2015年10月29日木曜日

"Open Prediction Project" Thomas Baxter 編





Open Prediction Project (Thomas Baxter 編, 2008, 2010)



Magic Cafe発、Open Predictionのオムニバス。
私が読んだのは最初に出たe-book版だが、右写真のような単行本にもまとまっている。異同はしらない。

最近日本の某ショップがこれに和訳を付けて販売するとか聞いたので、途中で放り出していた記事をあわててまとめている。
悪い事は言わない。ここには(ほとんど)何もない。やめておきなさい。

なお公正のために先に言っておくと、この本には私がむかし考えた手順も入っており、だから私の発言にはいろいろのバイアスが掛かっているかもしれない。



Open Predictionは、ACAAN程ではないにしろ有名なプロブレムで、発案はPaul Curry。Berglasのそれと違ってプロブレムが先行している。つまり、

「予言を先に開示した状態で、相手が選んだカードが予言と一致する」

オープンな予言というのはそういう意味だ。なお本来のCurryのプロブレムでは、観客が裏向きデックからカードを1枚ずつ表向きに配っていき、好きなところで1枚だけ裏向きのまま別に配り、残りを最後まで表向きで配っていく。表向きの中に予言されたカードはなく、裏向きのカードを見てみると、……というものなのだが、本書ではそこまでプロブレムを限定してはいない。

またこのプロットの発展型として、Stewart Jamesによる51 Faces Northというのがある。
これはOpen Predictionの制限をより厳格化した18の条項から成るものだが、全部書き出すのは面倒だ。言ってしまえば、借りたデックで、相手が混ぜて、演者は触らないで……といったOPの究極版である。

これら『オープンな予言』というプロットは、直接的には「予言側のスイッチ」という解決策を制限しているのだが、先ほどのCurryの現象描写を見れば分かるとおり、それだけに留まらない。――はずなのだが……。



Thomas Baxterというカナダのメンタリストが発起人で、彼はこのプロブレム(しかも51 FNの方)に対する完璧と言っていい解を作り上げたらしい。しかしそのDianoetic Rageという手順は本書には納められていない(他でも発表もされていない)。その彼がMagic CafeにてOpen Predictionを、51 Faces Northに因んで51作品募って電子出版した。その後、同スレッドで投票が行われ、1位の作者には$1000払われた。

勝者のお遊びというか掌の上というかそういう気がしないでもない。


さて肝心の内容だがこれがまー酷い。本当に酷い。
それはそうだ、ネットを徘徊する名も無きアマチュア・マジシャンから幾ら募ったところでこの程度だろう。『オープンな予言』というプロブレムは、技術的には「予言をスイッチしない」という事でしかない。そしてそのような変更を許容する手順は、既存の予言トリックや一致トリックにもたくさんある。ただそれらの手順で予言を表向きにする事が効果的かどうかは別の話であり、考え無しに『オープン化』すればいいものではない。当たり前の話だ。

当たり前の話なのだが、しかし、本書の多くの作品は手法的・制約的な面にのみフォーカスしており、現象面を全く無視している。結果として、非常に浅く、不格好で、意味のない作品ばかりになってしまっている。

それでもまともなフィルタリングが出来ていれば話は別なのだろうが、今回は「51FNにかけて51作品」という趣向を打ち出し、それを優先したがために、作品の質は二次的なものになっている。もちろん50以上もあれば、面白い作品のひとつやふたつ、ないわけでもない。無名マニアばかりではなく、私の好きなQuinnやChadwickの提供した作品もある。だが全体的な質の低さはいかんともしがたい。


繰り返すがここには見るべきものはほとんどない。フィルタリングがほとんど機能していないのだから当然だ。マジックのイベントで、いきあたった全てのひとから『オリジナルの』Aアセンブリを見せられるようなものだ。もちろんひとりふたり上手い人や、非凡なアイディアをもった人はいるだろう。だが大半はうんざりするほど似通っているか、思慮の浅いものだ。


ただ、私自身について言うなら、この本を読んで非常に良かったと思っている。こうして書き連ねているように、絶望的にフラストレーションがたまった結果、違う、こんなものはOPじゃないという気持ちが高まり、自分の考えている『OPという現象』の輪郭が明確化された。その効果は非常に大きい。


よほどの物好きにしかお勧めしない。

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