2012年11月13日火曜日

"The Amazing Sally Volume 1 佐藤喜義作品集" 佐藤大輔






The Amazing Sally 1(佐藤大輔,  2012)




買いました。アンダーグラウンドの創作家、佐藤喜義の作品集第1巻。選りすぐりの15作品を解説。

カード14、コイン1、まあ作品内訳はべつにいいでしょう、ショップとかで見られるし。


紹介文で、”独自の世界観を形成している”というような記述が有りましたが、そのとば口として非常に考えられて構成された本であるなと思いました。

まず収録作が極めて少ない。創作家の作品集というと普通、JenningsしかりHartmanしかりWaltonしかり、とかく大ボリュームですが、実質、玉石混淆の状態になりがちです。その点、本書は点数こそ少ない物の、それぞれが、あるプロット、あるテーマ、ある仕掛けについて極限までバージョンアップさせた物になっていて、おまえこれ昨日思いついたんじゃねーのかと文句を付けたくなるような品は一品もない。どの作品も非常に深くまで作り込まれていて噛むほどに味がある。
ほとんど同一のハンドリングの作品もあったのですが、それはそれで、バリエーション毎に見え方が全く違っていて、改案手法などを考えさせられる物ばかりでした。


解説の筆を執るのはご当人ではないのですが、それが良い方に作用しており、微妙な箇所には突っ込みなり補足なりが入っていてわかりやすい。またクレジットも文句なしに詳細でした(※)。邦訳がある物は原著・邦訳版が併記されていて実に親切。


ただ、作品は、あくまで「トリック」と割り切られている印象。作品レベルはめちゃくちゃ高く、やっていて面白いし、マジックの友人を引っ掛けるには間違いなく即戦力で申し分ないのですが、一般の人に対して上手く見せるには難しい所も多いと思います。
夕暮れのステラが良い例ですが、「AとQが入れ替わる、重ねると表裏交互に混ざる、交互になったペアはマークが揃っている、さらにQの裏色が変わっている」。正直なところこれをどう演じれば良いのやら僕レベルの演技力では手が出ません。単なるびっくり箱にしかならない。

もちろん、不要であれば、演出力が追いつくところまで現象を削れば良いのですし、逆にこういう可能性を示してもらっているので、例えばトリネタにステラではなく、ステラの後にQの裏に「おしまい」の文字を出すというようなアレンジも可能なのでむしろ有り難くはあります。

ただ技法云々とは別のところで、初心者向きでは無いなーと思いました。
BannonのTwisted Sistersのような難しさと言ったら通じるだろうか?


噂のタウンゼント・カウントはカウントというよりディスプレイに近いモノを感じました。2回カウントせずともラフに両面見せられるのも良く、堅苦しいパケットトリックが急に軽やかになる印象。
現象面での効果も凄かったです。一読では見逃してしまいそうなカウントであり、実際カウント事典で読んだはずが全く覚えていないんですが、たった一面の差がここまで利くかと驚きました。
特にブラック・ポーカーは、自分でも不思議。他と違い変化が連続体であるというか、現実が歪むような感覚。普段なら扱いに困るギャンブル系ですが、裏色変化とは非常に相性が良いので、ElmsleyのA Strange Storyなど参考にしつつレパートリーに入れようかなーと考えています。


このカウントは、今まであまり活躍の場もなかったようですが、ここで可能性が示されたことで一気に流行るかも知れません。その際は皆様、どうかスピリットカウントのことも忘れないであげてください。
同書では触れられていませんが、スピリットカウントもタウンゼントと類似の面構成であり、よりカウント色の高い技法。互換性は高いと思います。ミッドナイト・スローモーションなどは、最初はスピリットでもよいかもなあと思ったり思わなかったり。この2種のカウントは最近読んだブランク (タナカヒロキ)などでも活きそうです。というかブランク はマイナー技法を使わないという縛りがあったようなので、ご本人は使っているのかもしれません。


対談も非常に面白かったです。御本人の口調を忠実に再現しているらしく、実にざっくばらんで、お人柄が伝わるような気がしました。



ともあれ。
確かに異世界の片鱗を見ました。自分のように家から出ないタイプの人間だと、なかなか触れる機会もないもので、書籍化は実にありがたかったです。


なおVolume.1と有りますが、今回の売れ行き次第で続刊も、とのこと。市場規模が小さいのでたくさん出すのは大変と思いますが、ソフトカバーでもいいので続刊希望。特に、インタビューなど読むと「俺は元々コインマンだったんだよ」との事なのでコイン比重が高いのがいいなあ。

いやーしかし面白かった。佐藤総、こざわまさゆき、そして東京堂からは澤浩(予定)と個性的な作品集が上梓されている昨今、この勢いが続くことを願います。Sally 続刊が怖い。ついでに、タナカヒロキ作品集とかアフェクションズ合本とかも怖い。怖い怖い。



※Jack-robats(J.J.J.J.Card Routine, 1985)はJACKROBATS(Deckade,1983)とは別ハンドリングなのでしょうか? 前者持ってないので何とも言えませんが。

6 件のコメント:

  1. 毎月例会で佐藤さんに、見せて頂くのですが、、これで終わるはず無いと思いながら、さらに最後のどんでん返しにいつもびっくりしています。
    大輔さんは、英語が堪能で博識なので、続刊の他にも本をどんどん書いてくれないかなと思っています。

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  2. 演技を見ずに解説から、というもったいない状況ですが、これだけ色々隠れているにも関わらず、実際やってみると全然見えなくてびっくりします。ハンドリングも決して無理矢理ではないですし。

    大輔さん:MMLブログの「今月の洋書」がもっと頻繁に更新されていたら、当ブログは存在価値を失っていたところです。やたらマニアックな古書が上げられていたりして、羨望の目で眺めたものでした。
    Amazing Sallyでは、解説も非常にうまかったので、確かに、もっと本を出してくれーっと思います。

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  3. J.J.J.J.は、Jolly Double Shock, Jacob Daley's Last Trick , Japanese Aces(二川), Jack-Robat(デビット・ブリットランド)の4つの作品をダブルバックカードを使って続けて行うように二川先生が組んだものです。ダブルバックカードでつなごう、奇術の輪ッ!という感じだそうです。

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  4. 一見同名だけれど、ダブルバックを使うバリエーションなのだろうか。ともあれ面白そうな本ですねそれも。

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  5. はじめまして、monthly Magic Lessonの佐藤です。拙著を取り上げていただいてありがとうございます。好意的なレビューで大変うれしいです。

    "Jackrobats"については、当時ネット上でリサーチしたのですが、やり方が悪かったみたいで原典を見つけきれませんでした。「DECKADE」を買って2つを比較してみたいと思います。

    とりあえず「The Amazing Sally」が一段落したら、他のことにも挑戦してみたいなと思ってますが、おそらくまだだいぶ先の話ですね。

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  6. 初めまして。佐藤(大)さんですか!
    著者の方からコメントとはなんとも、拙文お恥ずかしい限りです。
    A-Sally、非常に面白かったので、続刊も是非にお願いいたします。初めて触れる佐藤喜義作品も当然すばらしかったのですが、それに加えて、面白い本が出ること自体が、高い賦活効果を持っていると思います。佐藤喜義作品の伝道に留まらぬ仕事と思います。
    東京堂からは沢さんや宮中さんの本も出ると仄聞しましたし、佐藤(大)さんの次巻も含め、今後の展開が楽しみです。

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