2026年5月22日金曜日

”Elements” Lance Pierce

 Elements (Lance Pierce, 2010)


Lance Pierceのレクチャーノート。元々Roger Klause In ConcertThe Award-Winning Magic of John Cornelius(どちらも未読)の著者として名前だけは知っていたのですが、Dan and DaveやVanishing Incから出た動画を見て驚きました。カードもコインもめちゃくちゃ上手い。クラシカルな手順はもちろん、カメラトリックみたいなビジュアル現象も平然とやる。それで御自身の本は出されていないのかしらと探したところ、Lulu(自費出版サイト)からこのノートが買えました。

カード5手順、コイン2手順、エッセイ3つ。ノートではあるのですが、サブタイトルがthe lecture, the bookとなっており、単なるノートじゃないぜという自負が感じられます。A4で84ページ。実際かなりしっかりした解説とエッセイが収録されており、当時基準の『レクチャーノート』以上のものでしょう。

カードはジェネラル・カーズ(※ジェネラル・カードではない)、エース・アセンブリ(BannonがMirageで発表したものの改案)、説明の難しい小品(WaltonのA Switch in Time?)、しっかりしたワイルドカード、オイル&ウォーター。コインはCSB(CSBギミックではなくダブルフェイスを使用)、単売されたけど絶版になっているChinese Charming Challenge(Recharmed, I'm Sure)。

動画ではとても滑らかで上手いのですが、本書で解説される手順もとても丁寧に構成されており、さらにハンドリングの細かな部分までしっかり解説されています。使わないパケットをテーブルに置く時の持ち方、返し方、置き方まで。カード手順は全体的に長手順でやや地味ですが、コインは丁寧かつ現象がはっきりしていてインパクトも高いでしょう。

エッセイも優れており、技法の細部の詰め方、なぜ技法が見えなくなるのか、クロースアップの演出のあり方について。特に技法関連のエッセイでは実際の技法を材に取り、適用方法を具体的に示してくれます。

と、非常にいい本のようなのですが、これがけっこう文章が読みづらいのです。説明が細かいので余計に。確かに『ノート』には留まらない内容ながら、『Book』と言うには推敲不足の感もあります。まったくゼロから本書を読んで内容を100%享受できるかといえば難しいと思います。

なので、書籍を紹介するブログでこんなことを言うのは負けなのですが、まずはVanishing incから出ているダウンロードSilky Smooth Card Magicを買ってください。それでもっと知りたくなったら本書を買いましょう。私はこの本のコイン手品と、あと水油がかなり気に入ったのでしばらく練習します。

2026年5月16日土曜日

"The Expert" Michał Kociołek

The Expert  (Michał Kociołek, 2019)


Michał KociołekのAny Poker Hand Called Forプロットのノート。観客が自由に言った役を配ってみせるというこのプロットは、単売トリックPolish Pokerから最新作Extra Plots & Methods所収の50/50 PokerやPoker Player's Dreamまで、Kociołekのライフワークのひとつです。本書はとてもマニアックで研究書と呼ぶにふさわしい内容。大きく3つの内容からなっています。スタック、シャッフル、手順。個別に見ていきましょう。


スタック:このプロットとスタックの歴史が子細に解説され、そのうえでKociołekの改案が示さます。歴史はとても面白かったのですが、Kociołekによる改善点は、正直なところ私にはそこまでピンと来ませんでした。このプロットにちゃんと取り組んでる人や、この類いの場合分けスタックに明るい人じゃないとありがたみが分からなさそう。

シャッフル:この冊子の宣伝には”Everything from a genuinely shuffled deck(完全に混ぜられたデックから)”とあるんですが、これはまあ嘘です。前の項で『スタック』と書いた通りこのプロットはスタックを使います。しかしながら、たぶん本人から見せられたら「完全に混ぜた」と思わざるを得ないと思います。例の『デックをいくつかに分けてそれぞれ混ぜてもらう』策略を使うんですが、これまで見た中で一番納得のいく使い方でした。これはすごい。だいぶ難しいんですが、でもすごい。

手順:Any Poker Hand Called Forは、しかし現象としてどうなんだという問題があります。トップからそのまま配るのは雑だし、かといってポーカーらしく複数人のハンドを配ると時間が掛かる上にフォールス・ディールで上手くやったのでは感が出てしまう。……そういった問題意識がKociołekにもあったのかは分かりませんが、ここでは2つの表現形が提示されます。ひとつめの"Odds"は観客がカードを選んだ後にリフル・シャッフルをすると、観客のカードの周りに選ばれた役のカードが集まるというもの。もうひとつの"The Wisdom of Crowds"は観客がカットする趣向(BannonのDirected Verdict)。特に後者はすばらしく面白くて、私は初めてAny Poker Hand Called Forをやりたくなりました。ただいちばん厳しい場面に厳しい技法を連続で持ってくる構成なのはどうなのか。確かに自由度は極めて高いのですが……前者と後者のあいだくらいが私の性には合っています。そうしたらカットした観客にそのままめくらせることも出来るし……どうですかね?


というわけでMichał KociołekのAny Poker Hand Called For冊子でした。高度ですがとても面白かった。私は十分には享受できていないのですが、それでもこのプロットの良さがやっと感じられた気がします。このプロットのマニアには怒られるかもしれませんが、エース・プロダクションよりは観客の自由選択があり、任意の4 of a kindプロダクションよりは演者側の負担が少ない。

このプロットに興味があるなら必読ですし、プロットのマニアも必読でしょう。そうでなくとも、現代の巧妙な小スタック手品をやるなら大いに勉強になります。

2026年5月6日水曜日

"The Japan Tour" Moritz Mueller

The Japan Tour (Moritz Mueller, 2024)


Moritz Meullerの日本レクチャーのノート。コインで有名になった人ですが、このノートに収録されているコイン関連は1つだけです。しかもその1つはエッセイ。コイントリックは無くて、ほぼカードです。一応それはわかったうえで、いまどきのカード手品が読みたいなと思って買いました。

けっこうおもしろかったです。錯覚を使った、大胆ながらシンプルなハンドリングはとてもモダン。元の手順にあった無理を別の手段で解決するのもなかなか上手くて、特に、角度の厳しさを演出に入れ込んでしまうペンの消失はよかった。とてもいい手順だし、他への応用も効く策略だと思います。エッセイ系もかなりよく、コインのフォールス・トランスファーについての考察はしっかりしたものでした。

ただ、いちばん期待したのはHollingworth Shuffleのバリエーションとそれを使ったトライアンフだったのですが……これはちょっと期待外れ。Hollingworth Triumphの面白く、しかし難しいポイントはあのディスプレイだと思うのですが、そこは省かれていました。残念。まあHollingworth 本人もあのディスプレイはあんまりやってないみたいなんですが。


King Castlingの改案、ペンの消失、コインのトランスファーのエッセイ、錯覚を使った4枚中2枚のフォースなどが特によかった。