2015年7月31日金曜日

”Close-Up Elegance” David Costi










 


Close-Up Elegance (David Costi、2004)





 イタリアのマジシャン、David Costiの作品集。
 AscanioとRene Lavandが推薦文を書いているとかそれはもう買いだろう、という事で買ったのですが結果としてはいまいちでした。『マジックはアートである』派で、作品はちょっとした部分での改案がメイン。パターだけの解説というのもあります。それはもちろん、構わないのですけれど、その肝心の細かな部分があまりちゃんと記述できていないのです。特に収録されている某Double Liftなどは、この文章だけから正しく全体像が理解できる人がいるとはちょっと思えない代物。

 手順はクラシカルでシンプル。またワーキング・プロらしく極めてずるいものも有ります。
 たとえばCard Collegeにも採られているAmex(The Credit-Card Force)を用いたCard on Back。観客が自由に選んだカードが、デックの中から消え、演者の背中にピンで留められているというもの。これはToo Perfectに近い美しい手順です。
 上では『細部の描写が不十分』と書きましたが、それはあくまで徹底されていないという意味であって、たとえばこのCard on Backでは非常にさりげない検めが入っていたりなど、為になる箇所はそこそこあります。Amexも非常に微妙な細部にこだわっており面白い。

 その他、Reverse Matrixではいまやみんなが使っているタイミング差によるミスディレクションが明記されていて、Costiがオリジナルかは分かりませんが、かなり古い使用例と思います。特殊なClick PassやEmpty Dealなど面白い技法も出ていますが、出版が遅かったせいもあってちょっと新奇性はないですかね。クレジットマニアなら面白いかもしれませんが。あ、Charlie FlyeがDVD演じていた(気がする)指先にゆっくりコインが現れるやつも、どうも本書の技法のようです。

 そこそこ面白い技法、そこそこ面白い手順がありながら、解説がちょっとざっくりしすぎていて上手くまとまっていないと思いました。せめて内容がどれかに偏っていたら、筆者の考えも捉えやすくなっていたかもしれません。もったいない本でした。

2015年6月26日金曜日

"Destination Zero" John Bannon





Destination Zero(John Bannon, 2015)




 才人Bannonの新作。セルフ・ワークのカードマジック25作品。


 これまでのBannon本とはちょっと違う印象を受けた。Bannonといえば技術は比較的簡易に留めつつ、現象のためには手段を選ばない、洒脱で紳士で大人な、しかし極めてずるい人・作品というイメージだった。
 しかし今回は、いささか偏屈な印象を受ける。

 というのも本書では、ともすれば『現象』よりも手法上の『縛り』に重点が置かれているきらいがあるのだ。
 セルフワーク縛り。それもクリンプやフォールス・カットはおろか、ダブルアンダー・カットまでも排した純然たるセルフワーク。いかなBannon先生でも流石にちょっとつらいと言うか、目新しさや現象のバリエーションは、他の著作にくらべて見劣りする。
 個人的には「セミオートマティック」くらいが不思議さ的にも現象の自由度的にも好きなのだが「そういう作品は既にたくさんあるから、あえて私がやる必要もなかろう。Steve Beamの本でも買いなさい」との事。はい。Bannonの才能はそういう分野でこそ強いと思っていたのでいささか残念だ。「それに縛りがきつい方がたのしいだろ?」はい。そうかもしれません。

 しかし、やはり、そこはBannonである。
 クロス・カット・フォースやカット・ディーパーの使用は多いが、種々の策略が組み合わさって非常に不思議な仕上がりのものも多い。手法制限による閉塞感はどうしてもあるが、見せ方などにも工夫が凝らされている。


 またBannonはあまり理論だけを書く事をしない人だが、はしばしの文章と、作品の構成それ自体によって非常に多くの事が示されいてる。

 たとえばセルフ・ワークというと、かならず『意味のない動作』『作業感のある操作』という大きな問題にぶち当たる。それについてBannonはどう思っているのか、どう解決するのだろうか、といった興味が、本書を手に取った動機のひとつでもあった。見て見ぬふりをしてカウント手品を量産する作者も多いが、Bannonに限ってそんな事はあるまい。
 で、これについての氏の見解なのだが――これが非常にドライで大人な意見で、ある種、開き直りに近いものだった。ただし、それに準拠したBannonの手順を読むと、確かにこの手法はひとつの成功を見ている。
 セルフワーキングで往々にして感ずるような――もっと言えばマジック全般で感ずるような――嫌らしさ、そらぞらしさはかなり薄い。

