2100年4月25日日曜日

とびら

BASEにて、以下の本を翻訳販売しています。

Thinking the Impossible by Ramón Riobóo

52 Lovers, Adventures in Wonderland by Pepe Carroll

ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険 フロリアン・ズィヴァリン

2021年2月28日日曜日

"Hypnohole & Other Absurdities (2nd Edition)" Dale Hildebrandt

 Hypnohole & Other Absurdities (2nd Edition)(Dale Hildebrandt, 2006)


組版と表題作がイマイチでずっと積んでたのですが、ダリアン・ヴォルフ本でやたら褒められてるのでちゃんと読み直したところ想像以上にキツかった。

まず何よりも組版が酷くて、極めて読みにくいです。特殊なことをしてるわけじゃなくて、ベタ打ちをそのまま印刷した感じの読みにくさ。つらい。第2版だろうお前。

それで肝心の内容ですが、最初の手順Hypnoholeがいわゆる駄目なDual Realityもの。ただDual Realityって難しいし、そういった実験作が沢山載ってるならまだいいかな、と思ったら残りの手順はぜんぜんDual Reality使わないんですよ。シェル2枚使ったコインズアクロスとか、カラーチェンジング・ライターとか、ほんとうにまとまりが無い。缶の下に置いたコインが消える手順がなんと4通りもの手法で解説されてて、しかも手法に目新しさはなにもなくて、かなり心が折れそうになりました。いちばん酷いなと思ったのは、霊によってハイヒールを「ローファー」と呼ぶように強いられ、何かと思ったらハイヒールからファー(毛皮)がプロダクションされて「だからローファーと言わされてたのか!」というギャグなのかマジなのか何もわからないやつです。何書いてるのか分からんと思うでしょうが私も何読んでるのか全然わかんなかった。(※日本語でギャグが成立するよう実際の手順からは少し変えてます)

ただ100ページ過ぎたあたりから、ちょっとだけ面白い演出案もちょこちょこ載ってたりはしました。ビザーマジック寄りのひとのようで、Jerxにも通じるような、都市伝説の再現や、ちょっとロマンチックな現象なんかは、悪くなかったかも知れない。

手順未満のアイディアをただただ詰め込んだメモ帳みたいなものかな。どうしても読むというなら止めはしないが、細かい工夫とかは皆無なので流し読みが推奨です。ただひとつふたつ、かなりよい演出案もなくはなかった。

ここから良いやつだけを5~10個選んだものを読んだらかなり評価変わったろうと思います。

2021年2月18日木曜日

ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険/フロリアン・ズィヴァリン

[販売ページ]

翻訳しました。3冊目の訳本になります。

フロリアン・ズィヴァリン(Florian Severin)はドイツのマジシャンで、本書は13 Steps to Vandalismという2004年の本の訳本です。Vanishing Incから出た英語版What Lies Insideを底本にし、さらにおまけ手順を4つ加えました(フランス語版Ultra Mentalよりも1つ多いです)。全20章で手順は15個、主にステージ系のメンタルマジックを扱っています。

ショップでは2/11から買えるようになっていました。ここでの告知が遅くなってしまったのは、ひたすらにこの紹介文を書きあぐねていたからです。ステージのメンタルというと、それだけで多くの人の興味対象から外れてしまいそうで、しかし訳者としてはメンタル系に限定せず、広く人に読んでもらいたいと思っている内容で、なんとかそれを具体的に、しかし読む楽しみを削がずに伝える紹介文を書けないかと呻吟していたのです。

結局、一週間粘ってもうまく書き表せませんでした。だからここで言えるのは、とても面白いので読んでほしいな、ということくらいです。

できましたら、何も知らずこのささやかな小劇場の椅子に身を沈め、怪人ダリアン・ヴォルフが繰り出す突拍子もない現象や、あきれるほど無礼なジョーク、鋭い考察や、真摯な言葉を、そういった涙あり笑いありの冒険を、そのまま楽しんでいただけたらと思います。

