2020年3月27日金曜日

"Cards Against Reality" Lorenz Schär



Cards Against Reality (Lorenz Schär, 2020)

大変お世話になっているサイトConjuring Archiveは元々Denis Behrの個人プロジェクトなのだが、いつ頃から協力者の方がふたり入って、ひとりがHarapan Ongで、もうひとりがこのLorenz Schärです。となれば買わないわけにはいかないのである。

とても小ぶりなハードカバーで、収録作品は基本的にカード。技法およびコンセプト3つ、手順5つ、オマケでカード以外が3つ。それとエッセイがいくつか。

膨大な資料に裏打ちされたスマートなカードマジックで、方向性はBehrに近いのだが、あそこまで手は込んでおらず、一方でもうちょっとハンドリングや演出への目配せがある感じです。読んだ限りでは新規性などは感じないものの、過去の良い原理やプロットを持ち出し、それをよりリアリスティックなかたちで仕上げるというスタイル。

それは例えばTotal Coincidenceを1デックで、かつ演者がTamarizでなくとも演じられるようにしたCoincidencia Banalもそうだし、Steve Mayhewの大変面白いながら「表裏混ぜる」というよく考えたら意味の分からないCenter Dealデモを、よりギャンブルさのある妥当な現象に落とし込んだOne for Mr. Mayhewに顕著である。一方で、オマケではノーカバー、ハンズオフで色が変わるナイフや、手を叩くと消えるコインなど、ネタ技法のような成立するなら大変面白いようなネタも紹介されております。

ひとつふたつ、退屈な作品もあったけれども、総じて落ち着いた手順が好きな人であれば楽しめるでしょう。よいパフォーマンス・ピースになるのではないか。あと造本装丁はかなり素敵です。