2020年1月28日火曜日
"Second Thoughts" Ramón Riobóo
Second Thoughts(Ramón Riobóo, 2020)
Ramón Riobóoの二冊目の作品集Más Magia Pensadaの英訳です。前回に輪をかけてひどい本です。いちおう書いておきますが訳す予定もありません。
いや、すごい本なんです。それは間違いありません。でも正直なところ、この本を勧めていいのだろうかという迷いがあります。前作Thinking the Impossibleも、不可能性の高い、マジシャン殺しの手順を多数とりそろえていましたが、そのだましにはどこか愛嬌のようなものがありました。たとえば有名な数理手順をたどりつつ、なぜか一段階以上早い段階で現象が成立してしまうとか、儀式めいたスペリングがあるとか、そういうところです。演出があり、手法の『気配』があり、これはマジックであるという了解がありました。
しかし本書の手順はもっと容赦がない。演出もなく、手続きも雑駁で、それでいてカードが当たる。前作と比べると、観客の自由度をさらに増やし、それを演者の負担で補っているという感じです。乱雑さの演出や観客の記憶の操作、忘却の誘導、それから複数の可能性に対する即興などがより強力に導入され、読んでいて「ここまでやるのか」と怖くなるくらい。
いや本当に、手品本を読んで怖かったのは初めてです。
もちろんそれがすべてではなく、前作のような、あるいはさらにそれをレベルアップさせたような、原理と演出で強力に組み上げられた手順もあります。特にSemi Automatic Card Magicでも発表され、AragonのACAANにも援用された(らしい)"The Roulette Deck"、そしてBlack-Hole Principleという非常に巧妙な原理を用いたカード当て"I Always Miss, So Never Miss"です。これらは解説を読んで言葉を失うほど素晴らしかった。
他には、ややこしい現象に演出がおもしろくハマった小品"Nuclear Weapons"や、デュプリケートを使ったサンドイッチで可能な限り『不可能感』を高めようと試みている"Black Widow"あたりが、私にも手の届く感じで気に入っております。
ついでに技法とDVDのことにも触れておきます。本書には技法を使った手順がいくつかあります。スペイン語版にはDVDが付いていて実演が見られたのですが、これは英語版には付いていません。ただ、正直なところあんまり成立しているようには見えませんでした。Riobooは生でこそ成立するタイプの演者ではあるので、実際に見たら手ひどく騙されるのかもしれず、そうなると英語版にDVDがついてないのはむしろプラスかもしれないのですが……。まあいずれにせよ、技法を直接的に使う手順は少ないので、大きな欠点ではありません。
すごい本です。しかし前作と違って、演じたくなる手順はあまりありませんでした。いや、私の手に余るというか、ちゃんと理解しきれていないと言った方がいいのかもしれません。訳す予定はないと最初に言いましたけれども、ちょっとだけ気持ちが揺らいでいます。この衝撃をちゃんと消化するためにも、訳すかどうかはともかく、もういちど精読した方がいいかもしれません。
Thinking The Impossibleの続編ですが、単なる追加の作品集ではなく、明確なステップアップです。購入される際は十分に注意してください。
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2019年9月30日月曜日
"Card College Lightest" Roberto Giobbi

Card College Lightest (Roberto Giobbi, 2010)
ロベルト・ジョビーのセルフ・ワーキング・カードマジック解説本第3弾。
ライト・シリーズ最終巻。セルフ・ワークとルーティン構成が素晴らしかった1巻、ヴァラエティに富んだ傑作補完としての2巻ときて、さあ最後はどうなるか。
まず構成の話から。正直なところ、明確な構成のあった1巻と比べるとかなり弱く、単にいろいろ紹介しているだけになってしまっている。2巻もそういった傾向にはあったが、それ以上に。2巻ではいちおうトリックを3つの章に分け、それぞれオープナー向き、中継ぎ向き、クローザー向きとして、最後にアクトの組み立て方を解説してまとめていた。
でもライテストではそういうことは無く、トリックが章分けなしにただ連続で解説されている。全体を貫くテーマのようなものはない。いちおう最後に、セルフ・ワークと組み合わせれば効果絶大な『技術のいらない技法』が解説されている。フォールス・カットやフォールス・シャッフル、デックスイッチなど。それらは単にセルフワークと組み合わせて強力なだけでなく、セミ・オートマティックや普通のカード手品などへの橋渡しとしても大変に素晴らしいものになりうる。のだけど――――Giobbiの書きぶりはいささか散漫というか、あくまでオマケとして書いているような感じ。
トリックはというと、これもちょっと変わっている。これまでと違って手順構成に配慮する必要が無くなったこともあり、セットが重めだったりパケットだったりの名作、たとえばNumerologyやSwindle of Thoughtのような大傑作、Ramasee Principleを使ったパケットもの、またサイステビンスを使った巧妙なカード当てCheers, Mr. Galasso!などが収められていて、これらは本当に素晴らしい。一方で、実質『気合で当てる』としか言いようのない手品や、これをセルフワークと言い張るのかというデックバニッシュなどの怪作も入っており、だいぶGiobbiの趣味の感じが強い。手品とは言えないような単なるギャグ(しかも面白くない)まで1作品として入っており、それでこれまでより少ない18作品。うーむ。
悪い本というわけではないが、どうしてもトリロジーのための数合わせに感じる。特に1巻の素晴らしさからするとだいぶ尻すぼみ。あと手順の癖もちょっと強い。重ねて言うが、悪い本ではない。ただもっと素晴らしい一冊になれた可能性がちらつくだけに、とてももったいなく思うのだ。
これも翻訳出るんですか……? 乗りかかった船ということではあろうが、えらいな。
(急いで書いたので、あとで直すかも 9/30→表現を直しました 10/1)
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2019年5月30日木曜日
"Giacomo Bertini's System for Amazement" Stephen Minch

Giacomo Bertini's System for Amazement (Stephen Minch, 2019)
Giacomoの単行本が出ました! やった!
