり見ない値段設定ではありますが、まあ紙も印刷もおしゃれで上質ですし、いま問題にしている酷さはそこではありません。では内容かというと内容も悪くありません。3つしか解説がなく、さらにそのうちひとつがDVD手順の改案という点をさっ引きましても、最後のトリックだけで5000円(は言い過ぎにしてもそのくらい)の価値は有ろうと思います。

でも、とても酷い本なのです。


訳が。


「The Modusの全部の品物をデザインする友達とマジシャン同士であるジョン・コッテル氏」

「参加者に対してポーカーを遊んでいるような上演で参加者にデックの上半分を渡してその半分は参加者はカットした上で」

「テーブルにデックがちゃんとシャッフルされたようにフェイスアップにしてリボンスプレッドで観客に見せる」

うーんしんどい。
手順の再現が不可能であったり、意味が全く分からなかったりという事はありませんが、非常に体力を使います。また冊子本体がやたら格好いいだけに余計に残念さがあります。

おまけにレクチャーの主催者が、こちら方面を売りにしている方なのですよね。監修するタイミングを逃してしまったんだろうとは思うのですが、そのあたりは企画を持ちかけた段階でしっかりしておくべきだったのではないでしょうか。売りにしてるはずの分野でこれですと、やはりちょっとまずいんじゃないですかね。


あと細かいツッコミどころで言うと、レクチャーでのノートの売り方がちょっと狡かったり、嘘が入っていたり(この手順はこのノートでしか発表していません!→英語で単体ノートが売られている*)、レクチャーで駆使していた幾つかの補助的なサトルティが省かれていたり、といった問題もあるのですがまあそれはありがちな事ではあります。

*ただ、現在品切れのようではあります。絶版かどうかは不明


なおご本人の演技は目茶苦茶に不思議で、しかも面白く、ラフ・スタイルの現象とそれを演じるキャラクターについてはDaOrtizよりも好みでした。珍しくBarryはDVDも購入・視聴済みだったのですが、映像で見るよりずっとずっと素敵で、久しぶりの外出でしたが行ってよかったなと思いました。


【収録作】
STOCAN バージョン2
・DaOrtizの流れを汲んだ筋の通らないプロセスで、違和感なく演じるのはかなり難しいです。DVD収録作の改案。

初心者の運
・お互いデックを混ぜてから手札を配るが、観客がフラッシュで勝つ。繰り返すがやはり観客が勝つ。シャッフル部分、実際にはかなり制限があるのですが、とてもそうは見えません。実にフェアに見えます。

OOMW -Out of My World
・みんなが度肝を抜かれたOut of This World。実演を見ました。デックが何度も混ぜられ、自由な選択が繰り返されても、なお赤黒分かれるという途轍もなく不思議な手順ですが、一番凄かったのはカードを配るあいだ全く飽きさせなかった氏の演出かと思います。ショーなどでは必ず演じると書かれてますんで、OOTW好きの人はどうにか機会を得てご本人の実演を見るといいと思います。
 読んで済ますのはもったいないです。

2014年11月8日土曜日

COMING SOON



Thinking the Impossible

日本語版





もし騙されるのがお嫌なら、何があってもRamón Riobóoに会ってはいけません。

Hermetic Press版より


SNEAK PREVIEW




※画面は作成中の物です。

2014年11月5日水曜日

"小さいライジングカード" 辻川勝裕








小さいライジングカード (辻川勝裕, 2014)



 小さいデックで行うライジングカード!



 先頃、マジックマーケットといかいうイベントで販売されたそうなのですが、当方、基本的にとても引きこもりなので当然のように行きませんでした。でも大丈夫、下記のショップで販売されています。人と会わずに買い物できる。便利な時代です。

http://abuku.shopselect.net/


 ハンドリングがとても自然であったり、シンプルだけど今だから実現できる機構、など色々と特色もあるのですが当ブログではあまりそういう点は取り上げません。

 本題は解説の冊子。
 もし普通のマジックショップがこのネタを買って量産したら、A4のコピー紙1枚でそれも片面のみ印刷のショボイ解説書になっていたでしょう。実際、マジックのためにはそれで十分とも言えます。
 しかし付属するのはA5 13ppの冊子。その半分は手順の詳細な解説なのですが、残り内容はと言うと、このトリックを作るために行われた『ライジングカードに関する力学的な考察』なのです。いやーいいですね。同人誌という感じがしますね。まあ手品用品なんざほとんど同人制作物みたいなもんですが。

 さておき。

 カードをライジングさせるために必要な力の測定から、その力を掛けるために機構が実際に持つべき力や角度の設計などが解説されています。精密な計算・測定というよりは割とざっくりしたものですが、実際にかなりばらつきのある既製物を対象としているのでこのアプローチで問題ないと思います。

 そして数式がたくさん載っています。実は数式があまり得意ではなく最初はちょっと引いてしまいましたが、判りやすく解説されておりますし、また比較的初歩的な物と思います(三角関数による力の分解が主)。我々の知っている具体物がぞろぞろ数式になっていく様を見ていると、どうしてか笑いが止まりませんでした。とても楽しい。
 またリフィル的な物の入手経路なども書かれておりそこもよかったです。

 ただ幾つか抜けているように感じるところもあり、たとえばせっかくなら××も種類を書いて欲しかったなーとか、計算が省略されているところでどうも検算が合わず、用いた具体的な初期値も書いて欲しかったなあなど。参考には成るけれど、そのものを追うのは無理かもしれません。


 というわけで総合的に見ると書き漏らしや不親切に感じる箇所があり、詰めが甘いというか、純粋な力学設計とその考察と言うよりも覚え書きのような印象ですが、しかしこういったアプローチは大変素敵です。上述のように不満点もあるのですが、笑わせて頂きましたし、もっとこういう確たる見地からマジックを作り上げていく人が増えたらいいなと良いなと思いました。

 たいへん面白かったです。

 ついでのようになりますが手品自体もよいものです。

2014年6月26日木曜日

"数学で織りなすカードマジックのからくり" パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム








数学で織りなすカードマジックのからくり
(パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム, 2013)



Magical Mathematics (Persi Diaconis&Ron Graham, 2011)の和訳。手品関連本にしては素晴らしく早い翻訳です。

実は元本も買ってます。だってあのDiaconisですよ。伝説的なまでに高名ながら、手品作品などでの露出がほとんど無かった彼ですよ。そんなの名前買いするに決まってるじゃないですか。

で、いつもだと原書持ってるならあえて邦訳版買わなくてもいいやん……、というスタンスなのですが、これは扱う数学の話がちょっと難しくて、英語では追い切れないまま積んでいたのでした。というわけで邦訳に飛びついた次第。


邦語版については、いろいろと残念に思う点もあります。

①装幀がチープ。ソフトカバー本文白黒。原書は布装ハードカバー、フルカラーでたいへん素敵。
②ピーター・フランクルが邪魔。帯の推薦文への登場はいいんですが、なぜ本体ソデにもあなたの写真がありますか。DiaconisとGrahamの近影は無いのに!
③手品部分の翻訳に少し違和感。「5枚のカードの心理的圧力」とか、エド・マーロとか。

原著書影。かっこいい!

