2014年3月10日月曜日
"Japan Ingenious" Steve Cohen & Richard Kaufman
Japan Ingenious (Steve Cohen & Richard Kaufman, 2013)
Five times Five Japan、New Magic of Japanに続く、Kaufman社による、3冊目の日本人コンピレーション。
和書Winners 厚川昌夫賞8人の受賞者 を底本としているが、訳しにくい作品は省略されているとか。Winnersではカズ片山によるコミカルな似顔絵などもあったそうなのだがそれもない。ちょっと残念。一方で雑誌などに散らばっていた日本人による傑作を集め再録している。
底本からの訳がSteve Cohen、それ以外がKaufmanおよびMax Mavenの筆。なおSteve Cohenのサイトから注文すると、サインをお願いできるようだ。
この本のレビューが載った号のGenii をたまたま購入していたのだが、David Britlandが大いに誉めている。曰く、「日本人ってどこか別の惑星から来たんじゃないの?」まあそういう定型文なのだが、それぐらい発想の特異さを強調していたという事。
若干のナショナリズムを自らの内に自覚しないでもないが、いや、やはりすごい内容であるよ、面白い。紹介されている手順は基本的にクロースアップ。カードやコインもちらほらあるが、それ以外の小物の方が多い。破いて復活する紙幣や、切っても復活するリボン、ドル札に書かれた建物が消える、紙に書かれたスプーンが曲がるなどなどヴァラエティに富んでいる。
準備が必要なものや、それなりに変わった道具を使うものも多いから、即戦力という点ではあまり望めないだろうが、読むだけでも大変楽しい。個人的には靴ひもの結び目が取れて、別の場所にくっつくSneaky Sneakerが好きだ。くっつけた後がすごいのですよこれ。演じるかとなると演じないだろうが、そんな事はどうでもよいくらいの素敵な解法である。解法と言えば、Cups and Ballsのオープニングでよく演じられるCupの貫通を、液体の入ったカップでやってしまうPhantom Drink Penetrationもすごかった。いや是非読んでみてほしい。
前述のように全体的に切ったり貫通したりが多く、なんかそういうフェティッシュなのだろうかとちょっと思えてきたりもするのだが、一方でAutomatic Ace Triumphのような即席でできるカードの傑作手順、Jet Coinsのような変態手順も、数こそ多くはないが含まれており、結局の所、読んで損になる層はちょっと思い当たらない。一応ステージ物まであるものな。
そして高木重朗のSlop-Shuffle Acesがきて、とどめに澤浩セクション(技法1、手順6)である。いやもうすごい。
褒めてるレビューを見つけたら、逆にアラを探す性分なのだが今回は歯が立たなかった。ともかく面白かったです。
ある種のマニア文化、大学の奇術部文化のようなものが根っこにあるのかどうなのか、実に手段を選ばず工作を厭わず、面白い創作群となっている。見た目にもシンプルで、現象がわかりやすいのも好い。
国でまとめたコンピレーションは他にもイギリス(スコットランド)のFive times Five Scotland やドイツのConcertos for Pasteboard などがあるが、巻を重ねているのは日本ぐらいの印象。Kaufmanが親日家というのを含めても、やはり相応の反響があるのだろう。実際ここまで多岐にわたり、工作含めてあの手この手している本って他にはなかなか思いつかない。
ダスト・ジャケットの下には、日本の独創性 と大書されており、誇らしい一方で、後続の我々としては身が引き締まる思いである。……いや、まあ私は別に手品創作屋ではないのだけれども。
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