独自の技法で界隈をどよめかせたGiacomo Bertini。私はちょうど直撃ぐらいの世代で、氏の手順を初めて見たときはそれはもう驚きました。それから10年近く経って、とうとうHermeticから書籍が発売されました。収録作品自体はすでに冊子やDVDで発表されているものがほとんどらしいのですが、実は私はそれらを所有していないので比較はできません。
本書は技法の章と手順の章の2部構成。技法に関しては実演DVDも付いています。
技法は大きく2系統。例の小指を使ったコインのトランスファー各種と、エッジグリップからのプロダクションです。非常に曲芸的なことをしている印象があったのですが、丁寧な解説を追うと意外にもメカニカルで、一部手の相性がありそうなものを除けば、やればやったとおりにコインが動いて気持ちがよい。Geoff Lattaの言う”engineered move”であるように感じました。なるほど、これなら割とできるんでは、と思って次の章に入ると軽く絶望します。しました。
手順の章では、先の技法がとんでもない頻度とスピードで、手の左右を問わずに使われまくります。また手順は、コインズアクロスやマトリックスといったスタンダードなものから、ポータブルホールや磁化するコインといった面白い演出のものまで色々ありますが、どれも先の章の技法が相当できなけりゃ話にならないし、代用の方法もまずない。ハンドリングの癖が非常に強いので、一部だけ借用するのも難しいでしょう。
そう、Giacomoの技法は非常に癖が強い。それはまあ、あれだけセンセーションを巻き起こしながらも、ほとんどフォロワーらしい人がいないことからも知れましょう。効果は意表を突いたものですが、付随する動作による制限が非常に大きく、ネタ技法になっててもおかしくなかった。
しかし、Giacomoはそれを武器にした。そのために手順を演じるシチュエーションを限定し、全体のハンドリングをこの技法たちのために組み替え、いろいろな既存の技法や理論を捨て去った。そういうことが本書からは読み取れます。いやまあ、長いことひとりでコインマジックしてたそうなので、あくまで結果的にそうなったのかもしれないですが。
本書の技法や手順がそのまま役に立つ人はあまり多くないでしょうが、そういった、オリジナルの手順や体系を構築するという面からすると類い希な一冊です。
また補足しておくとエッジグリップ関係の技法と手順はあまり癖がなく、特に2作品収録されているシリンダー・アンド・コインなんかはかなり面白いかと思います。それからクラシックパームの解説は非常によかったです。自然でフラッシュしないクラシックパームが解説されています。
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2018年9月28日金曜日
"Card College Lighter" Roberto Giobbi
Card College Lighter (Roberto Giobbi, 2008)
ロベルト・ジョビーのセルフ・ワーキング・カードマジック解説本第2弾。
第一巻は、セルフ・ワークのトリックの解説を通じて、マジックを不思議に演じる上で重要な様々なテクニックを伝授してくれるという点で、比類のない素晴らしい本でした。ただその目的は、一巻でかなりの程度まで満足されています。巻を重ねることで実例は増えましょうが、テーマとして新しいことはありません。
そういうわけで、本書は言ってしまえば追加の作品集です。いちおう新たなるテーマとして、演目(プログラム)の構成という題材があるのですが、第一巻が打ち出したものに比べるとかなり弱いでしょう。
ただしこの『新たなテーマ』が、選ばれる作品の趣を変えています。そもそも前回の縛りが非常にきつかった。前回はすべての手順が3トリックずつのルーティンに組まれており、組み合わせによって威力を発揮するよう慎重に作品が選ばれていました。
一方、本書のテーマは『プログラムの組み方』です。オープナー・中継ぎ・クローザーの三つの章に分かれており、それぞれ7トリックが解説されています。言うならば、出来合いのプログラム(演目)7つを提供した前巻に対して、今回はプログラムの素材を提供するかたち。前巻とはちょうど『行・列』が逆というか、一段階構成をばらしたというわけです。そのため各トリックは、プログラムのどの辺りに使うのが良いかという大まかなクラス分けこそあるものの、前後に来るトリックについては特に想定されていません。ために、単独でも使いやすく、自分の手順に組み込むのもより容易でしょう。また前巻がややカード当てが多かったところ、よりバラエティに富んだ、単独で面白い手順が多いように思います。個人的には、Gemini Twinsをセルフ・ワークのままうまく4Aプロダクションに仕立てた"Fully Automatic Aces"や、巧妙かつバイプレイの楽しみがある思ったカード当て”The Thought-of Card”、これぞ数理といった"The Cards Knew"が好きです。
単なるセルフワークに留まらないような手順、デックをふたつ使うものや、ガフカードを使ったもの、運が悪いと失敗するものも、ちらほらと顔をのぞかせ始めます(これはLightestでさらに加速します)。
前巻とは少しだけ趣を変えた、より扱いやすいセルフ・ワーク作品集。『プログラムの組み方』というテーマについては、本書のみでは十分に解説できたとは思えません。しかしその方針のために、前巻とはやや趣の異なった傑作セルフ・ワーク・トリックが収録されています。初読時はちょっと食傷したんですが、それは3冊連続で読んだからというのも多分にあったのでしょう。今回、時間をおいて久しぶりに読みましたが、かなり面白かったです。
日本語版が出たと聞きました。ほんとうか……?!(ほんとうだった)
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2018年7月25日水曜日
"The Top Change" Magic Christian
The Top Change ~Monarch of Card Sleights
(Magic Christian, 2017)
トップ・チェンジの達人の、点睛を欠いた小ぶりな技法書。
本書はHofzinserの研究家でも知られるMagic ChristianがTop Changeとその類例の技法を解説する本。たいへんによい内容でありつつ、読む価値のほとんどない文章も多分に含み、是非とも読みたかった情報が欠けている、残念な一冊。
本書は七章立てになっている。
1 A Sleight History
2 The General Concept
3 The Basic Changes
4 My Top and Bottom Change Variations
5 New Ideas for the Exchange of Four Aces
6 Other Techniques
7 The Literature
歴史の章は、レジナルド・スコットの記述したグライドから始まり、トップ・チェンジが広まるまでを要領よくまとめている。また同時に、Hofziner研究家である著者が、『正統な』トップ・チェンジの使い手であることも匂わせている。
2章では「トップチェンジ」とその周辺に位置する技法について、そしてこれら技法をうまく行うための理論的な事が手短に語られる。3章、トップチェンジとその周辺技法について、丁寧に解説する。この類いの技法で重要になる視線や注意の誘導に関しても、簡素にではあるが、非常に参考になる内容が解説される。
ここまでこの本は素晴らしい。
ここ以降は斜め読みで構わない。
4章、バリエーション技法集なのだが、これは実際のところ3章で行った技法の組み合わせである。デックを表向きに持っているか裏向きにもっているかの違いだけで別項目を立て、まったく変わらないハンドリングをなんども解説する。そんなの「同じ事はデックを表向きに持っていてもできる。」の一行ですむのに。
ありがたいことに、これらの技法にはとても直接的な命名法が適用されているので、技法名を見ればおおよその内容はわかる。あとは写真を流し見れば十分だ。
5章、エースのスイッチへの応用。6章、なぜ章分けしたのか分からないが、7章のための扉文である。7章、文献一覧だが、Behrのfileから絞り込み検索した結果を貼ったもの。
そしてトリックの解説はなく、終わる。
悪い本ではないし、序盤は特に素晴らしいのだが、さてこの技法をどんな文脈で用いれば良いのか、どう手順に適用するといいのか、タイミングや観客のコントロールには基本の他にどういったものがあり得るのか。そういった事には殆ど触れられていない。デックスイッチなんかとは違って、手順の『中』でどう使うかがとりわけ重要な技法であるのに。いい手順や導入手順が5つぐらい、いや3つでも、なんならPat PageのThe Unknown Soldier’s Card Trickが載っているだけでも、全然違ったと思うのだが。
DVDを作っていると書かれていたので、そちらに期待すれば良いのだろうか?