とはいえ、訳が出たのは大変めでたい事でして、これらのちょっとしたマイナスなんて吹き飛んでしまいます。後述しますが、マジシャン向きの本という事でもないようですし。


マジック的な内容としてCATOやギルブレスの解説と発展系、各種の規則的なシャッフル(Faro、Klondike、Down-Under他)、それから『数理奇術師列伝』と題された、有名な数理作品をものしたマジシャン達の小史。またジャグリング枠として、基本的な3ボール・カスケードの解説と、サイトスワップ(と呼ばれる分野があるんです)の数理的な解析。

Diaconisがその遍歴の中で蒐集し、厳選した作品の中には著名マジシャンの未発表作なども多く含まれています。『未発表作』という単語だけでご飯が食べられるマニアにはたまらない内容です。またそれにもまして『数理奇術師列伝』で活き活きと描写されるマジシャン達の様子や彼らのペット・トリックは、Diaconisでしか知り得ないエピソードや、詳細な研究に基づいており、マジックの歴史を知る上でも大変面白い内容です。

ただ作品全体という意味で見ると、特に数理解説の章での手順は、良くも悪くも数理マジックの範疇に留まっていると思います。現象に対してあまりに手続きが長く、純粋な驚きはどうしても減じてしまうというか、数理の気配が見えてしまうと思います。ただまあ、それはマジシャンのみからの観点であって、Diaconisたちの目標は『数学としてもマジックとしても面白い作品』なので仕方ないでしょうか。いくつかの原理についてはその発展系やより統一的な形なども明かされるのですが(ギルブレスの究極原理など)、それが分かったら面白いマジックが出来るか、というと別でしてまあ難しい所です。

原理の解説はかつてない程に詳細で、私にはちょっと高度すぎる箇所もありました。元々プリンストン大の出版部から出ている本で、どちらかというと数学徒を対象にしているのではないかという感じがします。用いられる数学は主に離散数学なのですが、『離散数学は簡単!この前やったスイスの学会・合宿でも、博士取れたての人が素晴らしい発表をした。だから君も飛び込んでおいでよ!』みたいな文言があり、想定している読者レベルがとても高いのではないかと。また、数が違う場合の証明は自分で考えてみて、とか、実はこれは未解決なので取り組んでみてほしい、という箇所も多いです。

というわけで、数理原理の解説にあてられた章は、どちらかといえば数学科の生徒や、数理原理を用いて創作するクリエイター向きと思います。個人的には数学読み物を読んだような気分でした。数学界というのは凄く高尚な事をやっているのだろうなあという思いがあったのですが、ただ一組のトランプから未解決問題がぽんぽん出てきて驚いたり。数学には『分かっていない事』がまだまだたくさんあって、それが日常にも多く潜んでいる事、そして数学屋が世界を見る視点のようなものがかいま見えて面白かったです。語りも平易なので、数式などは読み飛ばしても面白く読めます。


レパートリーを増やしたい、たくさん数理マジックを仕入れたい、という人には向いてないと思いますが、一流の数学者がマジックをどう見ているのか、我々が親しんでいる原理が実はどれだけ奥深い物なのかなどが分かりますし、また有名な過去のマジシャン達のエピソードも読み応えがあり良い本でした。

なお、最も優れた一般向き数学書に送られるというオイラー賞を2013年に受賞しているそうです。




>追記

伝説的と言ったDiaconisですが、本当にぶっ飛んだ経歴の人です。そのあたりは石田隆信の『パーシ・ダイアコニスの奇跡的人生とマジック』に詳しいです。一読の価値有り。

2014年3月17日月曜日

"Now I don't have a piece of thumbs in my pocket." 堂本秋次







Now I don't have a piece of thumbs in my pocket. (堂本秋次, 2014)




Gumroadで購入。使用中の混ぜられた一組の準備のないデック、いわゆるFASDIU条件から出来る5+1手順のカードマジック作品集。

収録はオープナー、2・2の水と油、Visitor、予言が2つ、そしてCollector。

FASDIUで出来るっていうのは、やはり素人にはうれしい。また全体的に面白いアイディアがちりばめられている。作者個人のアイディアもあるだろうが、クレジットを見るに、色々な映像媒体から最近の作風が取り込まれているのかなという感じ。
技法を分割したり見えないタイミングで堂々と行ったりなど、なかなかひねくれたやり口は大変好みである。

白眉はやはりDoppelgangerだろうか。非常によいオープナーであると同時に、かなり面白いロードのアイディアがとられている。ごく大まかなプロットで言うとDenis BehrのBrute Force Openingに似ているのだが、あちらはかなり強引で正面突破、僕にはちょっとできない感じだった。一方Doppelgangerはミステリーカードの要素による『不思議さ』があり、そして目の前で堂々とずるをするあの暗い喜びの感じが好みである。僕ではどこまで通用させられるものか判らないが、ちょっと練習してみたい。



難易度は全体的に高め。パームとか臆せず出来ること、技法名がある程度通じることが必須条件か。

本そのものとしては、まあ自費出版でもあるし仕方ないが、ちょっと残念なところもある。図無しの文章のみだし、誤字や文法的に変な箇所も散見される。手順解説自体は読みやすく、十分意味がとれるが、何ヶ所かは図で補助がほしい気もする。


またクレジットがやや曖昧。クレジットがあるのは素晴らしい事だが、作品名や人名のみの表記にとどまっており、どこでどの程度参照したのかが判然とせずに、もやっとした。もうちょっと具体的なレベルで、元にしたアイディアや経緯なども書いてくれたほうが、より狙いや工夫がわかりよくなると思うのだが。


とはいえ、全体的に巧妙さと技量とのバランスがとれており、大変面白い作品であった。裏で割とひねくれた事をしつつも、現象はすっきりしており、マニアックな楽しみと実用性とが上手く両立していると思う。値段も安め。次もあるそうなので、発売され次第買おう。

2013年12月13日金曜日

"Missing" 新沼研




Missing (新沼研, no date)




"観客にトランプをよく混ぜてもらった後、自由に1枚のカードを選んでもらいます。


観客自身の手で、カードをデックの中に紛れ込ませてもらいます。

一見、観客のカードを探し出すことは、全く不可能に思われる状況の中、
マジシャンは確実に観客のカードを見つけ出します。

(観客から借りたトランプで即席に演じることができ、即座に繰り返し演技することができます。)"

マニアも騙す新原理、MKCLの発見!
そして思いも寄らぬ発展系までも解説。

MAGIC誌の名コラムTalk About Tricksでも特集が組まれた、新進気鋭のクリエイター新沼研の不可能すぎるカード当て。


観客が混ぜたにもかかわらず、というのがこのシリーズのコンセプトらしいです。前作は持っていないのですが、今回は対一人でしかも新原理を謳います。


これがちょっとすごい原理で






なんて。

言うとでも思ったかぁああああ!!!




何が!!
新原理だ!!!!


これは!! ただの!! Distant Keyじゃねえか!!!!!!!!





