2025年5月20日火曜日

"Clair Obscur" Geoffrey Cheminot

Clair Obscur (Geoffrey Cheminot, 2025)

Geoffrey Cheminotはフランスのマジシャン。とはいえ情報化が進み、ウェブミーティングも一般的になった今、国で括る意味は大分薄れているだろう。かわりに幾人かの著名マジシャンがサブスクリプションやプラットフォームを駆使してコミュニティを形成しており、本書はまさにそのひとつ、Benjamin Earlの系列である。でかくて写真が山ほどあり、雰囲気たっぷりのかっこいい本で、手順もかなりBenjamin Earl的であった。※

カード6作、コイン1作の7手順。This is not a BoxInside Outの間ぐらいの感触と言えばEarlファンにはわかりよいだろうか。自然体なハンドリングと、観客の体験に軸を置いた構築で、観客がその体験自体を疑ってしまうような幻惑感を狙っている。素面でやるにはちょっと劇場的すぎる演出もあるが、著者の言う通り「夜なら成立する」かもしれない。

手法面では、技法ぶち抜きもありつつも、状況を整理する流れの中でデックを処理し、現象の純度を上げる工夫は上手い。Ace Assemblyを観客体験型に変える工夫も、ちょっと怖いけどハマればすごそう。

技術的に簡単ではないし、雰囲気作りがかなり重要なこともあって難度は高めだが、これが出てくるならEarlのコミュニティもひとまず成功と言っていいんじゃないかしら。Earlの新刊と言われても信じちゃうかもしれないし、なんなら近年のEarlスタイル手品の本として、Earl自身の本よりおすすめかも。

また氏はTorn and Restored Cardが好きだそうで、最後に収録されているReformation型Torn and Restored Cardだけが妙にオタク手品なのも人間味を感じられてよかったです。Earlスタイルを踏襲しつつも、今後は独特の発展をして行ってくれそうだ。


※Ben Earl的って何さという話だけれども、マジックにおける不自然さ(演者からすれば不自由さ)は技法という「定まった動き」を挿入せざるを得ないことに原因があり、その解消を目論む流れの中で、たとえばDaniが乱雑なスタイルを用い、Helderが技法の丁寧な分解をしている中で、Ben Earlは技法をなるべく一点に集中させることで自由な領域を確保しようとしているように思う。結果的には先祖返りの感もあるのだが、その是非はおいておくとして。

0 件のコメント:

コメントを投稿