2021/2/18

2021年1月31日日曜日

"Find Yourself by Connecting the Dots" Tina Lenert

Find Yourself by Connecting the Dots (Tina Lenert, 2012)

かのTina Lenertによる創作論のレクチャーノートです。より正確には、マジック・キャッスルで2012年に催されたレクチャーのまとめというかスピーチ原稿みたいなもの。彼女自身、レクチャーという大層なものではなくお話(talk)とでも言いたい、みたいなことを書いています。

彼女がそのように言うのも無理からぬところで、まずかなり特殊で限定的な内容です。Tina Lenertは40年近い芸歴がありますが、アクトは4つだけ。また多くのパフォーマーは代名詞的なアクトの他にも色々と手順を持っていますが、どうやらそれもなさそうで、文字通りにアクトひとつで10年とか20年とか仕事をするタイプのパフォーマーなんですね。そしてまたこれも彼女が自ら書いているんですが、マジックの仕掛けや技量の部分が秀でているわけではありません。

しかし裏を返せば、それでいてなお、10年20年通じるアクトを作り上げたわけです。冊子のタイトルが示すとおり、それらは彼女の人生にさまざまにちらばった『点』がつなぎ合わさることによって形作られており、そのため4つのアクトの成立経緯を語るこのノートは、簡単な彼女自身の小史でもあります。

単純な創作論の本としてみると対象がやや特殊ですが、この冊子を買う人はもちろんTina Lenertの演技を見た上で買うでしょうし、そういった人にとってはとても需要にマッチしています。また人生をかけて、人生を反映したひとつのアクトを作るという姿勢は、我々の如きアマチュアにも響くものです。

2020年12月29日火曜日

“Distilled” Ryan Plunkett

Distilled (Ryan Plunkett, 2020)


Ryan Plunkettのプロフェッショナルなクロースアップ作品集。10作品。

最近Vanishing Inc.が凄まじい勢いで本格的な内容のハードカバーを出していて、ありがたい反面、ちょっと重いなーと思うところもありまして、本書もおっかなびっくり買ったのですが、紙が厚く文字が大きく、堅苦しい理論もなくって、良い意味でサクサク読める本でした。恐れず買ってください。

PlunkettはNew Angleという本で、かなり挑戦的で、しかし上手くまとまった手順を発表していて動向を気にしていました。あちらが実験的だったのに対し、本書はプロ向き手順。しっかりしたハンドリングと演出があり、見栄えが良く、難所がない。一方でしかし、カードに複数種類のマーキングを施したり、カンニングペーパーを用意したりと、頭の古いマニア(私)からすると解決にちょっと楽しみが少ないです。あくまで例えですが、ブレイクひとつを省いてフェアさを上げるために、ギミックデックを導入する感じ。またギミックも、派手さのためではなく、あくまで既存プロットの粗や気配を殺すために使う。このあたりは何というか現代的な感じもしますね。

収録作は10で、カードの他にコインの手順とお札の手順があります。個人的に面白かったのはOut of sight, out of mindの改案と、ハンカチを貫通するカードの改案で、クラシックなプロットそのままに、どれだけフェアさを上げられるかという面白い内容でした。確かに本格的なショーで演じるならこうするかもしれません。それから有名(?)な錯覚を利用したバニシング・デックの手順があり、これは非常に面白いです。3つのケースのうちひとつにだけデックが入っているのですが、空きケースと重ねていくごとに観客の手の中でどんどん軽くなっていき、見ると全てのケースが空になっている。そのあと再びデックが出現する。これだけのために本書を買ってもいいくらいですね。私はこの錯覚をちゃんと読んだことがなかったので、これだけで十分に元が取れました。

ともかく。ほとんど全ての手順でギミックやそれに類するものを使うので、そういうのが駄目だったら全く駄目です。プロフェッショナルな細部へのこだわり、手順をパフォーマンス・ピースに近づけるための工夫や気配の消し方を学びたければ本書、いやもっと挑戦的で刺激になるアイディアが読みたいのだ、というのであれば題材は限定されますがNew Angleがおすすめです。