たたくと決めたのでコレは徹底的にたたきますけど、お粗末も良いところ。


今でこそ、ショップでは”古典原理の再発見”と唄ってますが、これ販売予約開始した時点では”新沼研の頭脳が産んだ新原理!マニアをも騙す!”みたいに唄ってましたからね。

いやさ確かに、これを独自に発見したこと自体は凄いと思います。それは並々ならぬマジックのセンスであろうと。そしてマジックにおいて、過去の発表作全てをチェックするというのもまた不可能です。特にこれなどは、あまり人気が無く使われない原理でもあります。仮にIbidemの××号とか、New Pentagramの△△号に載ってる、とかなら仕方ないですよチェック漏れは。でもこの原理の手近な参照元って、カードマジック事典セルフワーキング・マジック事典 レベルですからね。


そして発覚の経緯もお粗末きわまりない。
クイズに正解した人に先行プレゼント!とやって当たった5人だか7人だか誰かにつっこまれて、発売の本当の直前、というか実質的にはリリースしてから判ったという次第。

つまり全国のマニアから7人をランダムピックアップした程度で、元ネタ重複が判るレベルによく知られた原理という事です。先例をあまり知らないように情報を絞った環境で創作する、というのは発想を柔軟にするためであれば、有りかも知れない。でもなんですか、発表前にまともに人に見せてもいなかったんですか新沼氏は。それで”新原理”なんて広告を大々的に打ったのですか?仮にもマニアを相手に商売している人ではなかったのですかあなたは。


本の内容自体は、そんな言うほど悪くはないです。
ただ発表までのプロセス、内部でのスクリーニングがあまりにお粗末であることが露呈しました。はっきり言ってこれは信用をなくすと思う。というか、僕は信用を完全になくした。3 Secrets とかは割と好きで好意的な印象も持っていたのですが、よほどの事がない限り、もう新沼研の関連作品は、”新沼”というだけで購入検討さえしないでしょう。

修正後の売り文句でさえ、"この原理を知らない方にとっては、この原理を知るだけでもこの解説書を読む価値は十分にあるでしょう。"と宣う始末だものなあ。それならセルフワーキング・マジック事典ジョン・バノン カードマジックCard College Light Seriesとか読めばいいですよ。コスパ的にも内容的にも。


書いているうちに当時の怒りが再燃してしまいましたが、改めて公正に言っておくと、経緯が酷いだけで内容自体はそんな悪くもないです。


Missing:新原理MKCL Distant Keyによるロケーション。ハンドリングはあまり好きではない。繰り返しの工夫などは良。

Missing Effective:上記現象の舞那遊による演出案。典型的な「理由を後付けしている感じ」で、マジシャン側の都合が見え隠れしてあまり好きではない。文化的下地がない我国ではやはり難しいな、カット。

Hunter:Jokerが選ばれたカードをじわじわと追いつめていく。延々と配る必要があるが、配る理由はあるし、配りながら事態が進行していくのが見えるのであまり苦にならなそう。現象も面白い。

Mirror:相手が持っているファン(裏向き)の中から、相手のカードを見事に当てる。相当無意味にごちゃごちゃやるけど、それでも当たる瞬間は気持ち悪いだろう。

Distance(初回限定):Missingとは関係なし。相手がカードを混ぜ、選び、もう一度混ぜた状態からあてる。セット面倒だけど優秀な不可能パズル型マジック。


MirrorとHunterは、どちらも現象としてかなり気持ち悪いし、原理の応用としても面白く、出来は悪くない。というか良い。とても作業っぽいけど、作業っぽいけども、悪くない。ふつうDistant Keyから想定しないような現象で、こういう展開案を出せるのは凄い事です。
文章直して、Distant Keyの応用現象集 冊子として売れば良かったのにね。それだったらとても評価されたとおも


あーそれでも、この作品点数で2500円は、ちょっと、ないかな。





追記。

ところで、このタイプの手法を”観客に混ぜさせた”と謳うのは、すごく違和感有ります。
Six Impossible Thingsの時にも似たようなことを書きましたが、多くの手順は、どうにも制限がありすぎて堅苦しく、「私があれだけ混ぜたんだからもうどこにあるか本当に判らない」と観客に思わせるに至らないような気がします。

というか観客に混ぜさせてなお当たる、って書かれていたら、普通「選んで戻した後、混ぜる」と思いますよね。Missing 予約しちゃったのは、それを可能にする新原理を期待してたのです。大変に残念でした。

まあ、よく見たらそこは「紛れ込ませて」としか書いてないので、それは私の迂闊であり、逆恨みに過ぎないのですが。

2013年10月25日金曜日

"BEBEL レクチャーノート" 二川滋夫








BEBEL レクチャーノート (二川滋夫,1996)




フランスの変態、Bebelの数少ない資料の一つ。

Bebel単体での作品集というと、手に入るのはこれと、あとDVD Enfin le(仏語)だけではないでしょうか?(*)

内容はああいかにもというbebel節全開で、DVDとの重複もReset (Retro Repro)くらいしかなく、大変楽しめました。パームやVernon Transferを濫用する感じがたまらないです。

全体的に高い難度。収録数は10とDVDより断然多いです。意外にセルフワークっぽいものも有りますが、それですら「二人で配りながら自分はずっとセカンドディールしろ」とかけっこうきつい事を要求されます。Kings Nightなど、現象が入り組んでて、何がやりたいのかさっぱり不明のものもあり。しかしハンドリングのせいか、あんまりややこしい印象がないのが不思議です。

Collectorはどちらにも収録されてますが、全然ハンドリングが違っていて別物。タイトルも違う。
DVD版はデックの中にAをいれて、もぬもぬしまくった後、何故か挟まれて現れるというもの。
こちらはよけておいたAを広げると、その瞬間、間に現れるパターンです。かなりダイレクト。

同じプロットと言えば繰り返しのサンドイッチもあります。DVD収録のものが二回連続のサンドイッチなのに対して、こちらは四回繰り返して、しかも最後はサンドカードが消えるというしつこいもの。全体としては、ノート版の方が好きなんですが、DVD版は初段がすばらしく、見比べたり組み合わせたりして楽しんでいます。


あとDVDではさっぱりわからなかったBebelの台詞ですが、同書ではなんと「フランス語で判らないので、つじつまが合うように想像で書きました」とか書いてあって、二川先生そりゃないですよ。いや、手順読めるだけで十二分に有り難いのではありますが少し残念。


というわけで、全体的にむずかしいし、イロジカル、しかし不思議な魅力があります。
Bebelのパフォーマンス環境などを加味すると、構成の利点なり狙いなり、色々判ってくるのかなあとは思いますが、それにしても独特で、そうとう無茶です。文章だけだったらちょっと敬遠するレベル。しかし氏のタッチを知った上で読み直すと、それらを成立させるだけの技量の裏打ちや呼吸を感じられます。
つくづく面白いマジシャンです。


*:他はVallarinoとのセッションを納めたInspiration DVD 1&2程度でしょうか。単品なら、DL作品や、Fat Brothersでの出演もあったかな。仏語ではノートとか本とか出しているのでしょうか。
とはいえ同工異曲というか同工同曲というか、作風にはあまり幅が無い気もします。や、Inspirationとかとても見たいんですけどね。

2013年7月8日月曜日

"奇術探究 創刊号" 編・ゆうきとも





奇術探究 創刊号(編・ゆうきとも、2008)



