2012年9月25日火曜日

"Moe's Miracles" Dodson(?)




Moe's Miracles (Dodson?, 1950?)


Moeと言えば、スタック系が好きな人だとMove A Card Trickで名前を知っていると思う。逆にそれ以外では名前を全く見たことが無かったので、Lybraryで本書をみつけて興味を引かれついつい購入してしまった。


後で判ったのだが、これがなかなか問題のある冊子であった。Moeのウェブページ(http://www.moesmagic.com/)によれば、この$5 冊子は1932年にFrank Laneと話が持ち上がったものの、結局発表を拒んだものらしい。その後、何人かの手によって勝手に出版され、いくつかのバージョンが海賊版的に出回ったとかで、当人は手に取ったこともないのだそうだ。なお、Lybrary版もどこから引っ張ってきたのか書かれていない。Dodsonなる人物の追加手順が載っているので、1950頃に発行されたらしいDodson版であろうと思われる。


で、内容だがこれがまたいろいろな意味で酷い。
11の手順が解説されているのだが、表紙以外はTextで打ち直したらしくて味も素っ気もなく、1ページあたりA4で8~10行程度、下2/3は完全に余白×11pという構成で、電子書籍じゃなかったらあまりの余白量に訴えても良いレベル。

トリックの方はというとこれはもう完全にマニア殺しであり、手品の歴史の中で完全に『死んでしまった』手法を用いたロケーション・オンリー。というかあまりにも無茶で、解説まちがっとるんちゃうかと疑心が生ずる。
というか、実際、間違ってるかもしれない。
Moe自身が書いた物の他に、同じタイトル同じ収録作ながら方法はFrank Lane が創作した物があるとかなんとか。しかしその証言をするMoeはもう92歳だし信憑性はどこまであるのか。僕の英語力ではちゃんと読み切れないので詳細は前掲URL内の記事を参照してください。誰か簡単にまとめて教えてくれ。


それでまあ一応読みましたが、理屈としてはぎりぎり理解できなくはないのだが、実現できるかというと……。ただ、前述のMoeが手順の発表を拒んだ理由が『自分にしか出来ないような手順を発表して、非難されても嫌』というのだから、この解説も当たらずとも遠からずなのかも。

手法についてキーワードを上げると、シークレットカウント、エスティメーション、複数枚キーカード、直感、借りたデック、演技者はデックに触らない、などなど。これだけでMoeの嗜好が判ろうというもの。またスタック関連の文献で名前を見ることが多かったが、ここでの作品は全て、デックを借りて即席にできるものであり、そういう意味でもマニア殺しを指向しているように思う。

十数枚、場合によっては26枚とかからPumpingで絞っていくとかいう物も多く正直まともに出来る気はしないです。

特に酷かったのは ↓
Moe's Fifteen Cards Trick
・15枚のカードを抜き出して表向きに広げ、5人の客に1枚ずつ心の中で決めて貰う。直感的に、選ばれてなさそうだと思った物を裏返していく。システム、バックアップ、無し。以上。

うーん……。



まとめ。
CanastaやBerglasを彷彿とさせつつ、それらよりさらにぶっ飛んでいる。
どれか一つでも、70%ぐらいの精度ででも出来たら凄いとは思うのだが、難しいうえに、どれだけ練習しても100%にはならない類のトリックばかりなのだよなあ。

ただ、例えばDaOrtizが怖ろしく不格好な原理をとびきりの不思議に仕立て上げ、マニアを煙に巻いているように、この本は完全に『時代遅れ』で『死んでしまった枝』だからこそ、再読の意味はあるやもしれぬ。特に、Outを自前で調達できるJazz 系、Trick that cannot be explainedが演じられる人は。
最初に解説されている”Look at a Card trick”は比較的安全そう(VernonのLook upと同系統だがより楽かと思う)なので、少しずつ練習してみようかな。