 また後書きでは『なぜマジックをするのか?』、『マジックが提供すべきは不思議(Wonder)なのか? それとも不可能(Puzzle)なのか?』というありふれた――しかし重要な――問いにも答えているのだが、これも一見の価値有りと思う。
 魔法使いの仮面をかぶれず、生活人であり、ただの趣味人であり、そして大人の人間である『私』は、どう手品を演じるのか。手品界隈においてこれ以上はないアマチュアで、マニアで、大人の、Bannonの考えが示されている。



 作品についても少し触れておこう。

 観客が心の中で決めたカードが、演者のポケットに偶々はいっていた小銭の総額と同じ枚数目から出てくる"The Thirty-Second Sense"。Dear Mr. Fantasy(邦訳あり)でもひときわ光輝を放っていたある手法を用いるのだが、やはり凄い。

 観客がカットした場所から、演者があらかじめ予言していたカードが出てくる。古典的な技法だが、ちょっとしたひねりと、捻れた手順校正でうまくそれを隠匿している"Leverage"。

 退屈になりがちな某・数理原理を、演出でカバーした"Sort of Psychic"。『演出でカバー』というと、適当なお話をつけるとかそういうイメージになってしまうが、そんな単純なものではない*。

 はやくもクラシックになった感のあるDeddy Corbuzierの売りネタFree Will。これをカードで行うのだが、カードであるが故に、あるぎこちない箇所が美しく解決される。"Free Willy"。

 Bannon流のMindreader's Dream、"AK-47"。

 このあたりが特に印象に残っている。なおBannon氏のサイトで各現象を簡単に紹介しているが、かなりの省略があるので真に受けるとちょっとがっかりするかもしれない。

 全体的に手順は長くなりがち。一対一で、ゆっくりと演じられる人向けだと思う。またセルフワークだけどかなり難しいという気はします。特に"AK-47"は、かなりアドリブ能力が求められる。

 というわけで、やや人を選ぶがたいへん面白かった。これまでの本は手法・手順が抜群に面白かったわけだけれど、今回はどちらかというとBannonの主義に触れられて、それがよかった。
 でも、やはり「セミオートマティック」集が見たかったなあ。


*演出について少し書いておくと、多くの『いわゆる演出』は結局の所ただのお話であり、観客は聞いているだけになりがちだ。意味は付与されるかもしれないが、直接的な面白さには寄与しない。しかも往々にして冗長である。現在のBannonは、意味づけやお話作りにはあまり積極的ではないが、しかし"The Thirty-Second Sense"や"Leverage"などを読めば分かるとおり、手順全体を通して観客の『体験』はとても起伏に富んでいる。

2015年5月18日月曜日

"OiATER" Tom Dobrowolski & Jeremiah Zhang




OiATER (Tom Dobrowolski & Jeremiah Zhang, )



各氏絶賛、Tom Dobrowolskiによる多段Oil and Water手順。
3×3→2×2→2×2→1×1(ギャグ)→フルデックor Out of this Worldという構成。

あまり詳しくないのですが、繰り返しつつ枚数を減らしていく(増やしていく)O&Wって、これが初めてだったりするのでしょうか? でないにしても、かなり早い作例だったりするかな。だとしたら、各氏の絶賛っぷりにも頷けます。
カウントを用いず、クリーンにディスプレイされるよう構築されており、そこもモダン。またFull Deck Oil And Waterに使われる技法は、さらっと書いてありますが非常に強力なもの。

ただ……、今読んでおもしろいかというと、正直ちょっと微妙ではあります。

だってほら、我々、水漏れ油漏れに親しんでいますし。



本書の手順、主体が2×2というのがひっかかる。どうしても釈然としないものを感じます。また減らしてからフルデック現象へのつなぎ方もぎこちなく、洗練されておりません。