現代的で刺激的な表題作とあと何か。


福田庸太による変わり種のO&W「水漏れと油漏れ」にフューチャーしたノート。

このプロットがとても面白い。
赤4、黒4で水と油を始め、徐々に枚数を減らして3・3、2・2としていく。
ところが最後になって、赤黒赤黒とかみ合わせたはずのカードが4枚とも黒になり、捨てたカードが赤4になっているというオチ。意外ではあるが合理的というか、うまく意識からハズされている感じがたまらなく素敵だ。


というわけでこれは凄く良いのですがその後がちょっとついて行けない。
殆どずっと、ゆうきとものゆうきともによる(ゆうきとものための?)バリエーション。

原案がカウントを排することで”ごまかし”の気配を消し、ラストを引き立てていたのに対し、ゆうきとも案は基本的にクラシックな技法の組み合わせで、プロブレムの解としては成立していますが、どうなんだろうねえ。特に遺漏での「各段階の説得力はやや弱くなったけれど、手順の目的は最後のオチなので、これくらいのほうがバランス良いのでは」という点については、個人的には全く逆の理解。

まあ他のO&Wと組み合わせたいという人も居るでしょうし、そのためにハンドリングの毛色が違うのも1手順くらいは有ってもいいとは思う、と擁護できなくはないか。けれどもね、漏水は記憶を頼りに3時間で再構成した手順と言うし、このノートの原稿自体、原案を見てから2週間しか経っていないそうな。
それは作品では無くただの習作ではないですか?


いやしかし、水漏れと油漏れはすごく面白いです。これのためだけに買っても損はない。

ただ、今やトリックサウルス(未見だけど)出てしまったし、あれ安いしなあ。「水漏れと油漏れ」に対してどう試行錯誤するかを愉しみたいという奇特な人にも、いろんな寄稿者を迎えた奇術探究5号が出ているようだし。とりあえず奇術探究 そろえたいって人か、あくまで文章で水漏れ油漏れ読みたいという人以外には、あまりメリットのない冊子になってしまった。

とはいえ文章で情報をストックできるのは個人的に非常にありがたく、映像よりも見直しが楽ですし、実際、表題作はよく読み直している。レイアウトもとてもよく、読みやすいです。


追記・スイッチ無しで変則オチのO&Wというと、同書では名前上がってなかったけど、SkinnerのOil and Water Rides Againとかも良いですね。

2013年5月24日金曜日

"MEGA 'WAVE 日本語版" John Bannon 訳・富山達也






MEGA 'WAVE 日本語版(John Bannon、訳・富山達也、2011)



John Bannonによるエンドクリーンな7つの改案集。



唐突にBannonが(手頃な値段で)読みたい、精緻なカードトリックがいじりたい、ともかくカウントしたいという欲望がこみ上げたので、今更ながら購入。テクニカラー・パケットとか作るの面倒ですが、訳者様ご本人から購入すれば無料で付いて来るというお話だったので、おそるおそる連絡してみました。

パケットは直接購入の特典、との事だったのでつまり直接手渡しオンリーかと思っていたのですが、伺ったところ、いや普通にメール便で送りますし今までも通販が主でしたよとの事。

そうなのか。きょうじゅさんがブックレットをファンにしてかざしたらば、都下県下のバノンに飢えたマニアどもが亡者がごとくにむらがって、瞬く間に跡形もなくなるかと思っていた。なんとなく。




さておき内容。エンドクリーンと書いたが、正確には少し異なったコンセプト。パケット化が可能で、全てのカードが能動的に現象に寄与し、何かを足したり除いたりせず、最後に改めも可能というこの構成を、Bannon自身はフラクタルと名付けている。

作品数は7と少なめで、また現象に偏りはあるものの、内容としては非常に充実していた。


せっかくなので全作品に言及してみるが、あまり中身無いので飛ばしても良いです。


ここから↓


MEGA 'WAVE:
BannonというとTwisted Sistersが有名だが、あれに類縁の2組での4 Card Brainwave。Twisted Sistersに引けを取らない現象でありつつ、検め可能。個人的には、このプロット自体にちょっと煮え切らない物を感じるのだが、Bannonのは狙いが定まっており、実用してみたくなります。

Fractal Re-Call:
自身のCall of the Wildの改案。Wildとはいうが、持ってるハンドが全て変化するというギャンブル系の現象。原案と遜色ないながらギミックが排されており、凄いです。変化現象にAsher Action Reverseを使う箇所の考察が、個人的にはとても面白かったです。

Short Attention Scam:
これも御自身の単品作品Royal Scamの改案で、序盤のTwist現象を省いた物。これは原案も含め、あまり現象に起伏が感じられず、どうにもピンときませんでした。しかしRoyal Scamはお客さんが(反応含めて)可愛いくていいですね。

Mag-7:
これまた過去作Return of the Magnificent Sevenの改案。鮮やかでスピーディな、ギミック無しのワイルドカード。個人的なベストWildは、まあお察しの通りWonder演ずるTamed Cardなのですが、このMag-7くらい軽やかに畳みかけるのも良いなと。

Poker Paradox:
いわゆるRoyal Marriages系作品。つい先頃まで退屈なプロットという認識でいたのですが、Juan Manuel Marcosがある特別なタッチを加え、非常に鮮やかな現象に変貌させており、気に入って演じておりました。ただ唯一、観客が参与しない点だけ気になっていました。
一方こちらのPoker Paradoxは、手法はオーソドックスなものの、非常に狡猾な組み合わせによって実に不思議に仕上がっている。正直、自分でもやってて不思議。
なによりお客さんが関与するのがよいですね。MarcosのLa Claridadと、どちらを取るか非常に悩ましいです。

Fractal Jacks:
デックの一番上にJackが4枚置かれた後、交互に手を配ったはずなのに、なぜか何度やっても手元にJackが集まっている。という妙な不条理感のある現象が元。これを8枚のパケットでやってしまう。
あえてクライマックスを殺す構成になっており、SolomonやAronsonからは賛同を得られなかったらしいですが、僕はこちらの方が好きです。ただし、借りたデックや自分のデックでも出来ますが、パケット化しないと効果を十全に発揮できない気がします。

Wicked:
Jack ParkerによるI know Kung Fuの、見る影も無いほどスマートな改案。原案の無茶な感じはけっこう好きでしたが、Bannonが触るとこういうふうになるのですね。
2段からなる、シンプルなサンドイッチ。


↑ ここまで


またコンセプトとして、フラクタルの他にスラッグというものを要所要所で使用。
これはセットしたカードを導入するやり方についてのアイディアで、Play It Straightの作者ならではというか、既存のやりかたからあえて後退することによって見えてくる有用性という所でしょうか。賛否両論ありそう。


さて作品そのものもよかったけれど、Bannonの解説がなにより素晴らしかった。改案の動機から現象のたくらみまで、細やかに解説しており、それが一番面白く、また実演してみたいという動機にも繋がりました。

特にStephen Tuckerに対する駄目出しは、始めこそ柔らかく切り出したものの、徐々に舌鋒が鋭さを増していくあたりが大層面白い。と同時に、非常に的を得た論評であり、世にはびこるマジック・クリエーターのなかにおいて、Bannon作品の極めて高い練度がどこから来るのかを垣間見るようでもありました。


