2020年12月29日火曜日

“Distilled” Ryan Plunkett

Distilled (Ryan Plunkett, 2020)


Ryan Plunkettのプロフェッショナルなクロースアップ作品集。10作品。

最近Vanishing Inc.が凄まじい勢いで本格的な内容のハードカバーを出していて、ありがたい反面、ちょっと重いなーと思うところもありまして、本書もおっかなびっくり買ったのですが、紙が厚く文字が大きく、堅苦しい理論もなくって、良い意味でサクサク読める本でした。恐れず買ってください。

PlunkettはNew Angleという本で、かなり挑戦的で、しかし上手くまとまった手順を発表していて動向を気にしていました。あちらが実験的だったのに対し、本書はプロ向き手順。しっかりしたハンドリングと演出があり、見栄えが良く、難所がない。一方でしかし、カードに複数種類のマーキングを施したり、カンニングペーパーを用意したりと、頭の古いマニア(私)からすると解決にちょっと楽しみが少ないです。あくまで例えですが、ブレイクひとつを省いてフェアさを上げるために、ギミックデックを導入する感じ。またギミックも、派手さのためではなく、あくまで既存プロットの粗や気配を殺すために使う。このあたりは何というか現代的な感じもしますね。

収録作は10で、カードの他にコインの手順とお札の手順があります。個人的に面白かったのはOut of sight, out of mindの改案と、ハンカチを貫通するカードの改案で、クラシックなプロットそのままに、どれだけフェアさを上げられるかという面白い内容でした。確かに本格的なショーで演じるならこうするかもしれません。それから有名(?)な錯覚を利用したバニシング・デックの手順があり、これは非常に面白いです。3つのケースのうちひとつにだけデックが入っているのですが、空きケースと重ねていくごとに観客の手の中でどんどん軽くなっていき、見ると全てのケースが空になっている。そのあと再びデックが出現する。これだけのために本書を買ってもいいくらいですね。私はこの錯覚をちゃんと読んだことがなかったので、これだけで十分に元が取れました。

ともかく。ほとんど全ての手順でギミックやそれに類するものを使うので、そういうのが駄目だったら全く駄目です。プロフェッショナルな細部へのこだわり、手順をパフォーマンス・ピースに近づけるための工夫や気配の消し方を学びたければ本書、いやもっと挑戦的で刺激になるアイディアが読みたいのだ、というのであれば題材は限定されますがNew Angleがおすすめです。