The Pages Are Blank (Michael Feldman, 2023)
Michael Feldmanの待望の単著が出ました。これまでも多少のリリースはありましたが、特にRyan Plunkettとの共著A New Angle(2017)がストリッパーデックに素材を絞りながら、挑戦的な内容で抜群に面白かった。で、そのFeldmanが満を持してカードマジック作品集を出しました。挑戦的で現代的な12手順と、もろもろの技法が解説されています。
Ryan PlunkettのDistilled(2020)はお行儀のよいクラシック寄りの手順が多かったですが、The Pages Are Blankは期待通りに先進的でした。まずタイトルからも分かるように、演出が良くも悪くもめんどうくさい。自己言及的でおおむね自己否定から入り、メタ的です。最初にわざわざ「魔法じゃなくて技術を使っている」とか言い、プロットの構造的な欠点を喋りながら演じたりもする。
手順は大きく2つのパートに分かれており、前の8手順はクラシックの改案をはじめ雑多な内容。後の4つはサインドカードの複製原理を使った手順です。
スペリングやエースカッティング、トライアンフ、カラーチェンジング・デックなどについて、最近の議論を踏まえた上で、Feldman自身の挑戦的な回答が示されています。マニアックでありつつ、どれも実演で磨いた演出・ハンドリングで、完成度が高い。特にデックスイッチは、準備やギミックが必要ですが、非常に素晴らしいものでした。ただその使用方法がカラーチェンジング・デックな点については疑問もあります。手法は確かに完璧に近いが、それでも現象が強すぎて、結局は「どうやったか」が分かってしまうのではないか。
後半のサインドカード複製手順はよりその傾向が顕著です。サインを複製する原理を活用し、観客のサインしたカードがカラーチェンジする(サインはそのまま)など、強烈すぎる現象が収録されています。この強烈さがなかなか危険で、もともと観客のサインって、現象が強すぎてデュプリケートがすぐ疑われるようなときに使う手段なわけですが、ここまで現象を強めてしまうと、サインがあってなおデュプリケートが疑われるのではないか。とはいえ確かに、サインされた2枚のカードをはっきり示した後に1枚になってしまうアニバーサリー・ワルツや、まったくすり替えの余地の無いSigned Card/Mystery Cardは夢ではあります。
すごく面白い本でした。プロのレパートリーでありつつ、演出や現象の許容限界ギリギリをさぐる、悩める現代カードマジックの最前線といえるでしょう(とはいえ、本になる情報は現場から10年くらい遅れるとは言いますが……)。
0 件のコメント:
コメントを投稿