2023年11月16日木曜日

"I was kidnapped" Tony Chang

I was kidnapped, Left in Taiwan, And all I got were those notes (Tony Chang, 2013, 2023)


現代トップクラスのカード・テクニシャンTony Changの数少ない文献。「誘拐されて、気付いたら台湾に置き去り。所持品はこのレクチャーノートの束だけ」とうタイトルからすると、たぶん2013年に台湾でレクチャーしたときのものなんでしょう。Ben EarlのStudio 52から、Cards and Coffeeというイベントに合わせて10周年記念版として再版されました(が、また売り切れてしまったようです)。

Tony Changといえば、気配の無い超絶テクニックに根ざした、カメラトリックと見まごうビジュアルな現象で著名です。その作品を『文章』で読むことに果たして意味はあるのか……というのがまず浮かぶ疑問でしょうが、本書はこれまた現代トップクラスの手品マニアであるTyler Wilsonが筆を執っており、そのために最高の仕上がりになっています。技法の気配を消すための細やかな工夫から、観客の意識を誤誘導するための手順構築、底に流れる哲学まで、それが知りたかったのだという秘密が子細に言語化されています。

カードの技法2つ、カードの現象3つに、インビジブルスレッドを使った手順が1つ解説されています。技法はコントロール関係2つ、現象は、カード当てに擬態した複数枚の変化、デックバニッシュ、挑戦的なオフバランス・トランスポ。どれも『やり方』だけを読んだらイマイチに感じそうなところ、狙いや企みがしっかり記述されていることで、真意がよくわかります。インビジブルスレッドの手順は『ストローが念動で飛び上がる』という、え、Tony Changこういう手順もやるの?ってヤツなのですが、素材が単純な分、気配を消すための理論や、細やかな伏線の貼り方がより顕著に表れていて、大変タメになりました。

非常に良く書かれたノートです。Tony Changというと、どうしても技法のうまさに目が行きますが、見えない技法も、『目を疑うような鮮やかな現象』も、観客の意表を突くからこそ成立するのであり、そのために観客の意識のコントロールに心を砕いていることも改めて認識できました。トップカーディシャンの技巧も思考も追える傑作ノートなので、機会があったら是非とも入手してください。

あとTyler WilsonはもっとTonyの手順を解説してくれ。あとこの辺の超絶技巧マン達の解説も全部やってくれ。お願いだから。

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