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2018年1月31日水曜日
"Card College Light" Roberto Giobbi

Card College Light(Roberto Giobbi, 2006)
ロベルト・ジョビーのセルフ・ワーキング・カードマジック解説本。
カード・カレッジと付いていますが、それは英訳の際に(おそらくは)売れやすい様にタイトルを変えただけで、本来はカレッジとは関係有りません。本書の方が出版は先です。元々は1988年の手品イベントで配布されたものだそうです。
で、これの内容が大変すばらしい。惹句には「これは君の親父さんが持っているカンタン手品の本(セルフ・ワーキング・カードマジック本)とは違うぜ」とあるんですが、まさにその通りで、セルフ・ワーキングの本と聞いて想像するようなものとはひと味もふた味も違います。なお、今回の雑文は、ほとんどGiobbiが前書きで書いていることそのままになってしまいましたが、それだけ自覚的に書かれ、その狙い通りに完成した本ということでしょう。
本書の手順は全てセルフ・ワーキングですが、Giobbiが厳選し、また実際に演じているというのがポイントです。トップ・バッターがTamarizのT.N.T.(Neither Blind nor Silly)という時点で、本書の本気度合いがうかがえます。
しかし本書のなによりの特徴は、収録されている手順の質ではなく、その効果的な『演じ方』です。おもえばカード当てやセルフ・ワーキングほど、演じ方が重要なカード・マジックもありません。派手なカラーチェンジやバニッシュなんかと違い、指示の出し方ひとつ、操作のタイミングひとつで、まったく不思議ではなくなってしまいます。
本書はそれを、とても丁寧に解説します。……といっても、『演じ方』そのものが理論立てられて解説されるわけではありませんが、Giobbi流の綿密な手順解説を通じて、みっちりと仕込まれます。書かれていることを丁寧になぞれば、それだけで『演じ方』の大枠が身に付くでしょう。
Giobbiの解説は重すぎることも多いのですが、本書は手順が簡潔であるためちょうどよいバランスになっています。
また本の構成も、『演じ方』について、とても面白い企みを持っています。トリックは合計21作品収められているのですが、ただ順番に解説していくのではなく、3つずつを1セットのルーチンとして構成されています。演出的に連続性があるものもあれば、あるトリックの中で次のトリックのセットアップをしたりするような、裏側的に連続しているものもあります。セットとして演じることで見えてくるものも多くあるでしょう。
いやまあとかくおすすめです。初心者であれ中級者であれ、こじらせたマニアであれ、カード・マジックを実際に人に見せるというのならば誰にでも。
上の方で「本書は本来カレッジとは関係ない」と書きましたが、作例不足のきらいがあるカレッジと手順と演出オンリーの本書とは、うまいかたちで補い合うでしょう。
なお続刊にLighter、Lightestがあり、それらもまあ面白いは面白いのですが、さすがにセルフ・ワークしばりのせいで食傷気味にはなります。ローテクのデック・バニッシュとか、タネも仕掛けもないカード当ては一見の価値有りですが。
繰り返しになりますが本書の見所は『演じ方』であり、それはLightで十分に示されているので、後の巻は別に無理して買う必要はないかな……。実演向きのセルフ・ワークや原理ものがお好きであればもちろん買うとよいですが。
日本語版が出ると聞きました。ほんとうか……?!
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2016年12月31日土曜日
"The Aretalogy of Vanni Bossi" Stephen Minch
The Aretalogy of Vanni Bossi (Stephen Minch, 2016)
Hermetic Pressの新刊、イタリアのアマチュアVanni Bossiの作品集。
装幀は昨今まれに見るほど気合いが入っていながら、詰めが甘く、ちょっと残念なのですが、内容は独特で非常に充実しています。
まず装幀の話。Hermeticはこれまでも、背が布、表紙が紙という装幀をたびたび使っていましたが、今回は背が革、表紙が布という古書めいた半革装です。すげえ! かっこいい! おまけに背バンドまで! 腹は敢えて紙を整えず、閉じたままの段差が付いています。こんなん初めて見ましたよ。
本文のレイアウトも古書を意識したのか独特(ついでに文体も凝っていて少々読みにくいです)。
本文中にちりばめられたアイコンは、Giochi di carte bellissimi di regola, e di memoriaという本から来ているそう。これは1593年のHoratio Galassoによる極めて古いメモライズド・デックの本で、Vanni Bossiはこの本を見出し、研究成果をGibecièreに寄稿したりもしたそうです。
……と、すごい装幀なんですが、気合い入ってる分、ちょっとした残念箇所が手痛い。
表紙タイトルと本文中の図がなぜかカラー刷りになっていて、よく見ると印刷のドットが見えてしまい、安っぽい。単色刷りにすればよかったのに……。もったいない。ほんとにもったいない。
それから背バンドも、詳しくはないのですが、本来の用途は補強なので、均等か上下対称に配置されるべきなのでは……?
というわけで、近年まれに見る豪華装幀なのですが詰めが甘くもったいないです。しかし今後も凝った本を作ってくれるでしょうし非常に楽しみ。
内容の話。
作品は主にクロースアップ・マジック。カードとコインが主ですが、他の素材と組み合わせた作品が多いです。カードでは、カードインフレーム、カード・イン・リングボックスや、ビニール袋に包んだ状態でのチェンジ、折りたたんだカードの変化など。観客が後ろ手に保持している指輪の中に選んだカードが移動するといったぶっ飛んだものもあります。
このパートで一番面白かったのはStraight Up with a Twistというライジングで、カードが半分程せり上がった後、その状態でくるりと半回転します。現象はもちろんのこと、仕掛けやその処理まで含めて非常に面白い。
他、技法ではカードを折る手法がふたつ載っており、どちらも面白いです。スチールやダブルカードハンドリングも独特で気になるのですが、これらは実用例がなく少し物足りない。
コインも、コインボックスやコインフォールドなど、他素材との組み合わせたものがやはり光ります。最後にボックスから水が出てくるのはフーマンチュー・ボックスだったかと思いますが、Vanniの手順ではボックスに入れた水が掌を貫通して出てきます。コインフォールドも、紙を観客が折るというもので、にもかかわらずコインが消せます。どちらも天才的な発想。一番感服したのはHigh Strung and Laplessで、技法もギミックも駆使して完璧なカンガルーコインをつくろうとした逸品。
ただ、読んでいると微妙なものたりなさもあります。こんなものを考える人なら、もっと他にも弾があるだろうという感じ。
Vanniの本職はクラフトマンだそうで、本来は凝った仕掛けを使った手順が多いのだそうです。ただ今回の編集方針として、自作困難なギミックや時代遅れになった素材を使う作品は省いたそうで。例えば火を付けたロウソクで行うChink-a-Flameや、電球の中に移動する指輪などは、タイトルが言及されているだけです。もっとそういうのを読みたかった。