2020年11月29日日曜日

"The Trojan Horse Project" Manos Kartsakis, Michael Murray, Ian 'Rasp' Cheetham

The Trojan Horse Project(Manos Kartsakis, Michael Murray, Ian 'Rasp' Cheetham, 2020)


Manosの新作なら買うしかないぜ、って事で買った100p程度の小冊子です。

ちょっと落胆して、大いに興奮して、やっぱりちょっと落胆したけど、たいへん面白い本でした。

V2UnVeilですっかりManos Kartsakisのファンになったので、新作が出ると聞いて早速買いました。今回はMichael Murrayとの共著というかコラボというかで、あるプロットでそれぞれ1手順ずつ解説しています。いやまあ正確にはManosが1手順、Murrayが3手順ですが、実質合わせて2つです。ebookと実体本の抱き合わせで、買った時点でebookが読めるようになりました。本はまだ届いてません。

今回のテーマは、正式なプロット名を知らないのですが、「3つの小物を観客が左右ポケットと手に自由に配置し、演者がそれを当てる」というものです。最近、日本語でyuniaという手順も発表されましたね。あれです。

まずManosの手順ですが、これは面白いものの、期待を超えるものではありませんでした。自由な選択をこれでもかと繰り返させ、その中にそっとフォースを紛れ込ませる手腕はすばらしいのですが、最後のキーポイントで使う手法が、前著とかなり似通っているのです。更なる引き出しを期待してたので残念。またUnVeilの時は、その手法が演出の中にほとんど完璧に溶け込んでいましたが、今回はやや取って付けたように感じます。そういったわけで、ちょっとばかり期待外れではありました。

が、続くMichael Murrayの手順Guess Workが非常に面白かった。Manosに触発され、まったく別の方法を考えたというこの手順、現象解説で「演者が見る必要はなく、リモートでもできるし、だから今から読者の君もやってみてくれ」と言われてそんな馬鹿なと思いながら3つの小物を自由にポケットに隠したら、ズバリ言い当てられて思わず声が出ました。もちろん本当に自由にやって当たる訳はなくて、上の文章にはいろいろ省略がありますが、体感としてはまったく上記の通り。

手法もまた大変面白くて、直感に反する原理を重ね、さらに必要となる操作・指示を非常にさりげなく滑り込ませてきます。段階を追って説明されると「確かにそうだ」と分かるのですが、あらためて全体を見るとやっぱり「それはあり得ないでしょ」と感じられる。最後の一手だけがちょっと残念なのですが、原理も手順構築も素晴らしく、解説を追うのもたいへん面白かった。ともすれば露骨な数理トリックになりそうなところ、極めて自然に仕上がっています。

Murrayはアイディア濫造の人という認識があったのですが、ここまでしっかり手順を組めるということで認識を改めました。ただ、その後に続く2手順がいまいちというか、プロット、原理が基本的に同じなので、あんまり読んでいて面白くありませんでした。むしろ繰り返しによって最後の手法の残念さが際立ってしまったような。フルの手順としてではなく、演出案や応用案として切り詰めて紹介されてればよかったかも。

総じて大変面白かったです。またMurrayらしく、たくさんの断片的なアイディアの紹介もあり、そこではこれをジャンケンに応用したり、サイコメトリーにしてみたりと、この原理の発展の裾野を感じさせられました。

2020年10月31日土曜日

“Art Decko” Simon Aronson



 Art Decko (Simon Aronson, 2014)


Simon Aronsonの最新作で、最大作で、残念なことに最終作になってしまった。Bannon以外のシカゴセッションのメンバーも読まなきゃなということで手を出しまして、面白くはあったが、色々な要素が相まってなかなか辛い読書にもなってしまった。

