2022年5月31日火曜日

"7 Deceptions" Luke Jermay

 7 Deceptions (Luke Jermay, 2002)


現代メンタリズムを確立したと言っていいLuke Jermay。本書はそのデビュー作で、クロースアップ・メンタリズム作品が、なぜかタイトルに反して9作収められています。

メンタリズムとは何か、メンタルマジックとの違いは何か、という設問にはまだ定まった答えは無いように思いますが、テレパシーや超能力と口先で言っているだけだった過去のそれらや、いわゆる手品的な手法によって無理に組み上げていた過去のそれらと、2000年以降のメンタリズムはやはり決定的に違っているでしょう。2000年というのはDarren BrownがTVデビューした年であり、メンタリズムの代名詞といえば間違いなく氏ではあるのですが、Brownは結局あまり作品を発表しなかったし、その手法も(発表されたものに限れば)マジック的な要素が強かった。Jermayが本書を上梓したのはBrownのデビューから2年後ですが、以降Jermayはきわどい手法も含め、精力的に作品を発表し続け、業界内では間違いなく現代メンタリズムの旗手でした。

そのJermayがどこから来たのかが、まだ粗削りな本書を読むとよく分かるように思います。Kenton Knepperが出版および作中の(ときにJermayより紙面を食う)コメンタリをしており、Banacheckが序文を書いている構成そのものが答えではあるのですが、仮にそれが無かったとしても、収録されている作品群からはJermayのルーツが十分に感じられます。

しかしそれだけではないのです。Jermayの手順はKnepperやBanacheckの流れを汲みながらも、明らかにどこか質感が違っている。うまく言語化できないのですが、読んでみたらば、2000年以降のメンタリズムの萌芽、あるいは節目のようなものが、感じられるのではないかと思います。

収録されている手順は暗示・刷り込み系のテクニックを使ったものも少なくないですが、多くの手順で現象の最低ラインは保証されているので挑戦しやすいでしょう。そのうえで、うまくいけば観客の(観客の!)脈拍を止めたり、観客の『恐怖症』を克服させたりと凄まじい効果があります。手品的にも、当時マイナーなはずの原理がうまく拾われていたりして、センスの良さがうかがえます。

……と、Jermayについて色々と書いたものの、実をいうと本書でいちばん感銘を受けたのはBanachekによる序文です。そこでは氏が、どのような問題意識を持ち、どのような目論見をもって作品を発表してきたかが短く綴られています。20年が経ったいま、答えは我々の前にあり、Banachekの『序文』はほとんど預言のようです。

もちろんBanachek独りの力ではないでしょうが、氏の代表作がこのジャンルに及ぼした影響は計り知れません。Banachek自身は新しい時代のメンタリストにはなれなかった(と私は思っています)けれど、明確な意思のもとに、業界そのものを己の志向する方向へと捻じ曲げたと言えるのですから凄いものです。Psychological Subtletiesは1巻だけ読んで、あんまり面白くねえなぁと思ったのですが、それがJermayを生んだのであれば「感服しました」以外に言うことがありません。