先述のFull Deck用の技法も、DaOrtizが(おそらく別個に発案して)Utopiaで解説してたしなあ。

捨てたカードと手元のカードでの分離現象などもあって、あれ、これは水漏れ油漏れの先行例?と思ったりもしましたがだいぶ毛色がちがいました。

それからちょっと解説で損してると思いました。手順原案がTom Dobrowolski、その後のブラッシュ・アップを二人で行い、解説の筆を執るのはJeremiah Zhangの方なんですが、露悪的という程でもありませんが文章がいまいち魅力を伝えられていない気がします。



徐々に減らす構成、そしてカウントではなくディスプレイを用いるクリアな現象、というとどうしても水漏れ油漏れと比べてしまい、しかもそれが非常に出来がよいので、本冊子についてはううん、今ひとつ。

ただ、おまえそれは絶対無理だろう系技法や、先述した捨てカードとの間のOWなど、実験的な要素が結構あり、刺激的でした。

O&W史の中では重要な冊子やもしれず、その辺は一度、識者の方の話を伺ってみたい所ではあります。

2015年5月1日金曜日

"Put Your Hands Up" Yoann Fontyn






Put Your Hands Up (Yoann Fontyn, 2011)


 スタイリッシュで華麗なハンドリングとモダンな構成で知られるフランスのカード・マジシャン、Yoann Fontynのレクチャーノート。

 面白かった。面白くはあったが、ほとんど何も覚えていない。


 技法5つと手順7つを解説しているのだが、解説がハンドリングの説明に留まっており、動画でみれば十分の内容。やはり動作の意味づけであるとか構成の動機であるとか、つまるところ"何を見せたいのか"が書かれてないと、あんまり文字でやる意味もないですね。

 あとはまあ私の怠慢ではあるんだけど、台詞のない手順(で特に現象が複数起こる、込み入ったもの)って、どう演じて良いものかよくわからないんですよ。

 実際にはYoannも何か喋りながらやってるのかもしれませんが、ならそれは書いて欲しいなあ。
 まあこれは私の最近の好みなので、Yoannに当たるのはちょっと違うかもしれませんが。




 全体として、評判通りのスタイリッシュさ。かなり難しい技法も使います。ただ『見えないように行う』技法ではあまりなく、常に何らかの観客から見える動作、それも『自然な動作』ではない動作に紐付けられているので、難しい系統の中では難しくもない部類かも。
 演出を切り離して見た場合、手順の構築も美しく、その技法と同じくスムーズでダイレクトです。

 演出なんかを気にしなくてよい一発ネタ手順ですと、このあたりが上手く噛み合って非常によいです。手に持った4が一瞬で4枚のAになるNitro Aceなんかは大変好みでした。


 演技動画が付いてきますがご本人はかなり上手いです。ノートについても読みづらいところや説明不足に思う所はありませんでした。

2015年4月1日水曜日

"What Lies Inside" Florian Severin





What Lies Inside (Florian Severin, 2012)


 初めてかもしれません。
 こんなに面白い手品本を読んだのは。


 メンタルに限らずですが、多くの『バリエーション』はどうしようもなく閉ざされています。プロットとメソッドが既に決まっており、その手法や演出に少し手を入れただけ。既存の手続きから逸れることはありません。 しかし当然ながら、その『手続き』は最適な形とは限らないわけで、細部をいかに『怪しくなく』しようとしても、構造的な歪みは手つかずのまま。場合によってはさらにいびつさを増す事になります。
 特にメンタリズムはその傾向が強いように思います。意味も無く数字を足させたり、ぜんぜん筋の通らない選ばせ方をしたり、とりあえず当たりが筋立てがさっぱり分からない予言など。挙げれば切りがない。

 しかしFlorian Severinは全ての手順をよく吟味し、観客にどう受け止められるか、観客がどんな現象をそこに見るかをしっかりと構想した上で、手順を練り直しています。演出も面白く、メンタリストにありがちな重苦しさはありません。金持ちを引っかけるために偽の結婚相談所を開いたり、頭にチャックを貼り付け、観客がそれを開くと、スイッチが切れたようにぐでんと座り込んでしまったり。ほとんどコミックですが、しかしながら、不思議さは全く損なわれていない。
 素晴らしい手腕だと思います。