内容はカードで、技法、即席、セット、メモライズ、ギミックと一通りをカバーしている。一方で決まったテーマやプロットはあまりなくて、セルフ改案集の趣きが強い。

Bannonとの比較にならざるをえないので、かなりハードルが上がっている前提で聞いて欲しいのだが、Aronsonの手順はたしかに上手く、巧妙ではある。しかし原理と原理がきれいにつながる気持ちよさはあるものの、いささか直線的で、また演出も手法に従属しているきらいがある。Aronsonの代名詞メモライズドも、今回はメモライズドそのものではなく、スタックを崩さない通常手順やデックスイッチを組み込んだ手順といった周辺的なものが多く、いささか精彩を欠いた。

その上で、解説の文体がどうにも肌に合わなかったのだ。例えばなんだが、フォースをする必要があるとして、あるフォースの説明の後、「とはいえこのフォースでなければならないというわけではなく他にXXが使える。またXXでも」みたいな話が挟まる。それだけならいいのだけどそれがフォースが出てくるたびに繰り返される。しかも提案されるのが毎回同じ、基本的な選択肢なのだ。うんざりもする。細かいバリエーションや別案の言及も幾度となく(本当に幾度となく)挟まれる。トリック単体の解説ならいいだろうが、これは一冊の本であるのだから、すでに扱っている内容/観念を不要に繰り返す必要はないのだ。

一方では、そうやって可能性をしゃぶり尽くそうとするのは、原理の研究やトリックの創作においては重要であろう。単に私があんまり楽しめなかったというだけではある。でもまあ、そこまで重要な指摘はされていない感じだったので、面倒だったら飛ばし読みしてもいいと思います。


面白かったけど、多分この本から読むものではなかった。Two by twoという手順が素晴らしく良かったのですが、ここで使われているUnDo Influenceという原理はTry the impossibleが初出とのことで、そこでは90ページにわたって検討されているようです。結局のところトリック未満、バリエーション未満の枝葉ばかり繰り返されたのが辛かったので、原理や問題が定まっていたら、この文体ももっと楽しめたんじゃないかと思う。それから予言についての論考があったのですが、それを受けてのShuffle-Boredの最新版は、検討されていた問題点がかなりクリアーされていて素晴らしかった。やはり卓越したクリエイターではあるのだな。

2020年9月26日土曜日

“Applesauce” Patrick G. Redford

Applesauce (Patrick G. Redford, 2014)


メンタリストPatrick G. Redfordのカードマジック作品集。

この人はメンタルがメインでありつつ、技巧的なカードやったり漫画描いてたりと、まあ色々やっている人なんですが、そのカードマジックをまとめた150ページのハードカバー本です。主にACAANやOpen Prediction、記憶術デモンストレーションなどのメンタル系手順を11作品解説。これまで図形シリーズというコミック形式のレクチャーノート(SquareHexagonなど)で発表してた作品からの(改めて文章化した上での)再録が多いようです。

さてこの本ですが大変出来が良くない。せっかくハードカバーなのに紙はコピー紙みたいな質の低いものだし、印刷のクオリティも良くない。トリックごとに扉絵があるんですがそれも低クオリティで、マンガ形式のノートを出したりしている人とはとても思えません。断ち切りに失敗して、全面黒ベタページの下部に白い線が入ってしまっている始末です。

そして肝心の作品ですが、これも私は多くを許容できません。例えば表題作ApplesauceはACAANの親戚なんですが、『思った枚数』が観客がカットして数えた枚数、『思ったカード』がカットの後のトップカードです。そのあと軽く混ぜたり何だりはありますが、結局演者が手の中で表を広げて見る。その後で枚数目からカードが出てきても、これはちょっと、練習する気にもなりません。Applesauceには俗語で戯れ言とかくだらないものという意味があり、著者も大した事ないと思って演じたら思ってた以上にウケた、ということらしいのですが、そのエクスキューズがあってもなお食指が動きません。Open Predictionも直接的に技法で解決するもので、構造的なカバーもないし、技法の使い方に面白みがあるわけでもない。

