Studies in Deception (Aurelio Paviato, 2025)
Aurelio Paviatoは私の憧れのマジシャンのひとりです。氏がFISMで部門1位を取ったのは1982年ローザンヌ大会のことで、もう40年以上も前になります(クロースアップ部門でMichael Ammarとの同率一位)。さすがに私もリアルタイムではなく、演技はyoutubeで見ました。それも20年くらい前になるでしょうか。氏のFISMアクトは20年前の基準でも新しくはなかったし、パーツだけを見たら40年前のFISM当時でもおそらくは新しくなかった。それでも1位を取ったし、20年前の私は氏の演技に憧れました。いま見るとさすがに古い……いや、古いは古いけどやっぱりうまくないか? よければFISMアクトの動画を探してみてください。
リリースの多い人ではなく、イタリア語では本や動画もあったようなのですが、日本語ではこれまでノートが一冊あった程度。英語でも同じような状況だったようです。それが今回、とうとうしっかり本が出ました。うれしい。Hermetic Pressから、240ページで、前半は単体手順、後半はFISMアクトの解説となっています。
PaviatoのFISMアクトは、当時(40年前はもちろん20年前もまだ)人口に膾炙していなかったAscanioの理論やTamarizの手管をさりげなく取り込んだものになっています。Paviato独自の点で言うと、手順間の接続が特異的に上手い。そのあたりの考えをずっと知りたいと思っていました。そして本書はStudies(研究)と銘打たれており、個々のトリックもStudies of XX(XXの研究)の副題がついています。……しかし、そこまで分析的な内容ではなかったなというのが正直なところ。カードの選ばせ方や台詞の意図など、全体を通してかなり詳しい解説がされていることは間違いないのですが……。
手順はすべてスタンドアップのパーラー手順。その多くでテーブルも必要になる。特に前半は、実質パスだけで構成されたEverywhere Nowhere、スリービングを駆使するカードアクロスなどなど、クラシック味のあふれる力強いカード手順オンリーとなっています。スタンダップでないと使えない策略も多く、やや限定的な内容。
後半はFISMアクトのブラッシュアップ版。大きな変更は無く、より実用的になっています。この手順の印象からPaviatoはコインが上手いイメージがあったんですが、本書でコインを使うのはこのFISMアクトだけです。焦点のずらし方からスリービングのカバーまで詳しく解説されている。ただ個人的にはもっと抽象度の高いレベルの話もしてほしかった。
スタンドアップで、カードで、パームやパーム・トランスファーを駆使する手品が好きなら特におすすめです。後半も、FISMアクトの文字解説が読みたいなら買いましょう。ただ、Penguin Liveでだいたい同じ内容をやったようで、そうすると本書の意義は大きく薄れているかもしれません。