一方で、現象の偏りというか、フレーバーとしてポーカーを好む点だけはちょっと苦手です。ただこれは適当なテーマに置換してしまえばよいのでしょう。特に本書の手順は全てフラクタル、独立した構造になってます。スラッグ・コンセプト含めて、このフラクタルというやつ、特殊柄のパケットトリックとも相性が良いと思います。もっといえば、いわゆる痛手品とかバカ手品とかの改案作り放題な気がしなくも無いので誰か作って下さい頭悪い手品。


ともかく、とても満足しました。Bannonやっぱり面白いぜ。

直ぐに読み返せるのも想像以上にありがたく、日本語訳の、それもこなれた文章であることの利点でありましょう。ときおり中の人が漏れ出てましたが、とても読みやすく面白かったです。
Dear Mr.Fantasyも翻訳中とのことですが、いや適任と思いますきょうじゅさま。あの小説っぽいところとか。

唯一、値段が高くなってしまうのがちょっと残念というか、おまけパケット無かったら本家で買ってしまうよなあと。発行部数とか考えると仕方ないのでしょうし、本家が安すぎるだけという話もありますが。


初期目的の一つであったカウントはあまり無く、残念でしたが、これはどうも過去のフラクタルシリーズ、およびLiam Montierとの共著Triabolical と混同していたようでした。

ともあれすっかり啓蒙されました。他の著作も早急に集める所存です。

2013年5月9日木曜日

”脳はすすんでだまされたがる” S.L.マクニック, S.M.コンデ, S.ブレイクスリー






脳はすすんでだまされたがる -マジックが解き明かす錯覚の不思議  (スティーヴン・L・マクニック, スサナ・マルティネス・コンデ, サンドラ・ブレイクスリー 鍛原多惠子/訳, 2012)



Sleights of Mind の邦訳。
サブタイ詐欺。


新進気鋭の脳神経科学者が、マジックと”心”を結びつけるべく、マジック界に飛び込んで実体験・実学習を通じて両分野の橋渡しを試みる。
とくれば、好みにどストライクの筈なのだがあんまり面白くなかった。


たぶん"解き明かされていない"のが、私的に駄目だったんだろうな。サブタイが「心理学者の見たマジック」とか、そんなんだったら別に気にならなかったのだろうが。

著者達の第一目的であった、奇術と心理学会の結びつけ、には成功しているだろう。そういうシンポジウムも開かれるようになったというし。しかしマジック屋として本書を読む動機は、やはり新しい知見、それも実用的な知見を求めてではないだろうか。

であれば、マジックから帰納法的に公式を導きだすか、心理学に既存の論理を持ち込み、その式を用いた演繹で新しいマジックを作るか既存原理の強化・純化までしないと、有用性はわからない。


ところが、この本ではまずマジックを紹介し、それが心理学(神経科学)のこういうトピックスと関係が”ありそう”、という提示をするに留まるのが殆どだ。結果として、心理学の紹介書としても、筋道の立たない散漫な内容になってしまっている印象。



マジックと心理学が関係している事自体は、マジシャンは既に知ってはいるわけで、それが学会で具体的なムーブメントになったのは大いに喜ぶべき事ではあるが、どちらにとってもまだまとまった成果とはなっていないようだ。

ただ滑動性運動とミスディレクション(Apollo Robbins)については、ちゃんと裏打ちが有り、非常に良い内容と思う。側聞したポン太・The・スミスさんのリテンションの話とかとも繋がるのであろう面白い話。


結局、期待していた物との食い違いであり、心理学者がマジック界に飛び込んで、いろんな発見をしていく紀行文としては面白い。特に所々で出てくる協賛マジシャンは豪華すぎて笑っちゃう程。
ただ心理・神経科学関係の本としては、一般科学書としても手品用ネタ本としても、V.S.ラマチャンドランの脳の中の幽霊 知覚は幻 などの方が格段に面白いと思う。

2013年1月23日水曜日

"オーディエンス・マネジメント" Gay Ljungberg 訳・米津健一





オーディエンス・マネジメント(Gay Ljungberg 訳・米津健一、2012)



日本では初(?)な一般流通の本格マジック理論書。


「株式会社 リアライズ・ユア・マジック」という胡散臭い社名に一瞬たじろいだが、マジックDVDの日本語字幕化などを手がけるスクリプト・マヌーヴァの元締めであるらしい。もう少し他に名前無かったのだろうかと思う。

同社によるTamarizのFive Points in Magic の邦訳と同時出版。Five Points はマジック・パフォーマンスにおける身体の使い方についての理論書。おそらく対として相補になるよう狙っているのであろう。こちらは演技それ自体、そして演技に臨む姿勢についての本である。
そこで大売れしたKen Weberとか持ってこないあたりが、まずなかなかおもしろい選択と思う。和訳されるまで存在知らなかったよ。理論本としてはどちらも良書なので、単純にページ数の問題かもしれない。本書は170頁程度の小冊子、理論書ではあるが他に比べればとっつき易い。

内容だが、前半は演技の作り方。演技技術とかではなく、ショー内容についてどうテーマ設計するかという話がメイン。具体的な話というよりも、ショーについての根本的な考え方、発想のスタートの仕方、発想の評価の仕方についてである。

後半は演者のあり方。演者自身のキャラクターの話もあるが、それよりも観客の選び方、問題のある客の扱い方、リハーサルの重要性などの実際的な話がしっかりしていた。

いちおうマジック全般にも通用する内容ではあるが、ステージの、特にキッズショーの多い人らしく、具体例はどうしても偏りがちなので少しぴんと来ないところもあったり。ただ内容はマジックにかかわらず広範なパフォーマンスに通ずるものであり、かの池田洋介さんが高く評価していらしたのも納得の内容。


オーディエンス・マネジメントということで観客に対する心理操作的な話かと思ったが、子供を走り回らせないとか、もっともっと実際的な話であった。理論部分では、いかに観客が楽しめる演技をつくるかという演技構築の根幹部分の話が多め。それ自体はよく出来ていると思うが、そこから実際までの間を埋める話は少なかったように思う。
楽しい演技とかそれ以前の問題として、Ken Weberが指摘したように”そもそも現象がよく見えない”マジシャンも、プロでさえ多数いる(らしい)ので、実践の内容が少ないのはちょっと残念ではある。


クロースアップがメインの趣味人にとってはやや乖離した内容だったが、実際に人前(特にパーラー以上)で演技をする人にとっては、マジックに限らず非常に面白いと思う。特に”お金を払っていない客”、”目的をもって見に来たわけではない客”、それらを含んだ環境で演技する人であれば一読の価値はある。
一方で、あくまでクロースアップがメインの趣味人にとっては、こう、かゆいところに手が届かない感じは否めなかった。マジック”そのもの”についての話は無い、と言ったらいいのだろうか。

あと、さすがに一般出版ということで、翻訳は流暢で、読みづらいとかそういう事は一切無いのだが、どうしても、英語での演出・やりとりを日本語訳した箇所は奇妙な感じがする。例題が精彩を欠いているのはそのせいも大きいのではないか。言語の壁はやはり大きいと思った。