というわけでACAANとOPについては個人的には見るものがないと思うのですが、記憶術系統はなかなか面白いです。カウンティング・デモについては、フォースやピークで成立させちゃう手抜き手法からEpitome Locationまで、一通りまとめられています。STORMという手順は本書で唯一、かっちりしたカードマジックとして成立しており、単純で、面白く、巧妙で、ほとんど記憶なしで、観客が覚えたカードが何枚目にあるかを言い当て、前後のカードも諳んじてみせます。それからこれも即興能力が高くないと使えないのですが、観客自身に記憶術やカウンティングをさせてしまうという手法があります。GiobbiのCardstaltの変種も出てきてこれはファンにはたまらないでしょう(私はCardstaltファンなのでだいぶ嬉しかったです)。

そういうわけで不可能性の高いメンタル手品を期待すると大いに落胆しますが、即興能力や実際の暗記力を駆使した上での記憶術デモとしてはなかなか参考になると思います。あんまりいい本とは思わないが、記憶術デモ系統に興味があってかつ現場力が高い人にとっては有用でしょう。あとCardstaltのファンの人。


と、結ぼうと思ったのですが最後に収録されてた作品で評価がひっくり返りました。Fishing in Oneです。Fishingというのは、カマをかけて相手が思ったものを絞っていく手法ですが、ここではその構図をうまくズラした見事なアイディアが解説されています。本書の他作品と同様、即興能力であったり演者のキャラといった制約はあるのですが、それでもなお良いアイディア……と思います。やっぱり時々刺さる球を投げてきますねRedford。

2020年8月31日月曜日

"Casual (Looking) Magic" Mere Practice

Casual (Looking) Magic (Mere Practice, 2020)


マニアックでハードコアな小冊子。洋書ですがamazonオンデマンドなので1日くらいで届きます。https://www.amazon.co.jp/Casual-Looking-Magic-Mere-Practice/dp/1654375144

作者はMere Practice。まあ露骨な偽名で、日本語にするなら只野練習さんみたいな感じでしょうか。まえがきによれば本業は文筆家で、手品はどっちかっていうと、練習が瞑想的な役割を果たすんじゃないかってはじめたんだ、だけど文章は1語も進まずにスライトの練習ばっかりしちゃってるぜ、というなにやら親近感のわく方です。

130ページの薄めの冊子で、オリジナル技法、手順、既存技法バリエーション、理論の4つのパートからなっています。

オリジナル技法は片手パス、片手パーム、フォールスカット、フォース、空中パス。特に片手パスはすごい。書籍に対するレビューでこんなこと言うのよくないのですが、本書を買ったのも、動画を見てすっかり騙されたからです。https://www.thejerx.com/blog/2020/6/17/second-helpings-1。ただ、オリジナル技法はどれも面白いですが、本書のハイライトってわけではありません。

先に引いたエピソードや偽名からも察せられると思いますが、クラシカル寄りの高難度技法を主軸にした、かなり尖った内容です。手順なんかは酷いもので、例えば4x4の水油は赤黒交互にした後、トップ、セカンド、サード、グリーク、完了! ACAAN(的なやつ)ではClip Shift使ったりと、だいたい全部そんな感じ。これらの手順をそのまま採用する人はまずいないでしょうが、しかし手順に添えられた分析や考察はどれも独特で、示唆に富んでいます。

技法練習マニアって、ひとり家に篭もって練習ばかりになりがちですが、Practice氏はそうではないようです。だから前述のような馬鹿げた手順でも、実演に裏打ちされた分析がされている。理論の章では、こういったぶっ飛んだ手順をなぜ他人に見せるべきか、どう見せるべきか、といった話もあつかわれています。こちらも非常にためになりました。