なお、Moe自身は、ほぼ全てのトリックを、エスティメーションと超人的な記憶力を複合して、様々な方法で演じていたらしい。


Moeは1920年後半~1930年に、IBM、SAMの大会に現れ、不可能きわまりないロケーションで数々のマニアを煙に巻き、姿を消した。
97年に消息が確かめられ、2001年のLinking Ling誌の表紙を飾る。そのころに開設されたとおぼしきWebサイトには、『いわゆるMoeの不可能が、実際はいかにして成されたか、少しずつ本当の秘密を明かしていきたいと思う』とあるが、残念ながらMoeは秘密のほとんどを抱いたままに、2003年、94歳で没した。

9 件のコメント:

  1. よくこれを取り上げてくれましたね、、。もっと早く知りたかった。
    伝説の秘密を知りたくて、容易に手に入るこれを買って、あまりに簡単な記述に私もビックリしました。
    結局、古本でWilliam P.Miesel on MOE and His Miracles with Cardsを手に入れたんですが、、演じるには難しくて、届いたころには、熱も冷めてしまい、ちょっと読んで積読状態になっています。
    今後もおもしろい論評を楽しみにしています!
     

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  2. いくともさんの蔵書量がおかしい。まさかこんな冊子までぶつかるとは(笑) 個人的にはいろいろ気に掛かる所もあったので、Miesel他の方も読んでみたくはあるのですが、そちらはまともな内容なのでしょうか? 今や稀覯本(?)なのかざっと見ても見付からないのですよね。

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  3. Mieselの本は、まともな内容の本です。全58ページですが、余白は全くなく、読みごたえ十分にあります(笑)。前半がMoeのマジックの解説で、後半はJeff BusbyとHoward Lyonsによるコメントや余談が写真つきで書かれています。スパイラルバウンドの本で1986年のsecond editionで500部限定となっているようです。何度かネットで検索していたら、たまたま見つけて買いました。友人のSさんも持っていたので、時々市場に出回る様です。この本は30$ぐらいで手に入ったと思いますが、、Hectorの本は14830円もかかってしまいました。送料とポンドの換算を気にしていなかったら、カードの引き落としで、びっくりしました。



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  4. 500部ですかぁ。大変そうだなあ。MMofD.Berglasのように高騰していないのだけが幸いです。いくともさんはCrimpとかも持ってそうで怖いです。一度読んでみたいのですが、あれもまた色々な事情で手に入りにくいですよね。

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  5. MM of BerglasもCrimpも私は、持っていません。Berglas Effectsは、積んだままですけど、、。私の中では、ACAANは、John BornのMeant to Beで完結したと思っています。ACAANの定義から書かれていて、一番フェアだと思います。最近もどんどん氾濫していますが、イマイチと感じています。もっとも、ACAANは、マニアの友人に何度か見てもらっただけで、頭の練習していないとすぐ出来なくなるし、普通の人には、労力の割にはAny Numberと効果はあまり変わらない気がしています。でも、、やはり新しい何かがあるのかと追ってしまうんですが、、。


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  6. Crimpはさすがにないですか。こういう言い方もどうかとは思いますが不思議と少し安心しました。
    ACAAN、Bornの物は実は詳細をよく知らないです。いずれにせよ、現象の本質を理解していない、単にプロット・プロブレムを成立させただけという作品は概して駄作ですね。OPでやらかした僕の言えたことではありませんが。

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  7. Bornの作品では、カードケースからデックを出したら、お客さんにデックを渡して、お客さんに配ってもらいます。

    やはりOP projectに載っていた作品と技法はhirokadaさんのでしたか、、。
    Kyotoだし名前もモノグラムと思えば、同一人物でまちがいないとは思っていたんですが、、尊敬します。

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  8. MOEって誰だっけ?と思っていましたが、モリス・サイデンスタインなんですね。
    若干、興味あるかも。
    いや、マニア殺しのロケーションだったら、やっぱいらないか^^;

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  9. お久しぶりです。今年はKIT来られないそうで……残念。

    内容は酷いんですが、根性有るなら、アイディア集としては面白いと思います。と言っても”何かを解決する良い方法”ではないんですが。

    僕はむしろ、モリス・サイデンスタインっていう名前にはピンと来なかったのですが、今調べたらカードマジック入門事典に出てるんですね。持ってないんですよ入門事典ー。

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