最後に、これは書評ではなく単にちょっと面白かった箇所なのだけど、訳注が非常に詳細でありがたい本書、ゲーテにまで注釈を付けていたのはさすがに丁寧すぎるだろうよと思わなくもなかった。

2012年11月13日火曜日

"The Amazing Sally Volume 1 佐藤喜義作品集" 佐藤大輔






The Amazing Sally 1(佐藤大輔,  2012)




買いました。アンダーグラウンドの創作家、佐藤喜義の作品集第1巻。選りすぐりの15作品を解説。

カード14、コイン1、まあ作品内訳はべつにいいでしょう、ショップとかで見られるし。


紹介文で、”独自の世界観を形成している”というような記述が有りましたが、そのとば口として非常に考えられて構成された本であるなと思いました。

まず収録作が極めて少ない。創作家の作品集というと普通、JenningsしかりHartmanしかりWaltonしかり、とかく大ボリュームですが、実質、玉石混淆の状態になりがちです。その点、本書は点数こそ少ない物の、それぞれが、あるプロット、あるテーマ、ある仕掛けについて極限までバージョンアップさせた物になっていて、おまえこれ昨日思いついたんじゃねーのかと文句を付けたくなるような品は一品もない。どの作品も非常に深くまで作り込まれていて噛むほどに味がある。
ほとんど同一のハンドリングの作品もあったのですが、それはそれで、バリエーション毎に見え方が全く違っていて、改案手法などを考えさせられる物ばかりでした。


解説の筆を執るのはご当人ではないのですが、それが良い方に作用しており、微妙な箇所には突っ込みなり補足なりが入っていてわかりやすい。またクレジットも文句なしに詳細でした(※)。邦訳がある物は原著・邦訳版が併記されていて実に親切。


ただ、作品は、あくまで「トリック」と割り切られている印象。作品レベルはめちゃくちゃ高く、やっていて面白いし、マジックの友人を引っ掛けるには間違いなく即戦力で申し分ないのですが、一般の人に対して上手く見せるには難しい所も多いと思います。
夕暮れのステラが良い例ですが、「AとQが入れ替わる、重ねると表裏交互に混ざる、交互になったペアはマークが揃っている、さらにQの裏色が変わっている」。正直なところこれをどう演じれば良いのやら僕レベルの演技力では手が出ません。単なるびっくり箱にしかならない。

もちろん、不要であれば、演出力が追いつくところまで現象を削れば良いのですし、逆にこういう可能性を示してもらっているので、例えばトリネタにステラではなく、ステラの後にQの裏に「おしまい」の文字を出すというようなアレンジも可能なのでむしろ有り難くはあります。

ただ技法云々とは別のところで、初心者向きでは無いなーと思いました。
BannonのTwisted Sistersのような難しさと言ったら通じるだろうか?


噂のタウンゼント・カウントはカウントというよりディスプレイに近いモノを感じました。2回カウントせずともラフに両面見せられるのも良く、堅苦しいパケットトリックが急に軽やかになる印象。
現象面での効果も凄かったです。一読では見逃してしまいそうなカウントであり、実際カウント事典で読んだはずが全く覚えていないんですが、たった一面の差がここまで利くかと驚きました。
特にブラック・ポーカーは、自分でも不思議。他と違い変化が連続体であるというか、現実が歪むような感覚。普段なら扱いに困るギャンブル系ですが、裏色変化とは非常に相性が良いので、ElmsleyのA Strange Storyなど参考にしつつレパートリーに入れようかなーと考えています。


このカウントは、今まであまり活躍の場もなかったようですが、ここで可能性が示されたことで一気に流行るかも知れません。その際は皆様、どうかスピリットカウントのことも忘れないであげてください。
同書では触れられていませんが、スピリットカウントもタウンゼントと類似の面構成であり、よりカウント色の高い技法。互換性は高いと思います。ミッドナイト・スローモーションなどは、最初はスピリットでもよいかもなあと思ったり思わなかったり。この2種のカウントは最近読んだブランク (タナカヒロキ)などでも活きそうです。というかブランク はマイナー技法を使わないという縛りがあったようなので、ご本人は使っているのかもしれません。


対談も非常に面白かったです。御本人の口調を忠実に再現しているらしく、実にざっくばらんで、お人柄が伝わるような気がしました。



ともあれ。
確かに異世界の片鱗を見ました。自分のように家から出ないタイプの人間だと、なかなか触れる機会もないもので、書籍化は実にありがたかったです。


なおVolume.1と有りますが、今回の売れ行き次第で続刊も、とのこと。市場規模が小さいのでたくさん出すのは大変と思いますが、ソフトカバーでもいいので続刊希望。特に、インタビューなど読むと「俺は元々コインマンだったんだよ」との事なのでコイン比重が高いのがいいなあ。

いやーしかし面白かった。佐藤総、こざわまさゆき、そして東京堂からは澤浩(予定)と個性的な作品集が上梓されている昨今、この勢いが続くことを願います。Sally 続刊が怖い。ついでに、タナカヒロキ作品集とかアフェクションズ合本とかも怖い。怖い怖い。



※Jack-robats(J.J.J.J.Card Routine, 1985)はJACKROBATS(Deckade,1983)とは別ハンドリングなのでしょうか? 前者持ってないので何とも言えませんが。

2012年10月31日水曜日

"ジェイ・サンキー センセーショナルなクロースアップ・マジック" Richard Kaufman, 訳:角矢幸繁





ジェイ・サンキー センセーショナルなクロースアップ・マジック (Richard Kaufman, 2012, 角矢幸繁・訳)



Sankey Panky (Richard Kaufman, 1986)の邦訳。


やー面白かったです。

色々書こうと思ったのですが、困ったことに、僕が思ったこと、言いたかったことの殆ど全てが、すでに本の中で言及されてしまっていて書くことが無い。
無理に書こうとすれば、本文の引き写しに近くなってしまいそうですし。はてさて。


ともあれ、変人Jay Sankeyの初期作品集が、四半世紀を経て邦訳されたのです。


「何故いまSankeyなの? とよく言われたものです」と訳者後書きにもありましたが、僕もまたそのような最近の人間の一人でした。
Sankeyといえば乱脈なまでの多作とその玉石混淆具合、そして奇矯なキャラクターのせいでどうにも近寄りがたく、Revolutionary Coin Magic DVDは素直にすげえと感心しましたが、他方、カードものなどはもはや見る気さえ起こらなかったのが正直なところです。

何故いまSankeyなのか。
読んだら、解りました。それも最初の数ページで。


話は少し迂回をします。依井貴裕という推理作家に「歳時記」という作品があります。かなりの無理をしていて面白い作品なんですが、内容は今はどうでもよい。冒頭に奇術愛好家達が手品を見せ合うシーンがあり、そこで演じられる作品の一つにこんなのがあります。

カードケースに輪ゴムがかかっていて、その輪ゴムにサインをしてもらう(サインつきのシールを貼ってもらう)。輪ゴムをケースから外して揉むと消えてしまう。ケースからデックを出すと、デックには輪ゴムがかかっていて、その輪ゴムにはサインが……。