 また非常な勉強家です。本書は340ppで16章構成ですが、解説されている手順はたったの11。長いものではひとつの手順に30ppほども費やします。さらに参考文献が非常に充実しており、手順によってはそれだけで6ppも続きます。いや、ほんと、ちょっと凄い。有名メンタル本の他、普通のマジック本、名前も知らないアングラなメンタル本、メンタルマジックの雑誌、さらに一般書籍も多く出てきます。
 私がメンタルあまり詳しく無いのをさっ引いても、ここまで持ってない本の話ばかり上がるとアレですね、悔しいですね。面白そうな本が沢山あったので、追いかけたくなりました。


 しかし。
 この本の面白さはそこではありません。

 手順も演出も、理論も考察もすばらしい。けれど一番面白かったのは、そこではない。


 
 文章です。



 例えば?
 うーん例えを上げるのが難しいのですが。

『ここで私は観客に直接、乞うているわけです。私は広告業界出身で、しかも今やメンタリストなのですからね。恥じらいなんてものは、もはやカケラも持ち合わせていないのです』

『私の妻も言っているように、『大きさは大事』なんですよ! HAHAHA! ……さて、それでも、妻はまだ私のことを愛してくれています……フリかもしれませんが』

『ところでこの解説にはヒッチコックの映画タイトルが10個隠されていますが、あなたは幾つ見つける事ができましたか?』

『……そう、彼は新世界の神となったのです』

『これはどんなオタク野郎にも彼女ができる手品です。なにせメンタルマジックの本を読んでくらいですから、あなたのオタク度は計り知れないレベルでしょう。でも大丈夫』

『これは実際に、女友達に手書きしてもらってください。……いや、あなた方のために、ここに私の使っているサンプルを載せておくので、コピーして使ってください。うん、マジックマニアですからね。女友達がひとりも居なくたって、不思議ではないです』

『ひとつめは簡単、ビレット・スイッチです。ふたつめも簡単。演者(わたし)はいつだって、最前列のお姉さんのおっぱいの事を考えているんです。』

『これは本当に素晴らしい、ロマンティック・コメディ映画です。もし大人も子供も一緒に楽しめる映画があるとしたら、まさにこの一本がそれです。さあ、一家で揃って観てください!すばらしい思い出になりますよ!』(参考文献にて、映画『ハードキャンディ』のタイトルを挙げて)

『(女性の観客に、梯子を上ってもらいながら、心の中で)くそっ、なぜスカートの客を選ばなかったんだ俺は』


 さあどうですか! 私の下手な訳では面白さの1割も伝わっている気がしませんが、こんな感じでトチ狂ってたり、いちいち失礼だったりとおもしろおかしい文章なんですよ、全編通して!

 いやあ楽しかったです本当に。手品本を読んでこんなに笑ったのは初めてかもしれません。実に頭おかしい。さっきは触れませんでしたが、観客の頭を掴んで水を張ったボウルにぶち込んだり、婦警をつけねらって盗撮したり、演出もわりとかなり頭おかしいです。いや面白いし、何度も言いますが、この強烈な演出に負けず、反発することも無く、現象はしっかりと不思議なんですけれども。


 さて、話を戻しまして。
 どれもステージで演じられる事を前提とした、しっかりとしたパフォーマンス・ピースで、素人が演じられる機会はちょっと、かなり、少なめです。また現象の起因を『心理的な操作』においています(といっても実際に『サイコロジカルな手法』に依存した手順はありませんが)。一方、Greg Wilsonの某技法を使ったりと、割とテクニカルなものもあります。演出もアレですし、演じられる人は少なそう。

 一方で、単純に手順としての構成や、その狙い・考察が素晴らしく、読むだけでも(手品的にも)面白いでしょう。またPre-Show Workについて、かなりのページを割いて詳細な解説と考察がなされています。Pre-Showに興味がある方であれば、これだけでも読む価値があると思います。

 うん、素晴らしい本でした。面白かった。



 もともとは13 Steps to Vandalism(2004)というタイトルでドイツで出た本の、英訳+増補版ということのようです。 こちらは探しても書影すら出てこなくて……、私の検索能力が低いだけかな。どなたかご存じの方はおられませんか?