しかしそれは、逆に言うとまだまだ弾が残っているという事でしょう。最後に2作品だけ、おまけとしてだと思うのですが、実に手段を選ばないトンデモ手順が載っていて最高です。
他の素材と組み合わせた手順ばかりなので、カード単体、コイン単体でのスライトや原理が好きな人にはあまり響かないかもしれませんが、イラストだけで笑ってしまうようなぶっとんだアイディアが多く、非常に刺激的です。もっとぶっとんだ続刊も期待。
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2014年11月8日土曜日
2014年7月28日月曜日
"Ken Krenzel's Relaxed Impossibilities" Stephen Minch
Relaxed Impossibilities (Steven Minch, 2009)
カードマン、クレンツェルの最新作品集。
実はこの少し後、2012年にクレンツェル氏お亡くなりになったので、現時点では最終作品集です。
クレンツェルの代表作って実はあまりよく知りません。
Card Tunnel、Open and Shut Case(未読), On the Up and Up(未読)あたりなんですかね。ただこれらがKrenzelらしいのかはちょっと不明というか。
Card Classics of Ken Krenzel を読んだ限りでは、変な技法がお好きというのは伝わってきたんですが、手順構成とか作り上げたい不思議の像があるのかとかはピンときてませんでした。正直いまでもよく分かりません。
そんなんであまり好きという訳でもなかったKrenzelですが、この本はRelaxedと銘打たれ、特に観客の手の中でおこる不可能に焦点を当てているという事で、なんだいつの間にか芸風が変わったのか、それに観客の手の中で起こる現象とかいいじゃないレパトアに増やしたい、と例によって紹介文をよく読まずに購入しました。
で。
読んでしばらく変な笑いが止まらなかった。
最初から相当にムズい技法が飛び込んでくるし、いつまでたっても技法の章が終わらない。
半分をすぎてもまだ技法。ああ、やっぱりKrenzelだ。俺の知っているKrenzelだ。
その後やっと手順が始まったけど、今ひとつ俺の好みではないのもやっぱりKrenzelだ。
あいかわらず技法の使い道はほとんど与えられていないものの、例のTwo Card Fan Lift Switch Reversal Palmのようなカオスなものはなく、シンプルなコントロールやスイッチが主です。そして「力を抜いている」「何もしていないように見える」という狙いが大変明瞭に反映されているため、難しかろうとも挑戦欲は湧いてきますし、実用性もありそうです。
一方で手順はあまり好みではないのだよなあ。収録作の約半分は、演者が操作する手順、もう半分が相手の手の中で起こる手順で、どちらも『演者が何もしていないように見える』というコンセプトらしいのですが……。
相手の手の中で起こる現象って難しいものです。
現象の最終段階が相手の手の中で示されても、それは『現象が起こった』ではなく『状態が示された』に過ぎない場合が多く、それでは「ああじゃあ渡された時点でこの状態になっていたのだな」と思われておしまいです。
『何もしていないように見える現象』も同様ですが、直前の検めを入れるのが大変難しいのですよね。だからマジックの起こった『時』がぼやけてしまいがちです。手の中で起こる現象や演者が何もしていないという現象を構築する場合は、その危険性にちゃんとフォーカスをあてないといけないと思います。
Krenzelがそこを考えて作ったのか、は正直微妙に思います。
またKrenzelといえばRichardsonとならぶACAAN好きで、今回もACAANと名付けられた手順が3種ありますが、なるべく手を触れずにやろうとして、どれも手続きが微妙。
うーんやっぱりどうも手順があまり魅力的に感じません。
しかし技法の章は大変面白く、そういう目的で買われた方は大満足かと思います。
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2013年1月19日土曜日
"Secret Agenda" Roberto Giobbi

Secret Agenda (Roberto Giobbi, 2010)
Giobbiといっしょに一年間。
カードカレッジ でおなじみ、碩学Giobbi先生のちょっと変わった御本。
各タイトル毎に日付が振られていて、それが365+1タイトル、つまり日めくり式みたいになっている。一日1タイトル、一年掛けて読破せよって事らしい。
それでまあ去年の1月から読み始めて、途中までは、ほぼ正確なペースで読んできました。10月くらいで一度中断、積みに入ったものの、先頃まとめ読みして何とか1年+数日で了。
いやーしかし1年も経つと、最初の方の話とかすっかり忘れてますね。
あらためてざっと読み直した上でレビュー。
内容は、エッセイ、技法、手順、逸話、クイズ、アイディア、ギャグ、記念写真などなど何でもあり。古くなったコニャックの飲み方とか、将来自分のお墓を作ったときの碑銘案とかそんなのまである。
各タイトル1~2頁という事で、基本的には小物。トリックも小品メインです。ビジネス的なアドバイスとか、テーブルへのアプローチの仕方とか、そういう読み物系統が多かった印象。マジックそのものの話はあまりしていないような……。実際に道具を持って手を動かすような記事は30%あったかなぁという感じ。ちなみに僕が「ああコレは覚えておこう」と思ったネタ物は30タイトル未満、10%以下でした。
カードはあんまり得る物がなかったというか、Card Colledge 5 のレビューでも書いたけれどGiobbi先生けっこう独特なのです。トップスタック・コントロールなど、シャッフル組み合わせの記事が複数あったので余計に今ひとつの印象。個人的な好みとして、シャッフルのコンビネーションにはあまりそそられない。
特に単枚数コントロールではそうですが、どれだけDeceptiveにシャッフル・コントロールできたとしても、マジシャンが触っている時点で「コントロールしているかも」という可能性は生じると思うのです。だからといって、おざなりで良いかと言えばそういう訳では無論ないのですが、それぞれの手法の違いとか利点が見えにくいので、いまいち入れ込めません。
閑話休題。
で、駄目な本だったかと言えば一概にそうも言えない。
テーブルに置いたデックを綺麗に取り上げる方法、とか、たくさんあるデックの整理方、など普通のマジック本ではお目にかかれないような、些末だけれど面白いTipsがあったり、マジシャンにしか通じない超内輪ジョークがあったり。
『ヘイ! スティーブ。エルムズレイの新しい4巻組DVDはもう見たかい?』
『もちろんさ。だけど、3巻だけ見れてないんだ。代わりに1巻を2回見てしまったよ!』
『HAHAHA!』 (Feb.18)
みたいなのとか。あ、訳は適当です。
中でも僕は、Aug.16のワイングラス・ベンディングが非常に気に入りまして、さっそく持ちネタに取り入れました。使いどころは限定されるし、実を言うとマジックでも何でもない小ネタですが、これだけで一冊読んだ時間は報われたかなあと思っています。
また以前、Lennart GreenがTEDでのパフォーマンスで使っていたネタを、個人的に盗用していましたが、本書のOct.15にてめでたく文書化されたので、誰を憚ることもなく使用できるようになりました。うれしい。
それから。Jun.29のBreast Pocket Ployは、出来ない服もありそうなものの、胸ポケットの口を開けておく手法としてはコロンブスの卵のような出色の方法でした。ただあまりに良い手法なので、ひょっとしたら僕が知らないだけで、割と一般的なのかも知れません。John Carneyの案だそうです。