当たり前の道具立てで、取れる手法などごくごく限られているはずなのに、考えてもいっかな解法を思いつかない。類似の作品も見あたらず、当時の僕は、きっと手品の世界にはまだまだ不可思議な原理があるのだろう、と自分を納得させて解析を諦めたのですが、この手順のクリアさ、不可能さは実に印象的であり、正直に言うと小説そのものよりずっと心に残っていたのでした。


で、センセーショナルなクロースアップ・マジック ですが、はじめは買う気はなかったのですよ。たまたま友人と遊びに市内に出て、たまたま時間が余って大型書店に寄ったら、たまたま置いてあったので何気なく手に取ったのです。ページをめくって1作目の「溶け込む輪ゴム」。
思わず声を上げそうになりましたね。もう何年も前に読んで以来、ずっと引っかかっていた現象が目の前にあったんですから。
しかも作家の嘘も疑ったくらいの現象を、実に合理的に成立させていたのだから驚きました。

続く「輪ゴムにえさを与えないで」でも、当たり前の道具、輪ゴムとトランプが実にコミカルで不思議な姿を見せる。なんだよトランプの攻撃形態、防御形態って。あとはもうレジに直行です。


まあこれは多分に私的なケースですが、センセーショナルの題に偽り無し。今見ても、いや今だからこそ余計にセンセーショナルかもしれません。


これも訳者の方が指摘しておられますが、Sankeyの手順は、確かに奇矯で無茶もあるものの、同時にとても合理的で無理矢理なところがない。やたらアクロバティックな技法もあるんですが、フラリッシュ的な意味でのアクロバットとは違う。この感じは説明が難しいのですが、どうもSankeyの創作スタイルから来ているらしい。本人はこれを、後書きにてマテリアル・フィクションと名付けていました。

道具に命を吹き込む、という書き方もされていますが、それではただのアニメーションと混同してしまう。そうではなく、道具に命があると仮定して、その動きを想像する創作アプローチと僕は解釈しました。客側から見ると、道具それ自体が、その動きや現象に対して合理性を与えるという感じ。む、やはり難しい。同書を読んでもらえれば早いと思います。

この発想は本書全体を貫いており、他のアプローチでは決して世に生まれなかったであろう不思議な現象が目白押しです。
両手の間に透明のチューブを渡し、コインが手から手へ移っていく所が見える「見えない架け橋」、コインがゆっくりとお札を貫通していく「四次元コイン」、そしてかの名作エアタイトなどなど。実に独創的であり、また解法も美しい。
既存の技法を組み合わせた解決などでは決して無く、まさしくその手順・現象のための動作によって不可能が成立する。まるで初めからその形で存在していたかのような、完成されたものを感じます。



一方で、このアプローチには如何ともしがたい制限があるようにも感じました。
繰り返しますが、マテリアル・フィクションでは「属性を付与する」のではなく「属性が露わになる」。
つまり全般に道具自体が主役であり、主体なのです。マジシャンの意志なり魔力なりが介在する余地が無い。


たとえば、そうだなあ。
マトリックスであれば、カードとコインを使って瞬間移動を演出します。
そこではコイン・カードという静物、ただの物体であることが自明な物によって、不可能現象あるいは魔法の力がクロースアップされる。
しかしSankey流であれば、つついたコインが波打ちうねりだし、虫のようにごそごそと反対のカードまで移動していったような感覚といえば良いでしょうか。

もちろん全てがこうでは無いのですけれど、マテリアル・フィクションにのみ依って立つ作品には必然的にこのような側面が現れるのではないかと思いました。その自己完結性が、完成度の高さにもつながるのかも知れません。

うーん変な話になってきた。まあ演じる人次第ではあるでしょう。Sankeyの演技・プレゼンテーションが、こういった未知の属性の”デモンストレーション”といった感じが強いために、余計にそう思うのかも知れません。


ごちゃごちゃしたうえにあまり内容に触れてませんが、日本語文献ゆえ、まともな紹介は簡単に見付かるはずなんで、もういいやこれはこれで。

ともかく、見立てでも技術でもない、ましてや魔力でも無い、まったく異なったアプローチによる創作群は、わたし達の知っているマジックとはどこかかけ違っていて、非常なインパクトがありました。

革命的、の惹句に嘘はありません。

2012年9月30日日曜日

"ブランク" タナカヒロキ






ブランク (タナカヒロキ、2011)



ダブルブランクカードを使った4手順。必要なダブルブランク5枚、パケットケース(これも実は必要)、演技動画のURL入り。



収録作品は、ビジター、トランスポジション、カニバルカード、リセットの4つのクラシカルな手順のダブルブランク版。どうでもいいけどDBって書いてあるとダブルバックかダブルブランクかわからんのだな。両方とも使用する手順とかあったら困るな。

ダブルブランクを使い、技法難易度を低めのままに、かつ構成を複雑にしない、というマニアックな企みを、しかしかなりのレベルで達成しているよい冊子でした。各部、各動作の考察、ダブルブランク版の長所と短所なども詳しく解説されていて為になります。
やや解説が細かすぎてリーダビリティが損なわれている気もするが、まあそれは手品的な部分とは関係ありません。

企図はマニアックながら、出来た作品は非常に見栄えもよく、一般向きにも良いと思います。ブランクカードという時点で、とても特別な雰囲気が出ますしね。
ただ、ブランクの中に現れるたぐいの現象は、思ったより視覚効果が良くなかった気もします。Beeをスプレットしたときのような感じ、あまり枚数や、カード間の境界がはっきりしないせいでしょうか。

そういう意味で一番良かったのは”夜霧の中へ”(カニバルカード)。ブランクの中に消える、というのは上手く演じると非常にミステリアスで美しい。
またブランクならではのサトルティが横溢しており、これは生で見たら手ひどく騙されたんちゃうかな。出現部分だけ、前述の理由で余り見栄えが良く感じられなかったので、なにかしら別の方法を個人的に考えてみたいなと思いました。

他三作も、どれも面白いだけでなく、色々と自分でも考えたくなります。
*Lithopone:最初に置くカードを3枚から2枚にすると、一動作減らせる。
*Lithopone:ブランク4枚で構成すると、GHWのOptical Alignment Moveが使える。
とか前出の、カニバルでの出現段などなど。


面白いコンセプトで、出来た作品も面白く、また自分でも手を加えたくなるようないい冊子でした。こういう作品集がもっともっと国内から出てくれると非常に嬉しいです。この冊子の唯一の欠点と言えば、クレジットが不十分ということでしょうか。”夜霧の中へ”の1段目のサトルティは寡聞にして知らなかった(あるいは覚えていなかった)ので、原典があるなら知りたかったのですが。

とまれ、面白かった。おすすめです。

2012年5月11日金曜日

"カードマジック THE WAY OF THINKING" 松田道弘





カードマジック THE WAY OF THINKING (松田道弘, 2011)




いつもの通り、である。
それ以外はあまり言う事が見付からなかった。


いつも通り、とは

・文章が読みやすい
・紹介されるエピソードが面白い
・手品がマニアックすぎる

である。



松田道弘のカードマジックのシリーズは、特にここ最近、新刊と言うよりもアップデート版という感じがする。個人的なテーマへの飽くなき研究の過程は、面白いが、読み物としての面白さが強い。