2015年3月22日日曜日

"Card Men" Dan and Dave






Card Men (Dan and Dave Buck, Ricky Smith, 201)



 Buck双子によるカード冊子。



 なぜか執筆はRicky Smith。そしてそれ以上に不思議なのが、なぜこれを出版したのかという事。いやだってDVDでよかったでしょう。むしろその方が良かったでしょう。

 まず、彼らの技法と来たら、やたらに難しくコツがいる。こういう事を言うのは私の怠慢ではあるんだれども、意図している鮮やかさのレベルがあるのなら、それは提示してくれたほうが話が早いよなあ。それから彼らの既存技法を随所で使うのだけれど、これが解説なしの事がままある。一応写真があったり、まあyoutubeで探せば出てもくるだろうけど、やっぱりDVDの方が良かったんじゃないですか?

 動画で見れば演技2秒、解説10秒~1分で終わるようなちょっとしたフラリッシュには、明文化すべき要素もないと思うし、あと視覚的な錯覚に大きく依存した手順もあり、これもやはりDVDとかのほうが良いと思うし、というか実際、先日動画DL商品で出してたし。やはりなぜ本にしたのだ。ファッションか。

 まあファッションならそれはそれで良いんです、例のごとく物品としては非常に美しく仕上がっていています。その辺は流石です。


 内容についてはカードオンリー。技法、ちょっとしたフラリッシュ、クイックな手順。60ppで、基本的には小ネタ集です。ふたつの点から、ぼくは余り好きになれませんでした。

 ひとつは基本姿勢として、完全な技術アピール志向なのですよね。それも手品的な要素をすら技術アピールに寄与させるというもので。一例としてあげられているのが、Triumphでシャッフルが終わった後、Sybil Cutをしてからディスプレイをするというもの。表裏を素早くかっこよく選り分けた、という演出ですね(実際に収録されているTriumph手順ではこういう事はやっていないのですが)。

 もうひとつは技法に対する過信というか、Hank Miller Shuffleをトライアンフに使うんですよね。いやーいくらあなた方が上手いとはいっても、それはちょっと厳しくないですか。特にそれをトライアンフで使うのはどうなんだろう。僕は無理だと思います。少なくとも所謂Triumphとは別の現象というか表現になると思う。でもそこに関しての言及もないし。


というわけであんまり面白くなかったです。DVDか動画ダウンロードで出せば良かったんじゃないかな。

2015年2月10日火曜日

"One Degree" John Guastaferro








One Degree (John Guastaferro, 2010)





Brain Storm DVDでデビューした後も、精力的に創作・執筆活動を続けているJohn Guastaferro。今の時代に文書ベースでの活動がメインというのも珍しいですが、その初めてのまとまった作品集(※これまではレクチャーノートが主だった)。といっても140 ppでトリックも20くらいかな、というまあ比較的薄手の物です。

Brain Stormを見た時の感想は、古典トリックを複合するのがやたら上手い、でもちょっと長手順であるなあ、という感じ。あとあまり個性はないかなと。

それ以来、Guastaferroのイメージは更新が止まっていたのですが、今回久々に手を出してみました。


かつては古典の組み合わせだったところ、用いるパーツがより細かく咀嚼されているというか、新奇な手法や現象ではないながら、巧みな構築によってオリジナルな手順になっているように感じました。難易度はほどよく、また本業が広告屋という事もあってか演出も多彩で面白かったです。極めて実用的。
本書のタイトルでもあるOne-Degreeとは、『ほんのちょっとした差ながら絶大な違いを生む』ような改善のことで、確かに全体的に練度が高く、ささやかな工夫が光ります。追加のアイディアなんかは、結構とんちんかんに思う所もあったりはするのですが。

ただPalm Reader PlusやIntro-vertedに顕著ですが、現象がテンポよく起こる、ある現象が次の現象のセットアップになっている、という点で非常に優れている反面、現象がいささか簡単に起こりすぎるような気もします。少なくとも私は、しっかりと『ある現象』を見せる手品が好きなので、このあたりは本質的に相容れない感じがしました。

演出についても、現象が持ちうるインパクトを削いでいるきらいがあります。とはいえここは好みの問題でありますし、『観客を死なすほど不思議を突き詰めたい』という人ではなく、『みんなをマジックで楽しませたい』というタイプの方なのでしょう。そちらの方が健全ではあります。