そんなわけで、当たりは少なく、実用的な物となるとさらに少ないのですが、一方で必ずひとつふたつは大当たりが出てくるんじゃないかなーと思います。それが技法か、ギャグか、格言なのかは人それぞれになるでしょうけれども。
平均を取ると、どうにも退屈という評価になってしまいますが、益体もない(と思えてしまう)文章をだらだら読みながら、たまに判る話に出くわすとこれがはっとするほど面白い、そんな本でした。まあ言ってしまえばブログであるな。紙ブログ。
なお、本自体はやや四角に近い変形版、ダストジャケット無しの布装、箔押しも金と白の2色というとても素敵なもので、背も美しく、デザイン的には言うこと無しです。
最近出たConfidences も気にはなるんだけど……、やっぱりGiobbi先生とは相性が良くないみたいだし、しばらく見送りかなあ。
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2012年11月29日木曜日
"Card College volume 5" Roberto Giobbi

Card College volume 5 (Roberto Giobbi, 2003)
碩学 Giobbi の開催するカードカレッジ最終巻。
このシリーズ、邦語版も4巻までは出ているのだが、最後の1冊は現在でも未訳のままである。日本語版の4巻刊行が2007年、これだけ待っても出ないのだから、たぶんもう出ることはないのだろう。リファレンスなどにも良く使用され、読み返す事の多いシリーズなので、できれば日本語がよかったのだが仕方ない。あきらめて英語版を購入した。
少々さかのぼって、カードカレッジそのものの紹介から始める。
著者のRoberto Giobbiはカードを得意とするプロのマジシャンであり、怖ろしいまでの勉強家としても有名である。多言語国家スイスの生まれ、マジシャンになる前は翻訳家をしていたというその技能を現職でも存分に活用し、有名無名の種々書籍はもちろんのこと、マジックの定期刊行誌も5~6ヶ国分は購読しているというからとんでもない。
そのGiobbiがカード大学の名で展開したのがこの一連のシリーズ。本編 全5巻と、セルフワーキングのみで構成されたライト・シリーズ全3巻の計8巻からなっている。
本編は、そもそものカードの持ち方、配り方、めくり方から始まり、シャッフル、ダブルリフト、パーム、カルから、果てはGreenのAngle Separationのようなマニアックな所まで押さえている。マニアックとはいえ、Krenzelの謎技法(Two Card Fan Lift Switch Reversal Palmとか)のようなものはなく、どれも使いどころは広い。ある一定区分の技法毎に章分けされており、章末にはその技法を使ったトリックがそれぞれ2、3品解説されているのが普通だ。
この本の内容をマスターすれば、それだけで世界のカードマジシャン上位20%に入れるというふれこみであり、その謳い文句がおそらく正しいという、とんでもないシリーズである。
かくも凄い本ではあるが、決して無条件に薦められる本ではない。目的が目的だから仕方ないのだが、殆どが技法の解説に費やされていてトリックはごく少なく、特に一巻のみだとその傾向は顕著である。カードカレッジだけからカードマジックが出来るようになるかというと、個人的には少しく疑問だ。比喩としてあまり適切でないかもしれないが、文法書だけでは外国語の小説が読めるようにならないのに似ている。
5巻を買ったのには、その間隙がこの巻をもって埋まるのかな、という興味もあった。
なにせ5巻は趣をがらりと変えて、その殆どがトリックの解説に費やされている。
解説されるのは34品のカードトリック。このために構成された物では無く、Giobbiのレパートリーからというのも期待が持てる。
結論から言うと非常に疲れた。
文字が小さいうえに、詳細なハンドリング解説も全手順でとなると流石に辛くなってくる。それぞれのトリックで焦点となる”コンセプト”だけを詳細に説明してくれれば、あとは勝手に応用するのだけれど。あるいは、単純な解説の後に、詳細な解説、という二段構えでもいい。全体像が見えないまま手順を微に入り細に入りやっていると、なにをやっていたのだか見失ってしまうし、手順を思い出したくても再読がしんどい。
ただしこれらについては、自分の語学力の問題もある。
もう少し本質的なところで問題と思うのは、トリックの全てがとんでもなくGiobbiタッチであり、かつそれぞれの完成度が高い点だ。Giobbiは一見するとクラシック主義、オーソドックスで美しいハンドリングなのだが、優等生のようにみえて実際は非常に個性的であると思った。
別所で読んだが「デックは可能な限り手から放しておく」というのが氏のルールとしてあり、同様に演技中に使う個別のカードもテーブル上に置くのを好む。スイッチはトップチェンジが多く、カウントよりもフォールスディール。
ここまでくれば判ると思うが、いまどき流行のマジックとはハンドリングの基底にある概念がかなり異なるし、難しい。単純に技術的な面もそうだが、これを平然と行うタイミングを作り出すのが大変だろう。
また微に入り細をうがつ説明によって、かえって手順に手の加えようが無く、息苦しい。
むろん、内容自体は一級品だ。
即席からしっかりした4A手順、メンタルにギャンブル、また最終章ではカラーチェンジングデックやルポール封筒も扱う。プロダクションやキッカーエンディングとして4Aの出現頻度がけっこう高いので、できれば4Aメインの手順がもう少し欲しい所ではあるが、総合的には実にヴァラエティに富んでいるし、スライト物から数理ものまでアプローチも幅広い。
ただしどれもGiobbiタッチ。
特に面白かった物を挙げよう。
・Knowledgeble Card, Coalaces Hofzinser Problemに基づいた2手順。どちらもあまり見かけない解法。一つはAがテーブルからほとんど離れない。もう一つはA4枚が1枚の選ばれたカードに変化する。
・Study for Four Aces 松田道弘べた褒めのChrist's Aces。確かに美しい。ただこれやGemini Twinsの改案なんかは、Bannonの方がより面白かった印象。
・The History of Playing Cards これは何というかちょっと凄い秘密だった。Giobbiならではというか、残念ながら日本語では出来ないが、うんちくとしても面白い。
・Fantasist at the Card Table 壮大なギャンブルデモ。さまざまなゲームでデモを行い、かつわかりやすい。手順が統一されていて簡単なのも良い。
・Happy Birthday Card Trick ハッピーバースデーを唄うとカードが出てくる。手法だけ見ると単なるスペリングトリックだが、こういうのを咄嗟に使えたらかっこいいだろうなあ。
・A Cardman's Humor 最終章が咄嗟の台詞やジョーク集になっている。文化に依存しない物を選考したとのこと。さすがに文法から違うとなかなか難しいが、"The cards are normal, but the magician is not"とか格好良すぎる。使う場所が無いが(笑
さてつまるところ、Giobbi個人の作品集なのだ、これは。
カードマジック事典後半のような、これまで学んだ技巧の発揮の場としての傑作集・素材集ではない。講義はまだ続いていて、いやむしろ基礎講座が終わってようやく、今度こそGiobbi先生の独演会が始まった感がある。