The Way of Thinkingと名打ち、帯には「近代の優れたカードマジックを、創作や改案の根底にあった考え方によって分類し、」とあるがそんな事は全然無い。いつも通りの内容だ。

個々の作品について、改案の狙いや動機などは詳しく書いてあり、実にためになるが、いつもちゃんとしてあるので特別な感じはしない。

あえていうなら、Slydiniのヘリコプターカードにおいて、動作だけが書かれて意味が解説されなかった部分の意味解析だろうか。これは実に面白かった。だが以前にVernonのアンビシャスカードで同じような事をしていたし、新趣向でもないだろう。



作品だが、これもいつも通り。
『いくら「また同じ絵かいな」と言われても、画家が執拗に同じモチーフの絵を描き続けることがあるように(p.87)』だ。

技術的には確かにどんどん洗練されている印象。
一方で、”長い手順が嫌だ”という意見には同感できるものの、ここまでそぎ落として良いものかと思う作品も多い。特にTwist系。
こんな感じ。

4枚の赤裏のカードを見せる。一枚を表向きにすると全部表向きに。
裏を見せると全部違う色になっている。

Twist部分を限界までそぎ落とし、2段目のオチに重点を置いたため、もうTwistじゃなくてカラーチェンジ(?)に近い。


We'll Twistの裏色変化やMaxi Twistの1-5はどんでんがえしのオチとして発展したが、確かにそれが独立していけない理由はない。新奇な所、鮮やかな所だけを抽出した手際は鮮やかだ。

しかしオチをショッキングにしていた”文脈”は失われてしまったように思う。


演技や演出、現象の意味について全く触れられていないせいで、余計にそう感じるのかも知れない。




新刊だがいつも通りの内容でマニアック。
このシリーズを一冊も読んでいない人にはお勧めできない。

間違いなく面白くはあったのだが、文句ばかりになってしまった。期待した分だけどうしても。
勝手な勘違いの逆恨みじゃないかと言われればそうなのだが、あの惹句はやっぱり期待してしまうって。あと誤字もちょこちょこあって混乱したし。


全著作を読んだわけではないが、個人的には松田道弘のクロースアップ・カードマジックが一番おすすめ。
って、絶版になってやがる。しかも古書価格がルポールより高い。

2012年5月3日木曜日

"大原のこころみ Birth" 大原正樹







大原のこころみ (大原正樹,2012)




おすすめ、たくらみ、とはちょっと趣向の異なったワントリック解説のレクチャーebook。



カードあての最中、突如、手の中にカードケースが出現。何事かと思うと、その中から選んだカードが出てくる。

意外性が高く、難易度はそこまで高くなく、そして観客の目の前で堂々と”いかさま”をする快感があり、というなかなかの良トリック。現象もユニーク。


セオリーとしては、技法の習得に関するコツをいくつか解説。自明のような話もあるが、明文化されることは少ない気もする。またいわゆるJazz Magicに通ずる”あいまいさ”も含まれており、勉強になるだろう。
深い解析だが、非常に簡潔な文章で、さくっと読める。

トリックもセオリーも含め、初級→中級のステップアップ段階に非常に有効。といった所か。



ただ、本現象の解析に Tommy WonderのCup and Ball、およびDoc Easonに代表されるCard Under the Glass/Case との比較があるのだが、これはちょっと筋が違う気がした。

『いつの間にか現象』にこだわりがある自分の誤読かもしれないが、これでは本作品全体を『いつのまにか現象』の文脈で捉えてしまいかねない。よくないレッドへリングと思う。

上述の現象とは『出現の瞬間がヴィジュアルにアピールされる』という点で決定的に異なっており、直接に同一の文脈には置けない。
比較するのならせめてTom Stoneの、手の中に靴が出現するChanpagneであろう。David Stoneの演技で見知っている方も多いと思う。このStoneの現象が『いつの間にか現象』として成立するのはロード元の不可能性の高さゆえである。

本作品はロード元の位置的な不可能性はあまり高くなく、むしろテーブルに出ていた事を記憶されていた場合現象が減ずる可能性すらありうる。


また全体の構成が完成するまでの経緯の章で、「マジシャンはカードケースを出現させて、どう言うのだろうか?」という問いを立てているのだが、少なくとも演技側面からは明確な答が出されていないように思う。
この現象に対して演者の立ち位置はどこにあるのか。



色々言ったが、ユニークな現象、簡潔な構成、簡潔な文章、細かい考察と、良い冊子であった。
ただしロジックが簡明で無個性化されている分、ミスリードが起こりうる。しっかりと疑いを持って読むべき。気付かぬ間に説得されぬよう、ちゃんと考え上で吸収したい。

2012年4月23日月曜日

"トランプの不思議 復刻版" 高木重朗






トランプの不思議 復刻版 (高木重朗, 2011. 原版 1956)




日本カードマジック黎明期を支えた、専門的なカード入門書の復刻版。

技法解説と技法を使った例題手順の解説があり、その後、”あらかると”として精選されたカードマジックが10解説されている。


どこかの書評で、”節度”という言葉が使われていたのだが、言い得て妙である。


技法の解説は簡明、説明不足になるぎりぎりまで削がれており、余計な記述もなくさらっと読める。ちょっと説明不足かなあとも思うのだが、直後の例題部で、前後の流れから丁寧に解説されており、問題なく習得できるようになっている。

また例題も、”あらかると”で選ばれた作品もなかなかの傑作揃い。カード技法に加えて、記憶法であったり、跳ねるマッチであったり、灰であったりと、ちょこちょこ違った要素を絡めてくるのがまた粋。

無理に自分のバリエーションを押しつける事もなく、初心者のために書かれた良い本。


むろん、初心者以外が読んでも楽しい。Harry Lorayneの無意識的読心術や、最後の一枚、など掘り出し物がごろごろ出てくる。



だが。

確かに、入門書としてわかりやすく、しかも(当時の)最先端技法も丁寧に組み込んだ、まさに最高の書であったろうが。
現在の視点からこの復刻版を見ると、結局、マニアの為のものになっているのが残念。

本の外形や段組、文字種まで再現したのは、オリジナルの尊重という意味では非常に共感でき、個人的な趣味からも大歓迎なのだが、”入門書”に求められることではない。どうしても読みにくい”感じ”がしてしまう。
また値段もやや高めと思う。

そんなこんなで、どうしても敷居が高くなってしまっているのが勿体なくもあり、しかし仕方ないなあと思う点でもある。
松田道弘の解説も、初心者のためというより、この本の思い出のために書かれている。出典を詳述してくれたのは非常にありがたいが、内容はおおよそ懐古的で、本書の解説ではあっても、初心者への補遺ではないなあ。帯の”歳月の経過を埋めるべく”ってのはそう言う意味だったのか。

シークレットアディションを初めて紹介したのが本書で、それまでは同様の効果のためにパームを使っていた、などの逸話は、カードマジックの目まぐるしい歴史的流動を感じさせて、マニアとしては非常に楽しめたので、文句を言うのも筋違いではあるのだが。



今、このレベルの入門書があればなあ、とつくづく思う。