そんな訳で根本的なベクトルに違いがあるようなのですが、それでも要所要所の工夫はたいへん面白く、またなんというか、ちくしょう認めざるを得ないぜ、みたいな作品も数作ありました。

SoloはOpen Travellers/Invisible Palmなのですが、ガフ・カードを使用する事を除けばほとんど完璧と言ってよいんじゃないかしら、という手順。一般的な手順では不可能なある"場面"が挟まれるのですが、これがまたほとんど不意打ちというかだまし討ちに近い感じでして、上手くするとマニアも殺れると思います。実際、生で見たらへんな声を上げてしまいそうだなと思いました。
ネタバレするともったいないので曖昧な言い方ですが、いやこれは凄いですよ。

Behind-the-Back Triumphはこれも非常によい、観客自身の手によって行われるTriumph手順。ただこの良さはおそらく映像だと完全にダメになってしまうと思うんですね。使ってる技法やなんかが簡単に追えてしまうから。だから文章の形で触れる事ができて本当に良かったと思います。
あまり合理性のない手続きというか技法というかを使うんですが、それが合わせ技によって互いの弱点を薄めており良い感じ。何より現象の演出が魅力的です。
この手順で用いられる演出手法についてはエッセイがひとつ設けられており、そこでも詳しく語られています。これを含めてですが、エッセイはどれもおおむね良い事を言っています。

あともう一個好きな手順がありますが、省きます。あんまり書きすぎても何ですし。


そんなわけで基本的には次々とテンポ良く起こる現象やしゃべりの面白さが全面に出てくるマジックですが、真にいやらしい手順もいくつかあり、どなたが読んで損無しと思います。原書は$50とページ数の割にややお高いんですが、上述のトリックだけでも十二分に価値があると思いました。


しかし表紙のタイトルデザイン、「One°Degree」って書いちゃうとワンデグリーデグリーじゃないですかね。



……あと、近く東京堂から日本語版が出るとか出ないとか。

2015年1月18日日曜日

まだ出ないんですか? あるいはいつまで経っても来ないものについて。




相済みません。




あ、明けましておめでとうございます。

更新履歴を見かえしてみますと、まあ年々、読む本が減っておりますね。
買う数はあんまり減ってないのにね。不思議だ。

しかしその一方で、今年は翻訳などというものに手を染めてみた次第。
まあその前にも1冊ありましたがあれは怒られて沙汰止みになったので、最後まで行けそうなのは今回が初でございます。



それでいつ出るのという話ですが、いやもうほんとあと少しで出ます。

まあマジック業界で言いますとGuy HollingworthがVHSのDVD化をComing soonと告知してから8年近く出なかったであるとか†、特装版$300予約完売!出版直前!通常版$150がいまなら予約特典で$100!と告知してかなりの金額を集めたと思しいMiracle FactoryのMartin Gardner's Impromptuがこっちはまた9年くらい出ていなかったりとか‡、ほんと色々あるわけですが、当方のあと少しは本当にあと少しです。

ほんとです。


いや実際、私の手を離れてもう印刷屋さんが作業中ですし、月末までには届いて、販売体制を築けるんじゃないですかね。うん。

どれくらいの方がここを見ておられるのか、Bloggerの解析ツールがしょぼいせいで僕は余りよく分かっていないのですが、どうか発売の折にはよろしくお願いいたします。



いつまでも来ないと言えば、手品の洋書って言うとまあ当然ですが海外に発注することになるわけで、わたしあまり、というか全然英語ができないものですから、最初の頃はそれはまー緊張したものです。

最近は自動化されたフォームの大手ショップが沢山あるので、大体のものはクリックだけで買えますし、surface便も見かけなくなってまあ遅くても2週間で届きます。日本のショップもたまに仕入れていたりして、そうすると大量仕入れのせいですか分かりませんが国内から買った方が安かったりするのでこれも便利です。

しかし特殊な本や古い本、あとページには上がっていないけど実はちょっと在庫がある、という場合もあったりしてそういうときは直にメールして色々尋ねて振り込んで、としなくてはならないわけです。まあ今は、これもおよそPaypalで済むので楽ですが。