Giobbiの手順や構成に興味のある人は、買えばよいけれども、単純にカードマジックを、というのであればもっともっと刺激的な選択肢は他にある。Giobbiは比類無き知識の人であり、熟達した技巧と構築の人ではあるが、奇想の人では無い。
東京堂がこれを訳さなかった気持ちも、わからないではない。
また(一応)5巻で完結のはずなので、最後にひとつ結びの文句でもほしかったが、そういうのもなかったのでなあ。ざんねん。
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2012年10月25日木曜日
"Curtain Call" Barrie Richardson
Curtain Call (Barrie Richardson, 2012)
Theater of the Mind, Act Twoから続く三部作の掉尾。カーテンコールの名に相応しい最後の挨拶。
近年で最も重要なメンタリズム・クリエイターの一人に挙げられるBarrie Richardsonの最新作にして、おそらくは最終作。
クリエイター的なおもしろさ、作品に使われる原理や技法という点では、前二作に劣るかも知れないが、単純に実用度・練度から見ると最も充実していると思う。
以前も書いたが、メンタリズムにおける「過剰な不可能性」を削いだのがRichardsonの大きな特色と考えていて、それはこの巻でも変わらない。シンプルなメソッド、不可能すぎない現象、充実したプレゼンテーションの解説。いわゆるメンタリスト然としたキャラクタを作らなくても、メンタリズムは演じられるのだなあと思えて嬉しい所である。
以前の2巻を踏襲しているが、いくつか異なっている点もある。
特に、今回はキーとなる技法・解法が存在しない。前2巻はいくつかの解法に則って創作が行われている印象だったが、今回は特にそういった感じはうけなかった。Richardson手順の難易度を上げているHellis Swichも無くて個人的にはありがたい。
また他の人の技法解説も多め。あまり手品の本を持っていない、と以前の巻にあったとおり、これまではクラシックを基にしたものが多かったのだが、本作では比較的新しめだったりマニアックだったりな作品の流用も見られる。
Allen ZinggのZingg Switchが解説されているし、Happy Peekはどの程度までかは知らないがAlain BellonのPeekをベースにしているという。このBellonのPeekは革装100部限定というとんでもなくレアなObsidian Obliqueに掲載されているらしいが、さすがにビレットピークにこんな金額、僕は出せないのでここで読めて良かった。またこのObsidian Oblique Peekはこれまたお高いAcidus Novus Peekのバリエーションらしいがメンタル、特にビレット周りは詳しくないので詳細は不明。
フルアクトの解説あり、と書いてあって大いに期待したのだが、実際にはアクトの中で用いられる手順それぞれの解説であり、つなぎ部分などを含めた物ではなかったのが少し残念。しかし収録作にはおおむね満足。
全体的に新規性や独創性はあまり感じないものの、これぞ彼の”決定版”なのだろうなあという、演じやすくクリアな手順が目白押し。CurryのBookTestのちょっとしたバリエーション(演者が紙面を見るタイミングが全くないように見える)や、嫌みの無い生者と死者のテスト、完全に混ぜられたデックを4人それぞれに1/4程度ずつ渡したあと、誰が何のカードを持っているか完全に覚えきるメモライズデモなどなど。
個人的には特に以下の2手順について、レパートリーへの編入を検討している。
Spoo-Key
三段階からなるホーンテッド・キー。握った手の中で回転、握った手から突き出してくる、そして最後に完全に開いた手の上でゆっくりと転がる。また各段で、そのまま相手に鍵を取り上げて貰えたり、相手の手に落とせたりと非常にクリア。
少なくとも文章で読んだ限りでは、一つの瑕疵もみえないホンモノの現象。やや古めかしいギミックを使うので、国内では手に入らないかも知れない。とりあえず海外の老舗に注文してみようと思います。
Impromptu Card at Any Number
単品販売もされていたらしいCAAN。
掲題の通りあくまでCAANで、配るのもマジシャン。決してACAANではない。が、しかしBerglas Effectの模倣という意味では極めて高いレベルにあると思う。
手法は非常に古典的で、このジャンルをちょっとでも調べた人なら誰でも知っているような物。新奇性という意味では全くもって肩すかしなのだが、技法の選択や条件設定によって非常に不思議に仕上がっている。
”自由に決めたカードが、自由に決めた枚数目から出てくる。マジシャンは何もしていないにも関わらず”
という現象を、怪しいところがなく、それでいて異常な技能もややこしい準備も一切必要とせずに達成しており、実用的にはほとんど最高の解と思う。
また、同一手順についてクロースアップ版とステージ版とが解説されている。手法は全く一緒だが、必要とされるミスディレクションの大きさの違いなどがプレゼンで調整されていて、これもいい勉強になった。
もうひとつ、いわゆるビレットや窓つき封筒のような紙物が非常に充実していた。ピークやスイッチの種類も多かったのだが、技法ではなく手順の話。
紙ひとつの簡単なもの、やや発展した紙ふたつでワンアヘッド使用のもの、発展的な手順といった風に、順に作例があげられていて、自分のような初心者には非常に親切。
情報をいったん紙に書く系統はあまり不思議にも思えず、これまで触ってこなかったのだが、ここで解説される手順はどれもRichardsonらしく、現実に有り得ていい不思議としてまとまっており珍しく食指が動いた。
もちろん不可能性が高いのもある。A Dessert and First Loveは、現象の説明を読みながらいったいどこでスイッチやピークが行われたのか全く判らず困惑してしまった。Bruce Bernstein、Bob Cassidyの手順の改案らしいが、あえてビレットに注目を集める構成は非常に面白いと同時に、フェアでもあると思う。
演出次第とは言え、書かせて直ぐに破るような手順は、やっぱりどうにもね……。
いかん、まとまりが無くなってきた。ともかく、不可能性・新奇性には欠けるが、まことに実用的なメンタリズムの本として非常に面白かった。
愛妻に「77歳の男が次の世代に隠し事をしていてどうします」と怒られたとかで、ますます筆致は軽く、惜しみない。本書で明かされたのは、実際、何年とRichardsonのレパートリーであった作品達なのだろう。
さて、勝手に三部作にしてしまったが、ひょっとしたらまだ次も来るかも知れない。Act Twoの時点で「もう出す物は全部出したよ」と仰ったらしいが、その後でこのCurtain Call だものな。個人的にはメンタルの教科書なんかを書いて欲しいのだけれど。
さらなる作品を密かに期待しつつも、ひとまずはRichardsonの三部作完結を祝いたい。
んで、いくつかの作品を身につけ、人に見せることでつないで行けたらなあと、
書斎派らしからぬ事を考えたりもした。
メンタルの醍醐味とも言える悪魔的な巧緻さはないが、それでも間違いなく、メンタリズムの一つの記念碑と思う。
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2012年7月30日月曜日
"Thinking the Impossible" Ramón Riobóo
Thinking the Impossible (Ramón Riobóo, 2012)
先頃発売されたスペインのマニア Ramón Riobóoの初英語作品集。
