加藤英夫 Cardician's Journal No.225
本書、The Berglas Effects (Richard Kaufman, 2011)はACAANという現象の伝説を作った男David Berglasの、カードの手順に焦点を当てた本になります。
伝説のACAAN / Berglas Effectの解説を含む、400頁にも及ぼうという大冊で、さらにDVDが3枚、赤青フィルムを張ったいわゆる3Dメガネが付いてくる豪華本です。
ACAANはAny Card At Any Numberのアクロニム。
相手の自由に言ったカードが、相手の自由に言った枚数目から出てくる、という不可能極まりない現象で、ここ最近ブームになっているようです。
相手の自由に言ったカードが、相手の自由に言った枚数目から出てくる、という不可能極まりない現象で、ここ最近ブームになっているようです。
さらに本書では、
『カード、数字の選択に一切の制限が無く』
『演者は最初からデックに全く触れない』
という限定条件を持って、Berglas Effectと区分しています。
ACAANは実に毀誉褒貶激しく、究極の不思議と言われる一方で、マニアのためのトリックでしかないと糾弾されてもいるようです。
後者の代表として、冒頭に加藤英夫の文章を引かせてもらいました。
また本書自体も非常に評価の分かれる本で、『退屈きわまりない』『Kaufmanは伝説を開示するというエサをちらつかせて、紙屑を高く売りつけた』などと、一部では酷い言われ様をしています。
本書を読了した上で、僕は、この本を傑作だと思いますし、
ACAANは究極の不可能の一つであると思いますが、
一方で、反対の立場の意見もよく理解できます。
ACAANは究極の不可能の一つであると思いますが、
一方で、反対の立場の意見もよく理解できます。
Kaufmanは冒頭で次の様な事を述べています。
”70頁に及ぶ、Berglas Effectを解説した項はある。しかしそれ単品で読んでもきっと意味はないだろう。400頁ある本書全体を読んで初めて、Berglas Effectを理解できる可能性がある。”
タネを割ってしまうと、Berglasが用いたACAANの”仕掛け”は、おそらく誰もが一度は考えた解法ではないか思います。
他の手順、Think A Cardにしても、「相手が心の中で決めたカードを当てる」というのではなく、「相手が心の中でカードを決め、口にした後で、そのカードが現れる」という形です。
プロブレムへの解答としてみた場合、及第点はとても無理でしょう。
技法も手順構成も、洗練されているとは言い難く、はっきりと言えば原始的です。
だからトリックを、秘密を求めてこの本を手に取ったら、たくさんの方は失望されるでしょう。
実際、僕も失望感を覚えたのは確かで、本書を駄作と呼びたくなる気持ちもわからいではありません。
しかし、こんな原始的な手段が通用し、かつ世界でも有数の名声を獲得しているというのもまた真実です。ほんとうの”秘密”はそこにあるのだ、というのが本書の、本当のテーマでしょう。
『ない』を『ある』ように見せる、伝説の作り方です。
もちろん本書で解説されるのはDavid Berglasの個人的な手法であり、彼にしか実現できません。しかも明確な”手法”としては表記されず、読者はきれぎれのエピソードや、エッセイ、繰り返される古くさい手順の行間を読まなければいけません。
手品の解説を通じてBerglasの哲学を描写しようとした本書は、どちらかといえば伝記に近い一冊です。
だから、払った対価に見合った”機能”を求めるのは間違いでしょう。
僕は楽しめました。感じるところも多くありました。
あなたがどう感じるかは、残念ながら判りません。
本のレビューは以上ですが、「ACAANは聖杯ではない」「ACAANは魅力的な現象ではない」というような意見に対する現在の見解も述べておきます。
ACAANは聖杯ではない、というのは、警句としては正しいでしょう。現象だけをなぞった、昨今氾濫しているACAANには僕も辟易しています。
一方で、ACAAN以外にカードマジックの聖杯と言えば、あとはOpen Predictionか、Think A Cardくらいしか思い浮かびません。たとえばTriumphは、どれだけ魅力的な現象で、どれだけ不思議でも、相手の知性によっては露見し得えます。
考えたら解る、というのでは、伝説としては弱い。
仮にTriumphに究極の手法があったとしても、観客にとっては他人事の現象にとどまってしまうでしょう。
Berglas Effectは、絶対に見抜けず、それでいて、あのとき違う数字を言っていたら、違うカードの名を口にしていたら、と観客を思考させ続け、決して解けない謎を相手の人生に刻みつけます。
こう言うと、今度は「パズルはマジックじゃない」という声が聞こえてきそうです。
なるほど、マジックではないかも知れない。
だったらどうしたと言うのでしょうか。
Berglasは伝説を演出したかったのであって、マジックは手段に過ぎません。
「現象から見る観客にとっては、聖杯と呼ぶほどの現象ではない。」
「ACAANは魅力的な現象ではない」
これについては、なんというか、ここまでの伝説になっているという実例がある以上、それだけのポテンシャルを秘めた現象であるのは自明ではないのか、としか言えません。
現象が魅力的ではない。それは正しいかもしれません。
しかし、プレゼンテーションと手法次第によっては、たとえ現象の本質がつまらなかろうと、伝説として語られるほどの『体験』を残せる。
それがBerglasの伝説だと、僕は思っています。
追記
Think A Cardの手法について、確かに原始的と言いましたが、
その分、信じられないくらいに柔軟です。
カードあての最も単純で、理想的な形かも知れません。
練習中です。
Berglasのメンタル手順を解説した The Mind and Magic of David Berglas (David Britland, 2002)という本も出ていますが、
こちらは既に稀覯本になり、オークションで5~10万円に跳ね上がっていて、とても手が出ません。
こちらは既に稀覯本になり、オークションで5~10万円に跳ね上がっていて、とても手が出ません。
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