2012年6月9日土曜日
自発性(観客)に関する小さな覚え書き
J.C. Wagnerの7 Secrets に収録されているAce-Two-Three-Fourという作品で気に入った箇所があったのだが、本記事の流れでは何となく書きづらかったので別枠で紹介。
この作品は小枚数でやるアンビシャスカード、いわゆるAmbitiou Classicというやつ。
個人的にはあまり好きなプロットではなく、(と言い出したら殆どのプロットは嫌いなのだが)特にアンビシャスクラシックはオチが今ひとつ整合が取れておらず、それをカバーする台詞も思い浮かばなくて、据わりが悪い。
自らを自明の窮地に追い込みつつ、効果的なエンディングがないという印象で、Wagnerの作品についてもその点は同じ。
じゃあ何が気に入ったかというと、3枚目。本記事の方ではそこで使われるMarloの技法について簡単に書いたが、ここではそれが使われる文脈に注目する。
というのは、それが実に効果的な”ひっかけ”だからだ。
2が上がってきた後、それをテーブルに捨てる。
次は3、と言いながらトップカードを”表を見せずに”ボトムに入れる。
『いや、ちゃんと3を底に入れたからね?』とここでMarloの技法を使ってボトムの3を見せるのだが、このタイミングと構成が妙。
というのも、このとき見ている人は”本当に3を底に入れたか?”という疑問をほとんど”自発的に”抱かざるを得ない。
しかもそれは演者がどうこう言ったり示したりするのよりも先行する。
そこに続く演者の動作、特にMarloの技法は、実にタイミング良く観客の疑問を解消する形になっていて、いわゆる”途中の動作”化していると同時に、緊張と緩和のコントロールにもなっている。
んで、これの逆が何かというと、例えばMaxi Twist系。
『こんな事が出来るのは実は5枚のカードを使っているから』
などと、別にこちらが疑問にも思っていない事を、マジシャンは突然言い出す。この台詞自体は観客にとって殆ど意味を持たない。マジシャンの都合だけで言われている台詞だ。
無論、ちゃんと演技に組み込めていればいいのだけれど、ただ台本を読むみたいに上記の台詞を言っちまうと、観客のメンタリティとしては置いてきぼりだなと思う。
こういう意味のない台詞の氾濫が、マジックのパフォーマンスとしての地位を貶めている。
そのへん、Wagnerのこの手順は実にうまいメンタル・フックが仕込んであると思う。
「現象のための動作」を、先にひっかけを掛ける事で、あたかも観客のリクエストで行った動作のように見せかける。
また、観客を食いつかせるという意味でも良い戦略。お客さんが”ただ見てるだけ”の客体としてしまうのはあまり好ましくないだろう
ちなみに、個人的にこの類のフックの最高峰はAscanio演じる、Ross BertramのAssembly。あれには気持ちよくだまされたなー。
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