いや、これは酷い本だ。
よくもまあHermeticはこれを出したものと思う。
皆さん、本書は読まなくていい。
だって本当に酷いんだ。
酷いんだよ。
こんな手品されたら、追えるわけがなかろうよ。
『ひっかけられるのが怖いなら、Ramónには会わない方がいい』とHermeticの惹句にもあるが、ここまでとは思わなかった。生で見たら、不思議も度を過ぎて怖いレベル。
残念なことに本書への興味を失わなかった人のために、改めて。
Ramón Riobóoはスペインのマニア。
単発ではSteve BeamのSemi Automatic Card Tricksにちらほら出ていたらしいが、あの分厚くていつまでも新刊が出続けるシリーズを追ってる人は、あまりいないだろうから、無名の新人といってもいいだろう。
(一応、TamarizのMnemonicaにも作品があるが、あの分量の中からピンポイントでこの人の名前が引っかかっている人もそうそういるまい。)
さて新人というのは、決して比喩表現ではない。写真で見るとなかなかご高齢だが、前書きなどから察するに、この本の刊行時(西語版2002年)のマジック歴は10年かそこらのはず。本を出すレベルのマジシャンとしては本当に若手の部類である。
元のお仕事を50歳で退職した後にマジックを始めたらしく、その経歴が、本書を形成する一種独特なトリックの構成にも深く関わってくる。
本書の収録作品は、いわゆるセミ・オートマティックなカードマジック。
セルフワーキングとは違って、いくつかの技法や操作を必要とするものの、トリックの骨子は”原理”によって成り立っている作品群である。
Riobóoの作品は、セルフワークと聞いて思い浮かべるような煩雑さは皆無で、トリックの外観は非常に簡潔にまとめられている。まあスペリングこそ多用されるものの、そこには意味がちゃんと感じられる。ひたすらダウンアンダーをしたり、配りなおしたりという、現象の要請のために延々と操作させられるあの嫌な感じは全くない。
あまり意味のないような動作や、最初に言った約束・制限を破るような干渉もあるが、それは全体像をシンプルにする方向に働いており、客側から見ても違和感はないだろう。
基調として、観客がシャッフルした状態から行うものが多く、場合によっては殆どを観客が操作する。現象はカードあてが殆どになってしまうが、いわゆるロケーションからマインドリードまで、いろいろ。スペリング、および複数の観客(2~5)が必要なトリックが多く、その点では自分の環境には合わなかった。
プレゼンや動作の意味について詳述しているのも特徴で、デュプリケートを使ったCard to the Boxという、マニア的には”逃げ”にしか思えない解法も、ここまで構成や狙いが書いてあると、やってみたい気になる。
作品は、要求事項によって大きく5つに別れており、以下の通り。
『完全な即席:21』
『ちょっとしたセットアップ:2』
『メモライズドおよびフルスタック:5』
『デュプリケートやギミック:7』
『Treated Card:4』
Treatedっていうのは、粘着性のしかけを施したカードを指している。
ともかく、演者が”必要なこと”以外何もしていないように見えるのが、実に好み。
Finnelly Found
カードを広げていって、観客Aに1枚を覚えてもらう。
覚えたカードが含まれているだろうブロックをAに渡し、
覚えたカードを抜き出して他の人にも見せてもらう。
演者は手元に残ったカードを、別の観客Bに渡し、混ぜてもらう。
Bが適当な枚数をカットして出した上に、Aは覚えたカードを戻す。
Aは手元の残りのカードを混ぜ、適当な枚数をカットして覚えたカードの上に載せる。
A,Bの手元に残っているカードを集め、それも重ねてしまう。
これで、Aの覚えたカードが任意の枚数目にコントロールできると言ったら、君は信じるかね?
DaOrtizの数字のフォースを使ったCAANに繋げてもいいな。
Cardini Plus
5枚ずつの手を3つ配り、1つ選んで、好きなカードを覚えてもらう。
そのカードを、観客自身がデックに戻して混ぜる。
その後、演者も簡単に混ぜ、観客に渡す。
観客が自分の"心の中だけで決めたカード"のスペル分、配ると、
その枚数目から覚えたカードが出てくる。
これ、観客は、ほんとうに心の中で決めただけなんだ……。
スペリングが難しい言語なのが悔しい。
ともかくすごい本だった。
わざわざ洋書など読むくらいになると、好みも狭くなり、一冊に1~2個も当たりがあればいい方だが、本書ではすぐにレパートリーに入れたいものだけで3~4個、機会があったら演じてみたいと思う物を含めれば8~10個もあった。
できれば、みんな買わないで欲しいんだけどなあ。
なお、どれも演技はとても難しいと思う。こんな不可能状況でもってカードを当てたら、絶対どや顔してしまいそう。演じ方によってはめちゃくちゃ鼻持ちならないマジシャンになって、またぞろ『マジックを見ると腹が立つ』人口を増加させてしまいかねないので取り扱いには細心の注意を要するだろう。
しかし。Ascanio、Carroll、Tamariz、DaOrtiz、Piedrahita、そしてRamón Riobóo。スペインってのは、いったいどんな人外魔境なのか。あな怖ろしや。
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2012年5月31日木曜日
"More Power to You" David Acer

More Power to You (David Acer, 2011)
こういう慣用句のタイトルは、意味を取るのがなかなか難しい。
慣用句としての『健闘を祈る』と、直訳の『より一層の力(マジック)をあなたに』と、ないまぜの印象だろうか。表紙絵はPCのPowerボタンだし、色々意味をかけてあるのだと思うが、英語が得意でない身としては、その辺のギャグなりこだわりなりが上手く汲み取れずに悔しい。
それはさておき。クリエイターとしても有名な、カナダのDavid Acerのベスト盤。といっても、『David Acerベスト選集 *ただし科学的な統計にあらず』とか書いてあるあたりに、この本の基調が見て取れようというもの。
コメディマジシャンでもあるAcerのお遊びが随所に仕込まれていて、そういう意味でも面白い一冊。
作品内容はカード、コイン、指輪などクロースアップが殆どだが、中にはステージ上での入れ替わりとかもあり、非常にヴァラエティに富んでいる。
過去の著作から選び、内容を書き直しているらしいが、以前の物を知らないのでその点の評価はできない。
作品はマジックというよりトリック、あるいはギャグ。軽い雰囲気で行う物が多い。特にカード物では、カードに書いた棒人間が選ばれたカードを探してきたり、デックにどんどん穴が空いていったり、などなど、あまり”真剣”に見せられるタイプの物ではなく、その辺、個人的な好みには合わなかった。
一方で、アイディアには実に独創的な物があり、そちらは非常に楽しめた。
といっても解法やアプローチ、技法はごく一般的で、直線的。ただ現象や、道具立てが他で見ないくらい独特。たとえば自動販売機にカードを差し込むと、違うカードになって出てくるなど。自販機つかったカラーチェンジって、おい。
特に面白かったのは、
メガネのつると指輪のリンク現象、ぺったんこの封筒から着信音がして携帯電話が出てくる、など。今回の書き下ろし新ネタであるMoving HoleのヴァリエーションWorm Holeは、カードに開けた穴をつまみ取ってコーヒーの紙コップに押しつけると、そこからコーヒーがあふれ出すという劇的な現象。セロやBlaineがやってもおかしくない。
