2012年10月25日木曜日
"Curtain Call" Barrie Richardson
Curtain Call (Barrie Richardson, 2012)
Theater of the Mind, Act Twoから続く三部作の掉尾。カーテンコールの名に相応しい最後の挨拶。
近年で最も重要なメンタリズム・クリエイターの一人に挙げられるBarrie Richardsonの最新作にして、おそらくは最終作。
クリエイター的なおもしろさ、作品に使われる原理や技法という点では、前二作に劣るかも知れないが、単純に実用度・練度から見ると最も充実していると思う。
以前も書いたが、メンタリズムにおける「過剰な不可能性」を削いだのがRichardsonの大きな特色と考えていて、それはこの巻でも変わらない。シンプルなメソッド、不可能すぎない現象、充実したプレゼンテーションの解説。いわゆるメンタリスト然としたキャラクタを作らなくても、メンタリズムは演じられるのだなあと思えて嬉しい所である。
以前の2巻を踏襲しているが、いくつか異なっている点もある。
特に、今回はキーとなる技法・解法が存在しない。前2巻はいくつかの解法に則って創作が行われている印象だったが、今回は特にそういった感じはうけなかった。Richardson手順の難易度を上げているHellis Swichも無くて個人的にはありがたい。
また他の人の技法解説も多め。あまり手品の本を持っていない、と以前の巻にあったとおり、これまではクラシックを基にしたものが多かったのだが、本作では比較的新しめだったりマニアックだったりな作品の流用も見られる。
Allen ZinggのZingg Switchが解説されているし、Happy Peekはどの程度までかは知らないがAlain BellonのPeekをベースにしているという。このBellonのPeekは革装100部限定というとんでもなくレアなObsidian Obliqueに掲載されているらしいが、さすがにビレットピークにこんな金額、僕は出せないのでここで読めて良かった。またこのObsidian Oblique Peekはこれまたお高いAcidus Novus Peekのバリエーションらしいがメンタル、特にビレット周りは詳しくないので詳細は不明。
フルアクトの解説あり、と書いてあって大いに期待したのだが、実際にはアクトの中で用いられる手順それぞれの解説であり、つなぎ部分などを含めた物ではなかったのが少し残念。しかし収録作にはおおむね満足。
全体的に新規性や独創性はあまり感じないものの、これぞ彼の”決定版”なのだろうなあという、演じやすくクリアな手順が目白押し。CurryのBookTestのちょっとしたバリエーション(演者が紙面を見るタイミングが全くないように見える)や、嫌みの無い生者と死者のテスト、完全に混ぜられたデックを4人それぞれに1/4程度ずつ渡したあと、誰が何のカードを持っているか完全に覚えきるメモライズデモなどなど。
個人的には特に以下の2手順について、レパートリーへの編入を検討している。
Spoo-Key
三段階からなるホーンテッド・キー。握った手の中で回転、握った手から突き出してくる、そして最後に完全に開いた手の上でゆっくりと転がる。また各段で、そのまま相手に鍵を取り上げて貰えたり、相手の手に落とせたりと非常にクリア。
少なくとも文章で読んだ限りでは、一つの瑕疵もみえないホンモノの現象。やや古めかしいギミックを使うので、国内では手に入らないかも知れない。とりあえず海外の老舗に注文してみようと思います。
Impromptu Card at Any Number
単品販売もされていたらしいCAAN。
掲題の通りあくまでCAANで、配るのもマジシャン。決してACAANではない。が、しかしBerglas Effectの模倣という意味では極めて高いレベルにあると思う。
手法は非常に古典的で、このジャンルをちょっとでも調べた人なら誰でも知っているような物。新奇性という意味では全くもって肩すかしなのだが、技法の選択や条件設定によって非常に不思議に仕上がっている。
”自由に決めたカードが、自由に決めた枚数目から出てくる。マジシャンは何もしていないにも関わらず”
という現象を、怪しいところがなく、それでいて異常な技能もややこしい準備も一切必要とせずに達成しており、実用的にはほとんど最高の解と思う。
また、同一手順についてクロースアップ版とステージ版とが解説されている。手法は全く一緒だが、必要とされるミスディレクションの大きさの違いなどがプレゼンで調整されていて、これもいい勉強になった。
もうひとつ、いわゆるビレットや窓つき封筒のような紙物が非常に充実していた。ピークやスイッチの種類も多かったのだが、技法ではなく手順の話。
紙ひとつの簡単なもの、やや発展した紙ふたつでワンアヘッド使用のもの、発展的な手順といった風に、順に作例があげられていて、自分のような初心者には非常に親切。
情報をいったん紙に書く系統はあまり不思議にも思えず、これまで触ってこなかったのだが、ここで解説される手順はどれもRichardsonらしく、現実に有り得ていい不思議としてまとまっており珍しく食指が動いた。
もちろん不可能性が高いのもある。A Dessert and First Loveは、現象の説明を読みながらいったいどこでスイッチやピークが行われたのか全く判らず困惑してしまった。Bruce Bernstein、Bob Cassidyの手順の改案らしいが、あえてビレットに注目を集める構成は非常に面白いと同時に、フェアでもあると思う。
演出次第とは言え、書かせて直ぐに破るような手順は、やっぱりどうにもね……。
いかん、まとまりが無くなってきた。ともかく、不可能性・新奇性には欠けるが、まことに実用的なメンタリズムの本として非常に面白かった。
愛妻に「77歳の男が次の世代に隠し事をしていてどうします」と怒られたとかで、ますます筆致は軽く、惜しみない。本書で明かされたのは、実際、何年とRichardsonのレパートリーであった作品達なのだろう。
さて、勝手に三部作にしてしまったが、ひょっとしたらまだ次も来るかも知れない。Act Twoの時点で「もう出す物は全部出したよ」と仰ったらしいが、その後でこのCurtain Call だものな。個人的にはメンタルの教科書なんかを書いて欲しいのだけれど。
さらなる作品を密かに期待しつつも、ひとまずはRichardsonの三部作完結を祝いたい。
んで、いくつかの作品を身につけ、人に見せることでつないで行けたらなあと、
書斎派らしからぬ事を考えたりもした。
メンタルの醍醐味とも言える悪魔的な巧緻さはないが、それでも間違いなく、メンタリズムの一つの記念碑と思う。
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妻とのエピソード面白いですね!3部作は、さらっと眺めただけだったので、見落としていました。こういう紹介がうれしいです。読み直してみます。
返信削除Richardsonの本、作品自体も良いのですが、いろいろなエピソードが挟まれるのも好きです。特に他のマジシャンの演技の描写は実に不思議そう。エッセイなので基本的に「不思議だったー」で終わりなのですが、たまーに解決・解析が示されていることもあり、そういうのは実に凄まじいです。Act TwoのHoy。Curtain Callだと、Stranger's Trickがそうですね。
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