2013年5月12日日曜日
"The Art of Astonishment Volume.1" Paul Harris
The Art of Astonishment Volume.1 (Paul Harris, 1996)
天才 Paul Harris の三巻組全集、巻の一。
もう大変に素晴らしく、面白かったです。
特に、これは書籍で読むのがベストと思います。
原案者の演技もDVD Stars of Magicで見ていましたが、Harris自身はパフォーマーとして決して卓越してはいなかった事、及び、やはり”タネ”を探してみてしまい驚きが減ずる事から、そこまで感銘を受けなかったように記憶しています。
しかし書籍で読むと、彼の目論んだ現象が、ほとんどそのままに頭の中で展開されて、さすがに”驚き”はできないものの、プロットのツイストに、現象の鮮やかさに、感嘆しきりでした。
この頭に鮮やかに浮かぶ、という点がHarris作品の特徴と思います。
奇矯なプロットというイメージが強いですが、これまでのプロットや手法から外れているというだけで、現象そのものは実にダイレクト。予想はできないかもしれないけど、起こった時にはほとんど直観的に受け止められる、だからこそのAstonishmentなのだと思います。
そういった現象は、そのものが魅惑的でもあります。
例えばCard Split現象のLas Vegas Split。昔はそこまで好きでもなかったのですが、いま改めて、ビデオのような遠視点ではなく間近にカードを持って試してみると、これがとても良い。ゆっくりと曲げていくと、たわんだカードはやがて限界を迎え、ぱりっと音を立てて分裂する。もうそれだけで十分に楽しい。
手法も実にダイレクトです。ただし決して強引と言うのでなく、既存の技法にまったく縛られず、その現象のためだけの最適解であるかのような解決方法です。また多くの手順はシンプルなクライマックスを持っており、長々とはしていません。
この巻ではおまけでGreg Wilsonの章があり、かのReCapの解説もあったのですが、これは実に対照的でした。
もちろんWilsonの手順はよいものなのですが、Harrisの後ではとにかく長く、また現象の組み立て方がどうにも「既に出来ること」の組み合わせの延長上にあり、手法も「出来る事」の組み合わせにしか思えませんでした。それはテクニカルなコントロールを駆使したAmbitious Cardの改案とOmni Deckの対比と言っても良く、やはりHarrisの"驚き"に対するセンスは凄いなと思った次第です。
ともかく、本当に素晴らしい内容でした。
現代マジックを作ったのは誰か、という問いに、今の私なら迷わずHarrisと答えます。
買うなら三巻組みで……、と思っていたがために、手を付けるのが遅くなってしまいましたが、たとえ一巻づつでも、早く買って読むべきでした。
分厚い本ですが、文章はおふざけを多々交えながらも簡明で、さらに面倒になって文を読み飛ばしても内容が判ってしまうくらいのピンポイントさで図が入っているので、さくさく読めます。おすすめというか必読と言っても良いです。
あと2冊ありますが、このクオリティが続いてくれたら嬉しいなあ。
いまのマジックの礎であると同時に、今なお損なわれない新しさ--驚きのある素晴らしい作品群でした。
(※例としてわかりやすいのでOmni Deckを挙げましたが、同作品はHarrisのSolid Deceptionの正当な進化形ではあるものの、創案はJerry Andrus、実現はDanny Korem だったように記憶しています)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