ただ、繰り返しになるが、解法は直線的。マジシャン相手には向かない。そういう意味ではプロットを書くこと自体がネタバレかも知れない。このへんで止めておこう。
しかし一番面白かったのは、随所に盛り込まれたお遊び。解説の書き方であったり、差し込まれる図や写真であったり、表紙から裏表紙まで貫いて、なにからなにまで下らない悪戯だらけ。実際、声を出して笑ってしまったマジック解説書なんて、今の所これ位のものである。
アイディアは面白いが、それをマジックにまで練り上げることはせずに、ぽんとそのまま放り出している感じ。また手法にはこれといって特別な物は感じなかった。終始まじめで執拗、独特な解法のTom Stoneとは好対照。
好みではなかったものの、本としては実に面白く、発想力には驚かされた。
今のところ他の本に手を出す気はないが、小物のばかばかしいトリックを集めた本が出たら考えなくはない。
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2012年5月28日月曜日
"Vortex" Tom Stone
Vortex (Tom Stone, 2010)
スウェーデンの奇才、Tom Stoneの創作集。
元々e-bookで冊子を個人出版していたのだが、そちらの頒布を停止して、本としてHermeticから出版。個人的に、幾つかかぶってしまったのもありちょっと悔しい。
そんな経緯で、紙を横に使う変わった装丁。読みづらさとかはなく、むしろ図の列びとかは見やすくて良いくらいなのだが、本棚にどう仕舞えばいいのかだけが問題。
どうにも、Tom Stoneというのはこだわりが強く、人にも自分にも厳しい人のようだ。だが彼自身、それをちゃんと認識している。自らのエゴが満足するまで追い求め、しかし同時に、客観的な視点からも検討を重ねた手順は、癖が強いものの独特で面白い。
その最たる例は、Ambidextrous Travelerの理想型を追い求めるTracking Mr.Fogg だろう。スタート地点であるJennings手順からの試行錯誤、他の人に求めた意見、その時々の正直な感想(「Travelerにデュプリケートを使う? Stephen Minchはなに馬鹿な事を言ってるんだ!」とか)、途中経過の手順について実戦と失敗などなど、そして終にMr.Foggに辿り着く。
個人的には、Mr.Foggはけっこうしんどい手順だと思う、というか、Travelerがいまいちなのだけれど、そういう事は関係無しに、その創作過程は非常に面白く、勉強にもなる。
扱う範囲は広く、クロースアップ、パーラー、ステージの区別なく、カード、コイン、ロープ、靴、スポンジボール、指輪、ボールとコーンと多岐にわたっている。
手順はどれも創作の狙いが明確にされているし、実演していないアイディアや、ノートからの抜き書き、プロブレムの提示などが随所にちりばめられ、ほんとうにどこを読んでも面白い。解説は視線の向け方や、演者の心理などもきっちり説明。
一番すごかったのはBenson Burner。
Roy Bensonの有名な手順のTom StoneによるStage版なのだが、いやはや、あの写真 http://shop.tomstone.se/、僕はてっきり宣材写真と思っていたのだが、ほんとうにこんな事になってしまうのだからたまらない。
最後にもう一つ、考えさせられたのがクレジット。
各手順のクレジットを明記するだけではなく、可能な限り原案者や権利者に連絡を取り、プロットに対してまで解説の許可を取っている。
こんなの、この本以外では見た事ない。ここまでやる必要はあるのか、と思ってしまうが、すでにそれが毒されているっていう事なのかも。
気むずかしそうな人ではあるが、こと創作においてはこだわりとエゴは大切だ。解法に癖があるので、実用する手順はそうないかも知れないが、考え方はとても勉強になった。読み物としても面白い。
オリジナルマジックを創作する人は絶対に読むべき。
ただ、直ぐにレパートリーを、って人には向かない。
Maelstromも近々手に入れようっと。
余談: Vortexも続刊のMaelstromもだが、ジャケットがどうにもイングウェイを彷彿とさせる。そういやイングウェイもスウェーデンだっけか。(参考: http://blog.livedoor.jp/ringotomomin/archives/51146198.html)
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2012年5月9日水曜日
"Act Two" Barrie Richardson

Act Two (Barrie Richardson, 2005)
Theater of the Mindの続刊。最近さらにCurtain Callという続刊が出版されて三部作になった。
メンタルマジックの本という分類ではあるが、三本ロープのプレゼンテーションや、ほどける結び目なども収録されており、中にはかなり難度の高いカードマジックなどもあるので、メンタリスト以外が読んでも楽しめるだろう。
パーラー系で、複数の観客を必要とする物が多い。
方法的には、常にシンプルで大胆。
いくつかキーとなる手法があり、様々なプロブレムの解法として繰り返し使用されている。この巻ではDr.Daleyのスイッチ(フォローザリーダーのラストに使われるアレ)と、二人の観客を使ったFishingが使用される事が多かった。
前巻同様、Hellis Switchも出番が多い。
前巻はACAANの特集があったが、この巻ではThink A Cardにスポットが当たっている。即席のPrincess Trickなど中々面白いのだが、考える事がけっこうあって僕の頭では処理が追いつかなさそう。
また純メンタリズムは個人的な体験であるほど効果的と思っているので、複数の人にカードを覚えてもらう解法が多かったのが、今ひとつぴんと来なかった原因だろうか。
カードと言えば、Fred RobinsonのDiagonal Palm Shift(のバリエーションらしきもの)も解説されており、うれしかった。
簡単な解説なので、残念ながらRobinsonのオリジナルタッチがどこなのかはわからないし、どこが重点だったのかもわからないのだが、それでもありがたい。Magic of Fred Robinsonでは、Barrie Richardsonのエッセイ内で言及されるのみで解説がなく、ずっとモヤモヤしていたのだ。
エッセイと読み比べ、どこがRobinsonのオリジナルタッチなのか考えてみるのも楽しい。
この技法を使ったCard to Pocketの手順は、スチールもポケットへのロードも、観客の視点が集中している中でゆっくり堂々と行うもので、技量と度胸とが相当必要な上級カードマジック。
演出には常に重きを置いており、詳細に解説されている。Richardsonがマジシャンではなく、マジックも使う講演者、という立場の人であるためだろう、やや話が長く、人によっては退屈な演出という印象を受けるかも知れない。
個人的には、有名なパズル(バネとリング)を使った、複数段におよぶ「ひっかけ」と人間の思考の盲点についての手順が特に面白かった。
Barrie Richardsonの手品は、面白く、シンプル。
発表者が書いている本というのは少なく、それがゆえに目新しいのかもしれない。
一方で、絶対的な不可能性や、悪魔的に巧緻な仕掛けはない。
あえて不可能性を下げている側面もある。
そういった事を考えるきっかけとしても良書。
うむ、Curtain Callも読むのが楽しみだ。
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