そうして注文した本の中には未だに届いていない物があります。


ひとつはスペインの某ショップで買おうとした本で、なんかすったもんだあってお金だけ払って品物は発送すらされなかったような感じになりました。

もうひとつはまず郵便為替でお金を送って、と言われたので送ったところ「これ処理できないみたい」とだけ言われておしまいになったやつ。


ついでにいま正に3度目の事案に突入しそうでして、送ったよと言われてから一ヶ月、まだモノが届いていません。不安だ。



注文フォームでは国際発送を扱っていないショップでも、メールで聞いたら「大丈夫送れるよー」と言ってくれることは結構あって、非常に助かるんですが、同じだけ事故率も高いように思います。あとあれだ、スペイン。


ただそういう形式でさらにスペインであっても、いい思いをしたこともあって、「2巻組の本だけど1巻しか在庫が無い」と言われて「残念だー残念だー」と返したところ、2巻のゼロックス・コピーをおまけしてくれた事があります。
版元によるコピーなのでまあセーフでしょう。しかも只だったし。

すっげー信じられないオファーだよサンキューとか片言の英語で書いたっけなあ。


ちょっとだけスペイン株が持ち直したところでこのへんで。




† 正確な年数はちょっと忘れました。この間、やっとDan and Daveの所から出まして、見ましたがこれがまー素晴らしかったです。

‡ 楽しみにしてるんですがねぇ。なお何となく予約しなかったのですが大正解でした。

2014年12月31日水曜日

"Steranko On Cards" Jim Steranko









Steranko On Cards(Jim Steranko, 1960)




読んだのは2008年版で、Terrence Franciscoという人による補遺が付いている。

Lateral PalmとAction Center Reverseで有名なSterankoの著作。本業はイラスト、コミック作家。ビジュアルなマジックの先駆け、とどこかで紹介されていたような気がするのですが、これが総じて面白くありませんでした。

古い手順にも善し悪しありまして、善しが古典(クラシック)だとすれば、これは悪し、原始的という感じ。資料的なおもしろさは、ごく一部の人にとってはあろうが、いまさらコレを読んでもちょっとなあと。

先駆的なLateral Palmの解説、AndrusのAction Reverseをさらに発展させた技法などはまずまず面白いわけですが、一方で手順がセンスの無さを露呈しており、通読がつらくなる。
現象に一貫性がなかったり、自由に選ばせた事を強調したい場面なのに、選ばれたカードをデックに逆向きで戻し、すぐにスプレッドしてひっくり返っているカードを改めて抜き出したり、ううん、ううううん。

とはいえども、Voodoo CardやBoomerangの源流、ナチュラルマーキングのカード当てなどプロットしてのバラエティはけっこうある。うーんでもなあ。

なお補遺もいまひとつ。

ううん、あんまり面白くなかったぞう。あるいはご本人はうまく語りでカバーできてたりしたのだろうか。
元々ノートの表紙だったらしい、手順のタイトル+イメージ図は素敵でしたが。

2014年11月18日火曜日

"MirACAAN" Dorian Caudal








MirACAAN (Dorian Caudal, 2014)




39 € 70 ppで 1作のACAAN のみを解説した冊子。


筆者はフランス生まれ、スウェーデンはストックホルム在住の若手マジシャン、Dorian Caudal。
なんとまあ神経科学でPh.Dを持っているらしい。うらやましい。
そしてカロリンスカ研究所にお勤めらしい。凄い。

凄いっていうか超絶エリートではなかろうか。


肝心のACAANについてだが、演者が配ったりする必要などなく、Berglas Effectに極めて近い。というかBerglasのオリジナルに対して、愚直に細部を詰めていった印象。手法としてはあんまり美しくはなく、特にBad Caseはいまいち。ただし実際にやられたらかなり気持ち悪そうだ。

またカードや数値が選ばれる確率については、文献引用をしたり、図に頻度をプロットして説明していたりとなかなか理系らしい所を見せている。自称メンタリストどもの『私の経験から~』なんぞよりよほどいい。


覚えたり暗算したりもそこそこあるので、私の手にはおえない感じだけれど、根性ある方は手を出してみてもいいのではと思う。
あとアウトやバーバル・コントロールでちょっと面白い箇所があったのでそれは覚えておこうと思います。