かなり読者を選ぶと思いますが、練習マニアで高難度技法が好きで、そういった技法を使った手順が好きで、かつそれをカフェやバーで人に見せたいなあと思っている人にはおすすめです。また技法バリエーションの章では、フォールスディールやクラシックパス、ホフツィンザー・トスなど多くの技法で、独自タッチや使い方が解説されていてます。こちらはより多くの人が楽しめるでしょう。

良くも悪くもアマチュア的な本でした。なお解説はかなり不親切です。下手な解説ではないですが、扱おうとしている内容に対しては不足しているというか。また他の人の手順や技法は(当然ですが)解説がありません。とはいえ博覧強記タイプではないため引用される範囲はかなり狭く、Dan & Dave、Chad Nelson、Daniel Madison、Guy Hollingworthあたりを押さえておけば何とかなると思います。

2020年7月31日金曜日

"False Anchors" Ryan Schlutz

False Anchors (Ryan Schlutz, 2020)

Ryan Schlutzの最新・限定作品集。ギミック付き。

セルフワーク系のDVDを相次いで発表し大評判のRyan Schlutzの最新作。昔読んだ初期の作品集がイマイチだったのだが、本書はハンズオフ系統の本のようだったので買いました。あと限定商法にのまんまと載せられました。

で、やっぱり私はこの人あまり好きではないですね。本書も、手順自体の出来は別として、構成や売り方に大きな問題があると思います。

本書のまえがきで、False Anchorsという語について説明があります。かつては直線的な手順作りをしていたけれど、より「何もしていない」手順を好むようになり、そのなかでFalse Anchorsというコンセプトに至ったと。本書を通じてFalse Anchorsを使った手順を議論していくぜと。

けれど本の中で、結局False Anchorとは何なのか、どのように使うべきか、具体的に論じられる事はありません。時折思い出したように、ここがFalse Anchorだという言及はあるけれども、ほとんど掘り下げられてはいない。もちろん実例を多数提示することで、コンセプトの輪郭を描くという方法もあるけれども、数としてそれにも不十分と思います。というか収録作には、本当に「ただの技法」としか言い様のないものや、「実はこれ二枚でも出来る」程度の既存手法の改案などもあり、False Anchorというコンセプトが通底しているとはちょっと思えません。もっというと、わざわざFalse Anchorって名付けるほどの、特異なモノだったのかも僕はまだよくわかっていません。

本書は氏が出していた同名冊子3冊の合本・再編集版ってことなので、雑駁になるのはしょうがないかも知れない。でもそれならかっこつけたイントロダクションは誤解を生むだけなのでやめて欲しかったな。また比較するのも酷かもしれませんが、つい最近、Ben Earlが同じようにノートを再編集してLess is Moreという思想が具現化したような一冊をものしているので……。

かっこつけでいうと、なんかかっこいい写真/イラスト+なんかかっこいい名言のページがたびたび挟まれます。これがマジシャンからソクラテス、ウォルト・ディズニーまで節操がなく、さらに悪いことに前後の内容とも関係が無い。しかも130ページという薄い本なのに、これが20ページもあるんですよ。誰か止めなかったのか。

本の構成と解説の文脈が悪いだけで、収録されている手順は悪くないです。ハンズオフと言うからセルフワークかと思ったのですが、原理や何やというより、サトルティやタイミング、ペンシルドットなんかを組み合わせて操作感を減らしているという方向性。特に、演者と観客がそれぞれエンドグリップでカード1枚だけ持っている状態で、単にお互い手を返すだけでカードが入れ替わったように見えるIn-Air Transpoはマジシャン騙しではないものの著者の言うハンズオフ感が良く出ています。また借りたカードで、かつカードをテーブルの下にいれていても行える色の判別Strange Gift、奇道ではあるが非常に不可能性の高いカード当てI Love Youあたりは素直に感心。

怪しさの無いハンドリングという意味での「ハンズオフ」としては良策揃いでしょう。私自身はエルムズレイ・カウントなどが醸す外連味も好きなので、このスタンスに全面的賛同はしませんけれども。